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「さても愉快なイリュージョン(GS)」

犬雀 (2007-03-19 19:17/2007-03-19 20:22)

『さても愉快なイリュージョン』


「というわけでタマモちゃんのイリュージョン・ショーの始まり〜!」

「なにがというわけよ?」

いきなりハイテンションなタマモの発言に半目で応える令子。
確定申告真っ只中のこの時期、ただでさえ切羽詰っているところに網タイツに黒いレオタード、さらには短めの燕尾服なんてものを身につけたタマモがいきなり現れたらこういう反応をするのも仕方ない。
お茶を運んできたおキヌなんかは目を丸くしたまま固まっているし、シロに至っては武士にもあるまじきことにパックリと口を開けたまま自失している。
反応できただけでも令子の精神力が凄いと言うべきだろう。

舞台にあがる手品師よろしく部屋に入ってきたタマモだったが、冷たい反応に戸惑うかと思いきや何が楽しいのかニッコリと笑うと開け放たれたままのドアから伸びている紐を引っ張りはじめた。
ゴロゴロと滑車が転がるような音とともに部屋に入ってきたのは木製の箱。
いかにも急ごしらえなのかベニヤ板に塗られたペンキはところどころムラになっている。
どうにも素人の細工くさい。

「なにその箱?」

思わず聞いてしまうのもしかたないだろう。
何しろ高級家具で統一された美神令子の事務所においてその箱はあまりに不似合いだった。
テンションが高いままのタマモは周囲の視線を気にもせず箱の横についている掛け金を外す。
中から出てきたのはある意味入っていて当然、またはある意味入っていてはいけないもの。
目隠し猿轡をかまされ縛られている横島が箱の背板の部分に十字架のキリスト像よろしく貼りつけられている。
本物のキリスト像と違うのは直接釘で打ちつけられていないってことぐらいで、目も見えず口も利けないないその様子が漂わせている悲壮感とか無常感は本物に近い。
つまり当人も納得した上でこんな仕打ちを受け入れているということではないと言うことだ。
まあ、よほど特殊な趣味の持ち主でも無い限りこんな仕打ちを望んで受け入れる奴はいないだろうが。

呆然とする令子たちの前でタマモは縛られている横島に近寄ると、しなやかな動作で目隠しを外してやる。
途端にモガモガと暴れだす横島。
鶏なんかも目隠しをすれば大人しくなるものだからタマモの処置は合理的であったとも言える。
実際、横島は目隠しを外された途端に死力を振り絞って戒めから逃れようと暴れている。
にもかかわらずよほど厳重に固定してあるのか自由を取り戻せそうな様子は一向に訪れない。
つまり彼に出来ることは目から涙を迸らせながら「むがあぁぁ」と猿轡の中で喚くことだけだった。

さてここまでの怪異を見せられれば固まっていた令子たちの思考も活動を再開し始める。
だがしかしなにゆえタマモが横島にこんな暴虐を強いるかがわからない。
思い起こして見ても特に仲が悪かったという様子も無い。
いやむしろ仲は接近しつつあった気がする。
具体的にどうこうとはっきり宣言されたわけではないが、超常能力に分類可能な女の勘によれば警報レベル1ぐらいはあったはずだ。
いや、もしかしたらレベル2ぐらいかも知れない。
二週間ほど前にあった色々な意味で難儀なイベント。

その名もバレンタイン=デー。

おキヌは勿論、今回はシロもチョコを用意した。
令子も「まあ今年はよくやっていたから義理ぐらいは」とデパートの地下で三時間かけて買ったチョコを渡したりもした。
横島はわかっているんだかいないんたが曖昧な笑顔で「嬉しいっす」と涎を拭きながら受け取ったのだが、そこに第四の人物が乱入したのである。
言わずと知れたタマモだった。
いっそ投げ渡すと言う形容がぴったりするほどぶっきら棒に渡されたのはそこいらのコンビニで普段も売っているチョコ。
タマモにチョコを貰えるとは思っていなかったのか心底驚いた顔をする横島に投げつけられるのは「義理」の一言。
それでも嬉しかったのか横島は自分たちの時とは明らかに質の違う笑顔を浮かべてタマモに礼を言っていた。

