「横島さん、今日の晩御飯は何にしますか?」
「んー、おキヌちゃんの好きな食べ物でいいよ」
「私の好きな食べ物ですか?なら、『横島さんが好きな食べ物』ですよ。というわけでお願いします」
「意地悪だなあ。じゃ、ハンバーグ頼むわ」
「はんばーぐですね。じゃ……あっ、挽き肉が無いですね。ちょっといつものすーぱー行って来ますので、待っててくださいね」
「わかったよ。じゃ、気をつけてね」
「はい♪ じゃ、行ってきます」
俺に手を振りながら、アパートの扉をくぐっていくおキヌちゃん。
早いもので、おキヌちゃんの一途な想いを受け入れてから……俺とおキヌちゃんが付き合いはじめてもう十ヶ月にもなる。
なんだかんだいっても、やっぱりおキヌちゃんは贔屓目無しに可愛い。優しくて純粋な上に、時々天然ボケをかましてくれるところなんてもう可愛すぎる。
それ以外にも、俺と二人っきりのときの甘えるような可愛い仕草、そして夜の……いかん、俺は何を考えてるんだ。
何はともあれ、おキヌちゃんが俺の彼女で良かったとつくづく思う。
おキヌちゃんの作ってくれた料理を食ったり、おキヌちゃんに拗ねられたり、他の美女に夢中になって焼き餅焼かれてジト目で耳をつねられたり、全部が全部俺の宝物だ。
まさか、かつては俺を殺そうとした幽霊が、生き返って今こうして生身の美少女として俺の彼女になってるんだから世の中何が起こるかわからないもんだ。
まあ、時々美神さんやシロから殺されかねないような殺気を込めた視線を浴びせられるが、そのくらいはおキヌちゃんが傍にいてくれることを考えればお安いものだ。
こうして幸せに暮らしているのだから、ルシオラだって喜んでくれるだろ、なっ。
ザワザワザワ……
ん?外のほうが騒がしいな……?おキヌちゃんは今さっきスーパーに行ったばかりだし……。
コンコン…………
ドアをノックする音だな……。
「はい、どちら様で……えっ?」
「横島さん…………こんばんは」
三つ編みのお下げを二つ下げたセーラー服姿の儚げな印象を漂わせる美少女が、そこにいた。
「小鳩ちゃん?」
そう、俺の隣の部屋に住んでる清貧美少女・花戸小鳩ちゃんである。
貧乏神に取り憑かれて大変だったが、俺と真似事の結婚式をすることで呪いを解いたというのも今では懐かしい思い出だ。
まあ、彼女に会う前に『おキヌちゃんに身体が有ったらなあ…』なんて妄想もしてたけどな。それは後日現実になったんだけど。
『おー、横島』
その小鳩ちゃんの傍には、いかにも誤解を招くようなメキシカンスタイルのちんちくりんが浮いていた。
『誰がちんちくりんやねん!』
人のモノローグに突っ込むな。こいつがさっき言ってた、小鳩ちゃんに取り憑いてる貧乏神である。一応、あの一件以降セコい福の神になったんだが、それでも貧乏神であることには変わりは無い。
「で、小鳩ちゃん。俺になんか用?」
「はい…。横島さんに用があるんです……」
小鳩ちゃん、なんか恥らう乙女のようで俺の煩悩に火がつきそうだぞ。
「用って?」
「はい……横島さんにしか出来ない、たった一つのお願いなんです……」
「何?」
「それでは言います……小鳩からのお願いです…………」
儚さを込めた笑顔で、小鳩ちゃんは言った。
「…………小鳩に子供を産ませてください!!」
特急『きぬ』対『こばとハイヤー』地獄の黙示録!!
ドグワッシャァァァァァァァッ!!!!!
俺はものの見事にヘッドスライディングでずっこけた。
「だ、大丈夫ですか、横島さんっ!」
「何ゆうてんねん、小鳩ちゃぁぁぁんっ!!!!!」
『横島、なんかむっちゃ痛そうやでー』
ああ痛えよ、滅茶苦茶痛えよっ!!
なんで小鳩ちゃんの口からこんな台詞が出るんやぁ!!!
「もしかして……小鳩のせいでしょうか?」
「……まさか、貧乏神に変なこと吹き込まれたとかじゃないだろうな……いや、絶対そうだ!!そうに違いないっ!!!」
『な、なんやて?別にわいは何も吹きこんどらんで……』
「やかましいっ!!」
ドガシッ!!!
