――ん、ここは……
「よーし、そこまで!!」
――あれ、ここ何処だ? しかも真っ暗で何も見えねぇし……
「9番! 44番! 28番! 7番!」
――あ、なんか見えてきた。
「13番!!」
「えっ!?」
――あれって、ピート、タイガー、カオスの爺さん。それに……美神さん? 何でまた、そんな懐かしい格好を……
「君たちは合格だ! 二次試験会場に向かってくれ!」
――というか、この光景……なんか見覚えがあるんですけど?
「横島さん! やりましたね、合格ですよ!」
――いや、合格も何も意味が分からん。おいピート、一体何が……って、声が出ねぇ!?
「ほ、本当に……私、受かっちゃったの?」
――うん、とりあえず何もかも保留するとして………真下にいる“女の子”……誰?
心を一つに‐プロローグ‐
著.カレーパン
(と、とりあえず、状況を確認せねば……)
初めは混乱の極みであった彼、横島忠夫はようやく冷静に事態を飲み込めてきた。
(過去、なんだろうな。しかも、俺の過去とは別の……)
彼が見る光景には、彼からすれば懐かしい格好をした面子がいた。所属している事務所の上司、高校から続いている親友の少しばかり若い姿。といっても、大して見た目が変わらぬ者ばかりなので参考にならないが。
(で、何故かは分からないが、俺バンダナになっているし……)
今の忠夫は、かつて彼自身の霊能力を引き出す要素となった心眼の姿になっていた。周りの様子が見えるが、目の前にいる上司の様子を見る限りではバンダナの瞳は閉じられているようである。声を出すには瞳が開かれないと無理なようだが、今は別段喋る必要が無いため沈黙している。
そして、何よりもこの世界が忠夫の知る過去とは違う要素が、
(バンダナ着けているのが俺じゃないし。それどころか、女の子だし!)
そう、今バンダナを着けているのが過去の自分でなく、まったく知らない女の子なのだ。だが、その苗字が“横島”だというのが、さらに事態をややこしくしている。
(一体、どうなってんだろうな?)
悩む忠夫をよそに、目の前ではチャイナドレスで変装した令子の話が続く。
「試合は特殊な結界の中で行われるの。戦いは原則的にルール無しのストリートファイト! ただし、結界の力で霊力を使わない攻撃は相手にダメージを与えられない」
「はぁ。でも美神さん、私が出来ることはヒーリングぐらいしかないんですけど……」
「大丈夫よ! 雪奈ちゃんがナンパする男を撃退する時のアレに霊力を乗せて、って分かってたの?」
「はい。だって普段から一緒にいますから雰囲気で分かりますし、声も同じですから」
それもそうねと額に手を当てる令子に、苦笑いをする女の子。
そんな二人を見つつ、忠夫は考えを巡らす。
(雪奈ちゃんか。前のとき、こんな子いなかったよな……………も、もしかして)
嫌な可能性が頭に巡り、出るはずの無い冷や汗が流れるような気がする。一瞬考えたそれは、初めの頃にチラッと浮んだものだが放棄していた。だが、人間一度考え出すと、止められないものである。
何処を見ても、過去の自分の姿は見当たらない。さらにバンダナを着けているのが知らない女の子で、その上苗字が“横島”ときた。こうなってくると、辿りついてしまう考え。
(女の……俺? い、いやあああああああぁぁぁぁ!!!!!)