思い出すとちょっとムカっとくる。
そりゃ横島の心理もわからないでもない。
人間とは予想外の幸運のほうがより嬉しく感じるものである。
例えばあまり親しくない知人から貰った年賀状が当選していたら、急にその人に親しみを感じるなんてのはよくある話だ。
それはわかるがでもあの笑顔は無いんじゃないかと思う令子だ。
だってその理屈で言うなら自分だって初チョコじゃないか。
なんだこの差はってもんである。
しかもタマモも顔こそ明後日の方を向いていたが頬なんか微妙に紅く染めていたりして。
ちょっとなに?この初々しい空間は?!と口から出かかる文句をなんとかかみ殺したのだった。

とはいえそれがこの暴挙の原因とはとうてい思えない。
あの場を見ていた自分だから言える。
横島の態度はごく普通であったはずだ。
となればその後にタマモを怒らせるような何かをアイツがしでかしたとしか考えられないではないか。

(タマモ…チョコありがとな…これはもう愛の告白としかぁぁぁ!!)

(きゃーーーっ! やめてぇーーー! どこ触っているのよー!)

不意に花瓶からポタリと落ちる椿の花のイメージが浮かんで消える。
まずい…この想像はまずい…。だってなんだかそこはかとなく18禁。
いやでももう少し…

(ううっ…もうお嫁にいけない…)

(お前とはもう終わったのさ…)

(ヒドイっ! 私とのことは遊びだったと言うの!!)

(お前がくれたチョコ…返しておくぜ…)

(うわぁぁぁぁぁん)

なるほどなるほど…こんな展開があったならばタマモの怒りも当然だ。
むしろ女としては助太刀したい気分である。
見ればおキヌも同じような想像をしたのであろう。
微妙に赤く染まった頬とかすかな怒りの色を浮かべた目が雄弁に彼女の内心を物語っている。
シロはといえばまだ脳みそが事態を把握しきれていないのか顎を落としたまま。
でも今はその方が都合がよい。
なにしろこれから横島の折檻が始まるのだから。んふふふふ。
さぁてどんなお仕置きをと引き出しの神通棍を手に取ったのが合図というわけでもないだろうがタマモがピョコタンと自分に向けてお辞儀をしてくる。
その顔に浮かぶは満面の笑み。
口から出るのはどこか芝居がかった台詞回し。

「いつもお世話になっている美神さんたちへの感謝を込めてタマモちゃんがお送りするイリュージョン。必殺ナイフ投げー!!」

「は?」

今、タマモはなんと言っただろうと再び凍りはじめた脳みそで考えてみる。
えーと…感謝をなんたらとか…あー…つまりタマモは私たちに芸を見せようと言うのか。
それがつまりどういう理屈か知らないけどナイフ投げなわけだ。
なるほど言われてみればタマモの衣装もそれっぽいし、横島が板に磔になっているのも当たり前だ。
そして彼が怒濤の涙を流しながら首をブンスカ振っているのも必然だ。
だってタマモは「必殺」って言ったし。
うーーーん…これは年長者として否、事務所の責任者として止めた方がよいかも知れない。
いくら横島でもナイフの直撃は死ぬっぽいし。

「ではいきますー! まずは第一投!」

止める間もあらばこそタマモが投げたナイフは電光の速さをもって横島へと飛んでいく。


チーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


「ひゃああっ! み、美神さんっ! 今お葬式でよく聞く鐘の音がっ!」

そりゃあそういう効果音が鳴っても仕方ないだろう。
だってナイフは深々と刺さっているのだ。横島の眉間に。
今までさんざん振り回されていた横島の首ががっくりと前に倒れているあたりどっから見ても致命傷。
いやでも落ち着け美神令子。
タマモはイリュージョンと言っていた。
つまりトリックがあるはずだ。そうに違いない。
ていうか事務所で殺人事件は勘弁してほしい頼みますと一縷の救いを求めてタマモを見れば、コメカミにでっかい汗の粒を貼り付けて固まっているタマモがいたりして。

