「あううう・・・・」
とある一室で二人の少女が頭を抱えてナニやらうめいている。
いや、そろそろ「少女」ではなく「女性」と呼ぶべき年齢であろう。
彼女らの名前は野上 葵と三宮 紫穂。
かつて内務省特務機関超能力支援研究局、通称B.A.B.E.L.において最強と謳われたエスパ-である。
「やあ、花嫁たち!何を悩んでいるんだい?」
そこに突然扉を開けて入ってきたのはエスパー解放組織P.A.N.D.R.A.のトップである兵部 京介。
傍らに「破壊の女王」明石 薫を同伴している。
「・・・・・?」
薫の説得によりパンドラの一員となった彼女達だが残念ながらトップたる自分への服従というか敬意というか、とにかくそういうモノが
著しく欠けているらしい彼女らは「花嫁」呼ばわりされるとひどく機嫌を損ねる。
しかし最近彼女らの物理的、あるいは精神的抗議にちと悦びを感じ初めている兵部なので
今回何もなかったのがちと物足りない。
「なあ、どうしたんだ?」
薫の質問に弱々しく顔を向ける二人。
「皆本さんが・・・」
聞いてみると、彼女たちは独自にバベルに情報ル-トを構築しており多種多様な情報を入手しているらしい。
「ならばその情報を提供しろ」といいたいが受け入れないだろうし、彼女らが望む情報といえば・・・
「皆本はんが・・・最近ナオミはんと仲ええらしいんや・・・」
ほらやっぱり。
「やっぱりね。結局彼も所詮ノ-マル。
思った通り君たちを裏切っ
ドカン
何が起きたのか判らなかった。
気が付いたときには葵に胸倉を捕まれ、紫穂に銃を突きつけられていた。
まさかこの僕が反応できないとはね。
しかも「女神」ならともかく「女帝」にまで。
「覚えとき。皆本はんはウチらを裏切った事は無いしこれからも絶対裏切ったりせえへん」
「皆本さんがあたしたちを裏切ったんじゃないの。あたしたちが皆本さんを裏切っただけ」
「裏切り」という言葉に傍らの薫がビクリと身を竦ませる。
「まあええわ」
「そろそろ潮時ね」
「潮時ってどういうことだい?」
今更帰る場所があるとでも思ってるのかい?
「ウチらはもともとエスパ-の未来も将来も興味無いねん」
「薫ちゃんの誘いに乗ったのは、いわばちょっとだけ皆本さんから離れるためよ」
なんだって?
「あの頃の皆本さんってば寝ても覚めても薫ちゃんのことばかり。
あたし達の面倒見てても心の奥底では薫ちゃんの事を考えてたわ」
「だから、ちょっとだけ皆本はんから離れよ思うたねん。
『何時も傍にいる、そんな存在が失われた時こそその大事さを思い知る』っつ-やっちゃな」
「エスパ-の権利も立場も、極端な話世界が滅んだ所で私たちは全然気にならない。
気にかけるのはたったひとつ」
「皆本・・・光一か・・・」
「そう。あの人の傍に居られるか、あの人が私たちの傍で笑顔でいるか。
それが私たちの全て」
「けど、彼は梅枝ナオミ君に手を出したんだろう?」
「それは違う。
皆本さんは私たちが思っていた以上に私たちを想ってくれていた。
私たちを失った事で心が壊れかけるほどに。
ふらつき、倒れかけた時傍に偶々いたナオミさんの肩にすがった、ただそれだけの事。
それ以上は無いし、認めない」
サイコメトラ-の放つ妖気、いや瘴気に思わず数歩後退する兵部。
「し、しかし今更バベルに帰れるとでも・・・」
「それやったら大丈夫。
桐壺はんに頼んで『極秘にパンドラに潜入し情報を集める任務を出していた』事にして貰えばええんや」
「皆本さんがほぼ実権握ってるとはいえ一応まだ局長なんだしね」
情報って・・・
「もう既に色々集めてあるわ」
懐からデ-タディスクを取り出す紫穂。
全てのパンドラ支部の位置から構成人員リスト、NY支部長が愛人に贈ったラブレタ-の中身まで全て調査済み」
語尾にハートマーク付きそうな口調でとんでもない事を言う。
「しかしまあ、もうちっと手柄必要や思わんか?」
「そうね。例えば全世界的テログル-プのボスの首とか」
えらく物騒な事を口にする二人。
とっさに逃げようとするがテレポ-トが出来ない。何故?ほわい?
「知っとるか?テレポートって近い波長のESP波やと干渉されてまうらしいで」
戸惑った瞬間、「女帝」が、いや三宮紫穂が顔を掴まんと手を伸ばしてくる。
フリッツ・フォン・エリックの如き「鉄の爪」か?それとも輻射波動か?
とっさにかわすがわずかに触られる。
とりあえず彼女たちから距離を取って
あ?
ああ?
あああああああああ!??!?!?!
ああああああああ????
これは・・・・いったInanigaおこTTEIナニヲ・・・
「うふふ、気に入ってもらえた?
それはね、わたしが能力に目覚めて10年以上、人を『覗き込んで』心の奥底に溜め込んだ
『闇』あるいは『澱み』。
『歪み』といってもいいかしら?
そのホンの欠片を流し込んであげたの」
ば・・・バかNA・・・こんなヒDUみを持ッて正気でイラれるはづが・・・
「簡単なことよ。わたしはもう正気じゃないもの。
皆本光一という極上のドラッグよりもいっちゃってるクスリに、身も心もイカれてるの。
あの人の傍にいられるからこの程度の狂気は耐えられる。
その人に笑いかけてもらえるならこの程度の腐りはどうという事は無い」
「くっ」
「テレポ-トで逃げたで」
「でもまあ、アレを流し込まれたんだもの。
この先超能力を使えるほど精神集中出来るとは思えないわ」
ふと視線を向けると、そこには捨てられそうな子犬のごとき目をした「女王」がいた。
かけらも躊躇わず二人は彼女に向かって手を伸ばす。
「ほな帰るで薫」
「まったく世話が焼けるんだから」
数度の躊躇いの末「女王」は、いや「明石薫」は友人が差し伸べた手を握る。
「やっと本当の意味で三人に戻ったわね」
「ああ・・・帰ろう・・・あたしたちの居場所に・・・」
なんとなく思いついたので書いてみました。
やはり三人はなにがあろうと皆本の傍で笑っていなければいけない!と思いまして。
しかし結局兵部の視点から見たものなのかが一定せず、かなり反省の余地があると思いました。
感想罵倒ツッコミ、よろしくお願いいたします