インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始▼レス末

「会話の断片(GS)」

senn (2007-09-30 22:03)

会話の断片 1 西条と横島


「魔鈴君が心配している」

 西条が言った。
 夕方の喫茶店。
 壁際、奥の席に座る西条の正面には、一人の青年が座っている。
 名を、横島忠夫。

「そっか……、やっぱな」

 陰のある表情。
 らしくない、と西条は思う。
 しかし彼がそんな顔をするようになった、原因。
 その一部は、僕のもとにある。
 そう西条は考えている。
 酷い話だ、と胸の内で呟く。

「なんでも、閉店間際までコーヒーだけ頼んで居座るそうじゃないか」
「悪いとは思ってんだよ、一応」

 たはは、と苦笑いしながら、横島が言う。
 西条は知っている。
 彼が彼の大切な人達の前では、こんな笑い方はしない、ということを。

「いや、迷惑とは言ってなかった。ただ、君の雰囲気が違うから――戸惑っているようだ」
「あー、だよなぁ。魔鈴さん、結構さといところあるし」
「そうだな。それに彼女は、馬鹿明るいセクハラ大王の君しか知らない」

 きついなー、西条。
 横島は笑う。
 今度は幾分、明るく。

「だってなぁ、仕方ね―だろ」
「かもしれない」
「俺はさ――後悔しちゃいけねーんだよ。みんなの前じゃな」
「……」
「だってさ、俺が後悔してるところなんて見せちまったら……」
「君がどんな犠牲を払ったのか、みんなにまた思い出させることになる」
「そういうこと。やなんだよ、それは」

 ずずっ、と横島はコーヒーを一口飲んだ。
 西条は、実はそれなりに横島を買っている。
 特に、あの事件以来。
 美神のことなどもあって、普段は彼を不当に低く扱う言動が多いが、それは上辺だけの話だ。
 横島は多分、自分より強い。
 戦えば勝つのは自分だという自負はあるが、単純なパワーゲーム、技能だけを比べてみれば、横島のそれは圧倒的だ。
 あの頃よりまた、強くなっている。
 それを悲しい、と思うのは、感傷にすぎないのだろうけれど。

「そもそも、選んだのは俺だし――後悔ばっかしてるわけじゃねーし」
「確かに、明るくなったな、君は」
「あぁ、いつまでもぐちぐち言ってても始まらんし、望みはあるしな」
「そうだな。だが、あぁ、分かるよ」

 西条の言葉に、横島は一瞬、殺気を見せた。
 明らかな怒り。
 だがそれは本当に、瞬く間に消えた。

「分かってるだろう? 僕だって、後悔したことくらいある。どうしようもないことでね」
「……だよな。すまん」

 西条は、君は成長したな、と言おうかと思ったが、止めた。
 自分だって、そんなことを言われたいとは思わないからだ。
 ただ一つ、気付いただけなのに。
 かつての己の無力に泣いているのは、自分だけではない。
 大切な人を失って嘆いているのは、自分だけではない。
 後悔に胸を焼かれ、苦しい時を過ごしているのも、自分だけではない。
 どこにでもある、ありふれた痛み。
 心地よい不幸の中で、見えなくなること。

「でもさ、やっぱ時々、ふっと考えちまうんだよ。どうにか――どうにかできなかったのか、ってな」
「……思い出す、ですらないからな」
「あぁ、思い出したくても忘れらんねぇ。ずっとさ、ずっと残ってんだよ、どっかに。それに」

 横島は僅かに顔を伏せた。
 表情を隠すように。

「それに、忘れたくもない。辛くても、悲しくても、それでも、これはあいつがくれたもんなんだぜ? 捨てられねぇよ、絶対」

 あぁ、全く。
 畜生、どうして。
 いや、分かっている、全て。
 誰が悪いのでもない。
 誰もが悪かったのだ。
 横島も自分も彼が自分が愛する人達も敵も仲間も他人も星も月も空も――きっと全てが。
 だから、西条は言えない。
 君は悪くない。
 僕が悪いんだ。
 悪いのは奴さ。
 言えるわけがない。
 横島は既に、そんなもの全て肯定している。
 許している。
 きっと意識に昇ったことも無い。
 でも彼は、横島忠夫は、許しきれない。
 自分だけをまだ、許せていない。