『ほげっ!!!……せやけど、ここは男として小鳩の願い聞いてやるべきだと思うで……』
「てめーは黙ってろっ!!」
ドゴッ!!メキッ!!!バシッ!!!!
「テメェが、泣くまで、殴るのを、止めないっ!!!」
で、貧乏神をしこたま殴ってから、とりあえず横に投げ捨てた。
「いいえ……貧ちゃんは何も悪くないんです……。小鳩、何か変なこと言ったでしょうか……?」
相変わらず儚げに俺を見つめる小鳩ちゃん。
「いや……言ったぞ、十二分に変なことを……。なぁ小鳩ちゃん、さっきのは俺の聞き間違い……だよな?」
俺はそう思いたいし、コスモプロセッサでも使いたい気分だ。
「はい……じゃあ、言い方を変えてみますね……」
小鳩ちゃん、儚げながらも頬を赤らめて、両手をモジモジさせて俺に言葉を投げかけた。
「つまり…………小鳩と子作りしてください…………ってことです……」
オ……オレは超エリートだ……!!あ……あんな下級戦士にやられるわけがない……!!!オレが宇宙一なんだ……!!!!
「横島さん……いきなりサ○ヤ人になったりして、どうしたんですか…?」
……はっ。いかん、あまりのショックに俺のキャラが横島忠夫ではなく某野菜の王子様になってしまったぞ……。
それほど小鳩ちゃんの発言があまりにもアレだったってことだ……。
「頼む、小鳩ちゃん……。もう一回言い直してくれない?」
俺はマジな表情で腕を組み、小鳩ちゃんに促す。
「え?……はい」
目の前の儚げな印象を漂わせる少女は、一瞬困ったように口元に手を当てた。
「……ですから……」
そして俺を真摯な眼差しで見つめ、ぐっと祈るように両手を握り締める。
「ずばり…………小鳩の中に……一発出してください……ってことです……」
モ○シア中尉!!オムツ持参でお供します!!!
「ど、どうしたんですか横島さん!?今度はガ○ダムのパイロットになってますよ!?」
俺のキャラがまた横島忠夫ではなくなった。しかも今度はニンジン嫌いの連邦軍少尉だ…。
それほど小鳩ちゃんの台詞の破壊力が充分だったということだ。それもコロニー落としに匹敵するくらいに。
「も、もしかして小鳩のせい……でしょうか!?」
「もうええ……もうええんやっ!!」
「え?」
「小鳩ちゃん……。真剣に聞くけどさ、俺とおキヌちゃんの関係を知ったうえでそれを言ってるのか?」
そう、今現在この俺、横島忠夫はおキヌちゃんこと氷室キヌちゃんと彼氏彼女の仲である。
俺のお隣さんの小鳩ちゃんなら、当然それは知ってるはずだ。
「もちろんです」
きっぱり答える小鳩ちゃん。
「あのねぇ……、だったら……」
「理由が……あるんです」
小鳩ちゃんは軽く目線を伏せて、小さく上目使いで見上げてくる。
「理由って……?」
そして胸に手を当てて、じっと目を閉じて、頬を更に赤くして告白する。
「小鳩……ずっと、ずっと……遠慮していたんです……。横島さんとおキヌさんがあまりにも仲がいいから……」
「……」
「小鳩は……横島さんが幸せだったらそれでいいんだって……」
俺を見上げてくる儚さと一途な思いを秘めた瞳に、俺はズキッと……胸が少し痛む。
「小鳩ちゃん……」
「でも、小鳩はやっぱり……横島さんのことが大好きだから……。おキヌさんを選んでもやっぱり大好きだから……」
小鳩ちゃんは、うつむき加減に少し目をそらす。
「小鳩……自分の気持ちに嘘つけないから…………」
やがて泣き笑うような顔で、潤んだ瞳を上げて俺を見つめる。
小鳩ちゃん……そこまで俺のことを……。でも俺は……おキヌちゃんの一途な気持ちを受け入れたんだ。
しかし、この小鳩ちゃんを見ていると、やっぱり愛おしさが込み上げて来るんだよ…………。
「だから、いっそのことおキヌさんを排除して……」
へ?小鳩ちゃん!?
「横島さんの子供を身ごもってしまえば、横島さんを『男の責任』っていう重い十字架の元に手に入れられるんじゃないかなって……そう思ったんです」
お、おいおいおいおいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!
愛おしさじゃなくて、恐ろしさが込み上げてくるぞその台詞!!!!
