最初は何も、意識さえもしていなかった。
ただ、多くの物事を経験して、多くの物事を学んだ。
その学んでいく課程で、護りたいものが出来た。
初めて、命懸けで護ろうとした。
彼のやろうとしていることに苦笑を浮かべつつも、彼女は彼と共に居た。
しかし、天命を全うする前に彼の命は尽きかけた。
彼女は迷う事無く、彼に全てを捧げた。
その結果、彼は多くの物を得て、多くの物を失った。
惰性とも取れる生活をしながら、ある日、彼は力を求めた。
長く勤めた事務所を辞め、前世の自分の力を知るため、海を渡り、霊山に通い力を貪欲に求め続けた。
古くから彼を知るものは、漸く彼は立ち直ったとそれを喜んだ。
誰一人、彼に生まれた小さな歪みを見出せずに。
彼の小さな歪みは本来あるべき物ではない。
続くはずのストーリーは此処に歪みを生み出し、本来の道をはずれ、迷走を始める。
彼が愚かであれば、誰かが気付いただろう。
彼が粗暴であれば、誰かがいさめただろう。
彼が虚無であれば、誰かが慰めただろう。
しかし、この世界にはIfは存在しない。
やがて、歪みが産声を上げる事件が起きた。
彼の友人の彼女が命を落した。
これが事故であれば、寿命であれば、病であれば、あるいは彼の友人の恋人…いや、知り合いでなければどれほど良かっただろう。
彼の力を知り、試しに来た下級の神属だった。
過激派に所属していた件の神は、彼を案内するように言ったがこれを拒まれ、手にかかり死んだ。
彼の友人は嘆き、彼は自分の責と思い強く攻めた。
ある日、彼の元にその神族が来た。
謝りもせず、襲い掛かってきた神族に対して必死に呼びかけるがそれに答えず、彼の友人が駆けつけ、仇を討つ為、神族に挑んだが、彼もまた大怪我を負った。
当時の状況を見れば死んでもおかしくない状況で彼の歪みは目を覚ました。
気が付けば、彼は神族を殺していた。
また、彼は自分を責める。
噂で耳にしたのは彼の友人が二度と霊能力を使えないほどのダメージを追ったことと、件の神族が彼の居場所を知っていたのは元上司が居場所を金で売ったためと言う事だ。
彼は元上司に二度とこのような事をしないと約束ととり、このような事を二度と起さないよう、更に貪欲に力を求めた。
それから数年がたったある日、恋人の妹が彼の元へ現れた。
それは傍目に見て無事とは言える物ではなかった。
どのような目に会えばこのような怪我を負うのか、蝶の化身にもかかわらず血と煤で汚れきり、息も絶え絶えの状態で身の危険を告げると、彼女もまた、彼に全てを捧げ永い眠りについた。
彼は怒った。
初めて、明確に相手を怨んだ。
彼をあざ笑うように、襲ってきたのはかつての神族と同じ派閥の者達だった。
生まれた歪みは形を持ち、彼に力を与えた。
彼の知り合いが駆けつけた時、彼らは目を疑った。
脅威の対象とも言える相手を笑いながら殺し、血肉を喰らう。
そこに躊躇いは無く、慈悲は無い。
一思いに殺せと願う相手をじわじわと嬲り、魂さえも啜る。
彼は一瞬の怯えを示したかつての同僚や友人に謝ると姿を消した。
この物語は、此処から話が進む。
「なぁ、雪よ」
「あん? なんだよ?」
むせ返るほどの血の臭いがするなか、彼は奇跡とも呼べる復活を果し、長くついてきてくれる友人に話しかけた。
「疲れたな…本当に、疲れたな」
「ちがいねぇ…だが、お前のおかげで退屈はしなかったぜ?」
本当に楽しそうに友人は笑う。
ずっと戦うことを至上の喜びとしてきた友人は満足そうにそう答えた。
「そっか、最後まで付き合わせて悪かったな」
「気にすんなよ、遅かれ早かれこうなるのは分かっててお前についてきたんだ。寧ろ、感謝してるんだぞ? 最後の最後まで退屈する事無く戦えた」
彼の謝罪に対して彼は屈託の無い真っ直ぐな笑顔を向けた。
今の彼らはボロボロだった。
彼は片腕は吹き飛び、友人の魔装術を参考にして作り上げた霊装術の鎧ももう維持できずにいた。
友人は半身が無く、魔装術により辛うじて出血を止めているが長くは無い。
元より、火角結界に封じられ消滅は既に秒読みと言える。
ルシオラ…パピリオ…俺の手、こんなに血で汚れちまった。
