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「帰還せし希望 プロローグ 希望と絶望の消失(GS+オリジナル)」

かいと (2008-01-03 01:45/2008-01-03 01:50)

「はぁ、はぁ・・・くそ・・・んだ、これ・・・」
人里離れた深い洞窟の内部。そこにはバンダナをつけた十代と思しき少年が一人。
「う、うぅ・・・(ドクンッ)ぐぅあ!・・・っく・・・」
少年は名を横島忠夫と言った。
(ドサッ)
忠夫は胸に手を当て前のめりに倒れる。洞窟は広く、声はよく反響するが聞く者は居ない。
「はぁ・・・くそ、・・・サル・・・小竜姫様・・・」
助けを求める声も空しく洞窟に吸い取られるのみ。
「はぁ、はぁ・・・ルシオ・・・ラ・・・」
そのまま力なく這いずり回るが、数センチも進んだ様子は無い。
「誰か・・・、た・・・す・・・っ」
そして崩れ落ちるとそのまま意識を失った。


(カツ・・・カツ・・・カツ・・・)
暗闇を歩く足音。
「(カツ・・・カ・・・)・・・?」
やがてそれは、足元に倒れる忠夫に気付く。
「!・・・こやつは・・・」
姿は14〜15歳と思われる少女。しかしその頭には二本の角。
紛れも無い鬼の少女である。
「知っておるぞ・・・有名な文珠使い・・・しかし魔族化が進んでおるのう・・・。」
少女は忠夫の顔を覗き込む。
「面白い・・・。」
あどけなくも美しい少女の顔がニヤリと笑う。
銀色の髪をなびかせたその顔は、まごう事なき鬼のそれであった。


「幻妖鬼?」
ここは美神令子のオフィス。
妙な髪形をした妖狐の少女タマモが、所長の美神に聞いた。
「そ、種類は鬼の一種なんだけど、生態はどちらかと言うと妖怪に近いのよ」
偉い人が書いたらしい妖怪図鑑を広げた美神が答える。
「まさかわたしが知らない妖怪が居るなんてね・・・」
おかしそうな表情で言うタマモ。
(コトッ)「それで、どんな鬼なんですか?」
お茶を用意したおキヌは、近くに腰掛けて美神に先を促す。
「こう書いてあるわ・・・
15〜16歳までは人間と同じ速さで育ち、その頃を迎えると比較的霊力の高い生物に乗り移る。
・・・あ、でも対象の霊力が高すぎると自分の制御範囲を超えて消滅してしまう。
その為普通は自分よりも霊力の低い生物を狙うか、多彩な手段を用いて弱らせてから乗り移る。
・・・約一ヶ月間魂に潜伏し、その間に霊力やその生物の特性を奪い取り、
対象の肉体を引き裂いて出てくる・・・この卑劣さが恐ろしいわね・・・」
美神は身震いする。
しかし彼女は、自分にそのセリフを言う資格が無いことに気が付かないのだろうか。
「他の鬼とは違い、田舎の山奥に集団で住みついて人里に現れることは稀。
一匹の霊力はさほど高くないが、知能が非常に高く周到な種族。
加えて他の妖怪とは違い、乗り移られた後は霊視が全く効かず、
魂と同化状態になる為に除霊記録は皆無。
・・・乗り移られたら終わりって事ね。」
美神は話を終えると本を閉じた。
「武士の風上にも置けん鬼でござるな・・・それでその鬼がどうかしたでござるか?」
めずらしく黙って聞いていたシロが美神に問う。
「誰が武士って言ったのよ、馬鹿イヌ・・・。」
タマモが無表情に言い放つ。
「犬ではござらん、狼でござる!!」
激昂するシロ。
しかしいつものことなので誰も止める者は無い。
「三日前に横島君が除霊に行った所に出るらしいんだけど、依頼は別の妖怪だから黙ってたのよね〜。
・・・ま、あのバカの事だし、何事も無かったような顔して帰って来るでしょ。」
どこまでもお気楽な美神嬢。
いや、恐らくこれも腕を上げた横島を信用してのことなのだろう。給料は変わらないが・・・。
「・・・それにしても少し遅くないですか・・・?」
気付くと不安になったおキヌが言った。
「そうよね、いつもの横島なら片道半日かかる依頼でも半日で帰ってくるのに。」
一見意にも介さない様子のタマモでさえ、一種の異変に気が付いている。
「先生・・・大丈夫でござろうか・・・。」
最も横島の実力を信頼するシロ。だからこそ不安を隠すことができない。
そして彼女達の不安は、最悪の形で現実になる。

