「もぉ、横島さんったら…。またこんなに散らかして…。ほんっとに、私がいないとなんにもできないんだから…」
今日も今日とて、おキヌちゃんが俺の部屋を掃除しに来てくれていた。
いや、そういわれても一人暮らしの男の部屋っつーのはどうしても散らかっちまうものなんだけど。
おキヌちゃんもおキヌちゃんで、ため息をつきつつもどこか楽しそうに部屋を片付けてくれている。
いやあ、ホンマエエ娘やなあ。
「フン、フフ~ン♪………あら?」
鼻歌混じりに散らかってる本やゴミを片付けているおキヌちゃんの足がふと止まった。
「これは…?」
彼女は足元に転がっている、DVDケースに目をつけて、そして拾い上げた…。
その時だった。
おキヌちゃんの頬が、真っ赤になったのは。
「…あ、ああああああああっ!!!!それはぁぁぁぁぁっ!!!」
その時俺は絶叫した。
そう、今おキヌちゃんの手の中にあるのは、日頃俺がお世話になっている獣蜂菌…もとい18禁DVDだったのだ!!
しかも、タイトルは『爆乳女教師・國府津円香二十二歳』…そう、『爆乳』、『巨乳』よりワンランク上の『爆乳』なのである。
…よりによって、胸にコンプレックスを抱いている(様に思える)おキヌちゃんにこんなん見つかってしまうとは……。
「…よ・こ・し・ま・さ・ん………」
うわぁぁぁぁぁっっ!!!
こりゃ、確実に怒ってるぅぅぅぅぅ!!!!
…おキヌちゃんはエロ本とかの存在は知ってるからそれだけでは怒らないだろうけど、爆乳じゃ逆鱗に触れてしまったようだ……。
俺は死を覚悟した。
しかし、その後の展開は俺の予想とは違っていた。
そう、おキヌちゃん、その瞳からポロポロと涙をこぼしていたんだよな…。
「…やっぱり横島さんは……おっぱいの大きな女の人が好きなんですね……ううっ、ぐすっ……」
え?
そりゃあ、俺は美神さんとかええチチしてるねーちゃんは大好きだけどさ…。
てっきり激しくお説教されるとばかり思ってたのに…まさか泣き出すなんて…。
「…どうせ私なんて、お風呂も覗いてもらえないくらい魅力の無い女の子ですからぁ~!!ふぇ~ん!!!!!!」
「お、おキヌちゃん!!」
涙声で叫んで、おキヌちゃんは俺の部屋から飛び出してしまった。
つか、風呂覗かなかったことを責められなけりゃあかんのか俺…。
特急『きぬ』大暴走!!
「うう…えぐっ……どうせ、どうせ私なんて……横島さんを満足させることも出来ない貧弱な身体なんですぅ……」
私はまだ泣いていました。
横島さんのお部屋を掃除しているときに偶然見つけたえっちな『でーぶいでー』。
私はそれを見て、やっぱり横島さんはおっぱいの大きな女性が好みだということを確信しました。
そうですよね。
だから美神さんのことばっかりジロジロ見ていて、私には全然振り向いてくれないんですよね。
でも、私だって少なくとも昔よりはかなり女らしい体つきになったつもりですよ?
それにもう、私は幽霊じゃなくて生身の人間の女の子なんですよ?
しかも花盛りの、ピチピチの女子高生ですよ?……自分でいうのも恥ずかしいですけど。
だったら……私のことももっと……見て欲しいんですよ………くすん………
「…私も……おっぱい大きくなれば……横島さんを振り向かせることができるかなあ……」
そう呟いて、私は自分の胸に手を当てました。
…やっぱり…美神さんのあの豊満な胸を思い出すと……ホント、私なんて貧弱なんだなあ、ってことを再認識させられます。
これじゃ、横島さんが私のことを見てくれないのもわかりますね…。
ならば、私が取るべき行動は…。
「あれ?アンタ令子ちゃんとこのお嬢ちゃんか?今日はあのボウズは一緒じゃないあるか!?」
私はいつも道具の買出しに行っているお店、呪的アイテム専門店『厄珍堂』へと足を運びました。
「単刀直入に申し上げます!」
「い、いきなり何あるかっ!?」
私は恥ずかしいのを我慢して、思いっきり叫びました。
今、私が一番必要としているものを!
