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!警告!壊れキャラ有り

「オキヌ(GS+範馬刃牙)」

UG (2008-02-10 00:16/2008-02-10 08:17)

 すみません・・・・・・
 範馬刃牙を週間チャンピオンで読んでいないと分からない話だと思います。m(_ _)m


 「生きてくれ! おキヌちゃん!!」

 高出力の霊波刀が分厚い氷の壁を貫いていく。
 それが全ての始まりだった。


 ―――――― オキヌ ――――――


 『次は今、噂になっているニュース・・・』

 朝のワイドショー
 ミノさんの愛称で知られる人気司会者が、フリップボードに貼られていた紙をベランと剥がす。
 その下に現れた「氷漬けのまま300年!?」の文字に、安アパートでカップ麺を啜る横島の箸がピタリと止まった。

 『300年ッッ ええ〜〜〜〜?』

 『いや、論外でしょう・・・・・・』

 多分ギャグのつもりなんだろう。
 画面の中ではコメンテーターとして招かれたゲストが、すべり気味の発言をしていた。

 『その、氷漬けの正体が―――ナント』

 十分タメを作ったミノが次の紙をベランと剥がす。
 そこには病室のベッドの上で眠るように横たわる、巫女衣装に身を包んだおキヌの姿があった。

 『巫女姿の少女ッ! 絶滅が危惧される本物の巫女ですよォォ・・・ もええ〜〜〜〜?』

 『いや、論外でしょう・・・・・・』

 TV画面の中、コメンテーターが繰り返したすべり気味のギャグを見る前に横島はアパートを飛び出す。
 錆の浮いた外階段を走り下りながら、彼は胸の内でこう呟いていた。


 ―――うん・・・   わかったよ・・・   わかった・・・


 人通りもまばらな街を横島は疾走する。
 その表情は何処か晴れやかだった。


 ―――もう・・・・・・   嘘はつけない・・・


 彼は蘇生した彼女をあずけた病院に向かおうとしていた。
 蘇生前の記憶を失っている彼女。
 だが、そんなことはどうでもいい。


 ―――惚れているんだ・・・


 横島は自分の気持ちに突き動かされるままに動いていた。


 某大学病院
 ワイドショーの影響か、その病院の周囲は一種異様な空気に包まれていた。
 どこで嗅ぎつけたのかマスコミ各社に加え、全国の巫女さん好きの人々が病院の周辺を取り巻いている。
 深夜になった今では多少その数も減ってはいるが、おでんの缶詰をパクついているところを見る限り、彼らはまだまだこの場に居座るつもりらしい。
 深夜警備を担当している警備員は、そんな外の光景にヤレヤレと首をふると、この日数度目の巡回に出かけていく。
 不審者の侵入にそなえ、大学病院は警戒強化を行っていた。


 スタッ・・・


 微かに背後で立った物音に、廊下を歩く警備員は背後を振り返る。
 視線の先にはバンダナを巻いた後頭部。
 しかし、彼は自分と同じタイミングで後ろを振り返った男を認識できない。
 まるでそういう約束事があるとでも言うように・・・
 首を傾げながら前を向いた男の背後で、タイミングを合わせたように謎の男が前を向く。
 深紅のバンダナにGジャン―――横島忠夫であった。
 横島は足音を忍ばせ男の背後に歩みよる。
 建物の外側から中を窺っていた巫女目当ての野次馬たちが、一斉に「警備員後ろー! 後ろー!」と叫んだ。


 ―――これではまるでドリフではないか?


 警備員の後ろに付いた横島は自問自答する。


 ―――どうかしている・・・   こんな方法で忍び込んで・・・


 背後を振り返る警備員を、彼は同じタイミングで振り返るという方法で誤魔化しながら順路を巡っていた。
 警備員が向かう先はただ一つ。厳重な警備を必要とする、300年の眠りから甦った少女―――おキヌの病室だった。


 ―――そう・・・  あの放送・・・  一度は諦めたおキヌちゃんを目の当たりにしたからは・・・・・・


 横島は警備員に合わせ、何度も後ろを振り返りながらおキヌの病室を目指す。
 こうしてタイミングを合わせ振り返っている限りは、警備員が横島に気づくことはなかった。


 「よう! お疲れさ・・・・・・!!」


 角を曲がった先が目指す病室なのだろう。
 その場で見張りに立っている筈の同僚に、警備員は右手を上げて挨拶しようとする。
 病室前に倒れ込んだ同僚の姿に大きく目を見開いた警備員は、首筋に打ち込まれた手刀により意識を失った。

