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「横島忠夫はモテる男が嫌い(GS)」

鮭茶漬け (2007-06-12 18:45/2007-06-22 07:46)

横島忠夫はモテる男が嫌いだ。
彼が大好きないい女達を纏めて掻っ攫うから。
モテる男の友人になってしまったらもう最悪だ。
最終的には彼が泥をかぶることになってしまうのだから。


深夜午前3時、普段なら闇に覆われている時間帯である。
だが雲ひとつ無い空に浮かぶ満月のお陰か、街灯が存在しない古びた公園でも視界は悪くない。
そんな妙に明るい闇の中を、場にそぐわぬ姿で横島は歩いていた。
彼のトレードマークであるバンダナはポケットに仕舞われており、真夏にも関わらず詰め襟の学生服を着ている。

「よ、久しぶり」

横島は目的の人物を見つけて歩みを止め、ベンチに一人座っているセーラー服姿の長髪の少女に声を掛けた。

「や、久しぶり」

軽く手を上げ、笑顔で返事をする少女は年相応の可愛らしさと整った顔立ちだ。

「それ、暑くない?」

「いや、そりゃ暑いけどな。 まー意地みたいなもんだ。 あー、汗が止まらんっ!野郎の汗なんて気持ち悪ぃだけだっつーのに」

汗を滝のように流しながらも上着を脱ごうとしない横島の様子に、少女は首を傾げながらも気にしない事にした。
横島の奇行は去年のクラスメイトであった少女にとっては見慣れたものだった。

「にしてもお前、よー見るとえー乳しとんなー」

「ちょ、そんなに堂々と見ないでよ!」

鼻の下を伸ばした横島の視線から、少女が身を守るように体を丸める。
その様子に残念そうな顔をしながら、立っているのに飽きた横島が少女の隣に腰を下ろす。

「ったく、この変態っ。 どうせならピート君も連れて来なさいよ」

「ぐぅぅぅ!やっぱ顔かぁぁぁぁぁ!男は中身とか結局嘘やっ!こーゆー男がモテるとかの需要調査の結果は絶対に(一定以上の顔の男性に限る)って前に付くに決まっとるんやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

顔を赤くしながら横島を睨んでいた少女は、血の涙を流しながら喚く横島に引いた。
そして同時に横島が憐れに思えたが、表に出せば逆効果だと理解している少女は話を進める事にした。

「ピート君は確かに顔もカッコイイけどね、私が彼を好きな理由はそれだけじゃない」

「嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁ!女はみんなそーやって言い訳するんだっ!」

「うっさい!黙って聞け!」

尚も喚く横島を一喝で黙らせ、少女は顔を赤くしたまま続ける。

「ピート君はさ、とても強いのよ。 知ってた? 陰口とか嫌がらせとか酷いのよ」

「は?何でだよ」

「吸血鬼なんでしょ?」

「ハーフだけどな。 にしてもピートがねぇ」

横島も嫌味を言ったり嫌がらせしたりするが、吸血鬼であることを理由にした事は無い。
というよりそんな細かい事は考えてすらいない。
ただ単にモテる美形だから気に食わないだけだ。

「アンタのクラスの男子とか、アンタみたいな嫌がらせや妬みならじゃれ合いの内よ 」

「アレでじゃれあいか」

横島は割と酷い事をしている自覚があるのだが、それ以上となると妬みを超えてただの虐めだ。
ほぼ完璧な美形であるピートが虐められている姿など想像出来ずに、横島は不思議そうな顔で首を傾げた。