「あ、あは…失敗しちゃった…てへっ♪」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!」

あまりに無慈悲な言葉に絶叫する美神令子の目の前で、ぐったりとしている横島に室内にもかかわらず天から降り注ぐ柔らかい光。
周りに突然流れる荘厳な音楽。ぶっちゃけいえば賛美歌。
ふわりと横島の体から抜けた魂が背中に羽を生やして浮かんでいく。

「わーっ! 横島さーーーん! 死んでも生きられるから逝っちゃ駄目えぇぇぇぇ!!」

おキヌの絶叫に頭に輪っか、背中に羽、そして白い服になった横島はハンカチを振りながらどんどん天へと召されていく。

「ど、どうするんでござるかっ! タマモおぉぉぉ!!」

やっとのことで硬直が解けたシロがタマモに食い下がる。
なにしろこのままではこの相棒は師匠の仇になってしまのだから彼女も必死。
そうか!文珠なら生き返らせることが!!と思っても肝心の使い手が天に召されているんだから蘇生は無理。

パニックになる一同をタマモは不思議そうに見渡し、ポンと手を一打ちしてシロの背後に電光の速度で回りこむといきなり彼女のジーンズを引き摺り下ろした。
たちまち露になるシロらしい純白のパンツ。
彼女の健康的な脚線美とマッチしてなかなかにセクシーだ。

「なにを!」と抗議の声を上げかけるシロの目の前に不意に立つのは横島の魂。
どうやらシロちゃんパンツに釣られて天国の入り口からマッハの速度で帰還したらしい。
しゃがみこんでパンツを見入っている魂の襟首をタマモががっちりと捕まえると掛け声一閃の電光の背負い投げで横島の亡骸に叩きつける。
途端にパチリと蘇生する横島君。いつの間にかナイフも抜けているし猿轡も外れていた。

「はっ?! 俺はいったいなにを?」

「そんな生き返り方があるかぁぁぁぁぁ!!!」

普通はありえないが横島だからあってもいいような気がしないでもない。
でもやっぱりちょっと納得がいかないのか肩で息する令子。
師匠が生き返って喜べば良いのか、パンツを見られたことを恥ずかしがれば良いのかと悩むシロ。
呆然とするおキヌ。
そんなメンバーをチラリと見てタマモはうーんとばかりに手を形の良い顎に当てて考え込んだ。

「やっぱり少し保険をかけた方がいいかも…」

謎の言葉を呟きつつタマモはまだ呆然としていたおキヌの背後に回ると「とう!」と掛け声とともに彼女の長めのスカートを捲り上げた。
いわゆるタマネギ、またの名を火星人である。
当然のことながらパンツは丸見え。しかもシロよりちょっと大人っぽい。

「きゃあぁぁぁぁっ!」と悲鳴を上げるおキヌの前で横島も「ぬおうっ!」と喜びの声を上げる。
ついでに彼の股間から浮かび上がる奇妙な文字。


1UP!!


「マリ〇かぁあああぁぁぁっ!!」

「うーんまだ足りないかも…ねえ横島…これが終わったら私の初めてをあ・げ・る」

「マジですかぁぁぁぁ!!」


1UP!!1UP!!1UP!!1UP!!1UP!!


「あああああ…横島さんの残機が増えていくうぅ」

「残機ってなによぉぉぉぉ?! ってそんなことより初めてって! 駄目よそんなのっ!!」

ワタワタワタと取り乱す令子にタマモはキョトンとした顔を向けた。

「えー。別にいいじゃない」

「良くないわよっ! もっと自分を大事にしなさいっ!!」

「そう? 私、横島なら別にいいと思うけど?」

「あ、あんたねぇ…」

あまりにもあっさりと返されてさしもの令子も言葉を失った。
まさか…チョコ一個からここまで進んでいたとは…恐るべし年頃の少女。
いやいや、それとも忙しさにかまけてちゃんと一般常識を教えなかった自分が悪いのか?
オロオロとうろたえる令子とあまりに明け透けな告白に完全に固まる他のメンバーを尻目にやはりと言うか起動したのは横島だった。