 「お前は・・・・・・」

 道案内役の警備員を昏倒させた横島が呆然と呟く。
 病室の前では見覚えのある男が警備員を眠らせ、今、正におキヌが眠る病室に入ろうとする所だった。

 「雪之丞・・・・・・」

 「横島・・・・・・」


 ―――何故・・・・・・  ここに・・・!!?


 唖然とした表情で見つめ合う二人。
 しかし、それも数秒。
 雪之丞は自嘲気味な笑顔でクスクス笑い出すと、横島に向けて話しかけた。

 「お前もか・・・」

 「・・・?」

 「おキヌに会いに来たと・・・」

 雪之丞はまるで自分の気持ちを整理するかのように語り続ける。

 「一目で萌えが伝わる外見。普段は目立たないながらも時折見せる天然ボケ。キャラにあてられ、思い焦がれ、気付いたときには病院に・・・」

 彼はガラス越しにおキヌの病室を覗き込む。
 周囲への影響を考慮した完全な個室。
 カーテンの引かれたベッドの中におキヌはいるのだろう。
 そして、部屋の中には家族が飾ったであろう花と、入院の寂しさを紛らわすための大きなクマのぬいぐるみが置かれていた。

 「会いたい・・・、姿を見たい。そして出来ることならヤッてみたい。お互いそんな所だろう・・・」

 雪之丞は再び横島に視線を戻す。
 突然の出会いに戸惑っているのか、横島は終始無言だった。

 「俺たちは同志だと、手を取りあって祝福したいところだがそうはいかねえ―――」


 ―――先客は俺だ


 不敵にこう言い放った雪之丞に、横島がピクリと反応する。

 「文句あるかい?」

 だが、挑発ともとれる雪之丞の言葉に反応したのは横島では無かった。

 モゾ・・・

 病室の中で蠢いた気配に、二人は病室へと視線を向ける。
 そこでは見舞いの品らしきぬいぐるみが、雪之丞の発言に異を唱えるようにその正体を明らかにしようとしていた。  

 モゾモゾ・・・・・・ズボッ!!

 「はぁ?」

 あまりに予想外の出来事に、雪之丞が素っ頓狂な声をあげる。
 突然動きだし、自らの頭を引っこ抜いたぬいぐるみ。
 その中から現れた厄珍は、唖然とする横島と雪之丞に不敵な笑みを浮かべた。

 「おいおい雪之丞よ、先客はお前じゃないアルね」

 「ヤクチンッ」

 間抜けなハモり方をした二人の声を合図に、周囲を包む空気の質が一変した。
 吸気口から侵入してくる大量の霧。
 それは3人の目の前で人の形へと姿を変えていく。

 「ピートッッ!」

 更に増えた侵入者に、三人は驚きの声をあげた。
 しかし、侵入者は彼らだけでは無かった。

 「なるほど、そういうことか」

 天井のパネルを外し、長髪の男がぶらりと部屋の中に姿を現す。

 「西条・・・・・・」

 「久しぶり、横島君。しかし、とんだ同窓会だな・・・・・・」

 音もなく床に降り立った西条は、バツが悪そうに周囲を見回した。
 そんな彼の視線に雪之丞が反応する。

 「こうなると照れくせえ・・・・・・老いも若きも、黒装束に身を包み夜這いとは・・・」

 「カカカ・・・確かに照れくさいアルね」

 黒装束の範疇を遙かに超えた姿の厄珍が雪之丞の言葉に同調した。
 しかし、クマのぬいぐるみを着込んだ彼の姿は、なぜ、どうして、という根源的な部分から全力でスルーされている。

 「しかし西条さん、あなたまで・・・・・・」

 「イジワルを言わないでくれピート君、前途ある若者を導くのは大切な務めだと思わないかい?」

 「若者? ソレっておキヌのことかよッッ」

 雪之丞の言葉に考え込みそうになった西条。
 厄珍は彼の思索を笑い飛ばすかのように、身も蓋もない台詞を口にする。

 「カカカ、同じ穴のムジナッッ、ヤリたくてたまんねえッ、だから夜這いアルッッ!」

 この言葉に、この場に集まった全員がお互いに顔を見合わせた。


 ―――誰が、おキヌちゃんと!!?


