--オカルトGメン隊長室--
そこには今二人の人物が対峙していた。
ひとりは部屋の中央のイスにすわり、年を経てもなお衰えることをしらない美貌のなかに鋭い眼光を光らせている。
その名は、美神美知恵。
そして美知恵と相対する形でその場に立っているのはどこにでもいるような平凡な少年。
その名は、横島忠夫
重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのは美知恵だった。
「本当にこれでいいの?」
それは今まで幾度と無く横島に聞いてきた質問だった。
「・・・もう決めたことですから。」
淀みない応えに美知恵はもはや自分では彼の意思を覆すことができないことを再確認する。
これから彼が行なおうとしている行為は彼にとって利益のあるものである・・・とはとても言えるものではない。
美知恵の合理的思考がはじき出した答えは彼自身の幸福とは相反するものであった。
確かに彼自身の幸福を他者である自分が定義することは彼に対する冒涜であるかもしれない。
だが、彼が自ら紡ぎだした結論はあまりに悲しいものだった。
「・・・そう。でも令子達のことはどうするの?」
「美神さん達には何も言わないで行こうと思います。
・・・会えば決心が鈍ると思いますので。」
自分がどれだけ小さく周りの人間に頼っている人間であるかはよく知っている。
だから会うことはできるだけ避けたかった。
--そこは自分にとってとてもやさしい場所だから。
「未練がない、とはとてもじゃないですけど言えません。
残された者の気持ちも十分すぎるほどわかっているつもりです。
・・・でもやっぱり彼女には幸せになってほしいですから。」
それはおそらくどうしようもないほど愚かな願いなのだろう。
自分でも馬鹿なことをしているなぁ、と横島は自分のことながらあきれてしまう。
「・・・わかったわ。もう私からは何も言わないし、令子達にも私からうまく言っておくわ。」
「何から何まですいません。」
横島はそわそわしながらも申し訳なさそうにちょこんと頭を下げた。
その彼が久々に見せる年齢相応の行動に美知恵は不謹慎と思いながらも思わず微笑んでしまう。
初めて彼を見たときは単なる甘えたガキとしか思わなかったし、そんなガキに自分の娘を取られたことに嫉妬したりなんかした。
でも決意を胸に秘めた今の彼はあの頃とは想像もつかないくらいたくましくなったものだと美知恵は心底感心していた。
彼の中でどれほどの葛藤や後悔があり、そして今にいたることを知っている美知恵にとって彼の成長は素直にうれしいものであった。
例え、彼が出した結論がどんなものであれ・・・
「気にしなくてもいいわ。嫌われ者になることには慣れてるから。
だから、あなたは自分が良かれとおもうことを精一杯やってきなさい。」
そう微笑みながら横島に語りかける美知恵に対して、横島はもう一度「すいません」と言って頭を下げ、部屋をでた。
誰にも語られることのない物語 作 ライフハウス
時間移動
それは誰しもが一度は考えることであろう。
過去に遡ってやり直す、あるいは未来の行く末を見てみる。
小説や空想の中で語りつくされた一つのテーマであり、人類が長年夢見てきた願いだ。
そして、その危険性もまた語りつくされたものであった。
幸か不幸か美神一族、正確には美神一族の女にその能力が備わっていた。
美神美知恵はその能力を駆使して世界の崩壊を防いだ。
何度も言うけど、時間移動は小説で語られるような万能な能力ではないわ。
もしかしたら、そんな能力をもつ人がいるのかもしれないけど・・・すくなくとも私の持っている力はひどく不完全なものなの。
いろいろと制約があるものなんだけど、特に重要なものが同じ人物が同時に存在することが認識されることは絶対に避けなくてはいけない。
もしそうなったら世界がどうなるかは想像もつかない。
善悪はどうであれ、天変地異を除けば今の地球の歴史を動かしている最も大きな力は人間の意思よ。
その意思に時間移動によって本来ありえるはずのないノイズを与えてはだめなのよ。
つまり、状況的に同じ時空間に二人の同じ人間が存在したとしても認識される人間はひとりでなくてはならない、特に歴史の節目にあたる時期ではね。
例え、その人間が未来や過去から来た人間だったとしてもね・・・。
だから、公式的には私は死んだことになってたわけ。
本来の美神美知恵が生きていると知っている人間がいなければ美神美知恵は死んでいることと同義、そこに別の時間から美神美知恵が来たとしても世界の認識としては美神美知恵はひとりしかいない。
逆天号の時もそうだったでしょ。
あのとき、あなたに逆天号が同時に存在すると認識されたとたんに私が時間移動させた逆天号は消滅した。
いい、横島君。
今まで長々と説明してきたけど、ここからが一番重要なことなのよ。
あなたがこれから過去に戻ることになると、そこにはその時代に生きている横島忠夫が存在する。
あなたが過去に戻って何をするにしてもそこに横島忠夫が2人存在すると認識する人物を存在させてはならない。
もっと簡単に言いましょうか?