「きっと、そういうものなんですね、恋愛って……」
こ、小鳩ちゃん……。君は何時からそんな真っ黒な女の子になったんだ……。泣きてーよ俺……。
こういうのって、世間一般で『ストーカー』って言うんだろうな……。
「小鳩ちゃん……。小鳩ちゃんの気持ちは良くわかる。でも、俺はおキヌちゃんと別れるつもりはこれっぽっちも無いんだ、わかって欲しいんだ……」
「だから、略奪愛に走ろうと思うんです!!」
「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!俺の話を聞いてくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」
「だって、横島さんとおキヌさんって、避妊してるんでしょ?」
「ヲイ……」
「だから、横島さん、小鳩のところに来てください……」
小鳩ちゃん、しなを作ってるし、ポーズ取ってるし……。つか、何時の間に俺の部屋の布団を出したんだよ!!しかもご丁寧に一つの布団に二つの枕、赤い掛け布団は半分ちょっとで折り返されてるし!!!
「横島さん……小鳩のこと、好きにしてください…………」
『そうやでー、せっかく小鳩がここまで積極的になってるんやー、『こーなったらもー小鳩ちゃんでいこう!!』って気持ちでいかなアカンでー』
何時の間にか復活した貧乏神が俺を煽ってる……。
「えー加減にせーっ!!!!」
ズビズバァァァァァァァッ!!!!!
とりあえず、要らんこと言った貧乏神に栄光の手で止めを刺してやった。
「だからぁ!!俺はおキヌちゃんと付き合ってるんだって!!!」
「大丈夫です……小鳩は信じてますから」
相変わらず儚さを秘めつつも屈託の無い笑顔で、純粋に、まっすぐに俺を見ながら、小鳩ちゃんは胸元を引き絞るように両の手を握り締めた。
「横島さんは……恋人がいても小鳩をしっかり孕ませてくれる……ケダモノだって信じてますから……」
「んなアホなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
俺は頭を抱えて号泣した。
一体何が小鳩ちゃんをこんな女の子にしたんだよ……。コスモプロセッサか?それとも大宇宙の大いなる意思様のお導きか?
ガチャッ
「横島さん、ただいまー♪」
俺の部屋の入り口に、マリ姉の声がした。俺にはマリ姉はおキヌちゃんにしか聞こえない。
つまり、さっき挽き肉買いにスーパーに行ってたおキヌちゃんが帰ってきたということである。
そして、現時点では俺の部屋には俺のほかに、生ゴミと化したちんちくりんと……俺に迫ってくる小鳩ちゃんがいる。
「え……?小鳩さん?」
「……おキヌさん……」
おキヌちゃんと小鳩ちゃんが目線を合わせると同時に、小鳩ちゃんは俺の腕にしがみついた。
「ちょっ……こ、小鳩さん!!『私の横島さん』に何をしているんですかっ!!」
「横島さんは……小鳩が頂きますから」
小鳩ちゃん、下からおキヌちゃんを睨み上げる。今までの儚さがどこかに消えてしまったかのような睨みである。
「そ、そんなのダメです!!横島さんは私の彼氏さんなんですよっ!!やっと……やっと想いが通じて恋人同士になったんですよっ!!!」
「小鳩だって……やっと横島さんをモノにできるんです……。横島さんは絶対に小鳩のモノです…………」
バチバチバチバチ……
二人の目線の間にすさまじい稲光が走る。
「絶対に……横島さんは渡しませんから!!」
おキヌちゃんも小鳩ちゃんを睨みつける。普段の大人しく、天然な様子からは想像も出来ない睨みを利かせて。しかも、その背後には生身であるにもかかわらず、青白い人魂を二つ浮かべていた……。なんつーか、『祟ってやる』といわんばかりの迫力である。『鬼が怒る』と書いて『キヌ』と読むのはまさにこのことだろうな……。
そして、俺の部屋はさながら暗黒空間のような殺伐とした気配が支配する空間となった……。
「それは小鳩の台詞です……。それなら、おキヌさんは横島さんに何が出来るって言うんですか?」
「わ、私は……横島さんの為にお料理を作ったり、お部屋を掃除したりできますから!!それにGSのお仕事だって、ネクロマンサーの笛で横島さんをお手伝い出来ますし!!」
「小鳩だったら……」
ムキになってるおキヌちゃんとは対照的に、小鳩ちゃんはどこか無邪気な笑顔で俺を見上げる。
「小鳩だったら……今すぐ『初めて』を横島さんに捧げますし、これからは毎日だって朝晩二回ずっと中で出してもいいですよ……横島さんっ♪」
「ちょっ、小鳩ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!何爆弾発言かましてるんやーっ!!!!!!」
一体どうなってるんだよ……。
「そ……そのくらい……」
おキヌちゃんが小刻みに震え始める。そしてスーパーの袋を投げ捨てて、両手をきつく握り締める。
「私だって……私だって、そのくらい朝飯前です!!横島さんには当然何もかも『初めて』を『捧げました』し、回数だって三桁に乗ってるんですから!!!前からも四つん這いはもちろん、舐め合うのだって!!!四十八手は既に全制覇してます!!!」
「ちょっ、待ってくれおキヌちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」
「特にここ一週間は横島さんが煩悩全開の元気印で毎晩二回以上求められて、腰が立たなくなるまで可愛がられてるんですからっ!!!」
「ああああああああああああっ!!!!!!!」
「昨日だって、私が『上』になって頑張ってたんですよ!!横島さんだって、今朝まで離してくれなかったんですからねっ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
俺は慟哭した。おキヌちゃん……そこまでバクロせんといてやーっ!!!!!!!!
