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「家出少女(GS)」

ライフハウス (2007-07-25 04:55/2007-07-26 01:52)

ここは横島のアパート。
所せましと物が溢れかえり、ゴミというゴミが散らかり、共同風呂すらないという女性が見たら我先にと踵を返して逃げ出していくだろう、そんな圧倒的な男臭に満ちに満ちた現在の横島忠夫の住まいである。

まぁ、一人身のだらしない貧乏男の部屋なんてこんなものである。

おキヌちゃんあたりが頻繁に世話を焼かなければ1週間もしないうちに人外魔境と化すだろう。
横島本人からすれば、別に誰に迷惑をかけているわけでもないので気軽な独身ライフを満喫しているわけではあるが、こと異物が紛れ込めば話は別である。
ましてやそれが自分の本能の9割を占める煩悩を刺激する可憐な女性ならなおさらである。

いったい、何がどうしてこうなった?

深まるのはただただ疑問ばかりであるが、何故か何の断りもなしに横島の部屋に小竜姫が訪れたのである。


家出少女  作 ライフハウス


「・・・粗茶ですが。」

人一倍貧乏な横島にとって、お客様が来た時の秘蔵の一品なるもののようなブルジョワなものは当然無く、ちゃぶ台越しに腰掛ける小竜姫に差し出せれたものはスーパーの激安セールで叩き売りされていた3セット48円の麦茶パックで抽出されたまぎれもない粗茶である。

「お気遣いなく♪」

ニコリと笑顔を浮かべながら小竜姫は差し出された湯のみを両手で受け止った。
そして、そのまま湯のみを両手でゆっくりと淀みなく口元へ持っていく。
横島はそんな小竜姫の様子を食い入るように見つめていた。

なんかこんな小竜姫様もいいなぁ〜。
そりゃあ、いつものようにキリリッとした小竜姫様も凛としていてステキだけど、こんな優雅な振る舞いも絵になるよなぁ〜。

普段なら煩悩全開、お仕置き上等の横島であるが、降って沸いて出た突然のハプニングには自慢の煩悩回路もショート寸前らしく小竜姫といっしょにまったりモードに浸っているようだ。

「ちょっと薄味ですが、下界にもなかなかいいお茶がありますね。」

そういって無言の笑みで横島へと空の湯のみを差し出す小竜姫。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・おかわりっすか?」

コクンッとかわいらしく小竜姫は首を縦に振った。

トクトクトクトクッ

無言のまま横島は湯のみに麦茶を注ぐ。
それを相変わらずの笑顔のままで小竜姫は見つめていた。

ズズッ。

「・・・で、どうしてここに小竜姫様がいらっしゃるのでしょうか?」

麦茶を飲む小竜姫の姿を訝しげな眼で見つめながら横島はそう切り出した。
何を置いてもまずは理由を問うべきであろう。
コトリッと湯のみをちゃぶ台に置いて小竜姫は先ほどの笑みとは打って変わって横島に対して真剣な眼差しで見つめ返した。

「・・・そうですね、どこから話せばいいでしょうか?」

伏せ眼がちになり何やら神妙な雰囲気で重たい口を開く小竜姫。
いつもと違う何やらワケありぎみな小竜姫の様子に引きずられて横島もシリアスモードへと突入する。

「・・・」

「別に話したくないなら話さなくてもいいですよ、誰だって言いたくないことぐらいありますから。」

話づらい内容なのだろう。
なんとなくそう読み取った横島はなんとか場の空気を明るくしようといつもの気軽な口調でできるだけ陽気に振舞った。

「・・・ですが、これはきちんとお話しなければいけないことです。
何よりもお話しなければ横島さんには失礼ですから。」

「・・・小竜姫様。」

重たい話だ。
横島はそう悟った。
そして、何があってもきちんと受け止めようと横島は人知れず決意した。

「実は、私・・・。」

ゴクリッと横島はツバを飲み込んだ。

「家出してきちゃいました♪」

テヘッと真夏に咲くひまわりのようににこやかに小竜姫は笑った。

「へぇ、それはたいへ・・・って家出ぇーーー。」

横島は思わずたじろぎ、近所迷惑この上ない大声を叫びながら後ずさった。
その横島の様子を相変わらずニコニコと見つめる小竜姫は再び空になった湯のみを横島に差し出した。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・あっ、おかわりっすか?」

