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「こたつすとーりー(GS)」

竜の庵 (2008-01-05 12:53)


 灰色の空が頭上にはどよよんと広がり、時折聞こえてくる車の騒音や、人間の話し声が私の耳に飛び込んできます。

 あ、どうも。

 人工幽霊一号です暇です。

 今事務所には誰もおりません暇です。

 美神オーナーから留守番を頼まれて、というか留守番以外に出来る事もないんですけど暇です。

 私の軒先に居を構えている妖精の鈴女さんまで、遊びに出掛けてしまっているのです暇です。

 ああ!

 今まで、私はこのように暇を持て余して悶々するような事はありませんでした。
 潤沢な霊力供給に加え色々な意味で賑やかな事務所の皆さんに影響されて、静かな時間の過ごし方を忘れてしまったようです…

 ………ふむ。

 幸い、私は皆さんがどこに行ったのか把握しております。

 ちょっと、見に行ってみましょうか。

 美神除霊事務所のメンバーがそれぞれに過ごす…冬の一日の姿を。


                  こたつすとーりー


 私の得意技の一つに、『無生物への憑依』があります。
 美神オーナーの霊力のお陰で、その能力にも少々ですが、無茶が利くようになりました。


 「おーさぶっ…」


 具体的には、こうして横島様のお宅の電灯に、意識をばしゅーんと飛ばせるくらいに。
 あ、事務所の結界は私が離れていても作動しますから大丈夫。誰か帰ってきたら分かるように、仕掛けもしてあります。
 安心して覗き…じゃない、観察出来るのです。

 さてさて。

 横島様のお部屋は混沌としていますね。生活感が溢れて大変な事になっています。雑菌が見えるような方がもしもいたら、横島様は菌お化けに見えるでしょうねー。


 「先生ーーーっ!!」


 おや、シロさんが来たようです。横島様の表情が露骨に引き攣りました。


 「さんぽーーー……って、この布団のついた机は何でござる??」

 「…なんてマイペースな奴だお前は。寒いからドア閉めろ! せっかくの温もりが逃げる! 消える! 拡散するっ!」


 確かに、このアパートの構造は非常に脆いというか、安普請ですね。壁が薄いから外気が侵入し易く、暖気が逃げ易い。建具の立て付けも甘いものですから、隙間がそこここにあります。
 夏は暑くて冬は寒い。
 まあ、季節感があって風流ですよ、これはこれで。


 「これはこたつという冬のフェイバリットアイテムだ」

 「ふぇいば…?」

 「平たく言えば、冬の定番だ。ほれ、入ってみろ」

 「はいでござる。………おお、先生の足があったかいー」

 「やめんか冷たい!? そういうプレイをするもんじゃねえよ!」


 プレイって。


 「温いでござるな。ぽかぽかでござる」

 「だろ? お前はこの天国から俺を地獄の散歩道へと連れ出そうとした訳だ」

 「ほわあー……これは眠気を誘うでござるー………先生ずるいでござるよ、こんな良いものを独り占めしてたなんて」

 「やかましい。犬は庭でも駆け回っとれ」

 「犬じゃないもん……ふわあああああ…」


 あくびをしてこてんとテーブルに突っ伏し、シロさんは瞬く間に熟睡状態に入ってしまいました。なんと言う早業。これには対面に座っていた横島様も苦笑しています。


 「…何しに来たんじゃこいつは。ああったく…また寒々しい格好でよ…」


 シロさんは年がら年中、タンクトップに足の露出した破れジーンズという健康的な格好でいます。子供は風の子にしたって、限度がありますよね。
 まあ、病気(と色気)とは無縁の少女なのでその辺の心配は無用でしょうけど。
 横島様はどっこらせと枯れた掛け声と共にこたつから出ると、自分の上着を脱いでシロさんの肩に掛けてあげました。うわ、優しいじゃないですかこの先生。うひゃあー。


 「…!? 今、なんか視線を感じたよーな…!?」


 っと。
 危ない危ない。気配を少し、洩らしてしまいました。
 私は内部に住む方の事を考えて、極力存在感を薄くするよう心がけています。そうじゃないと、今のように私の気配を感じて、落ち着いて生活出来ません。
 勿論、プライベートを覗くような真似もしませんよ? おキヌさんあたりは全く無頓着に生活されてますけど、普通、私のような存在は敬遠されがちです。彼女も実はオーナー並に肝が据わっていらっしゃるのです。

 …え?