「(バァンッ)美神さん、大変です!」
ドアを勢い良く開けて入ってきたのは妙神山の管理人、小竜姫だった。
「?・・・一体どうしたの、小竜姫?」
突然のことに一同唖然。
美神もあっけにとられて間抜けな表情で聞いた。
「・・・横島さんが・・・横島さんが・・・」
小竜姫はかなり動揺しているようだ。
「・・・落ち着いて、小竜姫」
ただ事ではないと悟った美神は真剣な面持ちで言った。
「みなさん、・・・とにかく妙神山へ・・・」
錯乱しかける小竜姫は一同を妙神山へ招いた。


(バァンッ)「老師、ヒャクメ!横島さんは!?」
妙神山に付くと小竜姫はすぐに駆け出した。
美神達四人も後に続く。

「あ、小竜姫様に、美神さん、みんなも。来てくれたんスか?」
そこには横島と猿神、ヒャクメ、パピリオの姿があった。
「横島さん、大丈夫なんですか?」
おキヌが横島に聞いた。
「いや、何かよく解んないんだよな〜・・・。依頼を無事終えたとこまでは覚えてるんだけど・・・それ以降がさっぱり・・・。」
横島はそう言って首をかしげた。
そこでヒャクメが急に真剣な面持ちになり、一同に向き直った。
「・・・皆さんに・・・話があるのね・・・」
唾を飲む声がゴクリと響きそうなくらい、静まり返る妙神山。
ヒャクメは満を持して、ゆっくりと喋り出した。
「アシュタロスとの戦いで、
横島さんがルシオラさんに霊基構造を分けてもらったことは知ってると思うのね・・・。」
正確にはシロとタマモは知らないのだが、この時は双方とも口を挟まなかった。
「その時に横島さんと同化しきれなかった魔族因子が、今になって横島さんの魂に反発しているのね・・・。
・・・そして昨日、長く続いた反発に耐えられなかった横島さんの霊基構造は、
急速に崩壊しはじめて・・・今朝発見した時には既に手遅れ・・・。」
最後は俯いてよく聞き取れないほど小さな声だった。
「それで・・・いったいどうなるの・・・?」
美神は聞きたいような聞きたくないような気持ちで先を促す。
「横島さんは・・・横島さんは・・・・・・」「・・・小僧は消える」
言いよどむヒャクメの声を遮り、猿神は一同に言い放った。
「・・・き・・・え?」
美神は一瞬遅れて、言葉にならない反応を示す。
「正確には今日の日没・・・肉体も残らず消えてなくなるのね・・・。」
尚もヒャクメは言い難そうに続ける。
「あぁ・・・やっぱな〜・・・何となくわかってたけど・・・死ぬのか、俺・・・。」
横島は笑ってはいるが、不安は隠せない。
「恐らく魔族化の進んでいた肉体が、最後の抵抗として消えることを選んだのね・・・。
ひょっとしたら、ルシオラさんが横島さんを苦しめないようにって「もう聞きたくない!!」・・・」
叫んだのは意外にも小竜姫だった。
「横島さん・・・ごめんなさい・・・私は・・・」
心なしか少々目が虚ろに見える。小竜姫にとってはここまでの衝撃・・・件の事件では自分は全く役に立たなかった。
彼女は今そう考えて自分を責めていることだろう。横島を愛した事実を認めることができない故に・・・。
「謝ること無いっスよ・・・。俺とルシオラが犠牲になることで、世界中の多くの人々を救えた・・・。
・・・今この言葉を言うために、俺はあの日ルシオラを見捨てたんです。
共に消えるなら・・・あの場所がいいな・・・。」
小竜姫はぐっと唇を噛むと、無理に笑顔を作った。
「・・・・・・・・・一人で・・・行けますか・・・?」
小竜姫の笑顔は、触れば砕けそうなくらい儚く、悲しい笑顔だった。
「・・・・・・はい・・・。」
横島はどこかすっきりとした笑顔・・・あの戦い以来誰も見ることの無かった笑顔で答えた。
「ヨコチマー!死んじゃ嫌でちゅーー!!」
パピリオは横島に抱きつく。
「悪いな、パピリオ・・・。俺、行かなきゃいけねえみたいだ・・・。きっと良い女になれよ!・・・姉と兄からの・・・お願いだ・・・」
横島はパピリオの頭をなでた。何か言い出しそうなパピリオの言葉を許さない為だった。
「・・・先生、死んでしまうでござるか?・・・弟子の拙者はどうなるでござるか?」
シロは意外と落ち着いていた。武家に生まれたシロは、横島の死に行く顔に一種の決意を感じたのだろう。
「シロ、未熟だった俺を慕ってくれたお前は大切な弟子だ・・・。しかし今の俺から言おう。お前に師匠は要らん、明日から自流を名乗れ。」
「し、しかし拙者は「言うな!」」
「シロ・・・俺よりも強くなれ・・・。『偽を持って真と成せばそれすなわち芯と成さん』・・・覚えとけ。
・・・今は意味がわからないように言っておく。いつか分かれ。そして己が芯を心と成せ・・・。
いつも死を隣に生きた俺が教える、最初で最後で、・・・そして全てだ・・・」
師・・・横島には到底分からないが、シロは最高の弟子と・・・それだけは理解していた。
「・・・わたしは別に言うことは無いわ・・・」
タマモはいつも通り。
「・・・信用できる仲間が見つかって良かったな・・・、元気でな・・・」
「・・・フンッ・・・・・・」
瀕死のタマモを救い出したのは横島だった。故に、思うところもあるだろう・・・。
横島はまるで親のような心配をして、最後の言葉を残したかもしれない・・・。
「・・・横島さん・・・・・・。」
おキヌである。
「・・・今まで本当に世話になったね・・・。言葉では言い表せないくらい・・・。」
思い出す。今まで横島がおキヌにかけた世話や心配は、本当に計り知れない物だろう。
「・・・そんなこと・・・そんなこと・・・・・・肝心な時に私は・・・あなたに何もしてあげられない・・・。」
「そんなこと言うなよ・・・、これは・・・俺が選んだことだから・・・。」
「わたし・・・ごめんなさい・・・。」
泣き出すおキヌ。横島をいつも一番近くで見てきたのは、他ならぬ彼女であろう。
「・・・・・・元気でな。」
それ以外には見つからなかった。去り行く自分の言葉など、誰を救う物でもないのだ。