「ひとのこころは、単純にはいかないな」
「……仕方ね―よ、それは」

 西条はカップを持ち上げる。
 コーヒーは冷めて酸味がきつい。
 目の前の青年を――もう少年と呼ぶには違和感を覚える横島を、見る。
 良い顔だ、と思う。
 きっともう少し、もう少しだけ時間があれば――彼はもう、一人でそれと向き合えるだろう。
 一人でいたくないがために、冷めていくコーヒーを眺めなくても良くなるだろう。
 そのくらいには、そう思えるくらいには、横島は評価できる男だ。
 コーヒーを飲み干し、伝票を掴み、西条はもう一度、横島の目を見た。

「とりあえず、たまにはちゃんと夕食でも食べに行きたまえ。友達でも連れて。そうすれば、魔鈴君も安心するだろう」
「……金が無いのは相変わらずやからなー」

 へへへ、と今度こそ陰の抜けた笑み。
 釣られたように、西条もにやりと笑う。

「なら、うちのオフィスに顔を出したまえ。それなりの夕食をまかなえる程度のバイト料はだそう」
「それでとんでもねー悪霊相手にさせる気やないやろなー?」
「令子ちゃんよりはましだろう?」
「それを言われると痛い」

 ひとしきり笑ってから、二人は別れた。


会話の断片 2 雪乃丞と横島

 コースの初めは温野菜のサラダ。
 軽く茹でられた各種野菜は鮮やかな色彩を保っている。
 そこにはソース代わりのコンソメスープがかかり、食欲をそそる香りを放っている。
 もどかしい思いをしながらフォークを握ると、伊達雪乃丞はさっそくニンジンを突き刺した。
 そのまま口へ。
 甘い。
 すぐに次の一口。
 美味い。
 スープの絶妙な塩加減と全体の柔らかな温度が何ともいえない。
 さすがは魔女の店だけのことはある。
 そんなことを考えているうちに、所詮前菜であるサラダは、すぐになくなった。

「……あのな、雪乃丞、もう少し味わって食おうとは思わんのか?」

 雪乃丞の対面に座る男、横島忠夫が言った。
 彼の皿には、まだサラダが三分の一ほど残っている。

「ちゃんと味わってるさ。ママには劣るが、良い味だ」

 言いつつ、雪乃丞は手に持ったままだったフォークを閃かせる。
 手練の早業。

「あぁっ、俺のベビーコーンを……!」
「ふ、油断する方が悪いのさ」
「てめぇ、どうせろくなもん食ってねぇだろうと仏心をだしてみれば……!」
「それとこれとは話が別だ」

 再び閃く雪乃丞のフォーク。
 しかし今度は、横島のナイフにがちっと阻まれる。

「二度もやらせるかっ」
「――まだ、甘い」

 その時、横島は見た。
 雪乃丞の右手、フォークを握っていない方に、ナイフがあるのを。

「ナイフだって刺さるんだぜ……!」
「く、くそっ」

 雪乃丞のナイフには、ブロッコリーが刺さっている。
 フォークしか警戒していなかった横島には、防げなかった。

「てめぇ、それが奢ってもらう奴の態度かっ……!」
「くく、態度を変えて欲しければ追加注文を許すんだな」
「……微妙に安いな、お前のプライドも」
「ほっとけ」

 戦利品のブロッコリーをもぐもぐやりながら、雪乃丞は言う。

「ま、確かに最近は不景気でな。まともな飯を食えるのは有り難いが……」
「なんだよ」
「いや、横島が奢ってくれるってのも珍しいと思ってな」
「あぁ、それか……」

 んー、と少し考えてから。

「ちっと魔鈴さんに迷惑かけちまってな。お詫び代わりに売上に協力しようと思ったんだよ」
「ふん、だが先立つものはどうした? 美神の旦那が給料上げてくれるとも思えんのだが」
「あぁ、別口。こないだオカGの仕事を手伝ってな」
「珍しいな、一人でか?」
「そう。いやー、ひでぇ仕事だったぜ? ほら、オカGって装備がめちゃくちゃすげぇじゃねーか」
「贅沢としかいえんな」
「ところがさ、経費削減のために貸与できません、とか言われてな」

 いやー、面倒だった、と横島は笑った。

「まぁ、妥当だろう? お前に武器は要らん」
「確かに経費はかからんけどな、一通り自前で出せるから」
「だから、貧乏でもGSやってられるわけだな、お互い」
「そうだな、俺らじゃ破魔札や吸印符だってそうそう買えんもんなぁ……」
「お前の文珠、俺の魔装術、どっちも金じゃ買えねぇんだから、バランス取れてんのさ」
「それも違うと思うがなー」