「…胸が大きくなる薬はありますかっ!!」
「…………ハァ!!??」
あ………厄珍さんのメガネが真っ白になっていました………。
「…生憎だけど、そんなん置いてないある…「いいえ!!惚れ薬とか生きてるチョコとかあるのに豊胸薬が無いなんて絶対おかしいですっ!!」…ちょ、お嬢ちゃん、放すあるよっ!!」
興奮していた私は、何時の間にか厄珍さんの襟首を掴んで目の前に引っ張っていました…。
しかも、私の言ってる事もメチャクチャでした…。
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
「ケホケホッ……何をそんなに興奮しているね…」
我に帰った私は手を放し、謝りました。本当にごめんなさい。
そうですか…、やっぱりそんな都合のいいものがそうそうあるはず無いですよね。
ホント、私ってバカだなあ。
「お嬢ちゃん、確かに豊胸薬なんてものは存在しないあるが、お嬢ちゃんの胸を大きくする方法が他に無いわけではないあるよ」
「えっ!!」
「何でも女性というのは、妊娠すれば子供に母乳を与えるために胸が大きくなるって話があるね」
「え…ええええええええっ!!!!!!?」
に…妊娠すれば胸が大きくなるんですかっ!!
でも……妊娠するってことは…そ、その……私のお腹の中に赤ちゃんを宿すこと……なんですよね?
それってつまり………横島さんの赤ちゃんを……授かるってことですよね!!
そうなれば……私、横島さんと晴れて夫婦になって、二人の子供と一緒に仲むつまじい家族を築いていくんですね!!!
胸が大きくなるだけでなく、横島さんの子供を授かって、夫婦にもなれる!!
これです!!
これでいきましょう!!
「どうもありがとうございます!!じゃ、そういうことで!」
光明を見出した私は、早速行動を開始するために今来た道を戻りました。
待っててくださいね、横島さん!!
一方、取り残された厄珍は…。
「あっ…!ま、待つあるよっ…って、もう行ってしまったあるか…。今のは冗談だったあるのに…ま、いいか。どうせあのボウズが痛い目見るだけあるね…」
…おキヌちゃんが飛び出していってもう5時間になる。
すっかり日は暮れて、あたりは真っ暗になっていた。
「ううう…おキヌちゃん泣かせてしまうなんて…俺はホンマモンの悪党や……」
俺は汚れちまった悲しみに暮れていた。
絶対傷つけまい、泣かせるまいと誓っていた純真なあの娘を傷つけてしまった悲しみに。
「本当に悪いことしたよな俺……「横島さん、ただいま!」って言って帰ってきたら謝らねーとな…って…?」
その発言をした丁度のタイミングで、そのおキヌちゃんが帰ってきたのだった。
そして…。
ガバァッ!!
なな、なんと、おキヌちゃんがいきなり俺に抱きついてきたのだ!!
「お、おキヌちゃん…俺が悪かった…って、何でいきなり抱きつくの?」
そのおキヌちゃん、ヒマワリのような明るい笑顔を俺の目の前に近づけてくる。
「何でって…始めるためじゃないですか♪」
「始めるって…途中だった部屋の掃除を?」
「いいえ。…子作りです♪」
「ハァ?」
俺は目が点になった。
「あのー、おキヌちゃん、今なんて仰りました?」
「子作りです」
「…子作りって…誰の?」
「…横島さんと私の子供じゃないですか、嫌ですね」
え゛……?
「な、ななななななな、何で俺がおキヌちゃんと子作りをしなきゃいけないんだっ!!?」
いきなりとんでもない発言をかますおキヌちゃん。
しかも邪気の無いニコニコ笑顔でそれをのたまうのだからある意味怖い。
「横島さん、おっぱいの大きな女の人が大好きなんですよね?」
「あ…ああ…。さっきは拙い物を見られて…俺…本当に悪かったと思ってるよ…」
「いいんです。全然気にしてませんから。だって、これから私の胸、大きくなるんですから!」
「ほへ?」
「はい!女性は妊娠すれば、母乳を子供に与えるために胸が大きくなるんです!だから…子作りしましょう!」
「ちょっ、おキヌちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!」
な、何なんだこの展開はぁ!!
どこでそんなこと吹き込まれてきたんやぁぁぁぁぁっ!!!!