それはもう絶叫した。本来聞こえない筈なのに令子と雪奈に聞こえるほどに。一応、二人には気のせいだと留めるほどの大きさであったが。
絶叫したくなるその気持ちも無理はなかろう。眼が覚めたら身体はバンダナになっているし、時間軸も過去。さらに自分が女の子となっていたら、誰でも戸惑いの声を上げたくなる。もっとも、忠夫の場合は自分が女装しているのを見られ恥ずかしがっているようなものであるが。
ちなみに雪奈は「おお! か、かわいい」と忠夫が言うほどの容姿だったりする。
(いや、一応可能性として留めておこう。まだ、分からない事もあるし)
とりあえず雪奈の事は保留する忠夫。彼女の事はよく分からないし、イレギュラーだから判断材料が少ない。それに、もしかしたら過去の自分は別の場所にいるかもしれないのだ。
「それじゃ、時間だから行きましょ」
「うう、緊張するなぁ」
「ま、頑張って」
頭悩ませる忠夫の事など全く知りえる事もなく、二人は会場へ向かっていった。
な、何でこんな事になったんだろう。眠っている力って言われても、私ヒーリングしか出来ないのに。あとお母さんから教わった男撃退術?ぐらいだけど、役に立つのかなぁ。
「小竜姫様も無茶言うよ〜」
「横島選手! 早くこちらへ」
「あっ、はい!」
慌てて行くと、中年のおじさんが二つのサイコロを振った。組み合わせはこの『ラプラスのダイス』というサイコロで決めるようだけど、できる事なら美神さんとあたりたい。そうすれば負けてもおかしくないし、無傷で帰れる。でも、小竜姫様の期待は破りたくないなぁ。
「はい、8番コートね」
「はい。ありがとうございます」
組み合わせの紙を受け取ると、そこには8の文字。美神さんは何番だろうと思ったけど、もう試合の開始時間のため探す時間もない。仕方ない、とりあえず美神さんが相手でありますようにと願っておく。苦しいときの神頼みって言うし。
でも、現実は非情のようです。
「嬢ちゃん、おぬしか!」
「カオスさん!!」
い、いきなり!? カオスさんて普段はあんなんだけど、一応『ヨーロッパの魔王』と呼ばれるほどの錬金術師だから強いよね。でも、年取ってるから隙をつけば何とかやれるかな。
「あれ、何でマリアが?」
さっきまで審判と何か話していたカオスさんだったけど、マリアを呼んでどうするのだろう。というより、何でカオスさんと一緒に立っているのでしょうか。
「行くぞ、マリア! 嬢ちゃんには飯の恩があるから、あまり傷つけぬようにな!」
「イエス・ドクター・カオス!!」
「ええっ!?」
ちょ、ちょっと、マリアが一緒なんてあり!? 言外にそう込めた視線を審判に向けるけど、返ってきたのは首が縦に振られたポーズ。つまり、問題なし。
「試合開始!!」
「いくぞ、嬢ちゃん!」
「ちょ、ちょっと待っ、きゃ!!」
突然のカオスさんの胸からの怪光線だったけど、ギリギリでかわせた。でもホッと息をつく暇も無く、マリアが腕を向けてきた。まさか……?
ドンッ!!
「や、やっぱり〜!!」
マリアの腕から放たれたアームが、高速で私に向かってくる。だけど、さっきのカオスさんの攻撃で体勢を崩れて避けられない。当たる、寸前で何かに阻まれるようにアームが止まった。すぐに引き寄せられるようにマリアの元へ戻っていく。
そういえば、結界の中では霊力を使わない攻撃はダメージを与えられないって美神さんが言っていた。それにカオスさんの様子だと、マリアに霊的オプションは搭載してないみたい。
「くらえ!!」
カオスさんの怪光線は直線にしか撃てないから、よく見ればなんとか避けれる。動体視力がいい自分を褒めたくなる。それに、どうやら連射ができない事も幸いだ。このまま反撃に転じようと思ったけど……
無理でした!!
よくよく考えれば、私も攻撃できる霊術がない。美神さんが霊力乗せてって言っていたけど、どうやればいいのか分からない。ヒーリングはいつの間にか出来ていたけど、そこから教わった記憶はない。それじゃこの試験、ど、どうしようもないのでは。
「くっ、意外に動きがよいな。マリア! 嬢ちゃんの動きを止めるのじゃっ!」
「イエス・ドクター・カオス!!」
どうしようかと思っていたら、マリアがロケットアームとは反対の腕から銃口が出てきた。
「って、マリア何でそんな物騒な、キャアァーーーー!!」
ドンドンドドドン!!
もはや、自分という壁があるのに背後に着弾している事に疑問を覚えている暇など無い。さすがに銃弾が飛んでくる中、平然と出来るほど私の肝っ玉は据わっていない。というか、普通に怖いです!!
「よーし、今じゃ!」
「えっ!?」
もう目の前にカオスさんの怪光線が迫っていた。しかも、体はさっきので完全に竦んでしまって動けない。期待に応えられなくてすみません。小竜姫様、美神さん。
キン!
