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「ある男の歩いた道(GS)」

アイク (2007-03-18 01:09)

そこは酷く薄暗く、ギィギィといった異形の者達の声が木霊する所。
そして、かの者達は全て牢屋に入れられている。

そこは牢獄。悪魔達の牢獄。
カトリックの総本山、ヴァチカン宮殿の地下に隠された牢獄・・・
強力な魔を封じ、魔具を封じる、ある意味博物館と言えるだろう。

「人間!飯!メシ〜!食わせろーーーッ!!」

そんな所に来客が有った様だ。
一体の魔物が柵の間から手を伸ばし、さも楽しそうにそう叫ぶ。
魔物が暴れ、牢はガシャガシャと音ををたてる。

4人の神父が1人を囲み、真ん中の人を護送している。いや、連行している。
真ん中の人物はボロボロの囚人服に顔をフードで隠し、
その両手足は鎖で繋がれ、更に足には鉄球が取り付けられていた。
彼が歩くたびに鎖がすれ、ジャリジャリと特有の音をたてる。

「・・・新入り、か?
 おい、そいつは何をやらかしたんだ?
 大体、人間をこんな所に幽閉しようたぁ正気の沙汰じゃないぞ?ええ?ククク」

彼等は一言も会話らしい会話はしていない。
連行されている者も抵抗らしきモノは何一つせず、黙々と歩いている。
連行している彼等からすれば酷く不気味で恐怖の対象なのだろか、
連行している4人の額には珠の様な汗が流れている。

一柱の実に悪魔らしい格好をした悪魔が楽しそうに聞くも誰も答えない。
ただ沈黙を貫くのみ・・・
そして、4人の表情は実に堅い。
表情を堅くしているのは緊張からか、それとも恐怖からか? 

そんな4人の表情に悪魔はただ嘲笑するのみ。

黙々と彼等は奥へ行く。この牢獄の最深部に・・・


「やあ・・・やっと来たね、おとなりさん」

最深部に囚われている魔、前知魔ラプラスは彼が来る事を知っていた様だ。
三つの目でフードを被った人物を静かに見、そう言う。

ゴシャ  グシャ
                ドサッ

「「っ!?!」」

「ククク・・・」

そんな時フードの人物は動いた。両手を拘束する鎖で右斜め後ろの神父の顔に打撃を与えたのだ。
力の限りバックスイングし、振るわれたソレは正に凶器。
骨の砕ける様な音がした。

だがフードの人物は止まらない。
殴った男の頭を両手で掴み、彼の体を軸に跳び、左斜め後ろにいた神父に蹴りを放つ。

蹴り自体は神父には当らなかった。だが、フードの人物を拘束していた鉄球が寸分たがわず当たり、
彼の頭を砕く。

それは正に一瞬、刹那に起こった出来事。

不気味な音に前の二人が振り返って見たモノは頭が潰れ、床に倒れた同僚に、
実に静かに立つフードの人物。
実に自然に立つ彼に、彼等は武器を抜く事も忘れ、息を呑む。
そんな光景にラプラスは小さく笑う。

ゴキュッ

「がぁ・・・っ!」

ドサッ

「っ!ば、馬鹿な!特殊拘束具で霊気は封じたはず!何故!?」

そんな2人にフードの人物は何も言わず1人の後ろに回り、鎖で1人の首を絞め、
そして気管、動脈、静脈を潰す。

仲間が全員死んだ事で正気に戻った最後の一人はそう叫んだ。
そして同時に後ろに自然と足が動く。

「おまえが知る必要は無い」

フードの人物は小さくそう神父に呟くと、組んだ手を頭に振り下ろし、
ゴシャ、っと骨の潰れる音をたて、頭を体に押し込む様に潰す。

そんな時、顔を隠していたフードが外れ、顔が露になる。

「『おまえはもう死ぬのだから』かね?ククク・・・久しぶりだね。文珠使い」

ラプラスの言葉に彼は、横島忠夫は沈黙をもって答える。

「さて、何の用だね?」

「・・・分かっていて聞くのか?」

「以前会った時にも言ったと思うが、ココには娯楽が無いのだよ」

ガラス越しに話す横島とラプラス。
ラプラスは実に楽しそうにしているが、横島は無表情にラプラスを見ている。
そして、ラプラスの言葉に呆れたのか疲れたのか、横島は溜め息をついた。