 くつくつと軽く笑いあう。
 こういう時間を持てるのは、単純に楽しいと雪乃丞は思う。
 目の前にいるのは、自分が終生のライバルと決めた男だ。
 初めて戦ったときからずっと、そう思ってきた。
 それは今でも変わらない。
 自分の方が弱いとも戦って負けるとも思わないが、しかし本気になった目の前の男には、勝てる気もしない。
 そういう相手だ。

「しかし話は変わるが、お前、本当に独立する気は無いのか?」
「ん、今んとこな」
「だがな、お前は自分が世界トップクラスのGSだって分かってんのか? 俺と違って免許もある。いくら美神の旦那が許可を出してくれないっても、何か方法はあるだろ?」
「あー、美神隊長にもされたな、そんな話」
「いつまでも時給雇いのアルバイトでもねぇだろ」
「とりあえず、大学卒業するまでは、さ。今のままで行く」
「決めたんだな」
「あぁ、そりゃな。結構いろんなとこから話は来たんだけど、どうも気が乗らん」
「ま、決めるのはお前だからな」

 全く、このバカに呆れるのはこういう時だ。
 雪乃丞は思う。
 こいつは望めば巨万の富をも得られる力を持ちながら、そんなもの『気が乗らん』の一言で切り捨てる。
 バカだ。
 だが、悪くない。
 嫌いじゃない。
 自分にだってそういうところはある。
 そして、それに、こいつの『今』は――。

「そういう雪乃丞こそ、免許は取んねーのか?」
「……あぁ。今度のGS試験で形だけエントリーすれば、発行してくれるそうだ」
「ふぅん、なら、もぐりの仕事もそろそろ終わりか?」
「どうだかな、俺は悪い方でも名が売れてる。仕事が来ないか、妙な仕事ばかり来るか、分からん」
「ま、どうにかなるんじゃねーか? 実力の方は証明してくれる奴がたくさんいるだろ?」
「だといいがな」

 話しているうちに、横島の皿も空になっている。
 会話がわずかに途切れたタイミングに、横から声がかかった。
 次の皿が来たのだ。
 軽く挨拶して皿を置くのは、この店の主人、魔鈴めぐみだ。
 サービスです、と、ワインのボトルを置いていく。
 それが空く頃、雪乃丞は酔いつぶれた。
 楽しい酒は、久しぶりだった。
 ――別に、貧乏だからでもなく。


会話の断片 3 魔鈴と横島

 雪乃丞はすっかり眠ってしまっている。
 飲み慣れないワインをボトルで空けたのだから、当然だろう。
 もともと身長が低くて痩せている雪乃丞は、アルコールには強くない。
 しかも修行優先であまり収入のない彼は、酒のような嗜好品にはあまり縁がないのだ。
 揺すっても声を掛けても起きない雪乃丞を見やり、横島はため息。
 そこに、声が掛かった。

「大変ですね」

 トレイを持った、魔鈴めぐみ。

「いや、すんません。結局迷惑かけちまって」
「いいえ、他のお客さんも居ませんから、平気ですよ」

 トレイの上には、コーヒーと小さなケーキ。
 二人分あるそれを並べると、魔鈴は横島の隣の椅子に腰掛けた。

「これはサービスです。伊達さんも、まだ起きる様子はなさそうですし」
「すんません、もう少しして起きなきゃ、ひきずってでも帰りますから……」

 本当に申し訳なさそうな様子の横島を見て、魔鈴はふふふ、と笑う。
 やっぱり彼はこういう表情の方が良い、と思う。

「今日は、楽しそうでしたね」
「はい、魔鈴さんのおかげっすよ。
飯が美味いとそれだけで気分が全然ちがって来ますから」
「ありがとうございます」

 素直な賛辞に、魔鈴の頬がまた緩む。
 それに釣られたように、横島も微笑む。
 明るい笑顔。
 それが嬉しくて、魔鈴は呟いた。

「……心配して、損しちゃったかな」
「あー、西条から聞きました。すんません」
「謝らなくても良いですよ。それにそんな顔しないで下さい」

 横島の苦笑に、暗さが混じる。
 その暗さは、魔鈴がこのところずっと見ていたものだ。
 週に一度くらい、遅い時間に来ては、コーヒー一杯で閉店まで粘ってから帰る、彼。
 コーヒーを時折、思い出したように啜るその顔には、暗さがあった。
 内に篭るような、陰。

「駄目ですよ、そういう顔をするのは。特に一人では駄目です」
「たはは、迷惑っすよね。店の雰囲気が悪くなるし……」
「そういう意味じゃありません。溜め込んじゃいけないと言ってるんです」

