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▽レス始

「はう まっち?(GS)」

雨男 (2007-02-17 15:34)


 始まりは些細なことだった。

 簡単とはいえ数千万クラスの仕事を無事終え、

(おキヌちゃんいい匂いやったなぁー)

 ………仕事とは関係ないところで傷を作り、住み慣れたボロアパートに帰宅してすぐにつけたテレビ


 そこに映ったCM、それが分岐点だった。


 はう まっち?


「給料上げてくださ「ヤダ」」

 即答、シンキングタイムゼロナッシングどころかマイナスの域に達していた。
 どうやら横島が事務所に顔を出した時点である程度の予想をつけていたのだろう。
(裏を返せば、それだけの予想を可能にするほどの注意力と観察力を横島に注いでいると言えるのだが……)


 ここまでは今までにもあった光景、おキヌがおろおろし、タマモが呆れ、シロがよくわかってない所を含めて

 ここからが、いつもと違った。

「お願いします。3ヶ月だけでもいいんです」

「3ヶ月?」

 微妙な期限付きの条件に美神の眉が寄る。
 美神の明晰な頭は直に3ヵ月後の行事や予定を思い浮かべる。

 例えば、

「メリークリスマス美神さん、これ美神さんに似合うと思ったんですけど……」

 とか、

「誕生日おめでとうございます。コレたいした物じゃないですけど……自分の気持ちです」

 とか、

 微妙に思考が乙女チックなのは……まぁ、仕方ないんじゃないかなぁ。


 一応、彼女も乙女だし……。


 だが、美神のちょっと火照った頭には特にそういった行事は思い浮かばなかった。
 おキヌやシロ、タマモに愛子、小鳩、冥子、エミ、魔鈴、マリア、小竜姫、ヒャクメ、ワルキューレ
 パピリオ、べスパ、果ては美智恵やひのめなんかも疑ったりしてみたが、美神の頭にヒットするものはなかった。

「理由は?」

 なので単刀直入に、プレッシャーをかけながら聞いてみる。

「………言えません」

 たっぷり、三拍はおいてから言葉を選びつつ横島は答えた。

「………」

 やはりいつもと違う、と美神は思った。
 いつもなら、この子供なら泣く前にひきつけを起こしそうな殺気の前に聞いて無いことまで栓の壊れた蛇口のように喋りだすのに

 ……ちなみにシロはひきつけを起こしている。


「それで、いくらくらいが横島君の希望なの?」

 方向性を変えて情報を集める作戦に切り替える。
 視線に、「あくまでも聞くだけよ」と込めながら。

「いくらでもかまいません。……ただ」

「ただ?」

「自分の価値に見合った金額にしてください」

 その言葉の意味をコンマの世界で分析した美神は心の中で舌打ちをした。

 悪くない手だ、むしろ良手と言ってもいい。
 下手に自分から金額を言って交渉の末、元の値段より格段に値切られることは目に見えている。
 さらには仕事中のミスやセクシャルハラスメントによってマイナスされていくのはラプラスでなくとも分かると言うものだ。

 だから相手につけてもらう。
 ミスやセクハラをすることも含めた、横島忠夫の価値
 地獄の守銭奴にして金欲の亡者王、美神にとっての横島忠夫の価値

 思わず美神は歯噛みした。

 一体、誰に吹き込まれたのだろう?
 ママかエミか、どちらにしてもただで済ませる気は無い。
 その辺りの事も聞き出さなくては、と視線にさらに力を込める。

「横島君」

「はい」

「その条件だと現状よりも給料が下がる場合があることをちゃんと理解している?」

「! ………もちろん、分かっています。その時はその時です」


 その言葉に含まれる覚悟の量を見誤ったのが


 美神令子の敗因


 そして、己の覚悟を伝え切れなかったのが


 横島忠夫の敗因


 つまるところこの勝負に勝者は無く、ただ敗者が己が愚かさを嘆くのみ。


「じゃ、時給100円」

 あっさりと決は下った。

「みっ、美神さん!?」

 静観していたおキヌが思わず止めに入る。

「その金額はいくらなんでもひどすぎます!
 昨日だって身を挺して私を守ってくれたじゃないですか!
 私の腰に腕を回してひとっ跳びですよ!見た目よりもずっと逞しい胸に私を押し付けて!
 もうこのままどっか連れてってくれないかな何て思わず―えぅっ!?」

