俺は泣いた
悔しくて
情けなくて
弱い自分が
好きな奴を護れない自分が憎くて
啼いた
正直、俺はただのバカだ
大見得はって、アシュタロスを倒すって言った
確かに倒しはした
おまえの・・・
おまえの命を犠牲にして・・・
一番、護りたかったおまえを犠牲にして・・・
ルシオラ・・・
俺はお前に何もしてやれなかった
俺にはおまえに救われる価値なんて無かったのにおまえは・・・
俺に、幸せになる資格は無い
おまえを犠牲にした俺には・・・無い
俺に出来るのはただ一つ
それは演じる事
おまえの言った“俺”を演じる
それしか、俺はおまえに出来ないから・・・
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最高で最低な演技
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あるボロアパートの一室にその男はいた。
歳は17,8程の青年はただ天井を見つめる。
だが、見えてはいないだろう。
何故なら、ただ目を向けているにすぎないからだ。
その目に希望や喜びといった光は無く、ただ存在するのは虚無の闇。
だが、その顔は笑っている。
悲しくとも笑っている。
彼を知る者が今の彼を見れば、我が目を疑うだろう。
彼の笑顔はどんなバカなマネをしようとも、愛嬌が有り、優しさがあった。
今の彼の笑顔は、まるで彫刻。
昔の芸術家が作り出した様な、人形の様な・・・
いや、人形等のほうがまだマシな顔をしている。
カチ、カチと目覚まし時計の秒針が動く音がやけに大きい感じがする。
彼はふと時間を見た、時刻は午前5時半を指している。
「・・・いつもより10分ぐらい早いな」
彼の掠れた様な声は亡者さえも驚く程、冷たい。
ゆっくりと彼は立ち上がり、窓から光を注ぐ朝日を見た。
朝日は平等に、皆に暖かさを振りまき、
皆を暖かくする。
しかし、その光は彼に、横島に当らない。
例え当ったとしても、心には伝わらない。
ドンドンドン!
「せんせ〜!サンポの時間でござる〜!」
無駄に元気なシロの声に横島は扉を開く。
「やかましい!ちったあ時間を考えろ!」
「きゃいんっ!」
横島は“いつもの”横島になり、シロの頭を一発ゴツンと殴る。
今の横島に、先程の虚無は無い。
「サンポ!サンポに行くでござる!」
「あ〜分かったから静かにしろ」
横島に殴られても、シロは無邪気で天真爛漫な笑顔で散歩をねだる。
横島はそんなシロに呆れ半分な感じに言う。
“いつもの横島”だ。
こうして、その日も始まる。
世界最高の・・・いや、人界最高の道化師の芝居が。
舞台は最高に美しく醜い人界。
公演時間は道化師の生きる時間。
観客は全ての者達。
誰もが笑い、誰もが喜ぶ最高の演技。
だが、道化師は気づかない。
気づけはしない。
部屋に、大切に置かれた蛍が光っている事に。
悲しく光っている事に・・・
気づかない。
―後書き―
俺、何やってんだろ?
書き終わってから何時も思う事の一つ。
今回のテーマは、思いの行き違い。
ルシオラの最期に言った言葉を、
自責や悲しみの塊になった横島がこう受け取って、
てな感じで。
電波でも受信したかの様に30分程で書いた一品です。