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「SAMURAI Warriors(GS)」

鮭茶漬け (2007-06-16 14:15/2007-06-16 18:28)

月明かりが眩い程の夜、人狼の里の蔵から一人の男が立ち去った。
浪人笠を被り、亀甲模様の長着と無地の袴に身を包んだ上に、腰に堅牢な拵えの大小を帯びているその男の姿は正に侍そのもの。

「…一族の宝がこうも容易く。 この里も永い平和で惚けおったな」

侍の名は犬飼。
犬飼は人狼族に伝わる妖刀『八房』を手に入れる事に成功し、自身の目的を果たす為に蔵を素早く離れ森を駆けていた。
平和惚けのこの里には最早犬飼を止められる者は居ない。
居ないはずであった。

「…犬塚か」

木陰に潜む見知った気配を敏感に嗅ぎ取った犬飼が足を止め、揺ぎの無い響きで問いを発した。

「応よ」

問いに応え、木陰から無地の長着と袴に身を包み、質素な拵えの大小を帯びた隻眼の侍が姿を現した。
隻眼の侍、犬塚はそのまま気負いの無い自然体で無防備に犬飼に歩み寄る。

「邪魔をせねばそれで良し。 だが、拙者の邪魔をするならば…」

犬飼は歩み寄る犬塚に警戒する素振りすら見せずに、雑談のような気軽さで決断を迫った。

「お主こそ、今すぐその腰の物を置いて寝床に戻れ」

だが、応える犬塚も同様に気軽い。
二人の会話は互いが互いの意見など聞いていない、言葉を持つ生物として間違った言葉の遣り取りだ。

「我等に言葉遊びは似合わぬぞ」

「そうだな。 互いに口下手で学も無い無骨者」

一度の遣り取りで言葉を重ねる事の無駄を悟り、二人は早々に噛み合わぬ会話に見切りをつけた。

「そして、一度動き出せば冥土まで我を通さねば気が済まぬ大馬鹿者であろう。 ――――抜け、犬塚」

何かに呆れるような色を僅かに浮かべた犬飼が、被っていた浪人笠を脱ぎ捨て静かに腰に帯びた刀の柄に手を掛ける。

「…仲間を斬る事になるとは」

犬塚は自身の勝利を微塵も疑っていない傲慢な言葉を吐き出し、犬飼の抜刀を待ちもせずに素早く自分の刀を抜き正眼に構えた。

自分の流派が、自分自身こそが最強であると信じるのは武芸者にとっては本能のようなものだ。
だが、それだけではない。
誰もが己の死を、負けを考えた上で戦える訳ではない。
自分が最強であるという自負こそが命を賭ける糧にもなる。
それは、犬飼とて同じだ。

「馬鹿な奴だ。 娘に別れも済ませずに」

犬塚が構えるのを見て、犬飼も傲慢な言葉を吐き出し八房を抜き下段に構える。
互いに構え、一足で詰められる間合いで向かい合ったまま無言で睨み合う事数秒、先に動いたのは犬塚であった。

「カァッ!」

犬塚は裂帛の気合と共に残されていた一足の距離を詰め、風切り音を発する程の速度の一撃を犬飼の顔面を目掛けて振り下ろす。

「シィィッ!」

犬塚の一撃を察知し、下段から気合と共に逆袈裟に切り上げ顔面への一撃を払おうとした瞬間、犬飼の表情が凍る。
顔面を狙っていた筈の一撃が変化し、速度を落とす事無く犬飼の右手に狙いを変えたのだ。
攻撃の変化に一瞬肝を冷やした犬飼だが、即座に立ち直り刀身での切り払いや回避が間に合わぬと悟ると、逆袈裟による切り払いを中止して八房の鍔で攻撃を流した。
攻撃を流された犬塚の体勢が泳がず、隙が無いと悟った犬飼は一度仕切り直す為に八相に構えなおし、素早く後ろに下がり間合いを外した。