コクンッと本当にかわいらしく小竜姫は頷いた。


「「「「家出ぇ〜」」」」

いつもと変わらずにぎやかな美神事務所。
異常な事態にも関わらずしっかりとハモッているあたりチームワークもバッチリなようだ。
とりあえず単なる高校生に過ぎない横島にはどうしようもないことは明白なので小竜姫を連れ立って美神事務所を訪れた。
横島によって客間に通された小竜姫はソファに腰を落とし目の前にいる美神と向かい合った。
ちなみにちゃっかり横島の隣に座っていたりする。
美神はいつもの席で神すら見下す尊大な態度でどっしりとイスに腰掛けていた。
おキヌちゃんはお客様に出すいつものお茶を煎じるために奥へ入っている、立っているシロは横島の隣に座っていることが気に入らないのか小竜姫に対して敵意を剥き出しにしている。
もうひとつのソファに腰掛けているタマモはさすがに第一声で驚いたが、すぐに興味をなくしテーブルの上に置いてあるお菓子を頬張りながら手元にある雑誌をパラパラとめくっている。

「家出って、小竜姫、あんたまがりなりにも妙神山の管理人でしょ?
勝手にこんなことしていいの?」

厄介ごとはごめんだとばかりに少々口調を荒らげながら美神は小竜姫に切り出した。
事実、小竜姫がらみの依頼でいい思い出はあまりない。

「まぁ、ちょっと込み入った事情がありまして・・・。」

小竜姫はあまり歓迎されていないことを肌で感じた。
理由が理由だけに当たり前なことなのだが、やっぱりちょっとさみしい。

「言っておくけど、お金にならない依頼なら却下するからね。」

真っ先に釘を刺しておく美神。
例え神族と言えども金にならないのなら下手に出る必要はない。

「いえ、今回は美神さんではなく横島さんに依頼しようかと思いまして・・・。」

やや頬をピンクに染めながら小竜姫はちらりと横島の方へ眼を向けた。

「へっ、オレっすか?」

「横島君に?」

小竜姫の意外な発言に横島はちょっと驚いた。
さすがの美神もこれは予想外なことだ。
シロはさらに警戒心を強めた。

「実は私、今度お見合いすることになったんですよ・・。」

「「「「「お見合い〜!!」」」」」

再び事務所の心はひとつになった。


「なるほど、それで横島君なワケね。」

「はい。」

事情を要約するとこうだ。

神族にとって結婚とは人界以上にデリケートな問題である。
デタントによる神魔族のバランス調整や格の違いなども問題視されるので両者の合意だけではなかなか許されないことが多い。
竜神族の中ではそれなりに地位の高い小竜姫にとってもこれは避けては通れない問題であった。
今回小竜姫の見合い相手に選ばれたのは龍神界では竜神王の次に地位の高い竜族であった。
元々数が少ない竜族において地位の高い男性は競争率がとても高い。
ましてやそれが竜神族NO,2ならなおさらのことである。
そんな相手から小竜姫に結婚のオファーが打診されたのだ。
本来ならばこれはとても名誉なことである。
しかもあちら側はけっこうノリ気とのことらしい。
しかし、まだ結婚する気は更々ない小竜姫にとってはこれは大変厄介な問題であった。
何せ相手は竜神族NO,2なのである、安易に拒否はできないし拒否しては相手のメンツに関わることになる。
だが、拒否するに足る十分な理由がない。
そこで一計を案じた小竜姫が目を付けたのが横島である。
アシュタロスの謀反は神魔界がその存在を根底から揺るがされる大問題であった。
何しろ世界そのものをぶち壊そうとしたのである。
その大問題を解決するにあたって活躍したのが横島であった。
神魔族ともに大して役に立たなかったこともあって神魔界の間では横島の名は英雄扱いされていた。

もし自分がその横島と結婚する気であるということにしたならば・・・。

これはお見合いを拒否する理由としては十分になるのではないだろうか?
いくら竜神界NO,2といえども横島の名を出せばあきらめてくれるだろう。
何せ現代の英雄である。
横島ならば相手のメンツがつぶれるということもなかろう。
それに横島と小竜姫は顔見知りであり、まったくの他人というわけではない。
この事実は後付にしてはそれなりに説得力もでるだろう。
あとはあることないこと既成事実を積み重ねていけば自ずと向こうから折れてくれるに違いない。
というわけで、小竜姫は妙神山から家出して横島に助けを求めたのである。


「つまり、お見合いを断るために駆け落ちの真似事をしたってワケね。」

またベタなことを、と美神は小竜姫の行動をそう評した。

「はい、そうなりますね。」

小竜姫も特に異存がないようで、目の前に置かれたお茶を啜っている。
シロは完全に小竜姫を敵と見なしたようで毛を逆立ている。
真似事とはいえ気に入らないらしい。
タマモは口にこそ出さないが、とても不機嫌のようだ。
おキヌちゃんはお茶を出す時の手が震えていた。