 コーヒーを一口啜り喉を潤すと、魔鈴は続ける。

「前に、横島さんの煩悩を追い出したことがありますよね?
そういう気分は、あんな具合に溜まっていくんですよ。
少しなら良いですけど、あんまり多いと飲まれます」
「……飲まれる?」
「えぇ、引きずられます。
その気分に全部支配されちゃうんです。
横島さんが煩悩に引きずられるみたいに」

 それはろくなことにならんやろなー、と横島は軽く呟き、天井を見上げるように上を向いた。
 頬に水滴が一粒、流れている。
 魔鈴はそれを見て、少しだけ悲しくなった。

「ごめんなさい、差し出がましい口を聞いて」
「いえ、いいんすよ。
溜め込むのは良くないってのも、GSやってますから分かるっすよ」

 ふぅ、と疲れたような吐息。
 横島らしくない。

「やっぱ、どっかで割り切らなきゃならんってことか……」

 寂しそうな呟き。
 魔鈴は悲しいというより、なんだかやりきれないものを感じていた。
 魔鈴の知る横島はもっと明るく笑う、悩みなんて吹き飛ばすパワーの持ち主だと思っていた。
 いや、間違いなくそうだったはずなのだ。
 それが今は、一時的なことなのかもしれないが、ひどく落ち込んでいる。
 何かに囚われている。
 それが何か、魔鈴は詳しいことは知らない。
 おそらくあの大事件に関わることだろうと当たりはつくけれど、それに関わりがありそうな、知っていそうな者は、一様に口が硬い。
 コーヒーを前に暗い顔をする横島を見かねて、魔鈴が西条に相談を持ちかけたのは、そういう経緯があった。
 今日、友達と食事に来て、以前のように楽しく笑っている横島を見て、魔鈴は少し安心した。
 彼は、笑顔をなくしたわけじゃない。
 だから、それが分かったから、横島に言ってあげたいことが、魔鈴にはある。

「……横島さん?」
「はい、何すか?」
「私は、横島さんが何で落ち込んでいるか知りません。
知りたくないといったら嘘ですけど、でも横島さんが話したくなるまでは、聞き出そうとも思いません」
「……」
「でも、お願いですから、一人で沈んでいくのはやめてください。
横島さんみたいな人が沈むと、周りの人達も引っ張られますよ?」
「……忘れろってことすか?
落ち込むようなことは全部。
そうして、楽しいことだけ見て、バカやって、そうしてりゃ良いってことっすか!?」

 横島が、声を荒げる。
 あぁ、きっと彼にとって、とても大事なものに関わっているんだ、そう魔鈴は理解した。
 漠然とした不安や恐れではなく、明確な後悔。
 横島を苛んでいるのは、きっとそういうものだ。
 ふふふ、と軽く笑う、魔鈴。
 その笑顔を見た横島は、毒気を抜かれたように落ちつきを取り戻す。
 すんません、大声出して。
 そう謝る。

「いいんですよ。実は、わざと怒らせてみたんです」
「……何で、そんなこと」
「いいですか、横島さん。
私は一人で落ち込むなって、そう言ってるだけです。
大体、横島さんがうちに来るのだって、そのためでしょう?」
「一人でいると……自分が何しちまうか分かんなくて、誰か知り合いの目があったら無茶はできんと思って、それで……」
「ここに来たんですね」
「……そうっす」
「いいんですよ、それで」
「え……?」
「辛くて、どんどん沈んでいってしまいそうな時は――そんな時は、一人はいけません」

 何時の間にか俯いていた横島の顔を、魔鈴は上向かせた。
 両の掌を横島の頬にあて、そっと、優しく。
 彼の目を、正面から見る。

「いいですか、横島さん。
あなたは、落ち込んだ自分を周りの人達に見せたくなくて――この店に来ていた、そうですよね?」
「あ……」

 少し考えれば分かることだ。
 魔鈴と横島の周りの人間には案外、接点がない。
 もともと横島にしても、美智恵に食事に連れて来てもらうなど、他の面々に比べれば会う事は多かったけれど、それだけと言えばそれだけだ。
 それを何故、わざわざこの店なのか。

「優しいですよね、横島さんは。
誰も傷つけたくなくて、それでここを――私の店を選んだんですよね?
自分が何か始めたら止めてくれそうな知り合いがいて、あなたが落ち込んでいても、それを周りの人達には気付かれにくいから」
「俺は……すんません」
「いいんですよ。
でも、私だって心配くらいしますからね?
それは忘れないで下さい」
「はい……」
「落ち込むな、なんて言いません。
お店の雰囲気は、横島さんが沈んでるくらいじゃ悪くなりません。
それに辛いことも悲しいことも、横島さんを苦しめるもの全部、忘れて欲しくありません。
だから、お願いですから、話してください。
愚痴でもなんでも、お店が終わってからならいくらでも聞いてあげます。
一人で沈んで、そのまま帰るのは止めてください。
一通り吐き出すものは吐き出してから、笑って帰ってください。
そうでないと――」