あなたは、あなた自身を絶対に過去の横島忠夫の関係者と接触させてはいけない。
これが時間移動をしたものに対するリスクであり、呪いよ。
横島自身、美知恵の言ってることを十分理解したとは言い難いが、それでも言いたいことはなんとなくわかった。
要するに、時間を遡った横島忠夫が存在することをみなに知られなければいい。
このことは横島の目的に反するものではなく、むしろ歓迎すべきものであった。
元々、みなの前に姿を現すつもりはさらさらなかった。
これから向かう時代の横島の価値はその時代の横島が創り上げたものであって、あとから来た自分が横から奪い取っていいものではない。
ただ自分がしたいことはただひとつだけ。
刹那の瞬間だけに許されたほんのわずかな希望。
そのわずかな希望のために横島は過去に遡った。
あの時のあの場所へと・・・
「・・・ルシオラ。」
それはアシュタロスとの最終決戦の場所であった。
アシュタロスとの決戦より1年、横島は相変わらずドタバタした日々を送っていた。
世間ではアシュタロス戦最大の功績者とみなされ、それまでよりもさらに唯我独尊に磨きがかかった(手に負えなくなったとも言う)超一流GS。
ふてぶしさと圧倒的なまでの自己中心的な態度の中にほのかに見え隠れするやさしさを秘めた女性、美神令子。
自分は本当に彼女に出会えてよかったと心の底から思う。
今から思えば彼女との出会いからすべては始まった。
楽しかった思い出、つらい思い出、癒された思い出、悲しい思い出、そのすべてが夜空に輝く満天の星空のようにキラキラと輝いている。
いつも自分よりも周りの人間を考え、いるだけでみなを幸せをしてしまうようなそんな朗らかな雰囲気を持つ女性。
どこまでもやさしく、どこまでも素直で、そして・・・いつも自分の味方でいてくれた人、氷室キヌ。
自分が落ち込んでいるときはだれよりも早く、そしてだれよりも近くにいてくれた人。
彼女の笑顔に何度救われただろうか?
こんな自分を師と呼び、どこまでもついてきてくれたシロ・・・
ぶっきらぼうな態度をしていても、つらいときやさしい言葉をかけてくれたタマモ・・・
いつもケンカばかりしてたけど、不器用なやさしさで自分を気遣ってくれた雪乃丞・・・
自分のことを子供扱いしてばかりいたが、いつかこういう男になりたいと心のどこかで思っていた西条・・・
自分の才能を見出し、GSまで引っ張り上げてくれた小竜姫様・・・
親友である、ピートやタイガー・・・
もちろん他にも冥子さんや、エミさん、ドクターカオス、美知恵さん、パピリオ、ベスパ・・・。
思い出したらキリがないほど次から次へと溢れ出てくるたくさんのかけがえのない人々。
自分がいかに周りに支えられていたか。
自分がいかに恵まれていたか。
いやでも思い知らされる。
そして・・・何よりも、他の誰よりも、こんな自分のことを生んでくれ、育ててくれ、そして愛してくれた両親・・・
あぁ、なんて自分は幸せだったんだろうか。
だからこそ言いたい。
ありがとう、と、ごめんなさい、を。
横島さん。
はっきりと言います。
あなたの身体の中にいるルシオラさんは近いうちにあなたの身体から消えてなくなります。
嘘だと思った。
目の前が真っ暗になり、すべてが虚構に思えた。
本来ならばあなたの子供として転生するはずでした・・・。
でも元々ひとりの人間の身体の中に二つの異なる波動を存在させることなんか到底ムリなことだったのです。
明かされる現実。
それは横島の心に重く圧し掛かった。
横島さんの体調不良は二つの波動に耐え切れない身体からの悲鳴です。
ですが、それももうすぐおさまるはずです。
横島さん本来の波動がルシオラさんの波動を侵食し始めています。
いずれすべての波動を飲み込んでしまうことでしょう。
今から子供を造ったとしてもそれは交わり始めた波動から生まれる存在。
・・・もう、手遅れです。
小竜姫は何度もごめんなさい、ごめんなさいと横島にあやまった。
自分がもっと早く診ていればこんな結果にはならなかった、と。
少しでも横島さんから目を離すべきではなかった、と。
しかし、そんな小竜姫の言葉も横島の心には届いていなかった。
横島は泣いていた。
それは以前から考えていたことだった。
美知恵が過去へと返っていったならば自分にもできるのではないか?