「そんな素振り見た事無いぞ?」

「だから強いのよ。 一度だけなんだけど、現場を見た事あるのよ」

「ほー、今度一度聞いてみるかな」

「そうしてあげて。 アンタやタイガー君には必死で隠していたけど、凄く辛そうだったから」

少女はその情景を思い出し、顔を顰めて俯いく。
その隣では、話の内容にそぐわない気の抜けた表情の横島が月を眺めていた。

「んで、惚れちゃったのか」

暫くの沈黙の後、横島は顔を横の少女に向けて話を再開した。
横島にしては珍しく、恋愛話なのに嫉妬が浮かんでいない気の抜けた表情だ。

「……うん」

少女は俯いたまま顔を赤くして頷いた。
恥ずかしさから、顔を上げる事は出来ない。

「他の子みたいにお弁当渡したりする勇気は無かったけどさ、ずっと遠くから見ていたんだ」

「そうか」

「アンタ達と馬鹿やってる姿は楽しそうで、見ているだけで嬉しかった」

「そうか」

「核ジャック事件の後にアンタを必死で庇ってた姿は、凄くカッコよくて見ているだけでドキドキした」

「そうか」

少女の顔の羞恥の赤が、違う赤に塗り換わっていく。
少女の震えが酷くなる声も、歪んでいく表情にも反応せずに、横島はただ月を見上げながら機械的に相槌を打つ。

「ホントはね、告白―――――するつもりだったんだ」

「そうか」

そこで、限界が来た。

「ねぇ、なんで?」

少女の声は既に涙声になっていた。
俯いたまま少女の瞳から、涙が溢れて地面に吸い込まれてゆく。

「なんで私が死ななきゃいけないの!?」

悲鳴のような絶叫を俯いたまま発した少女の体は透けていた。

「もうちょっとでピート君に告白できたのに!」

零れる涙は大地を濡らす事は無い。

「もっと楽しいことも、嬉しいことも経験したかったのに!」

溢れ出る叫びは横島以外の耳には届かない。

「そうか」

月を見上げたまま、重たいモノを吐き出すかのように横島は相槌を打った。
抱き締めて癒すことが出来るのは自分ではない。
震える背を撫でてやるべきなのは自分ではない。
その事実が横島には重たかった。

「…会いたいなぁ」

ピートに、であろう事は横島でも容易に想像が付いた。
だが、会わせる事は出来ない。

「すまん、会わせる事はできねーんだわ」

「そっか、うん。そうだよね」

少女の死因はストーカーによる刺殺。
下校途中、人通りが途切れた隙にこの公園に引き摺り込まれた後に、サバイバルナイフで胸を16回刺されて死亡。
その後、犯人は自首。
現在拘留中。
動機は、ピートに惹かれる彼女が我慢ならなかった、という身勝手なもの。

それが横島の知る全てだった。
そして犯行の動機こそがピートに会わせる事が出来ない理由だ。

「ピート君、優しいから」

「ああ」

横島は心の中で、薄い付き合いとはいえ友人である少女の為に涙一つ流せない自分とは大違いだ、と自嘲しながら頷く。

「じゃ、除霊して。 私が私じゃなくなる前に」

「ああ、結構限界っぽいな」

少女は既に悪霊になり始めている。
ストーカーの執念で縛り付けられ自縛霊になり、その執念が呪いのように少女を侵食しているのだ。
横島が少女を見つけたのは、友人として花を供えに来た時の偶然だ。
もし横島が見つけていなければ、少女は悪霊となり人を襲っていた。
そうなれば手が空かないGメンから、良心的な唐巣へ依頼されるだろう。
公園などの浄化を唐巣に任せるのは近頃日常となっている事だけに可能性は高い。
唐巣が仕事を請ければ、ピートも付いて行くだろう。
その時少女に理性も記憶も無ければいいのだが、半端に残っていればピートは必ず調べる。
そして、深く傷つく。
原因の一端である事に違いは無いのだから。

「すまん、やっぱ会いたいよなぁ」

「いいの、やっちゃって」

二人の気持ちは不思議なほどに揃っていた。
終わってしまった事でピートが傷付く必要など無い、と。

「またな」

赤みが差し始めた空を背に、横島は文珠を二つ出してから立ち上がり少女と向き合う。
文珠に篭められた文字は『浄』と『断』。
横島に真っ直ぐ、可愛らしいくも儚い笑顔を向ける少女に文珠を握った右手を向ける。

「またね。 送ってくれるのが、横島でよかった」

少女の言葉に横島の涙腺が反乱を起こす。
熱くなった目頭に戸惑いながら、横島は『断』の文珠を発動してストーカーの執念を『断』った。
そして『浄』の文珠でストーカーの執念と少女の未練を『浄』化する。
半ば呪いになっていた執念を無理やり断った事で、ストーカーがどんな呪い返しを喰らうかわからないが横島の知ったことではない。

「気持ちいいな……」

未練と執念を浄化され、この世との繋がりが消えた彼女の体は、その色と輪郭を徐々に薄れさせ消えてゆく。

「最期にこんな朝日が見られて嬉しかったよ」

ビルの後ろから、焼けるような赤と共に太陽が顔を出す。
その光を体一杯に受け、少女は光の中に消えた。

「たく、なんで俺が他の奴が好きな女の面倒みにゃならん」

朝日を見つめながら憎まれ口を叩いた横島の瞳から、溜まっていた涙が一粒零れて頬を濡らした。


横島忠夫はモテる男が嫌いだ。
彼が大好きないい女達を纏めて掻っ攫うから。
モテる男の友人になってしまったらもう最悪だ。
最終的には彼が泥をかぶることになってしまうのだから。


END


あとがき

ども、はじめまして。
後半がえらい難産でした。
支離滅裂意味不明になってるかもしれませぬ。
一応チェックはしましたが誤字脱字も多いかもしれません。
言い訳は以上です。

蛇足
横島が学ラン着てる理由は喪服を持ってないからです。
自分の拙い文章から読み取ってもらえるか不安なんで悪あがき。

2007/06/14 少々の文章の改定と誤字の修正。
2007/06/22 文殊→文珠に修正


△記事頭

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