「なんやねんそのわけのわからん理由はぁぁぁぁぁっ!!!」
「細かいことは気にしちゃダメです!!」
「全然細かくないわぁぁぁぁっ!!!」
「私はもうバッチリです!!さあ、横島さん、れっつごーです!!」
「レッツゴーじゃなぁぁぁい!!!と、とにかく、一回落ち着いて俺の話を聞いてくれぇ!!!」
「あ…そうでしたね。すみません…」
ようやくおキヌちゃんも冷静さを取り戻したようである。
しかし、何故そこで正座をするのかおキヌちゃん。
「な…なんで正座してるんだ?」
「だって……やっぱりこういうのはきちんとした姿勢で無いといけませんから…」
おキヌちゃん、居住まいを正して緊張した表情になる。そして…。
「横島さん、私のほうは心の準備は十分出来ています」
…なんか気合入りまくってるんですけど、彼女。
俺は何か嫌な予感を感じた。
最も『子作り』なんておキヌちゃんらしくない発言をかましてる時点で十分嫌な予感はしてるのだが。
「そもそもなんで、そんな保証も何も無い理由で俺がおキヌちゃんと子作りをしなくちゃいけないのか。俺にはさっぱりわからんのや!!」
俺はこの理不尽とも言える展開に、少々喋りが荒くなっていた。
「な…なんでって……」
おキヌちゃんが驚いたようなリアクションを見せて、俺のほうを見る。
「な…何その反応は…」
「だって…横島さんが『なんで』って言うんですから…」
「常識で考えれば、いきなりそんなこと言われたら聞きたくなるはずだけど…」
「…横島さん……覚えてないんですか?」
「は?」
「…横島さんと私が初めて出逢ったあの日のことを…。私は今でも、はっきりと覚えてますよ……」
それは寒い寒い、雪山の中。
あの時、私は幽霊でした。
300年前に山の妖怪を封印するための人身御供となり、山の神様になるはずだったのに才能に恵まれず、ずっと一人ぼっちで現世を彷徨い続けた幽霊だった私。
長く苦しい孤独の日々に耐えかね、誰かに代わってもらおうと思ったとき、どんなにコキ使われても平気な人を見つけました。
『あの人……あの人がいいわ………』
最初はやり方がまどろっこしくて失敗してしまいました。
もう一度とばかりに、私は雪山を走り抜けるあの人の頭を大岩で殴りつけました。
『えいっ!!実力行使っ!!』
「べっ!?」
『お願いします!!お願いします!!しかたないんですっ!私の為に死んでーっ!!』
何度も何度も、力を込めて私はあの人の頭を殴りました。
しかし、あの人には全然効いていませんでした。
それどころか…
「わーっ!!ねーちゃんやーっ!!」
『キャーッ!!』
あの人はなんと、幽霊である私を押し倒してしまったのです!!
「やーらかいなーっ、気持ちいーなーっ!!これやっ!!これなんやっ!!俺が欲しかったのは、これなんやーっ!!」
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
「そうや、俺のはじめてはこのねーちゃんに捧げるんやーっ!!もちろん中出しやーっ!!」
『キャーッ!!誰かーっ!!』
「…というのが、私たちの出逢いなんですよね、横島さんっ♪」
「だあぁぁぁぁっ!!!嘘や、嘘やっ!!ずぇったい嘘やぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「嘘じゃないですよ。私は一句一句ちゃんと覚えてますから!生き返って記憶が戻ったときも、真っ先に思い出したのはこのことですし!!」
「絶対に嘘やぁ!!あんときの俺がワンダーホーゲルの幽霊に追っかけ回されて錯乱状態だったのをいいことに勝手に過去を捏造したやろーっ!!」
「…酷いです、横島さんっ…!!過去を忘れて責任逃れをしようとして、私のことを嘘つき呼ばわりするなんて…!」
「んなこと言ったって、少なくともあんとき俺は『初めてを捧げる』とか『中出しやーっ!!』とか言った覚えはあらへん!!」
「私を押し倒した挙句あんなセクハラ発言をした責任…取ってもらいますよ?」
「嘘やぁ!!!これは絶対に陰謀やぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「というわけで横島さん、あのときの責任を果たすためにも、中出しでお願いしますっ!!」
と、おキヌちゃんは半泣き状態の俺の腕を強引に引っ張って、お互いの身体を接触させたのであった。
「ちょ、こ…こらっ!!強引に話を進めんといてやーっ!!!俺の話を聞いてくれーっ!!!」
「え?なんでしょうか?服は着たままのほうがよろしいのですか?」
「ああ、確かにそっちのほうが俺の趣味…って違ぁぁぁぁぁぁぁう!!!!!!」
「え?じゃあ、制服のほうがよろしいので?それなら今すぐ着替えてきますけど?」
そう言っておキヌちゃん、懐から六道女学院の制服を出してきた。
つかわざわざ持って来たんかい!!!