 今やってるのはプライバシーの侵害にならないのか?

 あっはっは。

 さ、次に行きましょうか!


 憑依物をどんどん変えていくことで、私の意識は移動が可能となります。横島様のアパートから近くの電信柱へ。電信柱から隣のお宅へ。
 次々と目標地点目掛けて飛んでいきます。どんどん。

 次の目的地まで、あっという間です。

 住宅街の一画にある、ごく普通のお宅。表札には、一文字とあります。
 おキヌさんはご友人方と、こちらで勉強会を開かれています。あ、横島様は無為に過ごしておりました。同じ高校生とは思えませんね。


 「だから! 何度も! ここは! 教えたでしょう!?」

 「きゃんきゃん吠えるんじゃねえよ! スピッツかお前は!?」

 「まーまー…お二人とも落ち着いて…」


 一文字魔理様のお部屋の照明にこっそり憑依。位置的に一番観察し易いのですよ、電灯というのは。

 …しかし、意外ですね。

 おキヌさんから聞いたお話では、一文字様は大層男前で、もっと硬派な印象と思っていたのですが。
 部屋の雰囲気はおキヌさんとさほど変わりません。ボーイッシュな内装ですが、流行りの洋服であったりピアスであったり…きちんと異性を意識した小物も充実しています。

 おや。こちらにもこたつが。


 「数学なんてGSにはいらねえだろうが!?」

 「GSには不要でも学生には必要でしょう!?」

 「GSには数学も不可欠よ、って美神さんは言いますよー?」

 「え?! 何で!?」

 「えーっと……報酬の計算に必要なんだそうです。んー、依頼の難易度から必要な経費を即座に計算して依頼人に見積りを提示して…えー…マージンは常に多めにー…とか」

 「流石はお姉様…! 良くご理解してらっしゃいますわ!!」

 「かあー…世界最高のGSが言うんなら、そうなんだろうけどよー…」

 「まあだぐだぐだ言いますかこのツンツン頭は!?」

 「だってよー…あたしん家にせっかく友達呼んだのによ、勉強ばっかじゃつまんねえよ」

 「な、むあ……っ?」


 むあっ、て言ったのは弓かおり様です。むあって。


 「ほら、ケンカにつるむようなダチならいたんだけどさ、こんな風にこたつ囲んでわいわいやるような関係じゃなくてよ」

 「あ、私もそういえば、こたつって新鮮です。ぽかぽかして、幸せな気持ちになれますよね」

 「貴女達は全く………で?」

 「で、って何だよ?」

 「勉強以外にするもの、何かあるのと聞いているんです」

 「え…あ、そう、そうだな!? 小学生んときに買ったトランプが確か…」

 「わー、私、ポーカーならルール知ってますよ。前、幽霊時代におっきなカジノで美神さんのお手伝いしましたから」

 「お姉様素晴らしいっ! スケールが違うわっ!!」

 「へええ…どっかの金持ちにでも誘われたのか?」

 「地獄組の組長さんです」

 「ヤクザかよ!?」


 弓様はアレですね。今年もぶっちぎりで流行りそうなツンデレというカテゴリの方のようです。
 一文字様やおキヌさんの話に苦笑する姿は、同級生というより、年上のお姉さんのようで微笑ましい。

 あ、因みに美神オーナーが数学に強いのは事実です。
 …まあ、数学というか損得勘定というか。
 必要なものに対しては投資を惜しまない分、それ以外については厳しく管理するのがオーナーの方針のようです。収支の幅が物凄いので、他人に管理を任せたくないのかも知れませんが。