本来ならばありえるはずがない事象。
でも横島の周りにはその事象を成し遂げた人物がいた。
自分の願いをかなえた人物がいる、その方法ももしかしたら自分にも適応できるかもしれない。
でも決断ができなかった、否、できるはずがなかった。
自分がどれだけ周りに頼っているか。
そして自分がどれだけ周りを大切にしているか。
それを自分が知っていたからだ。
しかし、ルシオラが転生できないことを知って横島の中の何かがはじけた。
どうして・・・
どうしてルシオラだけがこんな目にあわなければならない・・・
彼女が何をしたと言うのだろうか?
ただアシュタロスの願望のためだけに生まれた存在。
これからもっと楽しい思い出を作ることだってできたはずだ。
つらいことや悲しいことがあったって、笑って語り合える日が来たはずだ。
なのに、何で彼女が死ななければならない?
そして何より許せないのは自分だ。
何が幸せだ!
何が世界を救うだ!!
一番幸せを味わうべき存在を奪っておいて・・・
こんな自分を命がけで愛してくれた人のおかげでノウノウと生きて・・・
許せない!!
許せないぞ!!横島忠夫!!!
そして横島はすべてを捨てる決心をした。
「・・・ルシオラ。」
そう横島は弱弱しい声でつぶやいた。
東京タワーの一角に今にも死に絶えそうな彼女はそこにいた。
横島はそっと腰を降ろしルシオラの背中へ両手を回し抱きしめるように抱え込んだ。
何度このときを夢見ただろうか?
何度彼女のことを想って泣いただろうか?
そこには確かにぬくもりがあった。
ルシオラが生きていると実感できた。
「ルシオラ。」
もう一度つぶやく。
「ルシオラルシオラルシオラルシオラ・・・。」
何度も何度もつぶやく。
今にも折れてしまいそうな細い身体を強く強く抱きしめた。
このまま奪い去ってしまいたい。
どこかに連れ去ってしまいたい。
ふいに横島にそんな考えがよぎる。
それはなんと甘美な願いだろうか。
すべてを捨てたつもりだった。
大切な人も・・・
大切な思い出も・・・
そして自分自身の幸せさえも・・・
それが自分に下した罰だったはずだ・・・
でも、目の前にある存在に・・・
その手に感じる彼女の鼓動に・・・
心が揺れた。
滑稽だ。
なんて愚かなんだろう。
しかし、心のどこかでこれで正しいと何かがつぶやく。
ルシオラが欲しいんだろう?
・・・違う!!
お前がすべてを捨ててまで欲した存在が目の前にあるんだ、何を迷う必要がある?
・・・迷ってなどいない!!
お前は結局、自分が幸せになりたかっただけじゃないのか?
違う違う違う違う違う違う違う・・・
じゃあ、どうしてここまで来た?
・・・ルシオラに幸せになってほしかったから。
お前が幸せにしてやれば問題あるまい?
オレでは幸せにできない・・・
なぜだ?
このルシオラが愛した横島はこの時代の横島であってオレじゃない!!
そこまでわかっているならなぜ迷う?なぜ戸惑う?
・・・・・
自分でもわかっているのだろう?この時代の横島がうらやましいのだろう?
・・・・
これから自分が得るはずだった幸せを享受する横島に嫉妬しているのだろう?
・・・
自分の心を偽る必要などあるまい。目の前にはルシオラがいる。その手は幸せを掴んでいる。
・・
お前は十分苦しんだ。もう楽になっていいはずだ。
・
さあ、奪うんだ。
・・・・・・黙れ!!!