「ね、横島さん」
おキヌちゃん、そこで俺に同意を求めんといてやぁっ…………。
俺、もう生きてることが何なのかわからなくなってきそうだよ…………。
人生を投げかけている俺を挟んで、負のオーラを漂わせながら元幽霊少女と清貧少女の対峙は続く……。
「小鳩は横島さんが望むのなら、この場でだって抱かれて見せますよ、おキヌさん……」
「そんなこと大したことではありませんから。私なんて横島さんが感じちゃうところ……全部知ってますから!!」
「横島さん喜んでくれるなら、感じるところなんて小鳩はすぐ覚えます。それに横島さんに触られるなら、小鳩は本望です。その上これから横島さんに『初めて』を捧げられるのは小鳩だけです。横島さんが『初物』に食いつかないわけないですから……」
「待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
「うっ……確かに横島さんは、痛いのを我慢して健気に微笑んでる女の子が好みですけど…………」
「ちょっ、勝手に決めんといてやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
二人の対峙は、どんどんエスカレートしていくのみであった。俺はもはや、まな板の上で料理されるのを待つだけの鯛や平目のような心境だった……。
「こ、小鳩は…………横島さんの………………をくわえるのだって平気ですっ」
「甘いですね、小鳩さん。その程度、愛し合っているなら当たり前じゃないですか。私は横島さんに『くわえてくれ』って言われれば、くわえ込むのはもちろん、しゃぶって、舐めて、全部きっちり飲み干して、吸い出すところまで『あふたーふぉろー』もバッチリなんですからねっ!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!そげな事まで言わんといてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」
俺はもう、マジで泣くしかなかった……。
グッバイ、俺の青春…………。こんな青春、愛子だったら爆笑するだろうな……『性春』とか言って。
「で、でも……小鳩は横島さんが望むなら……後ろ側だって許しちゃいますから……」
「小鳩さん……残念でしたね」
おキヌちゃんは勝ち誇った、そして哀れみを込めた視線を小鳩ちゃんに投げかける。
「そっち側も私はとっくに横島さんに…………」
「もうええぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!もうやめとくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!!」
涙声で俺は必死に叫んだ。
誰か……俺の魂を救ってくれ…………。
「え?だって横島さん、いつも『後ろは締め付けが格別や~!!』って言ってますよね?」
「頼むからそれ以上言わんといてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!」
おキヌちゃんの度重なる爆弾発言に、小鳩ちゃんも半泣き状態になっていた。
「こ、小鳩なんか……、小鳩なんか…………」
そして半泣きのまま、小鳩ちゃんは必死に叫んだ。
「横島さんが望むなら、ローソク垂らされるのも、三角木馬に跨らせられるのも、ムチで叩かれるのもオッケーなんですからぁ!!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!何でそんな発想が出るんやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
この発言には、俺だけでなくおキヌちゃんも目を丸くして驚いていた。
「よ……横島さん……。そんな嗜好があったんですか…………」
「違う、断じて違うんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「こ……今晩から、やっていいですよ……横島さん。私、横島さんが望むのでしたら首輪をつけたって構いませんから…………」
「あの……おキヌちゃん…………」
お、おキヌちゃんに……おキヌちゃんに…………首輪ですか?なんつーか、すっごく萌える……いや、な、何でもないっ!!!
そして小鳩ちゃん、追い詰められたのかかなり焦っているようだ……。
「くっ……。こうなったら、小鳩、横島さんにしっかりと子種を植え付けてもらいますから……。ゴム使って逃げてるおキヌさんじゃ絶対真似できませんから……」
「ウフフ……。それこそ甘いですよ、小鳩さん……」
おキヌちゃんらしくない、妖艶な笑みが彼女の口元に浮かんでいた……。
何時からこんなキャラになったんだよ、おキヌちゃん……。
「どういう意味ですか?」
「いつもゴム使うって言ってるのは横島さんですよ?……でも、私が針で穴を開けていますけどね…………ウフフ……」
ガビーソ!!!!!!!
ガビーソ!!!!!!!
ガガガガビーソ!!!!!!!!!!!!!!
ちょっ……おキヌさん?今なんて仰りましたかーっ!!!!!!!???????????
「あ、そういえば……今月……予定日を過ぎてもまだ来てませんね」
「来てないって……何が?」
「生理♪」
「な、な、なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!????????????」
そしておキヌちゃん、頬を赤らめて、お腹、しかも下腹部を優しく撫でていた……。
「横島さん……横島さんと私の愛の結晶です…………ポポポッ♪」
なんてこったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!
俺の知らない間にやっちまったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!
「そうだ……これは夢だ!!!俺は……悪い夢を見てるだけなんだ!!!!」
ならそのうち夢は醒めて、元の平和な生活に戻ってるに違いない!!!!いや、むしろそうならねばならんのだ!!!!
「横島さん……夢なんかじゃないですよ♪」
そういっておキヌちゃん、俺の頬を悪戯っぽく抓ってきた……。
痛い。
……夢じゃないんだ、これ…………。
「それに夢はひとりみるものじゃありません。マリ子さんも言ってましたよ♪」
幸せ絶頂なおキヌちゃんでしたとさ……。そして、敗北感に打ちひしがれる小鳩ちゃんにビシッと人差し指を向け……。
「わかりましたか、小鳩さん?あなたが思いついた手段は……私が既に通った道なんですよ!!!」
その台詞が終わって、小鳩ちゃんは大粒の涙を流し……。
「どうせ、どうせ小鳩なんて…………おキヌさんが幽霊だった故に横島さんとお付き合いできなかったからこそアイデンティティを確立できたキャラですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!!!!!」
泣き叫んで、ズダボロの貧乏神を片手で掴みながら、小鳩ちゃんは俺の部屋から飛び出してしまった……。
そして、グッと拳を握り締めて完全勝利の余韻に浸るおキヌちゃんがそこにいた……。
「やりました!!正義は必ず勝つんです!!…………どうしたんですか?」
「…………なんか俺……汚れちまったみてえだ…………」
俺は膝を抱え、悲しみに暮れていた……。
そんな俺におキヌちゃんがニコニコ笑顔で語りかける。
「元気出してくださいよ、後数ヵ月後には『お・と・う・さ・ん』になれるんですよっ、あ・な・た♪」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
父上様 母上様
海はなんて青いんだろう
雪之丞のママってどんな人だったんだろう
病院で出会ったおキヌちゃんそっくりの女の子は今どこで何をやっているのだろう
テレサは今頃拾われてダッチワイフに改造されたのか?
忠夫はもうおキヌちゃんの絨毯爆撃に耐えられそうにありません
先立つ不幸をお許しください【横島忠夫】
終わり。
あとがき
平松タクヤです。
長編「極楽大冒険」の連載を開始しましたが、ちょっとした息抜きにまたもやいしゅたるさん、長岐栄さんとの電波トークによって生まれた作品を投下します(汗)。
お二人様には感謝いたします。
というか、長岐栄さんの某作品のSSのノリで「桃キヌ対黒小鳩」をやってみたくなったので、本人に許可を取った上での執筆となりました。
長岐さん、ありがとうございます。
今回はおキヌちゃんだけでなく、黒くなった小鳩も混ぜてみました。
「黒キヌ」があるんだったら、「黒小鳩」があってもいいじゃん、ってことで(ヲイ)。
つか、壊れ系のおキヌちゃんって……なんか怖い(爆死)。
というか、小鳩のアイデンティティは禁句……でしたか?(汗)
ちなみに今回のタイトルは、「特急『きぬ』」との対決ってことで、小鳩に当てはまるものを探してたら「こばとハイヤー」なるものを発見したのでこれを使うことにしました(爆死)。
でもハイヤーじゃ特急電車には勝てませんね(ひでえ)。
「極楽大冒険」のレスは、第一回でいたしますので。
では、よろしくお願いいたします。