「先手は譲った、次はこちらから行かせて貰う」

犬飼は一方的に告げると、返事を返す事無く無言で正眼に構える犬塚との距離をゆっくりと摺り足で詰める。

「ケェァッ!」

そして、犬塚が間合いに入った瞬間、犬飼が気勢を上げ八房を袈裟に奔らせた。
その直後、犬塚を上下左右から八つの斬撃が襲う。
対応し切れぬと踏んだ犬塚は、致命的ではない斬撃を無視して危険な斬撃のみに対象を絞る。
頭頂部への振り下ろしの一撃と左から迫る首を断つ一撃を屈んで回避し、胴と金的を襲う切り上げを刀を叩き付けて弾く。
無視された斬撃の内二つは犬塚の右肩と左脇腹を浅く切り裂き、残り二つは見当違いの方向に飛んで行き木々を両断した。

「なんだこれは」

重く響いた一言に、体勢を崩した犬塚に追撃を加える為に八房を構えていた犬飼が動きを止めた。

「重さが無い」

犬塚は失望と怒りを噛み殺しながら、崩れた体勢を整えもせず犬飼を睨みつけ言葉を続ける。

「速さが無い、狙いが甘い、気合が乗っていない、刃筋が立っていない」

汚された。
この死合いも、共に剣の腕を磨きあった修行の日々も。
友である、犬飼という剣士すらも。

「武器に振り回されただけの無様な斬撃を、よくも今この場で晒せるものだ」

八房を使いこなせていない事は犬飼自身も気付いていたのだろう。
犬飼は八房を振るった直後、恥辱に耐えるように歯を食いしばって居たのだから。

「これ以上剣士としての恥を晒したくないのならば八房を捨てろ」

「八房は捨てぬ。 だがこのままではいかんな」

「なに?」

犬飼の表情から表情が抜け落ち、八房を握る手に力が篭る。

「拙者の剣士としての誇りが邪魔をするのならば、今宵この場で貴様諸共斬り捨ててやるわ」

「そうか…」

絶対の決意と共に言い捨てた犬飼の言葉に、犬塚はただ静かに何かを覚悟し、構えを上段に変える。

「次だ、次の一合で決着を付ける」

構えを変えた犬塚に応えるように、犬飼は八房を納刀して姿勢を低く保ち抜き打ちの構えをとりながら必殺の宣言を告げた。

「望む所…!」

犬飼の宣言に一言だけ応えると、犬塚は次の一撃を生涯最高のものにする為に精神を極限まで研ぎ澄ませた。
沈黙と共に気配すら希薄になった犬塚とは対照的に、犬飼は周囲の空間を満たす程の殺気を漏らす。

「ゼェッ!」

殺気を爆発に迫る勢いで膨張させながら、犬飼が先手を打った。
低い姿勢からの充分な捻りと、一瞬で間合いを詰める人外の速度を持った踏み込みと共に放たれた抜き打ちは八つの斬撃となり犬塚を襲う。
並みの剣士ならば抗う事も出来ずに両断される斬撃だ。

しかし、犬塚は並みの剣士ではない。
初見であったからこそ八つの斬撃に完全に対処出来なかったのだ。
既に八房の斬撃を経験し、極限まで精神を研ぎ澄ませた犬塚は、素早く擦り足で一足分だけ前後左右に動きながら、軽く体を反らしただけで八つの斬撃を回避して犬飼との間合いを詰める。

「ガッ!?」

しかし、八つの斬撃を完璧に回避した筈の犬塚の右胸を激痛が襲う。
犬塚の右胸を、犬飼が腰に帯びていた脇差が貫いていた。
犬飼は八房だけでは勝てぬと見切り、犬塚の弱点である右目を失った事によって生まれた死角に、抜き打ちを放った直後に左手で脇差を放っていたのだ。

犬塚とて死角の事は自覚しており、死角からの攻撃に対する修行も行っていた。
だからこそ死角から迫る幾つかの斬撃にも対処できたのだ。
しかし、八つの斬撃に気を取られるあまりに、斬撃の後ろから迫る本命の一撃に気がつけなかったのである。