 一気に高まる緊張。
 おキヌ争奪の闘いが本人の眠る病室で勃発してしまうのか?
 だがそれぞれが胸に抱いた闘いの予感は、文字通り水を差すように響いた水音によって霧散していた。


 チョロ、チョロロロロ〜〜〜〜〜っ


 「こ、この音は・・・」

 その場にいた全員が、カーテンの向こうから聞こえてきた音の正体を想像する。
 病院のベッドの上、絞り出されるような水音。

 ゴクリ

 ベッドの向こう側を凝視し、全員の喉が大きく鳴った。


 「ウエルカム、おキヌちゃん・・・・・・ようこそ、未来へ・・・って言いに来ただけじゃなさそうね」

 突如ベッドの向こうから聞こえてきた女の声に一同は戦慄する。
 遅れて聞こえてきた床に何かが落ちる音。
 閉ざされたカーテンの向こうから聞こえてきた、水差しが割れる音に落胆の表情を浮かべる者はいない。
 一同はカーテンに近づく人影が放つ鬼気に、金縛りにあったかのように立ちすくんでいた。


 ピタッ


 声の主のものだろう。
 形のよい鼻梁がカーテンに張り付きその部分を僅かに持ち上げた。


 ムリ・・・


 続いて額と頬がカーテンを持ち上げる。
 布一枚分の抵抗を気にした様子もなく、女は一同の方へ歩を進める。


 グンニィ―――ッ


 数歩進んだ女の体がカーテンを持ち上げ、全身の輪郭をあらわにする。
 かなりのグラマラスにもかかわらず、一同は恐怖の相を浮かべていた。


 バサッ!


 進み続ける女に耐えかねたように、捲れたカーテンが女の姿を一気に吐き出す。
 再びピタリと閉じたカーテンの前で、深紅のボディコンに身を包んだ亜麻色の髪の女―――美神令子は一同に対して凄まじい笑みを浮かべた。


 宿直医:石塚 保(34)は語る。


 ―――イヤ・・・。突然やってきて患者の身代わりにさせろって・・・・・・逆らえませんよ。あの人の側、エンジンみたいに熱かったんですから


 彼女の要求を呑んだ後、病室に様子を見に行った石塚は信じ難い光景を目の当たりにする。
 彼は割れた水差しの音に、現場を覗きに行ってしまっていた。


 ―――突然、侵入者同士が殴り合いを始めたんです。彼女―――深紅のボディコン女の見ている前でッッ


 病室の中と外。
 突然殴り合いを始めた横島と雪之丞、ピートと西条。
 そして一人取り残された厄珍は・・・


 ―――残った一人も止めるどころか、殴りだしたんですよ・・・・・・自分をッッ


 クマのぬいぐるみを着たまま、自分の顔をゲシゲシと殴る厄珍。
 全く手加減していないのか、クッション越しにもかかわらず彼のサングラスはひしゃげ、その顔は薄く腫れ上がり始めていた。