 ステキにワンダーな世界に逝ってしまったおキヌをタマモが落とす。
 その際、少しだけ力が入ってしまったのはご愛嬌

「………100円ですか?」

 どうやら横島は過去十秒間ほどの記憶を意識的に失ったらしい。

「…………そうよ、何か文句ある?」

 美神も横島に倣ったらしい、素晴らしきチームワーク

「……そう、ですか」

 横島は肩を落とした。

 もちろん横島には美神がまだ交渉する気であり、自分の反応を待っているのは理解できた。
 そのあたりは短い付き合いでもなければ薄い関係でもない。
 冷たく、突き放した態度はブラフで交渉のイチニアブシを取ろうとしている所まで完全に理解していた。


 理解はしていた、いたけど、でも、だから、こそ


「俺、事務所辞めます」


 昨夜、横島が偶然見たCMはなんてことはない唯の結婚式場のCM
 内容はボブカットのウエディングドレスを着た女性が幸せそうにはにかみながら指輪をはめてもらう
 ただ、それだけのCM


「あいつには………」

 夕焼けが全てを朱に染める帰り道、男は一人呟いた。

「あいつには結局、何もあげてやることが出来なかった」

 してあげることは出来たと思う、でも形の有る物は贈る事が出来なかった。

 だからせめて、と自分でも単純だなと思いながら結婚指輪を買おうと決めたのだった。
 しかし問題が一つ、昔から言われる給料3ヶ月分の指輪だと横島の場合子供の玩具と変わらないようなものしか手に入らないのだ。

 それではあまりにも、そう考えて行ったのが先程の賃金値上げ交渉

 美神に自分の価値を聞いたのはあくまでの自分の考え
 自分という存在をを一番近くで見て、正当に評価を下せるであろう人に今の自分の価値を聞いてみたかったのもある。


 その結果が100円


 認められない、それが冗談交じりの話だとしても
 許せるない、それがたとえ美神の言葉だとしても


 あいつの魂が混じったこの命は決して安くはないと、信じているから。


 だから、示さなくてはならない。
 自分の価値を、あの世界一いい女が魂を分け与えた存在の価値を、世界に示そう。


 ……馬鹿なことをしていると思う。
 たぶん、あいつはそんな高いだけの指輪では喜ばないだろう。
 きっと俺が心を込めて作る安価なペアリング、そっちのほうが彼女は喜ぶのだろう。

 この世の誰よりも幸せそうに、輝くように微笑むのだろう。

 勝手な想像だ、もしかしたら現実は違うのかもしれない。
 ……でも、俺がそう思うならきっとそうなのだ。


「まっ、しゃーねーな。とりあえず雪之丞かカオスの爺さんでも誘って一旗上げるか」


 生まれてくる子供にひもじい思いはさせられないし、父親はアルバイターですってのも寒いしな。


「待ってろよ。世界一綺麗な指輪をプレゼントしてやるからさ………ルシオラ」


あとがき

皆々様始めまして、雨男と申します。
SS初投稿です。心臓バクバクです。

SSの内容についてですが、まず宣言を
この作品は自分の頭で考えました。
なぜわざわざ宣言したかというと、GS系の作品が他にも星の数あるからです。
つまり、コレはあの作品(不特定)の盗作ではないのか?
とか言われても私は知りませんという意味です。
根が臆病なもので、スミマセン。

もしこの駄文を最後まで見た方がいらっしゃいましたら是非感想下さい。待ってます。

それでは、再見。


△記事頭

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