 帳簿、裏とか表とかありますし。


 しかし、こたつ。
 横島様は冬の定番とおっしゃっておりましたし、今もおキヌさんが楽しげに語っておられます。
 通常の暖房器具と何が違うのでしょうか?
 熱源の近さだけではないようですね。

 さて、次に参りましょうか。


 タマモさんがふらりと出掛けた先。

 事務所の皆さん以外で彼女と交流のあるのは、意外な場所でした。


 「はいお茶だよ」

 「んー。ねえ、神父さんは?」

 「唐巣先生なら、物置で探し物をしてるよ」


 これまた住宅街の一画、地域にこれでもかとばかりに馴染みきっている、小さな教会。
 オーナーのお師匠、唐巣神父様のお住まいにタマモさんはいらっしゃいました。

 …とは言っても、流石に一流クラスのGSが二人も暮らしている場所です。私のものよりは規模も強度も抑え目ですが、結界が張られていて普通には近づけません。
 電信柱から窓の中を覗きこむのが精々。

 さて、どうしましょうか。

 ………お。何やら賑々しい集団が教会に近づいてきますね。手に手にビニール袋やら段ボール箱を携えています。
 ああ、教会へのご寄付ですか。唐巣様の人徳が窺えるというものです。

 というわけでレッツ憑依イン段ボール箱! 玄関から堂々と入れば結界も機能しません。


 「ピート君、お野菜持ってきたから食べてー♡」

 「私はね、お米! 田舎から送ってきたのよこれがー! 遠慮せずに、ね?」

 「あ、有難うございます皆さん…」


 ………。

 ………………あ、なるほど。今分かりました。

 そうかそうか。道理で、やけに着飾ったご近所のおばさん連中的な集団だなあと思った訳です。
 ピート様目当てなのですね。唐巣様の人徳は関係ありませんでした。
 …うわあ、タマモ様の冷め切った表情をお見せできないのが残念です。


 「じゃあねピート君♡」

 「またねー♡」

 「今度はお芋! お芋持ってくるから!」

 「神父様にも宜しく言っといて!」

 「はい、皆さんにも神のご加護がありますように…」


 ぞろぞろとおば様方が退出した後に残されたのは、大量の食料でした。食べ物しかない辺り、唐巣教会の窮状をよーく理解しておられるようですね。
 ですがそれもこれも、元々の唐巣様の人望があってこそでしょう。今のご時勢、よほど好かれていないと町の教会に寄付なんかしないでしょうから。


 「あ、済まないタマモ君。ほったらかしにしてしまって」

 「別に。ね、今の食べ物ん中にお揚げ無いの?」

 「……多分無いと思うよ」


 教会への寄付品に油揚げ持ってくる奇特な方は少ないでしょう。せめて仏教…でも無理ですね。稲荷神社くらいですか、違和感が無いのは。


 「それにしても、この寒い中大変だったろう? 暖まるにも、ストーブもないしな…」

 「あんただって、寒い地方の生まれじゃないでしょ? 隙間風と貧乏で寒々しい今の状況って、辛くない?」


 心も体も貧乏とか、タマモさん何気に酷いですね?


 「物が無いイコール不幸とはならないよ。精神的な充足は物質的な満足より心の安寧を保つには向いていると…」

 「ようは自分を騙して生きてるってことね」

 「………悟った、と言ってほしいな……」


 そうですね、普通は彼のように遠い目をして外を見たりするはずです。
 なのにうちのオーナーときたら、どうして唐巣様を師匠に持ってああなっちゃったんでしょうか。反面教師ならぬ反面生徒ですか。