「タマモ! 実は俺もお前のことを生まれる前から愛していたんだっ!」

「きゃっ! そんないきなり…みんなが見ているじゃない♪」

「かまうもんかっ!」

唐突に発生するラブラブ時空。
そんなものを認めるなんて屈折した令子には無理な相談で。
ギリリと奥歯を噛み鳴らし、手にした神通棍に霊気と怒気を送り込むと大絶叫。

「いい加減にせんか貴様らあぁぁぁぁ!!」

「む? 邪魔する気?」

「逃げるぞタマモ!」

「うん! 忍法微塵隠れ!!」

激しい爆音と煙が室内を駆け抜け思わず閉じた目を開けた時、そこに二人の姿は無かった。

「自爆したっ? 違うわこれは目くらましね! てことは外かっ!! 行くわよシロ! おキヌちゃん!」

「はい!」
「承知!」

こうして令子たちが部屋から飛び出し、事務所は今までの騒ぎが嘘のように静けさが訪れる。
やがてタマモが持ち込んだ箱がパタリと倒れると二重底になっていた箱の下から横島とタマモが這い出てきた。

「行ったか…」

「そうね。 今のうちにミッションを!」

「応」と頷いて横島は令子がつけっぱなしにしていたPCへと向かうとなにやらカチカチと操作し始めた。

「うむ。 これだな…やっぱりかぁぁぁぁホントにあの人はあぁぁぁっ!!」

「なに?」

「見ろっ!俺の給料が一桁違うっ!しかもお前やシロにまで給料を払っていることになっているんや!」

「それってどういうこと?」

「これはな脱…「ほほう…何を調べているのかしら?」……節税というのだよ…って美神さん! 外に行ったんじゃ!?」

「んふふふ…考えてみればさ。タマモはイリュージョンって言っていたのよね…でもナイフ投げはイリュージョンとは言えないでしょ。つまりあれはすべて幻術ってこと。さて…だったらそんなことをした理由はなにかなー…んふふ…簡単な推理よね」

「あうあうあう…」

壁まで追い詰められて抱き合って震える二人。
それがまた令子には気に入らないらしい。
手にした神通棍の光がピカピカピカと二割増し。

「つまり私をここから遠ざけたかった…違う?」

ガクガクと首を振る二人はもう隠す気力も無いらしい。
となれば令子がとる手は一つ。
具体的には口封じ。

だがビーチのスイカも照覧あれ!とばかりに振りかぶった神通棍は突然飛び込んできた影にあっさりと止められた。

「いい推理ね令子…」

「ま、ママ?」

「横島君ありがとう。データーは確かに受け取ったわ。このノートパソコンにね」

ニッコリと笑う依頼主もとい美智恵さん。
実はすでにデーターは転送されていたらしい。

「な、なんのことかな?」

「うふふふふ。まさかこのまま申告に行くとか言わないわよねー?」

行ったらシバクと目が語っている。
その圧力は石炭すらダイヤモンドに変えかねない。
当然、令子が逆らえるはずもなく、彼女はがっくりと膝をついたのだった。


その夜、事務所近くの公園で美智恵から貰った報酬で買ったコンビニのおでんをつまみながら、コーラとお茶で祝杯をあげる少年と少女がいた。

「うまい! こりゃうまいなタマモ!」

「でしょ! あそこのちくわぶは中々いけるのよ!」

「それにしてもこうも上手く行くとはなぁ」

「ふっふっふっ。タマモちゃんの幻術の素晴らしさね。感謝しなさいよ」

「そだなー。あ、でもちょっと残念かも…」

「なにが?」と首を傾げるタマモに横島は彼にしては珍しく、少しだけ照れながらも少女の耳に口を寄せる。

「だってお前の初めて貰い損ねたし…」

「バカね。ちゃんとあげるわよ」

「え?」

そして少女に初めてのキスを渡された少年は、食べかけのちくわぶを持ったまましばらくの間、石になっていたそうな。


おしまい


後書き

ども。犬雀です。
えーとまぁこんなバカな話もたまにはいいかなぁと。
元ネタはしばらくの間、犬の着メロになっていたアレです。はい。
ではでは


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