 ―――女ですか・・・・・・だまって見てました。やがて、ドアの前へと歩み寄ったのです。男たちを殴り合わせたまま・・・


 病室のドアに歩み寄った美神はその手前で足を止める。
 部屋の外には殴り合う横島と雪之丞が、内側には殴り合う西条とピート、そして厄珍。


 ―――まるで・・・ホラ、怖い父親に悪戯を見つけられたときの、出来の悪い兄弟同士が・・・・・・


 炸裂する横島のストレート。
 迎え撃つ雪之丞の膝蹴り。


 ―――互いに責任をなすりつけあうかのように


 西条の拳がピートのレバーを打ち抜く。
 だが、彼のアゴにもピートの拳が吸い込まれていた。


 ―――お父さんの痛い拳骨を貰う前に、自分で自分をお仕置きするかのように


 ゲシゲシ殴り続けるぬいぐるみの手は、すっかり厄珍の血で汚れてしまっていた。


 ―――出血しても、歯が跳んでも、腫れ上がっても、止めようとしないんです5人とも。ところが・・・・・・


 「よしなさい・・・」


 ―――どんだけ怖いんですかあの人。止まりましたもん、ピタって


 「あなたたちの選択は正しい」


 ―――変なこと言い出したんです。ハイ、理解不能でした


 「仮に・・・闘おうともせず、一人でも逃走したなら、その場でシバキ斃していたわ」

 美神の手の中で神通棍がジャキリと音を立てて伸びた。
 臨界を迎えた霊力が、夜中の病室を眩く照らす。

 「かといって、私に向かってきても同じ運命。ならば苦肉の策、自らを殺傷し合う・・・・・・自らを殺傷する」

 美神の神通棍が目の前のドアを一撫でした。


 ―――イヤ・・・もう・・・スパッって、普通に開ければいいのに


 ドアを切り裂き廊下に出た美神に、横島の顔が一層青ざめた。
 しかし、彼女の口からは予想外の言葉が伝えられる。

 「それでいい・・・、それがいい・・・、許してあげるわ」


 ―――その時の彼らの表情ですか? ホッとしたんじゃないですか・・・? 傍目からもワカリました、心から安堵してるって感じで。ど〜みたってズタズタなんですけどね


 「帰るわよ・・・・・・アンタたちも帰りなさい」

 横島の耳を引っ張ると、美神はスタスタと石塚の方へと歩いていく。
 残された面々も急いで彼女の後をついていった。


 ―――それで帰っちゃったんです。私に一言だけ言い残して・・・・・・


 「お騒がせしました。”6人”とももうここには来させません」


 ―――彼女に一つだけ聞きたいことがあったんですけどね・・・アレはなんだったのか?


 一同が消え去った病室
 不意にその一角が幻の様に歪むと、2メートルを超える大男が姿を現す。

 「ヤバいノー。気付かれとったとは・・・」

 慌てたように美神の後を追い出したタイガーを、石塚は呆然と見送っていた。


 ―――アレって笑う所なんでしょうか? イヤ、聞けませんよ。怖いですから・・・


 深夜の高速を疾走するコブラ
 夜這いに失敗し、強制連行された帰り道。
 助手席で黙り込んだ横島は、ぼんやりと街の明かりを見ている。
 殴り合いに腫れた頬に、夜風が気持ちよかった。

 「着いたわよ」

 無言のまま続いた深夜のドライブは、やがて終点に到着する。
 事務所の前で停車したコブラに、横島は怪訝な顔を浮かべた。

 「寄っていきなさい・・・治療ぐらいはしてあげるわ。か、勘違いするんじゃないわよ! 明日、仕事休まれると困るからなんだからねッ!!」

 「はぁ・・・それじゃお願いします」

 美神の見せたツンデレに無反応とも言える横島。
 そんな横島の様子に、美神は漠然とした不安を感じていた。


 「イタッ! しみるッスよ美神さん!!」

 「男の子でしょ!? じっとしてなさいッ!」

 事務所で行われたいつもよりも丁寧な治療は、明らかに横島を警戒させていた。
 そんな彼を安心させるように、美神は両手で抱き抱えるように横島の顔を固定する。
 傷の確認をするため間近に覗き込んだ澄んだ瞳。
 その際に横島の肌を軽くくすぐる美神の長い髪。
 薬が沁みた傷口に優しく吹きかけられた吐息。
 そして、治療に耐えたことを誉めるように最後に向けられた微笑み。
 普段ならば確実にセクハラへと向かう流れ、しかし今夜は更にその先へとステップは進むらしい。
 美神は横島の耐久力に謝々する気にはなれない。