確かにオレはルシオラが欲しい。
でもこのルシオラが愛した横島がこの時代の横島であるように、オレが愛したルシオラはあの時代のルシオラだ!オレの心にいるルシオラだ!
ならばなぜここまでする?こんなことをしては無意味ではないか?
・・・そうかもな。
意味なんてないさ、そんなことはとっくの昔にわかっている。
オレはバカだからな、こんな方法しか思いつかなかった。
もうオレが愛したルシオラは戻ってこない・・・。
こんなことをしても単なる自己満足にすぎないさ。
・・・でも!!
彼女が生きて幸せを掴む未来があってもいいんじゃないか?
そのためにお前の未来が犠牲になってもか?
それがどうした!!
ルシオラは自分の幸せどころか自分の未来さえ犠牲にしてオレを救ってくれた。
それに比べればこんなことはへでもないぜ!!
本当にそれでいいんだな?
当たり前だ。
後悔するかもしれないぞ?
もうしてるよ。
たとえこのルシオラを助けてもこのルシオラが幸せになるとはかぎらないぞ?
・・・なるさ、絶対に!!
なぜわかる?
わかるさ!
あのルシオラが命をかけてまで助けてくれたこのオレが未来を捨ててまで助けるんだぜ。
幸せになるに決まってるさ!!
・・・・
あんまりオレをなめるなよ。
なんたって煩悩ひとつで世界を救ったんだからな
・・・わかった。もう何も言うまい。
ただひとつ最後に聞かせて欲しい。
どうしてそれほどまでにルシオラにこだわる?
そんなものもわからないのか?
ぜひ教えてくれ。
しょーがねぇなぁ。
一回しか言わないから耳の穴かっぽじってよ~く聞けよ。
いいかぁ、ルシオラはなぁ、オレにとって・・・
最高の女だからだ!!!!!
「・・・ルシオラ。」
もう一度つぶやく。
背中に回した手から伝わる心臓の鼓動が弱ってきている。
もうすぐルシオラは死ぬだろう。
そんなことはさせてたまるか!!
ルシオラを死なせないために今オレがここにいる。
悪いなこの時代の横島・・・。
ちょっとばかしルシオラにつばつけさせてもらうぜ。
でも、いいだろう?
そのおかげでルシオラは助かるんだからな。
心の中でこの時代の横島にあやまっておいて横島はルシオラの唇へとゆっくりと自分の唇を持っていった。
自分の心の中にいるルシオラへの感謝、自分のありったけのルシオラへの想い、そしてわずかばかりの寂しさをにじませて・・・
それはひとつの風景だった。
単なる一人の男と一人の女の口付け。
ただそれだけのことだった。
「・・・んっ」
今まで生気のない顔色をしたルシオラにみるみる艶やかさが戻っていった。
横島が自分の波動をルシオラに与えたのだ。
いずれルシオラの中で消え行くであろう自分の想いと供に・・・。
ルシオラの身体がわずかばかり振るえはじめた。
おそらくもうすぐ目覚めるであろう。
このまま自分はこの場にいることはできない。
ルシオラに横島が二人いることを認識させてはならないからだ。
・・・でも、少しだけ、少しだけ横島はその場から離れることを躊躇した。
ここにいるルシオラへの未練だけがそうさせたのではなかった。
それは自分自身への未練・・・。
もう少し、もう少しだけいいだろう?
こんなバカな男の最後の願いだ。
だって、あんまりじゃないか。
自分の未来まで棒にふってきたってのに誰もオレのことを覚えていてくれないなんてよ。
我ながら滑稽だと想いながらも横島はその場を動くことができなかった。
どれくらいそうしていただろうか?
時間にして10秒程度だが、横島にはその時間が永遠にも感じられた。
ピクリとわずかながら動きが横島に感じられた。
閉じられていたルシオラのまぶたがゆっくりと開き始めていた。
横島はそれに気付くとルシオラを自分の身体からゆっくり離した。
精一杯の自分の想いを乗せた言葉をルシオラの耳に残して、横島はその場を離れた。
ありがとう
と
幸せになってください。
ルシオラが目を覚ますとそこは東京タワーの一角だった。
あれ?私は確かヨコシマに自分の力を与えて・・・
ルシオラは少し混乱しながら周りの状況を確認した。
目の前には自分の大好きな真っ赤な夕日。
それは昼と夜の刹那の隙間。
その夕焼けがあまりにもきれいで・・・
なぜか涙が止まらなかった。
数年後・・・
廃棄が決まった東京タワーの最後の開放日に一組の家族が訪れていた。
「すごい!すごい!