そして彼女の正面に立つと横島は、文珠を詰めた袋を出した。
「・・・16個あります、二度と増えることはありませんから、大事に使ってくださいね・・・。」
「えぇ、ありがとっ・・・本当なら、私が退職金渡すとこだけど、死人にやる金は無いわよ。」
「う、きっついな〜・・・。西条とお幸せに・・・すっげぇ癪だけど祈ってますよ。」
「・・・さよなら。」
最後は一言だけだった。この言葉に一体いくつの意味が込められていたのだろうか。・・・きっと2人だけが、それを知っているのだろう。

「俺って、この後どうなるんでしょう・・・?」
横島はヒャクメたちに聞いた。
「・・・文字通り消えてしまうのね・・・。魂も体も、何もかも・・・、二度と生まれ変わることも無いのね・・・。」
ヒャクメは言った。
「・・・そうか、来世でもいいから、皆に会いたかったんだけどな〜・・・。」
「・・・・・・」
横島の言葉に二の句の次げないヒャクメ。
「・・・気にすんなよ、・・・俺、行くから・・・。」
横島は一言告げ、『転、移』の文珠を発動させる。
「お世話に・・・なりまし・・・」
言葉を言い終わるか終わらないか、横島の姿は消えた。


東京タワー、展望台の外。ここが横島の死のうと思った、思い出の場所だった。
「・・・お別れだなルシオラ・・・今までありがとう・・・・・・少しだけど、長く生きられたよ・・・
でもやっぱ限界みたいだ・・・何となく分かってたけどな・・・」
右手を見る。人の器に入りきらないそれはかろうじて爪を鋭くさせる程度で済んでいるが、気を抜くとはじけて異形の手が飛び出しそうだった。
「・・・さっぱり消えて・・・お前と混ざってみるのもいいかな・・・な?・・・ルシオラ・・・」
日が落ちる。胸に手を当てまさに消える時、異変は起こった。
「この時を待っておったぞ!」(ドクンッ)
「ぐぁ!・・・何だ・・・ぐふっ・・・」
横島の体を襲う激痛。
「・・・おぬしの体をよこせ、文珠使いのその魂をよこすがいい!」
(ドクンッ)
「うぐぅっ!!」
意識が遠のく。しかし手放しはしない。
「往生際の悪いやつめ、さっさと消えてしまえ!」
「・・・俺が消えたら、体も奪えないぜ・・・」
辛そうに笑ってみせる横島。きっと限界が近いのだろう。
「私の狙いはおぬしの魂の器。おぬしの人格が消えた後でも充分奪える。」
「やらねぇ、・・・俺の体だ!大体まもなく消える物を奪ってどうするつもりだ・・・。」
「・・・鬼の力を持ってすれば、霊基構造の安定など容易い。もともと魔因子が原因じゃからな。
それさえ解決すればあとはおぬしの力を奪うだけ、さぁ、諦めるが良い!!」
「やらねぇ、この体は俺だけのものじゃねぇ・・・ルシオラが死んで守った体なんだよ!
お前になんぞくれてやるもんか!!」
「あきらめろ!」
「消えろ!」
「手放せ!」
「失せろ!」
「うおーーーーーー!!」
(カッッッッッッッッッッ)


どちらの咆哮が最後だったか、一瞬の閃光と共に、残されたのは一人の少年。
白銀の髪に二本の角、背中には黒い翼が生えていた。
少年は背中の翼をたたみ、角を隠し、人と見紛うような姿になると言った。


「・・・俺は・・・誰だ?」


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