 ―――ぶつけるわ・・・全てを


 焦りを感じた美神は、今夜こそ自分の気持ちに素直になるつもりだった。

 「はい、お終い。そうだ、お腹すかない? なんなら軽く何か作るけど」

 「え?」

 横島は驚いたように美神を見つめる。
 しかし、その場には彼以上に驚きの目で二人を見つめる存在があった。

 『ばかな・・・ッッ。オーナーが横島さんにモーションかけるなんてッッ』

 人工幽霊は思わずあげそうになった驚きの声を必死に堪える。
 彼の努力に気付かず、美神は身につけた伝統芸を遺憾なく発揮した。

 「何よ! 私が一人で食べるのもなんだから、仕方なくアンタの分も作ってあげるのよ・・・で、何が食べたいの? 一応、聞いといてあげるわよ」

 「はぁ・・・なんでもいいっス」

 素っ気ない横島の返事に、美神はその場に膝をつきそうになる。


 ―――通用しない・・・ッッ。私のツンデレが・・・ッッ


 美神は新たな覚悟を胸にキッチンへと向かっていく。
 手早く作ったサンドウィッチを手に、彼女が事務所に戻ったのは数分後のことだった。
 サンドウィッチと紅茶を挟み、向かい合う二人。
 人工幽霊は美神の覚悟に気付いていた。

 『グローブを外したんですね・・・オーナー』

 人工幽霊は胸の内でそっと呟く。
 彼は気付いていたのだ、美神の胸に浮かぶ二つの突起に。
 彼女はブラジャーというグローブを外し―――ベアナックルになっていた。

 「おいしい?」

 「ああ・・・うまいっス」

 サンドウィッチを咀嚼する横島を屈むように覗き込んだ美神。
 その胸元は絶妙な隙間を作り出していた。

 「アンタ、ご飯に困ってるでしょう? 何なら私が・・・」

 「美神さんッ!!」

 突如立ち上がった横島に、美神は勝利の笑みを浮かべる。
 彼女は今まで磨いてきた伝統芸で一気に勝負をつけるつもりだった。

 「フ、フン。なによ! 本気にするんじゃ・・・・・・」

 「すみません美神さん! 俺、どうしても美神さんに興味が湧かないんです!!」

 満を持して放ったツンデレの一撃。
 しかし、それは呆気なく横島からのダメ出しに叩き返されていた。

 ガタッ・・・

 その場に崩れ落ちた美神は激しく動揺する。


 ―――無念よッ。よもや・・・ツンデレが通じぬ世界があったとは・・・ッッ


 美神の目に涙が浮かんだ。
 覚悟を決めたようにすっくと立ち上がると、美神は横島の顔を真っ向から見据える。


 ―――アリガトウ・・・伝統芸・・・・・・もう、ツンデレは使わない・・・ツンデレが及ばぬを見ることは・・・・・・もう出来ない


 美神は横島の目の前に移動する。
 彼女は固くかためた拳を胸の前に持ち上げていた。


 ―――ツンデレ。一時代を築いたこの伝統芸・・・ッッ。私の全てだったこの芸風を・・・ッッ、美神令子が護るッッ


 一度だけ無念そうに目を瞑ってから、美神は横島に突進する。
 彼女は一切のプライドを捨てた行動で、横島に玉砕攻撃をしかけていた。


 ―――ママに貰った名・・・美神令子が、ツンデレを護るッッ


 「バカーッ、何でそんなこと言うのよーッッ!!」

 涙を伴う叫びと共に、交互に繰り出した拳が横島の胸板をポカポカと叩く。
 因みに片足は膝を曲げ、ピョコンと後ろに上げられていた。


 ポカポカパンチ―――
 作戦・戦法・戦略・効率等、一切の謀を捨て去った純粋な感情のみ。
 恐らくは、多分、人類最古の最終兵器・・・・・・
 美神がとったのはそんな攻撃だった。


 『なんという・・・なんという、いたわしい光景・・・。あの、オーナーがポカポカパンチを・・・』

 人工幽霊は泣き出しそうな自分をムリに押さえていた。
 彼の目の前で、美神は泣きじゃくりながら横島の胸をポカポカと叩き続けている。

 「バカバカバカーっ!!」

 そんな美神の姿に横島は困惑していた。


 ―――ツンデレだからセクハラをかます・・・・・・ツンデレだからこそ、全力を出せたのだ


 美神のポカポカパンチは彼に何の痛痒も与えていない。
 しかし、ソレはあくまでも物理的なダメージに過ぎなかった。
 ポカポカと叩かれる胸が何故かむず痒い。
 胸の奥でチロチロと燃え上がる何かを、横島は感じてしまっていた。