「で、どうするの横島君?」

自分の一存では判断できないと思った美神は当事者である横島へと質問を振った。

「えっ、オレが決めるんすか?」

あまりにも突拍子のない依頼に現実感が湧かなかった横島は突然美神から決断を迫られてちょっとオタオタとしていた。

「あのねぇ、この依頼は私ではなく横島君に来たのよ。
あんたが決めるに決まってるでしょ。」

「はぁ、でも具体的に何したらいいんですか?」

いまいちピリッとしない横島に対して美神はちょっとイラついたが確かに横島の言う通り具体的な行動については言及されていなかった。
横島の質問も考えてみれば言わずもがななことである。
事務所全員の視線が小竜姫に集まった。

「あの、実は・・・。」

両手の人差し指を合わせ、モジモジとしながら小竜姫は小声でしゃべりだした。
美神は嫌な予感がした。

「・・当分の間、横島さんといっしょに暮らせないでしょうか?」

「ダメでござるーーー。」

真っ先に止めたのはシロだった。

「結婚前の妙齢の男女が同じ屋根の下で暮らすなど言語道断!」

シロはすばやく横島と小竜姫が座るソファに回り込み、身を乗り出して憤慨した。

「確かにシロの言う通りね、大体横島といっしょに暮らすなんて檻の中にいる飢えた野獣に霜降り牛を投げ込むようなものよ。」

淡々とした口調でシロに同意したのはタマモだった。
ジト眼で小竜姫を睨みつけている。

「そうですよ。」

おキヌちゃんもはっきりとした口調でそう言った。
私はエサですか?と思わず小竜姫は口にしそうになったが、とりあえず反発は無視して横島の方へ目を向ける。
周りの反応よりも横島自身の応えの方がはるかに気になる。
まぁ、断られるなんてハナから思っていなかったが・・・。
当の横島だが、未だに頭が現実に追いついていないのかポカンとマヌケな顔をしていた。

「さっさと決めなさいよ横島君。」

「ちょっと美神さん!!」

決断を促す美神に対しておキヌちゃんは批難の声をあげる。

「止めるでござるよ美神殿!」

つられてシロも声を荒げる。
タマモは口には出さないが視線だけで人も殺せそうなほど冷たい眼で美神を見ていた。

「あんた達ねぇ〜。
よく考えてみなさいよ、別に横島君とどうこうなるわけじゃないでしょ?
まがりなりにも小竜姫は神族なんだからとっても強いし、横島君なんかにどうにかできるわけないわ。
それに同じ女として納得できない相手と結婚させられるなんて断固反対するべきよ。」

所々に失礼な発言も見受けられるが珍しく常識に沿った発言をする美神。

「確かにそうでござるが・・・。」

美神の言うことは理解できるがシロの感情は納得がいかなかった。

「そういうことなら何も先生でなくてもいいのではござらんか?」

そう切り返すシロ。
そもそも横島と小竜姫の同居など許せるものではない。
どうでござるか?と言わんばかりにシロは小竜姫に無言で訴えた。

「私の知り合いでお見合い相手の方と肩を並べても遜色のない方は横島さんしかいらっしゃらないんですよ。
まったくのあかの他人に頼むのも変ですし・・・。」

申し訳なさそうに小竜姫は語った。

「ほら、ちゃっちゃと決めなさい。」

美神はさっさと厄介ごとは片付けたいとばかりに横島に決断を迫った。
横島は考える。
確かに突拍子もない依頼だが、よくよく考えてみればこれは実においしいことではなかろうか?
何しろ公然と美少女と同居できるのである。
断る理由もないわけだし、あわよくば・・・なんてこともありえるのだ。
そう結論付けた横島の反応は早かった。

「不肖この横島、全力でこの任務に当たってみせます!!
見事小竜姫様の恋人役を勤めさせていただきます!!!!」

ガバっと小竜姫の両手を握り締め、全力で宣言する横島。

「ハイ♪こちらこそよろしくお願いします。」

小竜姫はうれしそうに笑みを浮かべた。
横島に手を握られることも特に嫌そうではないどころか、どこか望んでいる様に見えなくもない。
その様子を三人のうら若き乙女達が恨めしそうに見つめていた。

「先生〜(涙)」

「横島さん・・・。」

「・・・バカ。」

三者三様でそれぞれ納得してない様子である。
その様子を微笑ましく見つめる美神。
すでに横島への思いは過去のモノと割り切っている。
ちょっとさみしいものはあるけどあの事件以来どこか恋愛に臆病になっているこの弟代わりにはやっぱり幸せになってほしいのだ。
この3人の中の誰かと横島が結ばれるならそれに越したことはないが、どうも横島の鈍感さも相まってかうまくいってない。
未だにそうとわかるリアクションを誰も起こさない現在のぬるま湯生活には今回のことはイイ刺激になるだろう。
そんなことを表情には出さずに美神は考えていた。

「フフッ、おもしろくなってきたわね。」

ただ単にこの状況を楽しみたいだけかもしれない。


こうして始まった横島と小竜姫の同居生活だったのだが、意外にも大したトラブルもなく順調に進んでいった。
元々、永い間妙神山を1人で管理人をしていた小竜姫は家事全般が得意であった。
貧乏学生である横島にとってその事実は大変ありがたいことで、私生活のライフスタイルは格段の向上を見せた。
なんだかんだで自分の面倒は見てくれるし、しがないカップラーメンなんかよりも遥かにおいしい食事にありつけるのだ。

傍から観ればこれは同棲生活なのではないか?

横島はそんなことを考えていたが表面上は気付かないふりをして心の奥深くにそっとしまいこんでいた。
なんといっても憧れの女神様との生活である。
ヘタなことをしてこの生活が壊れてしまうことを考えればある程度の我慢などささいなことである。
・・・とは言いつつも、時々風呂(美神事務所の)を覗いてしまう(そのたびに撃退されているが・・)辺りが横島の横島たる由縁であろう。

「・・・粗茶ですが。」

「お気遣いなく♪」

毎夕食の後に横島が小竜姫に麦茶をつぐことが日課になっていた。
どうやら小竜姫は初日に味わった麦茶がすっかり気に入ってしまったらしく、横島は横島で小竜姫が気に入っているならば、と別に文句もないのだが、この麦茶の値段だけは墓の中まで持っていこうと心ひそかに決意していたりする。

「・・・ふう。」

艶っぽく小竜姫は一息ついた。
その様子に横島は人知れず頬を赤らめていた。

「風流ですね。」

「そうですね。」

初々しい新婚夫婦ではなく初老の夫婦みたいな会話である。
実にまったりしている。

「そういえば、妙神山の方は大丈夫なんですか?」

ふと生じた横島の疑問であった。
もう同居生活を始めてそろそろ2週間になる。
何かしらのアクションがあってもおかしくはない。

「最近は修行者の方も少なくなっていますので私がいなくても大した問題にはなりませんよ。」

「はぁ、そんなものですか・・。」

「さすがにこのまま一生というとまずいですけどね・・。」

「まぁ、それはまずいですよね・・。」

「でも、横島さんさえよければ私は構いませんけどね。」

「はぁ、・・・って、えっ!!」

「フフフッ、冗談です。」

コロコロと笑う小竜姫に横島は思わずドキリッと胸の鼓動が高まるのを感じた。
あわよくば・・・という思いがあることは否定しないが、さすがに小竜姫の発言は心臓に悪い。

「はぁ、冗談ですか・・。」

「そうです、冗談です。」

いたずらが成功した子供のように笑う小竜姫を見てちょっとだけ残念だと思ったのは秘密である。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・おかわりですか?」

コクンッと幼い少女のようなかわいいしぐさで小竜姫は頷いた。


三日月が夜の闇を照らす。
身を切るようなという形容詞がつくほどではないが、何か上に一枚余分に着ないと少々肌寒い夜であった。
立ち並ぶオフィス街の間をテクテクと歩く二組の影がある。

横島と小竜姫。

2人が立ち止まったのはやや寂れた感のある中規模のビルであった。

「ここですね。」

横島の方へ振り向いた小竜姫は一応確認を求める。
横島は無言で頷いた。
そして申し合わせたように2人はビルの中へと入っていった。


元々今夜は別件の大規模な除霊の依頼が入っていた。
久々の大金のチャンスとあって、ここしばらく小口の依頼しかこなしていなかった美神は天は我が意を得た、と言わんばかりに大いに張り切っていた。
しかし、昨晩突然の依頼が美神事務所に舞い込んだ。
何でもその会社の事務所が悪霊に占拠されて仕事がままならないので早急に退治して欲しいとのことであった。
美神は始めはこの依頼を断る気でいた。
何しろ大金がかかった仕事が目の前に控えているのである。
とてもじゃないが失敗するわけにはいかない。
念には念を入れて事を運んでいきたい、余計なことに気を取られている時間などないのだ。
そう考えて断りの電話を入れようとした美神であったが仕事内容が書かれている書類の隅に思わず眼が奪われた。
そして美神の頭脳コンピューターはスパコンも真っ青な勢いなスピードで計算していく。

何とかなりそうね・・・。

美神は電話を取り、仕事を受諾する旨を依頼主に伝えた。
こうして一夜の間に2件の仕事を請け負うことになった。
そこで美神は事務所のメンバーを二組に分けた。
元々依頼があった方へは美神、おキヌ、シロ、タマモの4人で、もう片方は横島単独であったが一応保険として小竜姫も同行してもらうことにした。
この決定にはもちろん事務所のメンバーは不満タラタラであったが、元々の依頼の仕事は悪霊軍団が相手なのでシロとタマモの嗅覚とおキヌのネクロマンサーの能力が不可欠であった。
横島はバックアップ要員だったのでもう片方へとまわされたのだ。
仕事の分担の最適化と横島の修行も込めて、と美神はメンバーを必死で説得した、表情は修羅のようではあったが・・。

フフッ、今夜も大もうけね。

不機嫌オーラがバリバリと出ている3人娘を尻目に、美神は腹の奥底から込み上げてくる笑を止めるのに必死であった。
美神が手にしている先程依頼された仕事の書類には内容にしては法外な成功料が記載されていた。


「この部屋ですね。」

小竜姫と横島はある部屋の前で立ち止まった。
さすがの横島も普段のおちゃらけとはうって変わって表情を引き締めている。
このビルの構造は昼間の内に調べてあったのでここまではスムーズに辿り着くことができた。
昼の内に除霊することも可能だったが、このビルはテナントビルであったので管理人からは他の企業に迷惑がかかるかもという理由から除霊は夜に行なわれることになった。
念のためエレベーターは使わず非常階段を登り、逃げ道になりそうな通路には破魔封のお札を貼っておいた、もちろん気付かれないために霊力は最小限に抑えている。

「どうしますか?」

小竜姫は横島に尋ねる。
単純な霊力という意味では小竜姫はそんじょそこらの悪霊などに遅れをとることなどないが、いかんせん除霊となるとまったくのシロウトである。
これまでも幾度か(ロハで)美神の除霊作業を手伝ったことはあったが、横島と二人でやるとなると初めてである。

「奇襲で勝負を決めます。」

横島はそう小竜姫に告げた。
GSの資格こそ得てはいるものの、除霊や妖怪についての知識となると半人前もいいとこである。
いつもならその辺りのことについては美神に頼っていたが、今夜の除霊は彼女がいない。
すべて自分の判断で行動しなければならないのだ。
その事実が横島の心を曇らせる。
美神は自分を信頼してこの作業をまかせてくれたのだからその期待には是が非でも応えたい。
万が一にも失敗すれば自分だけでなく美神事務所の名にも泥を塗ることになる。
いつにないプレッシャーと責任が横島の心に重く圧し掛かっていた。

美神が金に眼がくらんでこの除霊を横島に押し付けたと知ったら彼は何を思うだろうか?

「奇襲ですか?」

小竜姫は横島から発せられた作戦に口を挟んだ。

「はい。」

横島は小さくつぶやく。
そもそも横島はその場その場の状況に対応して力を発揮するタイプである。
罠を張ったり、策略を使ったりすることは彼の得意とするところではない。
このことは少なからず小竜姫にも言えることである。
悪霊を倒すことについては問題はないとは思うが、悪霊に逃げられることはあるかもしれない。
そのため、速攻の初太刀で仕留めてしまおうということである。

要は力押しである。

「わかりました、それでは私が超加速を使って一撃で仕留めて見せます。
横島さんは援護をお願いします。」

やることは決まったとばかりに小竜姫は決意を固める。
横島は慌ててその提案を拒んだ。

「ちょっ・・・、いくら小竜姫様でもそんな危険な目に遭わせるわけにはいきませんよ。
オレが前衛にでます。」

横島はグイッと強引に身を小竜姫の前に押し出してドアのノブに手をかけた。

「ダメですよ。
大体私の方が横島さんより強いんですよ。
それに師匠の言うことは聞いておくものです。」

横島の肩を掴んで押しとどめようとする小竜姫。
横島は肩にかかる力を通して小竜姫が自分のことを心配してくれていることがなんとなく伝わり、少しだけ喜びを感じた。
それでも自分が行こうと決めている横島は振り返り小竜姫を見つめる。
少しだけプクッと頬を膨らませて怒りを表に出す小竜姫に、こんな小竜姫様もカワイイな、と状況に似使わない如何わしいことを横島は考えてたがすぐに気を取り直して真剣な表情になる。

「大丈夫です、オレだってちょっとは強くなってますから。
それに女の人を前に出して自分は後ろからなんてかっこ悪いじゃないですか?
男の意地ってやつですよ。」

少しだけおどけた口調で横島は小竜姫にやさしく微笑んだ。
武神である小竜姫は横島の言うこともわからないでもない。
何よりも自分を危険な立場に置きたくないと言ってくれているのだ、小竜姫にとってうれしくないはずがない。

「・・・ですが。」

納得したくない小竜姫はなおも横島に食い下がろうとする。

「オレのことを心配してくれるのうれしいですけど、やっぱりこれはオレの役目だと思います。
お言葉を返すようですけど、弟子を信じることも師匠の仕事だと思いますよ。」

そう言って横島は自分の肩を捕らえている小竜姫の手を掴んだ。
小竜姫の手を自分の肩から外させて、もう一度ドアの方へ振り返る。

「援護お願いします。」

低くしっかりと力が込められた声で横島は背中越しの小竜姫に語りかけた。
小竜姫はその声に少しだけ頬を桜色に染めるとともに以前にはなかった頼もしさも感じた。
弟子の成長を喜ばない師匠などいない。

「行きます。」

ドンッとドアを蹴飛ばし、横島は飛び出した。

横島はすぐさまストックしてあった文殊と取り出し意思を込める。
伝える文字は

『加』『速』

目の前にいる悪霊に集中しその強さを確かめる。
感じる霊力は確かに強力だが、自分にどうにかできないほどではない。
後は悪霊との距離をつめて右手の『栄光の手』をぶち込むだけだ。

「くらえっ!!」

それは一瞬の出来事だった。
小竜姫が気付いた時には、横島の右手から発せられた霊波刀は悪霊の中心を貫いていた。
悲鳴のような呻き声を叫びながら悪霊はその場に崩れ去り姿を消した。

「・・・ふう。」

安堵の息をつき横島はその場にペタンと座り込んだ。

「大丈夫ですか!」

足早に小竜姫が横島の下へと駆け寄る。

「いえ、なんともありませんよ。
ただちょっと気が抜けただけですから。」

心配そうに自分を見つめる小竜姫に対して横島は取り繕うような弱弱しい笑みを浮かべた。
問題なく除霊を終わらせてホッとしたようだ。

「・・それにしても見事でしたよ。
瞬きもする暇もなく終わらせましたからね。」

とりあえずケガが見受けられないことに安心した小竜姫はそう言って横島を褒め称えた。
ハハッと横島は力なく笑った。

「肩貸しましょうか?」

小竜姫は座り込んでいる横島の顔を背後から覗きこんで小さくつぶやいた。

「いやぁ、そこまで甘えるわけにはいきませんよ。
それにもう自分で立てますし・・。」

よっこらせっ、と横島はゆっくりと立ち上がった。
その時、ふいに背後から空気を切り裂くような衝撃音が横島の耳に響いた。

「横島さん!危ない!!」

そう叫んだ小竜姫は瞬間的に横島の身体を両手で突き飛ばした。
壁に叩きつけられる横島。
その時の衝撃と痛みで一瞬だけ横島の動きは止まったが、感覚だけは残されていた。
そしてせまい部屋に響き渡る爆音。

「小竜姫様!!」

小規模の爆発が起こった後に煙の渦が立ち昇る。
横島は自分の身体を強引に引き起こし爆発の中心部へと駆け寄る。
そこには体中のいたる所に火傷の跡が残り地面に伏している小竜姫がいた。
横島はすぐさま小竜姫の身体を抱きかかえ『癒』の文殊で手当てをする。

「小竜姫様!大丈夫ですか!!しっかりしてください!!!」

横島は小竜姫の身体を揺さぶりながら泣きそうな声で叫んだ。
文殊の効果で小竜姫の身体から傷跡が消えていく。
「んっ」と瞳は閉じられているが横島の声に反応した。

「・・よ・こ・・し・・・ま・・・・さん?」

小竜姫はうっすらと両目を開いた。
その様子に少しだけ安堵する横島。

「って、横島さんだいじょ・・!また来ます!!」

再び空気を切り裂くような衝撃音が鳴り響く。
横島は咄嗟にポケットの中にある文殊を一つ取り出し衝撃音のする方向へと無造作に投げつけた。

『防』

二人を守るように防御結界が展開され衝撃波を防ぐ。

「ちっ、もう一匹いやがったか。」

小竜姫を抱きかかえながら横島は苛立ちを隠せずに吐き捨てる。
横島は衝撃波が来る方向へと目を向けたが、結界と衝撃波との衝突による煙で敵の姿が見えない。

「小竜姫様はここに居てください。
すぐに片付けてきますから。」

「ちょっと、待ってくだ・・」

小竜姫の反論も最後まで聞かないまま横島は小竜姫をゆっくりとその場に降ろし身体を反転させて煙の方向へと地面を蹴った。

「これでケリをつけてやる。」

四方を煙で囲まれた横島は人知れずそうつぶやきポケットから二つの文殊を取り出し発動させる。

『加』『速』

一瞬で煙の闇を突破し視界が拡がる。
目の前には先程と同じ形の悪霊がこちらを睨みつけるようにして立っていた。

「さっさと極楽へ行け!!」

横島は栄光の手で悪霊を切り裂いた。
悲鳴のような呻き声を叫びながら悪霊はその場に崩れ落ち跡形も無く消えた。
横島はすぐさま臨戦態勢を整える。
まだ他にも敵はいるかもしれない。
しばらく霊波を探知しながら辺りを見回してみる。

「・・・・」

気配は感じられない。
どうやら敵もさっきのやつで店じまいのようだ。

「横島さ〜ん。」

煙が晴れ、小竜姫が横島が方へと駆け寄ってくる。
大したケガも無く無事なようだ。
横島はその姿を確認するとようやく心の底からの安堵の笑みを浮かべた。


「・・・粗茶ですが。」

「お気遣いなく♪」

ここは横島のアパート。
二人は除霊を終えてひとまず自宅へと戻った。
美神は明日まで帰ってこないので報告は明日でいいだろう。
ひとまずお茶を飲み落ち着く二人。

「・・・ふう。
今日はお疲れ様でした。」

「いやぁ、あれだけかっこつけたわりには小竜姫様を危険な目に遭わせて・・・
なんか情けないっすよ。」

「もういいじゃないですか、こうして私は無事だったわけだし。」

「・・・そうですけど。」

どこか納得のいかない表情で横島は目を伏せる。
かなり落ち込んでいるようだ。
そんな横島に小竜姫はゆっくりと近づき身を寄せるようにしてそっと横島の頬に手を差し伸べる。

「元気出してください横島さん。
誰でも失敗はありますよ、結果よければすべて良し♪、ですよ。」

小竜姫のやさしい声に横島は顔を上げ差し伸ばされた手にそっと触れる。
頬に触れられた温かい体温が横島の心をわずかながら癒す。

「ありがとうございます小竜姫様。」

面と向かって礼を述べる横島。
その時横島の目に小竜姫から差し伸べられた腕に見たことの無い傷跡が写る。

「あれ?小竜姫様、その腕の傷・・・」

「あっ、これですか?
なんか気付かないうちに出来てたみたいで・・。」

「まさか、今日の除霊で・・・。」

そう言って頭を下げ再度落ち込む横島。

「大丈夫です、こんな傷くらい大したことないですよ。」

「・・・・」

「それに横島さんは私を守ってくれたじゃないですか。」

「・・・」

「とてもうれしかったんですよ、私。
男の人に守られたことなんてほとんどありませんでしたから・・。」

「えっ・・。」

横島は顔を上げ驚いた表情で小竜姫を見つめた。

「私は武神ですから周りから戦うことは当然と思われているんです。
一応女の子なのにひどい話ですよね。」

あどけない女子高生みたいな軽い口調でポロリと本音を口にする小竜姫。
ちょっとあっけに取られた横島を尻目にクスリと笑みを浮かべた。

「今日はとてもかっこよかったですよ、横島さん。」

慈愛に満ちた表情で小竜姫は微笑んだ。

「小竜姫様・・オレ・・・オレ・・・。」

「・・・」

ゆっくりと紡ぎだされる横島の声を真剣に耳を傾ける小竜姫。

「あの爆発があった時本当に怖かったんです。
また失うんじゃないかと・・・。
またあの時みたいに繰り返してしまうんじゃないかと・・・。」

「・・・」

「もうイヤなんですよ、大切な人を失うなんて・・。」


それは横島にとってのトラウマ。


それは横島にとっては忘れらない悲劇。


それは横島にとっては犯されざる決意。


横島の瞳からは涙が溢れ出していた。
そんな横島の様子を見ていた小竜姫はそっと横島を抱きしめる。

「・・・小竜姫様?」

ふいに抱きしめられた横島は涙混じりに震えていた。

「大丈夫です、私は死にませんよ。
あなたを悲しませないためにも、私は絶対に死にません、死ねません。」

そう言って小竜姫は横島の背中に回す腕の力を強めた。


横島が悲しまないように・・・。


横島を悲しませないために・・・。


「小竜姫様・・。」

横島も小竜姫の背中へと手を回しギュッと抱きしめる。


大切な存在をかみしめるように・・・。


この温もりを失わないために・・・。


「オレ・・オレ・・小竜姫様のこと好きです。
オレにとって小竜姫様は絶対に失いたくない大切な人です。」

横島は震える声で自らの思いの枷を解き放った。

「ハイ♪その言葉をずっと待ってました。
私も横島さんのこと好きです。」

横島の涙混じりの告白にうれしそうに応える小竜姫。
横島はそっと小竜姫の身体を離し、その手を小竜姫の肩に添える。
小竜姫の潤んだ瞳がひどく官能的に横島には見える。

まるで本当の女神様のようだ・・・。


「小竜姫様・・・。」

「横島さん・・・。」


もはや二人の間に言葉はいらなかった。

三日月の照らすやさしい夜空の下でふたつの影がひとつに重なった・・・。


・・・・・


・・・・


・・・


・・



ニヤリッ

ふとそばには目薬と特殊メイク用のファンデーションが転がっていた。


3ヵ月後・・・


「「「「妊娠〜」」」」

相変わらず騒がしい美神事務所。

その日は血の雨が降ったそうな・・・。


ーー妙神山ーー

「そういやぁ、小竜姫がちょっと下界に旅行に行ってくると言ってけっこう経つんじゃが、あやつは何をしておるんじゃ?」

ピコピコとコントローラーを動かしながらハヌマンは隣にいるパピリオに尋ねた。

「知らないでちゅ。
旅行に出かける前に何か色々と調べてたみたいでちゅけど・・。」

パピリオもハヌマンに負けじとピコピコとコントローラーを動かしている。
対戦型格闘ゲームに興じているらしい。

「何を調べておったんじゃ。」

1PWINと画面に大きく表示された。
どうやらハヌマンの勝利のようだ。

「何を調べてるかはわからないでちゅけど、小竜姫の部屋にこんなものがありまちた。」

そう言ってパピリオはハヌマンに床に転がっている雑誌の束のごそごそと手にとって見せた。
それは俗に言う週刊誌と呼ばれるものだった。

「あやつ・・・こんなものを読んでおったのか・・。」

ハヌマンは自分のことははるか宇宙の彼方へと持ち上げてそんなことをつぶやいた。
手に取った週刊誌をペラペラとめくってみる。
そこには

『男を落とす方法決定版!!』

『ツンデレなんてもう時代遅れ!!』

『女のウソは許される!!』

『ワケ有り家出少女に男は(色々な意味で)弱い!!』

『既成事実を重ねろ!!』

『傷ついた女に男はやさしい!!嘘でも傷つけ!!』

『妊娠すれば勝ったも同然!!』

と書かれていた。


「さっきは負けたけど次は負けないでちゅよ!!」

何やら決意を秘めた表情でパピリオはリベンジを開始する。

「ふん、未熟者めが!!オタク暦(加速空間内にて)300年のワシにかなうと思っておるのか?
思い上がりも大概にせい!」

とても神様が言うセリフとは思えないことを堂々と宣言するハヌマン。

「うるさいでちゅ、経験の多さだけが強さの証じゃないでちゅ。
大事なのはゲームに対する愛でちゅ。」

わけのわからない独自の理論を展開するパピリオ。
どうでもいいが、こんなことで妙神山は大丈夫なのだろうか?

「ふん、かかってこいや!!」

「望むところでちゅ!!」

どうやら第2ラウンドが始まったようだ。


ー終ー


あとがき

何やらヤバイネタが炸裂しておりますが、言いたいことはただひとつ

小竜姫だってやればできる娘です!!!!


まぁ、ヘッポコ小竜姫もかわいいですけど・・(ボソッ)

以前にもちょこっと短編を投稿しましたが覚えていらっしゃる方はいらっしゃるでしょうか?

その時にレスしていただいた方々、この場を借りてお礼申し上げます。

ありがとうございました。

ではでは・・。


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