お前らのこと、もう抱きしめれないや…。
彼は片腕にこびりついた血を眺め、かつての恋人とその妹に小さく詫びた。
「なあ、横島」
「なんだ?」
友人の呼び声に我に帰ると、友人は彼の胸を叩いた。
「やっぱ、お前は生き残れ、いや、やり直せ…今のお前ならやり直せる。もう、あんな女に引っかからなくても、お前ならきっとやっていける。だから、やり直せ!」
口から血を噴出して尚、彼の言葉は止まらない。
「ピートもタイガーもカオスの旦那もみんな、お前を慕ってんだよ! いいか? いいな? 良くなくても、俺が限界なんだよ…」
コフッ、と小さく咳ばむのを切欠に魔装術が解け、出血が始まる。
「もう、縛られんな、たくっ、お、前は…いつも、いつ、も…やさしすぎるんだよ。向こうで…幸せに、な、れよ」
彼の胸に預けられていた手から陰陽文珠が零れ落ちる。
「おまえ、これがあれば!」
刻まれた文字は『魂/魄』『時/空』『転/移』『移/動』の4つ。
伸ばそうとした手は払われ、満足げな彼の表情はなにか気がついたように口だけを動かした。
向こう、言ったら俺と弓の事、頼む―――
「任せろ、このバカ野郎…!」
彼が答えると、申し訳なさそうに笑った。
ああ、俺もお前のこと、利用しようとしてんのかなぁ…すまねぇ、横島―――
友人は声を出さずに懺悔した。
「友達だろっ! ダチなら頼みごとくらい当たり前だ!」
彼は堪らず、そう、叫んでいた。
ああ、そうだな、すまねぇ…んじゃ、俺、寝るわ―――
彼の言葉に友人は苦笑を浮かべると、目を閉じ、あける事は無い眠りについた。
友人の最期を看取った彼は静かに旅立ち、その数秒後には、彼の抜け殻と友人と共に爆散し、此処に3世界を救った彼の記録は絶たれることとなる。
さて、彼らが居なくなったこの世界について、少々、語るとしよう。
この後、世界は荒れに荒れることとなる。
理由は、横島忠夫の魂の行き先である。
彼の魂を捕獲するつもりであった神魔の両陣営は、彼の魂が手に入らない事をお互いの陣営の責任とし、果ては密かに横島の魂を手に入れたのではないかと疑い、長きに渡る争いを始める。
本来であれば、彼らがどこへ行ったかなど最高指導者達が気付かない筈が無いのだが、気が付くのに此処まで遅れたのには、幾つかの要因が重なったことにある。
1つは、同じ場所に死した者が多すぎた事、これにより神気、魔力が入り乱れ、更に霊基を平気で砕く技術を駆使していたのがそれに拍車をかけ、特定に時間を賭けることとなる。
2つは、横島が取り込んだ二人の魔族の存在、結果として7割弱を補われていた彼の体は、人間と分類するのにはあまりに変質しすぎていた。
3つは、強力すぎた結界の為である。
力を注ぎ込まれた結界の破壊力は想像を超え、中に内包していた神魔を含む全てを破壊しつくしてしまったのだ。
無論、無傷な魂などもあるがそれは中位以上ものであり、脆弱な人間は元より、下位の魂にも大きな欠損を生むほどだったのだ。
争いは争いの連鎖しか生まず、事の顛末に気が付いた指導者達は、荒れたそれぞれの世界を宥め、せめてもの詫びの意を込め、それ以上の調査を打ち切ることにした。
横島忠夫、両陣営の過激派により、その命を落すも魂の行方は不明、彼に付き添っていた友人、伊達雪之丞も同様だが、魂については結界により四散した可能性が濃厚であり、最高指導者含む、特別調査チームも同様の意見を述べている。
以上をもって、神界・魔界の合同調査報告書とし、本件における一切の干渉を禁じるものとする。
横島君が死んだ後、人界の残された者についてはそれぞれの行動を取った。
彼に懐き、親しんでいた妖狐タマモ君と人狼族シロ君は人狼の里へと移り、僅かではあるが子を成し、里の再建も行ったそうだ。
尚、彼を慕い周りに居た妖怪も同様に人狼の里へ移り、彼に共感した人狼達と共に最後まで彼が願っていた妖怪と人との共生を果すため尽力を尽くす。
その中に、氷室キヌ君の姿もあったそうだ。
私とその弟子 ピエトロ・ド・ブラドー君は、独立していた小笠原エミ君やオカルトGメンである西条輝彦君達など彼を知る者が中心となり人間側からの妖怪に対する歩み寄りを実現させるために、力を尽くした。