ねぇ、観てよママ!
夕日がすごいきれいだよぉ~」
夕日が見えるウインドウへと駆け出していくおかっぱ頭の愛らしい一人の少女。
来年から幼稚園に通う予定の愛すべき愛娘は元気いっぱい、うれしさいっぱいでご満悦の表情だ。
「こら!
あんまりはしゃぐんじゃありません!」
そう少女を諌めたのはその年の子供を持つには少しばかり年齢が若く見える女性だった。
少女同様のおかっぱ頭でなぜか寝癖みたいにふたつの髪がちょこんと上に向かってとんがっている。
少女のはしゃぎっぷりを見て少々呆れ顔の女性。
そんなママのちょっと怒った顔を見てその少女は大好きなパパのもとへと駆け寄り援軍を頼んだ。
「ふぇ~ん。
ママが怒った。」
少女はやや頼りなさそうだけどとてもやさしそうな男性の足元へ駆け寄り庇護を求めた。
「まぁまぁ、すこしくらいいいじゃないか。
蛍もこんなにうれしそうなんだし。」
男性はその少女の頭をなでながら少女を援護する男性。
少女は男性から頭をなでられたのがうれしいのか表情をニコニコとさせている。
「タダオ!
タダオが甘やかすから蛍がつけあがるんじゃない!」
笑みいっぱいの少女とは裏腹に表情いっぱいに不満を表す女性に男性はタジタジの様子だ。
「かっ、かんにんやぁ~。」
男性はその女性から発せられる迫力に完全にびびっている。
どうやらこの家族はかかぁ天下らしい。
パパ大好きなその少女もさすがにその情けない父親の姿にあきれている。
女性はその怒りの矛先を少女から男性に変えたらしく、衆目の注目する中夫婦ゲンカを始めたようだ。
その様子を見て少しばかり悲壮な表情を浮かべる少女。
おなかすいたなぁ~。
どうやらなかなかの大物らしい。
すっかり陽も暮れて夜の帰路を歩く一組の家族。
はしゃぎすぎておつかれの少女は大好きなパパの背中で熟睡中だ。
とぼとぼと夜道を歩く娘を背負った男性はふと隣を歩く自慢の愛妻へと目を向けた。
月夜のわずかな灯りに照らされた妻の表情に男はゾクリとするような色気を感じた。
ルシオラってこんなに綺麗だったかなぁ~
その男の怪訝の視線に気付いたのか、視線の先にある女性はその男性へと目を合わせる。
「あら、どうしたのタダオ?
私の顔に何かついてる?」
「いや、別に何でもないよ。」
突然の女性の質問に男は少し驚きながらもなんでもないように返す。
女性も少し疑問に思ったが別に気にすることでもないかと気を取り直して我が家へと足を進めた。
男は我が家へと向かう妻に遅れまいと再び帰路を歩き出した。
それはふとしたたわいない感想だった。
よくある家族が自分の幸せをかみしめるためのよくある感想。
例によって家族を持ったこの男もその感想を女に投げかけた。
「なぁ、ルシオラ。
俺達って幸せだなぁ~。」
男の突然の問いに、何を今更といった表情で笑いながら女はこう応えた。
「当たり前でしょ!」
「だよなぁ~」
男も笑いながらそう応えた。
そうして、今この場にいないたったひとりの男の誰にも語られることのない物語は静かに幕を閉じた。
-fin-
あとがき
はじめまして、ライフハウスと申します。
まぁ、色々と矛盾点が多い話でありツッコムところが多々あると思います。
例えば・・・
あれ?ルシオラが死んだときって確か夜じゃなかったっけ?・・とか
時間移動ってこんな能力だったけ?・・とか
まぁ、これらすべてご都合主義ということでご容赦ください。(ご都合主義って便利な言葉ですよね)
その後逆行した横島がどうなった?とか残された人たちはどうなった?とか
色々と考えていましたが、そんなことよりもこのストーリーの要点をしっかり書いた方がまとまってると思いこういう形にしました。
いたらないところが多いと思いますが色々な意見とか感想をもらえれば大変うれしいです。
では、またいつかどこかで会いましょう。