「ぬっ?」
「………あれ?」
目前まで迫っていた怪光線が、光る何かに弾かれて消えてしまいました。今の何、と考えていたら誰かに手を掴まれた。そのまま腕を上げられて、
「勝負あり! 勝者、横島!」
「え?」
これには全員が唖然として、カオスさんなんかこけてます。あ、起きた。
「待たんかいっ!! どーいうことじゃっ!?」
「説明します! 物理的攻撃はダメージになりませんので原則的に何でもアリですが、ただいまの攻撃は…………銃刀法違反です!」
何故だろう。極当たり前の常識の筈なのに『そう言えばそんなのあったね』的な感覚だ。何だか、美神さん的思考になってきているような気がする。この前も暴力団の事件でエミさんに銃撃ったときも、組の人のせいにしようとしてたし。染まるってこういう事を言うのかなぁ。
何だか呆然としていたら会場に入ってきた警官隊にカオスさんは御用されて、マリアは押収されていった。
「うかつだったあぁ!!」
カオスさん。もしかしたらカツ丼くらい出してくれるかもしれないから、頑張ってください。ちなみに私は面会には行きません。銃は怖かったし、それを指示したのはカオスさんだし。
「でも、さっきの何だったんだろう?」
カオスさんの攻撃を防いだアレは。
(やっぱり違うな。俺の時とは……)
俺のときは、最後のカオスの爺さんの攻撃は発射されなかったのに。まぁ、あの時は必死にギブアップしようとして審判に近づいていたからな。うん、実に懐かしく泣ける。
(それにしても、間に合ってよかった。雪奈ちゃんの霊力の回路が開いていたのが幸いだったな)
あの時、ギリギリでサイキックソーサーを出せたのは本当にホッとした。もし、雪奈ちゃんの回路が未開発だったら顔に傷が出来ていたのかもしれん。カオスの爺さんは手加減していたようだけど、女性にとって顔は命だしなぁ。
「まさか、勝っちゃうとは思わなかった。あれを勝ちと言えるのかどうか、分からないけど」
(俺もそう思うよ。と言うか、ああいう勝ち負けでいいのか? 今更ながら疑問に思うぞ)
試合が終わった後は、大して何も言われていない。サイキックソーサーには、雪奈ちゃんとカオスの爺さんしか気付いていない。美神さんは試合中だし、小竜姫様は会場にはいなかったしな。それにカオスの爺さんは連行されたし、雪奈ちゃんも分かっていないようだから大丈夫だろう。
で、現在雪奈ちゃんは帰宅中だが、少し驚いた。
「今日は早く寝ようと。え〜と、鍵は……」
まさか、雪奈ちゃんもあのボロアパートに住んでいるとは思わなかった。まぁ、ここの家賃は安いし、学校からはそれほど離れていないと結構立地条件はよい。風呂は無いが、銭湯が近くにあるしな。
でもここまで同じだと、さすがに俺も認めざるを得ない。雪奈ちゃんは横島忠夫が、
「ただいま。さて夕食の準備……って、忘れてた。ただいま、忠夫お兄ちゃん」
女だった時の………何だって? 今、聞き捨てならない言葉が。
(って、おいおい。何だよ、これ!?)
雪奈ちゃんが挨拶したのは、写真たてに納められた少し古い写真。
写っているのは今より幼い雪奈ちゃん。うん、笑顔がよく似合って可愛いな。
問題はその隣に写っている人物。そいつは幼い雪奈ちゃんと同じぐらいの年齢で、その彼女に腕を組まれて恥ずかしがっているのかそっぽ向いている。でもって、どこか抜けてそうな顔付き。
というか、俺だった。
続く、のか?
あとがき(と言う名のいい訳
どうも初めまして、カレーパンと言います。
某投稿掲示板で書いてたりする私ですが、何やら詰まったので気分転換に書いてしまいました。
正直、やっちまったと思ってたりする今日この頃。
即行でオリキャラ。しかも横島の逆行。
横島の性格は十年後から来た未来横島の途中の、五年後ぐらいの性格?
女好きには変わらないが、一応原作と違い冷静なところもあります。
私見ですが、未来横島はシリアスでも霊術を普通に使っていたように見えました。
だから、この作品は煩悩無しでも霊力を引き出せるということになっています。
どのようなものかは、作中で語られる予定。
更新は不定期になるかもしれませんが勘弁してください orz
では、また。