 「やあ、あったあった。おや、タマモ君いらっしゃい」


 と、聖堂の奥から清々しい笑顔と共に現れたのが、反面生徒を育ててしまった唐巣神父その人でした。見れば見るほど善人顔です。


 「また美神さんの話聞きに来たわ。若かりし頃の失敗談、まだいっぱいあるでしょ?」

 「そりゃまあ、事欠かないね。でも、一体どうしてそんなに美神君の話を…」

 「いざって時の交渉材料にする。横島にバラすって脅したら、結構効くから」

 「………君、美神君に似てきたね」

 「面の皮ばっかり厚くなる気がするけど、ね」


 タマモさんにも自覚があったようです。というか、いざって時とは一体。
 唐巣様は積まれている食べ物へ十字を切って祈りを捧げ、感謝の念を囁きます。極めて自然な仕草で、破門の身とはいえ聖職者の貫禄が板に着いています。


 「ああ、ほらあれ。前の家で使っていたこたつを掘り出してきたんだ。まだ現役で使えるはずだよ」

 「こたつ? …教会にあると違和感凄いわね」

 「年季の入った感じがしますね」

 「ああ、このこたつは若い頃に除霊依頼で持ち込まれた品物なんだ。当時の僕では憑いていた悪霊を封印するのがやっとだった」

 「強力な霊だったんですね…持ち主の方は?」

 「気味が悪いから引き取ってくれ、と言われてね。札を貼ってある限りは平気だから使ってたよ」


 あ、タマモさんの目が光った。


 「教会を建てたときに片付けてそのままだったんだが、ピート君という同居人も出来たことだしね。また使わせてもらおう」

「有難うございます先生。…あれ、タマモ君?」

 「お札ってこれー?」

 「あああああああああああ!? タマモ君、それを剥がしたら悪霊ががが?!」

 『オデノカラダハドボドボダアアアアアア!!!!』

 「う、うわ!?」

 「タマモくーーーーん!?」


 タマモさんはこたつの天板裏からお札を躊躇無く剥がしたあと、出てきた悪霊に一言、『地味ね(平成ライダー的に)』と詰まらなそうに呟いて狐に戻り、唐巣様の出てきたドアから裏へと去っていきました。
 お話は聞かなくていいのでしょうか?


 『オレァクサムヲムッコロス!!』

 「くっ! 昔とは違うところを見せてやろうじゃないか! 行くぞピート君!」

 「はい先生!!」


 いやー、良い師弟関係ですね。
 私はそろそろ、悪霊が暴れて割れた窓から次へ向かわせて頂きますが、ご武運を。


 ………しかし、ここでもこたつ、ですか。
 日本人にとってこたつとは、何か特別なアイテムなのでしょうか。
 移動がてら色々なお宅の中を拝見すると、かなりの高確率でこたつが置いてありました。
 他の暖房器具もあるのに、これではエネルギーの無駄遣いになりませんかねえ…
 お国柄、というもの?

 ともあれ、最後の目的地へ向かいます。流石に、そこにはこんな庶民的なものはないでしょう。


 くつくつ、ちまちま。
 くつくつ、ちまちま。


 …………………。


 くつくつ、ちまちま。
 くつくつ、ちまちま。


 「…あ、無くなったワケ」

 「フミさ〜ん。お代わり〜」

 「食べ過ぎなのよあんたは」


 美神オーナーが向かった先は、六道冥子様のお屋敷でした。
 ここ、唐巣様の教会と同じく結界が張られていたんですが、タイミング良く来た宅配便の荷物に憑依して簡単に侵…潜入出来ました。ガードが甘すぎないですか、これ?
 一度入ってしまえばこっちのものです。オーナーの霊圧目指してまっしぐら。広い邸宅で、目標が無いとあっさり迷子になれそうですよ、ここ。
 しかし、流石は世界でも随一の大富豪。
 六道様お一人の部屋でも、まあ広い広い広い。三回言っても足りないくらいに広いです。そして暖かい。こたつなんて全く必要ではありません。管理が行き届いています。


 …なのに何故。


 「お代わり来たわよ〜」

 「ん」

 「ん」


 純洋風の部屋の隅に四畳間作ってこたつ囲んで鍋なんてやってますか貴女達は。
 カニ鍋ですよ。
 何匹目ですかその殻の山は!?


 「…やっぱ毛ガニなワケ」

 「…ズワイよ」

 「どっちも美味しい〜」


 教会の聖堂にぽつんとこたつが置いてあるのもシュールですが、御姫様の居室めいたファンシー空間の一角が仏ゾーンなのもおかしいでしょう!?
 鍋を囲んでいるのは美女三人。オーナーと六道様と、小笠原エミ様です。ちまちまちまちまちまちまと、カニスプーンでカニの身を穿り出しては口に運んでいます。
 このお屋敷なら、立派な食堂があるでしょうに。
 換気設備も不十分な個人の部屋で、わざわざ小さなこたつを設置してカセットコンロで鍋する意味と必要性がどこにありますか?
 私、どこか間違ってますか!?


 「ん………? 今、霊の気配しなかった?」

 「したワケ。でもすぐ消えたし敵意も感じなかったからほっとくワケ」

 「お家の中だし〜大丈夫よ〜」

 「…ま、いいわ。冥子ん家だしね」

 「…やっぱり毛ガニが最高。これは譲れないわ」

 「あんたの貧乏舌だとそうかもねー」

 「どっちも美味しいのに〜」


 む、あれだけ鍋に集中していたというのに、私の微かな気配にすぐ気がつくとは…危ない危ない。錯乱すると一発でアウトですね、これは。

 大きく深呼吸一つ。すーーーはああーーー…


 「冬はおこたで鍋が一番よね〜令子ちゃん〜」

 「ま、ね。こうしてると自分が日本人だって実感するわ」

 「でも二人とも来てくれて良かった〜。お父様からいっぱいカニが送られてきたの、どうしようか困ってたの〜」

 「何、あんたの父さん北海道でも行ってるワケ?」

 「うん〜。六道財閥水産部門の視察〜。カニの他にも、海産物いっぱいあるから〜お土産に持って帰って〜」

 「あら、それはおキヌちゃんが喜ぶわね。…ま、あいつも一応呼ぶか…今日は休みだし偶には…」

 「ピート、カニは好きかしら…」


 話しながらも、手は止まりません。自動カニ剥き機のようにちまちまっと動き続けています。
 冬はこたつで鍋、ですか…
 色々とこの季節には定番シチュエーションがあるようです。こたつはその最たるもの、という訳ですね。
 しかし、オーナー達の姿は、少し無理矢理感が否めません。
 そこまでして、シチュエーションに凝らねばいけないのでしょうか。勿論、無理が通る環境というか、六道様の財力があってこそでしょうけれど。

 いまいち、分かりません。


 「幸せ〜♪」

 「何よ急に」

 「ううん〜何となく〜…令子ちゃんそっち行ってもい〜い?」

 「は? 狭いんだから、ってちょっと冥子」

 「あったか〜い♪」

 「ああもう暑苦しい!?」

 「我慢しなさいよ令子。今冥子を拒んで暴走されたら、こっちまでとばっちりが来るワケ」

 「令子ちゃんあ〜んしてあげようか〜?」

 「やめんか恥ずかしいっ!」

 「ああ…ピートと二人っきりでこたつを囲む冬の夜…アリなワケ…」

 「助けなさいよエミ!!」


 …残念ながら、私はこたつを体験出来ない身の上なのでどうしようもありませんが。
 彼女達、そして今まで見てきた方々の様子から察するに、こたつには不思議な魔力、魅力があるようです。
 こたつに憑依するのも、どこか違うでしょうね。


 『ただいま〜』


 っと。鈴女さんが帰ってきたようですね。名残惜しいですが、こたつの秘密を解明するのはまたの機会にしましょう。

 …いや、私には一生分からないもの、なのかも知れませんけど……


 『お帰りなさい鈴女さん。成果はどうでしたか?』

 「全っ然駄目! 時間の無駄だった。あーあ…」


 ぽふっと自分の巣に帰ってきた鈴女さんは、疲れた様子でそうぼやきました。
 横島様直伝のナンパ術を駆使して、街で声を掛けて回っていたらしいのですが…まあ、師匠がアレですし。一分間では如何ともし難いでしょうし。


