―――横島除霊事務所 2階―――
一人の男が窓際に近づく。
その男は紺色のGジャンとジーンズ、黒のシャツ、赤のバンダナを身に付けている。
彼は窓ガラス越しに外の景色を眺めている。
その景色は夕日影に照らされた雲や屋根が映えて見え、幻想的な風景となっていた。
彼は呟く。
『昼と夜の一瞬のすきま 短時間しか見れないからよけい美しい』
彼のかつての大切な人の言葉だ。
それはとても感慨深く、ある一種の呪文となる言葉なのかもしれない。
やがてそれは夕日の美しさをより一層に増していくようにも感じられ、彼に『切なさ』と『安らぎ』という相反する心情をもたらしていく。
そんな夕景を彼は愛おしく眺めていた。
彼は『横島 忠夫』。
かつての『アシュタロスの乱』と称された事件の影の功労者である。
その事件の中で横島は心に深い傷を負うことになる。
その傷が癒えることは恐らくないだろう。
守りたかった大切な人との別離(わかれ)はそれだけ悲愴だったのだから。
高校を卒業して1年後、横島は美神除霊事務所から独立した。
事務所を構え、これを『横島除霊事務所』と名付けた。
―――ガチャ
「戻ったぞー、横島」
1階から声がした。
(お、戻ってきたか。雪之丞)
そう、俺は『伊達 雪之丞』と事務所で働いている。
俺が独立する時に同行を求められ、そのまま所員となった。
GS試験を再び受け、現在はGS見習いとして働いている。
―――横島除霊事務所 1F―――
降りると既に電気が付いて、1階は明るくなっていた。
玄関には雪之丞がおり、その両手には大きめの袋をぶら下げていた。
雪之丞は黒のスーツに白のワイシャツ、黒の帽子を身に着けている。
「おらよ、頼まれた物だ」
その袋の中には大なり小なり大量のカップ麺が入っていた。
タイムセールでカップ麺が定価より安くなるということで、雪之丞に買いに行かせたのだ。
大量にカップ麺を買ったのは2人とも料理ができないからなのだが。
「サンキュー」
雪之丞からカップ麺と領収書を受け取る。
「なぁ、まだ仕事が来ないのか? ペットの探索とか買い物とか、俺はもういい加減うんざりしてきたぜ」
雪之丞は不機嫌そうに言う。
唯でさえ目つきが悪いのに、不機嫌さで凶悪さがより一割増していく。
依頼の成功率は高いのだが『横島除霊事務所』の知名度がそれ程広まっていないのか、依頼が来ることは割と少ない。
依頼がない時は、副業として探偵をしている。
雪之丞がイライラ気味なのは、副業で犬やら猫やらの捜索を連日していたからだ。
「1件だけ来ているぞ。それもAランクだ」
横島は依頼が来たことを雪之丞に知らせる。
GSの世界ではランクがある。
このランクは除霊対象の強さ、難度を事前調査によって定められた位だ。
ランクは以下のように定まっている。
Eランク:浮遊霊などの無害な霊程度のモノ
Dランク:霊力が若干強い一般人でも祓える程度のモノ
Cランク:霊的トラブルの対象となるモノ
Bランク:GSに死者が出た場合の対象となるモノ
Aランク:通常の除霊では祓えない対象となるモノ
Sランク:複数の高位GSへの要請が必要になる対象となるモノ
一般のGSでは手に余るモノとされている『Aランク』の依頼が入ってきたのだ。
「おぉ!!よし、早速行こうじゃねぇか! 溜まりまくった鬱憤、晴らしまくってやるぜぇっ!!」
バトルジャンキーな雪之丞はより強い相手とようやく戦えることに興奮し、テンションが上がっていく。
まるで明日の遠足が楽しみで待ちきれないって感じだった。
「えぇい、やかましい! 行くのは明日にする。詳しい話を直接聞きたいからな」
「くぅ〜、明日が待ち遠しいぜ! …で、何処に行くことになるんだ?」
―――横島除霊事務所 事務室―――
横島は地図を取り出し、広げて『ある場所』を指す。
指したその先は山村のようだ。
「白髪(しらかみ)村。そこで依頼者と待ち合わせている」
――――――To Be Continued.
―――あとがき―――
初めまして、こちらに初投稿させていただきました「テア」と申します。
初作品のため、おかしな所がいくつか出てくるような不出来な物となってしまうかもしれません。
この点は努力しますので宜しくお願い致します。
さて、本編のいくつか注意事項を申し上げます。
・この物語にはオリジナルキャラが含まれます
・本編に出る人物、地名、逸話は実在しているものではありません
・キャラクターの本来の性格等が異なっている部分もあります
・この物語は「アシュタロスの乱」から数年後の舞台として設定しています
基本的に個人の趣味で書いていますが、いくつかの設定はあくまでこの物語上の設定なので他意はありません。
以上の注意を理解していただき、また、楽しんでいただけたら幸いです。
それでは引き続き本編をお楽しみください。