 ―――これではまるで、女ッ


 「美神さ・・・・・・ッ!?」

 何かに突き動かされるように、美神を抱きしめようとする横島。
 しかし、その腕は無意識に動いた美神の腕にはじかれていた。

 「え?」

 自分自身がとった行動に、美神は呆然と立ちつくす。
 使わぬと決めた「ツン」を彼女の体は自然にやってしまっていた。

 『令子よ・・・、この薄情者よ・・・、そう冷たくしないで』

 内より聞こえてくる声に、美神は背後を振り返る。
 そこには一回り大きな美神が、彼女が目指す完成形の美神令子そのものが浮かんでいた。

 『生憎だったわね。ツンデレをかなぐり捨ててのポカポカパンチ・・・・・・ところがツンデレはあなたを離してはくれない』

 美神令子の完成形は、美神にしか見えないようだった。
 彼女の後ろでは、気を取り直した横島が再び美神に抱きつかんと手をワキワキさせている。

 『試されてるわ令子・・・。委ねてみなさい。ツンデレを護るなんて気負わずに、身をまかせる・・・・・・そうでなければ、とて・・・ブベラッ!!』

 自分を抱きしめようとする完成形に、美神は顎部のみに集中された六連撃を打ち込む。
 頭部内壁に起こった、恐らくは数千回の未曾有の震盪に彼女の意識は一瞬で刈り取られていた。
 身を委ねる相手は既に決まっている。そしてそれはツンデレなどではなかった。

 「美神さはーん!!」

 いつものように抱きついて来る横島。
 美神はだまって彼の腕に身を委ねた。


 ―――ああ、たまらぬこの至福ッッ。このまま終わってくれるな・・・


 横島は美神を抱き抱えると、本能に突き動かされたように彼女の寝室へと走り込む。
 美神の願いは無事に叶えられたようだった。


 チュン、チュン・・・・・・

 雀の鳴き声に目を覚ますと、爽やかな朝の日差しが部屋に差し込んでいた。

 「おはよう・・・横島」

 すぐ近くで聞こえた美神の声に、横島は昨夜の出来事を思い出す。
 側らにピッタリと寄り添った肌の感触が、彼に昨夜の記憶を生々しく思い出させていた。

 「お、おはようございます・・・」

 ギリギリと首を動かすと、間近で自分を見つめる美神の潤んだ瞳と目が合う。
 自分が腕枕をしている事実に、横島は初めて気づいていた。

 「・・・・・・・・・」

 数秒間、無言で見つめ合う二人。
 その沈黙を顔を赤らめた美神が破る。

 「幸せにしてね・・・」

 美神はこういうと、照れくさそうに横島の胸にしだれかかった。
 彼女の形良い頭部から漂う、何とも言えないシャンプーの香りが彼の鼻孔をくすぐる。

 「みか・・・」

 「月収は2000万でいいわ・・・」

 何かを言おうとした横島だったが、美神の口にした一言に口を噤んでしまう。
 見事に固まった横島に気付かず、美神はさらに先を続けていた。

 「あ、もちろん税抜きの金額よ! これから先、病気、怪我は厳禁、きちんと長生きしてバリバリ働いてね。それと、私が呼んだら3分以内に駆けつけること、絶対に待たせたりなんかしちゃダメよ。んで、浮気はもちろん論外だけど、他の女へのセクハラも死刑ね。えーっと、あとそれから・・・・・・あっ、アンタ、ナニ泣いてるのよっ!!」

 美神が顔を上げると横島は滂沱の涙を流していた。

 「こんなことで泣くなんて馬鹿ねー」

 美神は体を起こし、クスリと横島に笑いかけた。
 そして彼女は、その笑顔のまま横島に覆い被さっていく。

 「私を食べておいて泣くな!」

 頬に感じる美神の唇。
 その柔らかな感触を味わいながら、横島はこう自問する。


 ―――これからどうなるんだろう?


 ソレは元ネタに対する、ヨゴレSS書きの感想の様にも聞こえた。


 ――― オキヌ ―――


      終


 えーっと、再びのお願いです。
 石を投げないで下さいm(_ _)m

 1年以上前、刃牙ネタで一度だけ投稿したUGと申します。
 「イメージトレーニング」という話ですので、万が一、この話が気に入ったのならログ記事から検索してみて下さい。
 こちらのリンクにあるサイトの中にも、いくつか投稿させて貰っている場所がありますので読んでいただければ幸いです。


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