 「美神さん以上の美男子はやっぱりいないわ!」


 師匠以前の問題ですし。


 「人工幽霊一号もどっか行ってたの? いつもならすぐお帰りって言うのに、今日は遅かったね」

 『ああ、いえ実は…』


 私は冬とこたつの関係を、見聞きしてきた情報と共に私なりに説明しました。
 彼女とは、よくこうして話をするんですよ? 暇人どうし。


 『そんな感じで、私にはどうにも解せないのです』

 「へー。こたつ、ねえ。確かに人間って時々意味不明なことに拘るよね」

 『オーナー達の感じる暖かさと…私の知る暖かさは別のものなのでしょうか』


 所詮私は創られし命。人の身を持たない存在に、人間を真に理解する事は出来ないものかも知れません。
 鈴女さんは肉厚な唇に指を添えて少しだけ考え込んだ後、徐にこう切り出しました。


 「たぶんね、あんたもうこたつよ」

 『は?』

 「だから、もう、こたつなの。人工幽霊一号はこたつっ!」

 『……意味が分かりません、鈴女さん』

 「理解力無いなー…こたつってのは、単なる暖房じゃないの。体の他に『もう一つ暖めるもの』、なのよ。その『もう一つ』が人によっては色々あるの。
 横島はシロへの庇護欲だったり、その一文字って人は友情だったり、神父さんは思い出、六道って子は美神さんへのラブだったり。私のライバルね!」

 『もう一つ……』

 「そーいうのは、こたつじゃないと暖かくならない。だから人間はこたつに入るの! 分かった?」

 『いえしかし、それと私がこたつなのとどのような関係が…』

 「もう! ほんとに頭悪いね人工幽霊一号は!!」


 その説明で理解しろと言う方が酷では!?


 「いい? 逆に考えると、『もう一つ暖められるもの』がこたつなの。別にこたつじゃなくても、それさえクリアしてればそれはこたつになるの。形に囚われちゃだめよ!」

 『お、おおお…? まるで哲学のようですね』

 「ここの皆はね、ここに帰ってくるとほっとする。それは、体以外のなにか『もう一つ』がぽかぽかするから。即ち、人工幽霊一号、あんたがこたつである証拠よ!」


 びしっと何故か空へ向けて指を指す鈴女さんは、自信たっぷりに断言しました。

 正直、理屈は通っていないわ支離滅裂な論理だわで納得するのは難しいのですが…

 私の、どこか『もう一つ』はすとんと納得してしまっています。

 心、と表現するのは容易いです。ですが、心とは…皆さんを見れば分かるように複雑で一筋縄では表し切れないもの。

 鈴女様の仰る『もう一つ』という表現が、素敵ではないですか?

 流石は妖精、言う事が一味違いますね。おみそれしました…うん。


 『鈴女さんも、ここへ帰ってくるとほっとしますか?』

 「うん。だって落ち着くし美神さんいるし!」

 『そうですか…それは何より』


 こたつは『もう一つ』を暖めるもの。
 私は事務所の皆さんにとっての、大きなこたつでいられるでしょうか?
 鈴女さんの仰るような、素敵なものに。


 とりあえず、今日も冷えますから暖房を入れておきましょう。


 凍えた体と『もう一つ』を暖かくするために。


 皆様も、皆様のこたつを見つけて下さいね。


 人工幽霊一号でした。では、また。


 おわり


 後書き

 竜の庵です。
 お正月休みで書き上がりました。良かった。
 前回の冬短編がアウトドアだったので、今回は思い切りインドアな冬を書いてみました。
 地方によりけりでしょうが、総じて冬の過ごし方にこたつは付き物なのではと思われます。どんなもんでしょ?

 ではまた。

 最後までお読み頂き、本当に有難うございました!


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