 嫌です、と、魔鈴は悪戯っぽく笑う。
 本当に嫌だったのだ。
 いつも引きとめようと思って、でも踏み込めなかった。
 彼の苦しみは、全て彼のものだからだ。
 だが、何時の間にか、苦しいのは自分も同じになっていた。
 だから、西条に相談した。
 そして今日の、まだ笑顔を失っていない横島を見て、決めた。
 踏み込んで、みようと。

「それだけ守ってくれたら、好きなだけお店にいてくださって良いですよ?」

 横島の頬に添えていた手を外す。
 それでも横島は、俯かない。
 魔鈴の顔をじっと、見ている。

「……それは」

 真摯な瞳で、横島が言う。

「それは、愛の告白ですブヘッ!?」

 魔鈴はくすくすと笑う。
 魔鈴に飛び掛ろうとして、コーヒーの乗っていたトレイに顔面をカウンターで引っ叩かれる横島。
 いつもの、明るい彼。

「駄目ですよ、横島さん。
ここは魔女の店なんですから、不埒な振る舞いはゆるしません」
「は、反省しまーす」

 鼻をおさえながら、横島は言った。
 顔に丸く、赤い痕が残っている。
 どちらともなく、笑い出す。

「さて、話してたら少しお腹が空きましたね。
何か、パスタでも作ります。横島さんも食べますよね?」
「あ、いいんすか?」
「はい、ついでですから」

 先ほど横島にカウンターを決めたトレイに冷めたコーヒーの入ったカップを載せ、魔鈴は立ちあがった。
 少し情けないような、どこか抜けたような笑顔の横島を見て。

「横島さん?」
「はい、なんすか?」
「さっきみたいな時は、もっとムードに気を使ってくれなきゃ駄目ですよ?」

 笑顔と共にそう告げて、『へ?』とばかりに間の抜けた顔をした横島を尻目に、魔鈴は厨房に向かう。
 今日は良い日だった、と思いながら。
 彼に――横島にとってもそうだったら良い、そう思いながら。


 追記。
 結局、雪乃丞はパスタの匂いで目を覚ました。


後書き

どうも、はじめまして。
sennというものです。
GSは連載当時から好きで、SSも読ませてもらっています。
そして多少考えるところがあって、この本編寄りの話を書いてみたりしました。
一応、脳内設定では横島は19歳の大学生で、相変わらず美神除霊事務所で時給扱いで働いています。
時給は上がっているし、大学生になってバイトに当てる時間が増えた分、収入
は増えていますが。
しかし魔鈴さん、19歳に酒を奢るのはまずいよ。

この話を考えたきっかけは、原作中ではルシオラの件で横島が苦悩するようなシーンはアシュタロス編終了後はあまりないんですが、仮に悩みを相談するなら誰かなー、と思ったことです。
考えてみると、横島たちの事情を良く知ってる美神、おキヌらレギュラーは相談したら落ち込みそうだし、美智恵や西条も微妙でしょう。
となるとアシュタロス事件の事情にあまり詳しくなく、それでいて横島の苦悩が美神さん達まで伝わりにくい、接点の少ない相手が良い。
そう考えて残ったのが、魔鈴めぐみさんでした。
いきなりでは唐突なので、西条氏と雪乃丞氏にも出張ってもらいました。
悩みを相談するキャラとしては、カオスとかもありかもしれませんが、絵的にちょっと、と。
でも、マリアはありかもしれない。

区切りの良い形で書けたので、随分古い話だとは思いつつ、投稿させていただきます。
次の機会があれば、よろしくお願いします。
ではでは。


△記事頭

▲記事頭


名 前
メール
レ ス
※3KBまで
感想を記入される際には、この注意事項をよく読んでから記入して下さい
疑似タグが使えます、詳しくはこちらの一覧へ
画像投稿する(チェックを入れて送信を押すと画像投稿用のフォーム付きで記事が呼び出されます、投稿にはなりませんので注意)
文字色が選べます   パスワード必須!
     
  cookieを許可(名前、メール、パスワード:30日有効)

記事機能メニュー

記事の修正・削除および続編の投稿ができます
対象記事番号(記事番号0で親記事対象になります、続編投稿の場合不要)
 パスワード
    

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze