7月7日 七夕の日
ある山の麓に多くのオカルト関係者がいた。皆、眼前にある神社の鳥居を潜る事無く、そこにいる。
そして、美神事務所ご一行もその集団にいた。位置的に丁度真ん中辺りにだ。
横島はいつも通り背中に大きなバックを背負っている。
「美神さん。この人だかりは何っすか?」
「ええ。ほら、前に厄珍の地図で騒動が有ったでしょう?それと似たようなモノと思えばいいわ」
「ああ。あれっすか」
横島がふと美神にそう聞いた。美神の説明に横島は当時の事を思い出し、手をポンっと叩いた。
「何か有ったのでござるか?」
「ええ。あの時は丁度新年になった頃に、鳥居が異界の門になっていたの。
で、千年に一度だけ秘宝を授けるって話だったのよ」
「へ~そうなんでござるか」
「で、それは本当だったの?」
シロとタマモだけが何が有ったのか知らない為、置いてけぼりをくらう。
気まずく感じたのかシロはそう聞いた。問いにおキヌが答える。
シロはあまり興味がなさそうだがタマモは少しだけ有った様だ。
「秘宝じゃなくて占い。ヒミコ様の占いだったけど・・・はっきり言って微妙ね」
「ふ~ん」
「今回もガセじゃあないんすか?」
「私もそう思うんだけどね。一応という事でね」
美神がタマモにそう言った。タマモも興味が失せた様だ。
横島はだるそうにそう美神に言う。どうでも良さそうな顔をしている。
美神は美神であまり乗り気ではない様だ。
「それが、そうじゃないんだ」
「「「西条(さん)?」」」
「文献によると・・・ある女性が願い書いた短冊を出現した異界の門を潜り、
先にあった笹の頂上につけた結果、叶ったそうだよ。
そして、願ったのは・・・亡くなった人との再会だそうだ」
「「「!!!」」」
「「?」」
何時の間にかいた西条。西条の言った事に美神、おキヌ、横島は固まった。
何故固まったのか分からないシロとタマモは不思議そうに西条と固まった三人を交互に見る。
「・・・西条。短冊、有るか?」
「「せ、先生(横島)?」」
横島の雰囲気が変わっていた。
自責、悲壮、憎しみが鬩ぎ合いその中でほんの少しだけ優しさと喜びが有る。
横島の双眸、気配は修羅か羅刹を思わせる。目的には手段を選ばないそれを。
横島の変貌にシロとタマモは信じられないモノを見る様な目で横島を見る。
西条は何も言わず、短冊を渡す。横島が書いたのは『ルシオラに会いたい』
(しかた・・・ないですよね・・・・・・でも・・・)
(仕方ないとは思うわ・・・でもね・・・)
((それでも諦められないんですよ(のよね)))
おキヌと美神は内心決意する。同じような事を思っているとは知らないだろうが。
(思い出になった人には勝てません。美化されますから・・・でも、生きている人なら・・・)
(美神家の女は負けるワケにはいかないのよ)
少し、積極的になったおキヌと、意地っ張りな美神はそう思いながら鳥居を見た。鳥居が山全体が歪み始める。
山が消え、出現したのは富士山並に大きな霊峰と、その頂点に聳え立つ空を貫くようなほど巨大な笹だった。
そして、それはスタートの合図となる。
ドガアアアアアアアン
「「「「横島(さん)(先生)!?」」」」
スタートの合図は、爆発が知らせた。横島が先方に向かって投げた【爆】の文珠が夜空を彩る。
横島の突然な暴挙に美神達はこの爆発の犯人の名を叫んだ。
だが、横島は既に走り出している。リタイアした者達を踏みながら。
因みに背負っていた荷物は邪魔にならない様置かれている。
「っ―――行くわよ!」
「はい!」
「やけに美神殿とおキヌ殿は張り切っているでござるな・・・
先生にいたってはあのような暴挙に・・・どうなっているのでござるか?」
「・・・さあ、ね」
美神とおキヌも横島同様リタイア組みを足場に走り出す。
シロは、不安を込めた一言でそう洩らし、タマモは疾走する横島の背を見ながらそう呟いた。
「え~ん!令子ちゃんどこ~~~?!」
最後尾らへんで、六道冥子の泣き声と共に暴走する彼女の式神達。
吹き飛ばされる哀れな参加者を背にし、西条は一人タバコに火をつける。
「これで吹っ切れれば良いが・・・さて、始末書を書かないとな」
西条は紫煙を吐きながらそう呟き、帰っていく。その後ろ姿は奇妙なほど格好良かった。
背後から聞こえる悲鳴や破壊音さえなかったらの話だが。
「うお!?」
「い、行き成り何――――――ぐへ!」
横島の前を行く、爆の文珠から生き残った彼等はサイキックソーサーや霊波刀の前に沈む。
ただ、否殺傷モードなのか鈍い音をたてる。
「ピート~~~!」
「横島さん!助けてーーー!」
木の陰に連行されるピート。連行するのは小笠原エミ。横島は見なかった事にしようとした。
「無視しないでくださ~い!」
情けない声を出しながらピートはダンピールフラッシュで牽制し、横島の走りを止めた。
横島は邪魔された怒りを隠しながら二人に近づく。
「・・・何なわけ?」
「ピート。おまえはエミさんの事が好き・・・エミさんの事が好き・・・・・・・・・」
「!!!」
「僕は・・・エミさんの、事が好き・・・」
横島にエミは睨みつける。だが、横島の行動に目を見開いた。
横島の右手に光る二つの珠【暗示】の文字の込められた文珠。
「そうだ。おまえはエミさんの事が好き。エミさんの思いに答えなければならない」
「エミさんの思いに答えなければならない・・・」
「エミさんは・・・おまえとの子供が欲しい」
「!!?」
横島の暗示はエスカレートする。横島の言った事にエミは不意に顔を朱に染める。
止め様と思えば止めれるのだが止めない。
「僕との・・・エミさん。こんな所じゃあ何なので行きますよ」
「え、ええ」
「じゃあ横島さん。これで」
「ああ(勿体ねー気がするけど、ええ加減カタを着けろや)」
暗示が終了したのか、ピートはエミを抱きかかえながらそう言い残し、エミと共に飛んでいった。
横島そう短く返しながら再び走る突っ走る。エミは一連の行動に付いて行けないのかなすがままだ。
だがふと、幾ら走っても頂上に着かない事に横島は気付いた。
そして、知っている霊気を感じる。
再び【爆】の文珠を使う。爆炎と同時に叫び声があがった。デカイ男のローストも出来上がる。
「タイガーの丸焼き一丁あがり」
そう言い残し、再び山頂を目指す。その光景を見た者がいた。美神達だ。
「シロ!全力で行きなさい!」
「何が何だか分からんでござるが・・・行くでござる!」
美神の声に少々戸惑いながらもシロは全力を出す。
シロの、人狼の全力。それはすぐさま横島に追いつくはずのものだった。
(シロか・・・それじゃあコイツを使う)
「―――――――――!?これは!?」
だが追いつけない。なぜなら、横島は【縛】の文珠を地面に転がした為だ。
シロが文珠に近づいた瞬間文珠は発動し、シロの動きを止めたのだった。
そして横島は【高速】の文珠を使う。
横島の姿は一瞬にして遠ざかり、その速度は人間の限界を超えたモノだった。
「!?なんなのでござるか!?先生のあのスピードは!拙者の全力より僅かに速いでござるよ!」
「っ!文珠1つじゃないわね!あれは多分二つ使っているわ!」
「それじゃあ追いつけないじゃない?一番速いのシロだし」
シロの驚愕に染まった声。美神は【解】の文珠でシロの戒めを解きながら推論をたてる。
現状からタマモは横島に追いつけないと判断した。
「まだ前にいる人達が妨害すれば追いつける可能性は有ります!」
「そういう事よ!シロ!この【速】の文珠で全力で追いかけなさい!」
「承知!」
意外にもそう言ったのはおキヌだった。美神はシロに文珠を渡しながらそう言う。
シロは人狼のプライドからか、文珠を発動させ一気に追いかける。笹の根元までもうすぐだ。
「先生~~~!!!追いついたでござるよ!って!?」
笹の根元でシロは横島に追いつけた。だが、シロの手が横島に触れる事は無かった。
横島が文珠に【飛翔】と込め、飛んだからだ。
シロはポカーンと矢の様に飛んで行き、小さくなっていく横島を見送る。
「うお!?今のはなんじゃ!?」
「霊波・から・横島・さん・と・断定」
上空では下から勢い良く上がって行く横島に、マリアに襟首を掴まれた状態のカオスは驚く。
横島が一気に行った為、体が大きく揺れた為だ。
「ぬう・・・マリア!スピードを上げい!」
「現状・では・これ・が・マリア・の・最高速・追いつく・には・追加ブースター・が・必要・です」
マリアの解説が異様なほど空しかった。
「っ!やっと頂上か・・・って!?」
「ママー!もうすぐ会えるぞー!」
頂上には短冊を付けようとする雪之丞がいた。短冊がかけられる瞬間、横島の時が止まる。
会えない・・・ルシオラに会えないのか・・・?
ブチッ!
「すまん!雪之丞!」
「なっ!ごふ!?」
横島の中で何かが切れた。【飛翔】に【高速】が加えられ、
文珠の4つ同時制御。【高速飛翔】となり、速度は倍以上出し、そのまま雪之丞に飛び蹴りを放つ。
落ちていく雪之丞はどんどん小さくなっていった。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・ルシオラ・・・・・・・・・」
息を切らしながら横島は笹に短冊をかける。
思いの篭った短冊。もう一度会いたいという思いの篭った短冊を。
パァ
短冊がかけられた瞬間、笹から淡い蛍火の光が放たれる。
そして、光は女性の形を模った。横島が会いたいと願った彼女の姿を。
「ヨコシマ・・・」
「ルシオラ・・・ルシオラ!」
「・・・・・・・・・ヨコシマ」
彼女が自分の名を呼んだ瞬間。横島は彼女、ルシオラを抱き締めた。
力強く、もう離さないと込めるかの様に。ルシオラはそんな横島を悲しそうな顔で見る。
「ヨコシマ・・・聞いて。もう時間が無いわ」
「時間!?どういう事なんだ!?」
「この笹が願いを叶えるのは日の出までなの・・・だから・・・もう時間が無いの・・・・・・」
「そんな・・・っ」
空は紫色がかかり、もうすぐ太陽がその姿を現すだろう。
横島はその空の色を見た瞬間、心が締め付けられる様な感じがした。
「俺は・・・俺は結局おまえに何もしてやれないっていう事なのか!?」
「ヨコシマ・・・」
膝を付く横島に、ルシオラは悲しそうで、それでいて嬉しそうな顔をし、横島の肩に手を当てる。
「聞いて。ヨコシマ・・・短かったけど、私は幸せだった。
だから、ヨコシマがそんなに自分を責める必要なんて無いの」
「けど、俺は!―――!?」
横島にそう優しく語り掛けるルシオラ。横島が何かを言おうと顔を上げた瞬間、
その唇を、ルシオラは自分の唇で塞いだ。
「・・・今から言うのは私の願い。幸せになって」
「っ!ルシオラ!」
永遠とも言える刹那。相反するものが混同する時。
キスが終わり、ルシオラがそう言い、笑った瞬間、日が昇り、ルシオラの姿は幻の様に消え始める。
「いい?約束よ」
そう言い残し、ルシオラは完全に消えてしまった。一人残された横島は朝日を見る。
「ああ・・・約束だ・・・」
横島の顔は泣きそうであり、それでいて、晴れやかな笑顔だった。そんな横島を朝日が優しく照らす。
これが横島にとっての日の出なのかもしれない。
―後書き―
七夕用に用意していた作品を出します。レス返しはレスに、書きます。少し短い様な気がするけど良いかな?
マリアの口調はこんなモンで良かったのかな?