六道家やザンス王国を筆頭とした協力があったのは幸いである。
最後に、彼が最後に勤めていた上司、美神令子君は過激派から多額の金額が供与され、最後まで横島君の位置を流していたことが後の調査で判明するも、お咎めは無かった。
横島君自体がこれを知っている節があり、これを放置し続けたためである。
「既に横島は、彼女を止めるのは不可能と悟っていた」と、言う説と「これによる襲撃さえ、自分自身の罪として受け取っていた」と、言う二つの説があるが真実のほどは定かではない。
彼女の後の言動によれば、「彼が死ぬなんて考えていなかった」と言うコメントを残している。
なぜ、金で彼を売るようなことをしたかと言う点については、前記のコメントに付け加え、「お金が欲しかった」と言う話が出たそうだ。
唐巣神父の手記より―――
彼の死後、疲弊しきった争いは短期の内に終わり3世界に、彼が願っていた平和と言うものが生まれた。
この先がどうなったのかは記されていないが、彼の生前、願ってやまなかった平穏が彼の死によりたらされたのは、皮肉なのか彼の狙いなのかは知る術は無い。
だが、彼が行き着いた先の物語はここから漸く始まる。
え〜と、昼行灯でございます。
性格の壊れ物で戦闘にはダーク色が強いものとなります。
主人公は横島、ただ…酷く歪んでしまった横島でございます。
自己解釈や違和感を無くす為に手を加えてありますし、極力、インモラル・バイオレンス・ダークに行かないようには気をつけます。
もしよろしければ、この作品にお付き合いくださいませんでしょうか?
作品を読み直し、極力、違和感を減らした楽しいものになるよう頑張らせていただきます。
あとは、霊装術についてのご説明を…。
横島の特化の力である文殊などを筆頭とした凝縮・固定化を利用したものでルシオラたちから譲り受けた霊基を元に作り上げた魔装術の霊力版です。
元の契約主が居ないため、本人の思う形に変形が出来ますが、それは全身を覆うか、どこに装甲を集中させるか程度に限られています(横島でもそれ以上の操作が出来ない為)、形状は人型で人の筋の形に合わせるように流線型の装甲が走っています。
頭はメット状のものと、肩には全体を覆うほどの大きさの肩当、腕には籠手、脚には足具が付けられいる以外は全身タイツをはいている…とでも思っていただければ想像し易いかと。
この形態になり全力の戦闘をした場合、霊力の消費が大きすぎるため大抵はリミッターを使用するか、部分のみを具現化して戦闘をします。
また、メット(両目部分、籠手(腕、掌)、両肩にそれぞれ文殊を入れるスペースがありそこに「増/幅」と入れた文殊を使用し始めて神魔族とまともに遣り合えるものとなります。
メットと籠手の片方の空きにはそれぞれ他の文殊が組み込まれるようになっており、メットの部分はルシオラのバイザーを基にしたものが採用されています。
武器・装甲は栄光の手と魔装術の応用となっていますが、バイザーは全身状態の報告などを行うもので、胴の部分は防御強化、腕、脚部はそれぞれ筋力強化、背部には雪之丞と同じく空中を飛ぶ為のスラスターが存在しますが、彼のように自在な訳ではなく、一定時間の滞空・移動が可能程度です。
武器に関してですが、霊波刀と砲撃をどちらでもこなせる様になっており、片腕と一体化したようになっています。
形態は大きく分け3つあり、大斬撃・汎用・砲戦用があります。
各特長は漢字の通りとなります。
ただし、斬撃を除く全ての攻撃には一定の量の霊力が必要となり、補充されていない状態では十分に攻撃が出来ません。
他の霊力供給を中断しクイックチャージは出来ますが、中断部位の性能と全体の防御力が激減します(仮に溜まっていた中断部位の武装を使用したとしてもダメージになるようなものは期待できない常態、防御は該当部分の装甲が激減する為、それを補う為、全体の装甲が持っていかれる)。
武装は、霊波砲・飛刀刃、サイキックソーサー(障壁型・爆発型・閃光型)がチャージウェポンで、霊波刀のみが接近武器となります。