「・・・俺が前にココに来た時、俺がココにもう一度来る事を知っていた。違うか?」

「さて、ね・・・本題に入らないのか?」

「・・・食えない奴だ。じゃあ聞くが・・・なぜこんな事になったと思う?」

「ククク、わざわざ私の意見を聞くために捕まるとはご苦労な事だ」

茶化す様に言うラプラスに横島はただ静かにラプラスを見るのみ。
ラプラスは小さく笑っている。

「分かった。語るとしよう。
 オカルト史上最悪の事件の幕開けを・・・横島忠夫の新たなる始まりを・・・」

ラプラスはそう言い語り始めた。


事の始まりはアシュタロス事件終結2周年の時に起こった。
その全ての原因はオカルトGメンの内部抗争だ。

彼等にとって、全ての魔や妖に属する者達は滅すべき者、
そして美神美智恵は彼等にとって正に目の上のコブ、邪魔でしかない存在だった。

あの手、この手と彼女を失脚させ様と策を考えいた彼等の中でも、不協和音の音は鳴っていた。
所詮は女と見くびっていた奴等と、確実な策を思いつくまで行動しない者達に。

事も有ろうに見くびっていた彼等の一部が、痺れを切らしたかの様に動きだしたのだ。
しかも、一部の議員と連携して。

実に厄介で、後先考えていない方法で。

アシュタロス事件の真相を全メディアで流すという暴挙に。

さて、暴露されて一番困るのは誰だろうか?
一部の者達は美神親子と考えた。

そして、ソレは正しかった。

美神美智恵は全責任を負い、オカルトGメン日本支部長を辞任し、
美神令子は吊るし上げを喰らった。
これで風は自分達に吹いたと思った彼等は一斉に動きだす。

美神令子は叩けば叩く程面白い位に色々と出てきた。

金毛白面九尾の事もその中の1つ。

彼等は全メディアを通し、妖怪の危険性を過大評価気味に国民に伝える。
結果は簡単に出た。

妖怪狩りという最悪の形で。

そして、その矛先が向いたのは妖怪達だけでは無い。
匿っていた、保護していた者達もだ。

彼等の行動は実に迅速かつ的確で、美神達が反撃する前に、
日本政府高官を傀儡と化し、権力のほぼ全てを手にしたのだった。


結果から言おう。
美神親子、氷室キヌ、犬塚シロ、タマモ、ピエトロ=ド=ブラド−、西条輝彦を始め、
一時アシュタロス戦の英雄やその関係者が次々と、事故や事件に見せかけ殺された。

まだ幼子だった美神ひのめまでも・・・

そんな中、横島だけは生き残った。
横島は自分を呪った。力無き自分、誰一人護れない自分を・・・
そして、自分を呪いながら横島は逃げた。

そんな横島に日本政府は指名手配をかけた。
罪状は妖怪保護に大量殺人、アシュタロスの復活等適当にでっち上げたモノも含めて。

1年、2年と横島は逃げ続ける。
そんな横島に彼等は業をいやし、最悪の札をきった。
彼の両親の殺害。知人、幼馴染、同級生も同じく事故に見せかけ殺した。


横島はその時、自分の中で何かが壊れたのを自覚する。

そうして、行動を始めた。

目的は唯一つ・・・

復讐のみ・・・

操られていた者共など、関係なく横島はただ殺す。
霊能力で殺す時もあれば、銃火器で殺す事もある。
次々と殺されていく同志達に彼等は大きな過ちをした事に気付いた。

先ず最初に始末しなければいけなかったのは美神親子ではなく、横島忠夫という事に・・・


5年の月日、横島は殺し続けそしてふと思い出した。
ラプラスの事を。そして、ローマ法王はこの事を知っていたのではと。
それと同時に、第三者的になぜこうなったかを判断できる者、
ラプラスの意見が聞きたくなった。

そうして横島はわざとヨーロッパで捕まり、文珠で『誘導』させて潜入したのだった。


横島はラプラスの語る自分の辿った道に何も言わず、静かにラプラスを見ている。
その目には憎しみ、悲しみといった負の感情だけでなく、好奇心も見える。

「さて、私の見解を話すが良いかね?」

「ああ」

「結論から言うとだね。全てが間違いだったのだよ。全てがね・・・」

ラプラスの言葉を横島は静かに聞いている。
そんな横島の様子にラプラスは笑みを深める。

「つまり・・・この結果は人の欲が生み出したモノなのだよ」

「なるほどな・・・なぁ、俺のやった事をおまえはどう思う?」

「悪魔である私に聞くかね?」

「誰に聞こうが俺の勝手だ」

ラプラスの答えに横島は同調し、そして尋ねる。
自分のやった事は無駄だったのかと。

「ククク・・・実に楽しい。
 では遠慮なく言わせて貰うが、君は耐えた方だと私は思ぞ。
 私は様々な人間の未来を見てきた。君と似た様な事も・・・
 現実に耐えきれず自殺する者、君の様に復讐にはしり殺される者等ね。 

 ククク、私がこんな事を言うとは・・・実に面白い」

ラプラスは悪魔である自分が励ましに近い言葉を横島に送った事に笑いを堪えられなかった。
横島は、唯一接触できる引き出し、法王の日記を入れる為の引き出しに自分の髪を数本入れ、
ラプラスに背を向け歩きだす。

「行くのかね?」

「ああ。その髪は報酬という事で」

「ククク、十分だ」

横島はラプラスに背を向けたままそう言うと来た道を戻り、再び狩り始めた。
自分達に不幸をプレゼントした奴等を・・・

美神達が他界してから9年。横島は目的を果たした。

そして横島の行方を知る者はいない。一説には死んだともある。

後にこの事は一冊の本になる。
タイトルは『悲劇と復讐 〜自分は何がしたかったのだろうか〜』 
ちなみに作者はラプラスだったりする。
法王推薦の一冊になり、なぜかベストセラー。

民衆の魔や妖しに対する意識が緩和した。


ちなみにその頃、横島は実は妙神山にいた。
この事を知り、慰めてきた高校生並に成長したパピリオに手を出し、人生の墓場に入った。
薔薇色の鎖に繋がれたと言っても良い。

小竜姫がパピリオを説得し、横島とパピリオの愛の宴に混ざるという事等有ったが、
当人達が幸せであれば関係ない。


余談だが、
『悲劇と復讐 〜自分は何がしたかったのだろうか〜』を読んだパピリオや小竜姫、
ワルキューレ、ジーク、ヒャクメ、斉天大聖 等が爆笑し、横島は顔を真っ赤にした。

ちなみに『悲劇と復讐 〜自分は何がしたかったのだろうか〜』は神界、魔界でも売られ、
ラプラスは作家デビューした。

売れゆきは上々で、実は神魔双方の最高指導者の懐が温まったりもした。


―後書き―
実はコレ、『闇に染まる』のプロトタイプを短編に再構成しただけのモノなんです。
たまに、こっちの方が良かったか?と思ってしまって、
つい我慢できず投稿して反応はどうか見てみたくなりやっちゃいました。


△記事頭

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