犬塚が致命的な深手を負ったとはいえ、未だ勝負は終わっていない。
しかし、攻撃の成功に犬飼は一瞬気を緩めてしまった。
胸を貫かれても犬塚の姿勢が小揺るぎもしていないにも関わらず。
未だ犬塚が倒れていないにも関わらずだ。

「阿呆。 残心が甘い」

隙を見つけた犬塚は小さく口の中で呟き、痛む胸の傷に構いもせずにそのまま距離を詰める。

「ォオォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

上段から裂帛の気合と共に、渾身の一撃を驚愕に眼を見開く犬飼に振り下ろした。
胸の傷により多少犬塚の想定より攻撃の出が遅かったが、それでも犬飼の命を刈り取るには充分過ぎる一撃だ。

「ッァッ!」

しかし、犬飼は腐っても剣士であった。
驚愕を即座に消し、犬塚の一撃をかわす事も払う事も出来ぬと悟ると、八房の刀身で真っ向から受け止めた。
八房と犬塚の刀が交差し、激しい金属音と共に火花が散る。

だが、犬塚と犬飼が押し合う暇も無く、両者の拮抗は一瞬で終わった。
澄んだ金属音と共に犬塚の刀が半ばから先が折れ飛び、折れた刀の切っ先が犬塚の背後の地面に切っ先を突きたてた。
犬塚の刀もそれなりの品だが、人狼の一族に伝わる妖刀には到底及ばない。
優劣が明らかである以上、ぶつかり合った時点で勝負は決していた。

「ゴフッ! ガハッ!」

肺を貫通する深手を無視した代償か、犬塚は吐血しながら柄を握り損ない、折れた刀を地面に転がしながら膝をついた。

「グ、ガアァァァァ!?」

その決定的な隙を逃さず、犬飼は犬塚の胸に突き立ったままの脇差を一気に引き抜く。

「先に逝って待っていろ」

犬飼は一言だけ告げて、左手に脇差を握ったまま八房を右手のみで器用に逆手に持ち替え、痛みと出血に転がり悶える犬塚の心臓を目掛けて情け容赦無く振り下ろした。

「ッ……ガ……シ…ろ……」

心臓に八房を突き入れられた犬塚は大きく眼を見開き、体を数回痙攣させた後に強張った体を徐々に弛緩させながら、小さく娘の名前を呟き事切れた。

「ク、ハハハハハハハハハッ! 力が溢れる! 素晴らしい、素晴らしいぞ八房!」

独り残された犬飼は、犬塚の亡骸に八房を突き立てたまま狂ったように笑い続ける。
勝利の喜びが何時まで経っても到来しない事を、他の喜びで誤魔化す為に。

この夜、人狼族の剣士が二人死んだ。
一人は心臓を貫かれ、もう一人は剣士としての自分を己の手で殺して。
こうして夜の森で行われた殺し合いは、勝者を産む事無く静かに幕を下ろした。


犬塚と犬飼の二人は気付いていないが、犬塚の最後の一撃は八房に目に見えぬほど小さなヒビを入れていた。
このヒビは後に、犬塚の娘が女神の力を借りた際に一撃で八房が砕かれる原因となるのだが、それはまだまだ先の話である。


end


あとがき
前作、前々作へのコメントありがとうございます。
今回はバトルにチャレンジしてみました。
結果は超難産。最初から最後まで脳味噌煮詰まりっぱなしでした。
設定も色々捏造しちゃいましたしね。不快な思いをされた方、申し訳ございません。
拙い文を最後まで読んでくださりありがとうございました。


蛇足
知る人ぞ知る格闘ゲーム「ブ○ドーブレード弐」の二刀流が犬飼の脇差投げの元ネタです。
あのゲームのとあるキャラの断末魔、「死んだでおじゃる!」は、北斗の断末魔に負けていないと信じてます。
一撃の美学万歳。

18:15 頭が冷えた後もう一度読み直した結果、文が酷すぎる部位があったので修正。


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