「ああ、制服姿の女子高生と愛を紡ぎ会うシチュも捨て難い…ってそうやなぁぁぁぁぁい!!!」
「ならいつもの巫女服ですか?それなら、下着はつけないんですよね?」
今度は巫女服も出してきた。
用意周到すぎるぞ彼女…。
「というわけで、私はもうバッチリですから子作りしましょう!!そしたらおっぱいも大きくなって、横島さんも大満足です!!あと、結婚式は和風と洋風、どっちがいいですか?白無垢もいいんですけど、私はウェディングドレスも綺麗だなぁって思いますけど、横島さんはどうでしょうか?」
つか子作りどころか結婚式まで話が飛躍してるやんけーっ!!!!
「そうそう、横島さん、結婚した後の夜の生活はソフトなのと激しいの、どっちがいいですか?将来的に、子供は何人がいいでしょうか?私としては男の子一人、女の子二人の三人がいいと思うんですけど。まいほーむは都会と田舎、どっちがいいと思います?」
結婚後の家族計画までさらに飛躍しとるーっ!!!!
「あ、でもそうなったら『横島さん』なんて他人行儀な呼び方はだめですよね。今からでも『忠夫さん』って呼べるよう練習しないと…。いいですか?よこ…忠夫さん?」
あああああ、今度は忠夫さん呼ばわりだよコンチクショーッ!!!!
「とーにーかーくーっ!!!!!俺はおキヌちゃんと子作りをしないってゆーとるんやーっ!!!」
「え……?」
俺のその叫びを聞いたとたん、明るい笑顔を見せていたおキヌちゃんの表情が、幽霊だったときのように凍りついた。
なんかもう、今にも『生き返ったって……何百年もたってから生き返ったって……もう……』とか言って心を閉ざしてしまいそうなほどだった。
そんなおキヌちゃんを見て、俺も勿論罪悪感がないでもない。
しかし、俺だって苦汁の選択なのである。
実際、おキヌちゃんはべらぼうに可愛い。
しかも優しくて、家庭的で、俺のことを慕ってくれている。
そして、彼女はもう幽霊ではない、生身の女の子に生き返ったのだから問題点など全くない。
そんなおキヌちゃんに迫られてそれを拒絶するなど、一介の健全な青少年として間違った行為であることは俺も十分承知している!
だが、しかし!!
そこで情に流されてはいかんのだ!!
かつて俺は「こーなったらもー、おキヌちゃんでいこう!」とか言って顰蹙を買った経験がある!!
だからここは、心を鬼にしてでもおキヌちゃんの誘いに乗ってはいけないのだ!!
あとこれは俺の憶測だが、ここまでの展開からすると、ひょっとしたらおキヌちゃん、ポケットの中に婚姻届を忍ばせているかもしれない!
もちろん、自分の欄の印鑑と氏名はばっちり記入済みで!!
そんな状況でおキヌちゃんに手を出してみろ…。
それはもう、『責任…取ってくださいね』とか言われて婚姻届の俺の欄に『横島忠夫』と記入させられて即日区役所に提出されることはほぼ間違いない!
そんなことになれば、翌日には俺とおキヌちゃんによる高校生夫婦が誕生してしまう!!
いくらなんでも、俺は高校生のまま父親になるなんてことは望んではいない!!
だからこそ、ここは耐えねばならぬのだ、横島忠夫!!
そんな葛藤を俺が繰り広げている間、おキヌちゃんは思考が回復したのだろうか、ポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。
「…横島さん……ごめんなさい…………」
そっか、やっとわかってくれたんだ。
やっぱりおキヌちゃんはエエ娘やなあ。
生き返ってから、なんか夢見がちな娘になったとはいえ。
「俺のほうこそ…ごめんな…。おキヌちゃんの期待に答える事が出来なくて…」
「いいえ、悪いのは全部私のほうですから…。私が横島さんのことを何も考えずに一人で勝手に盛り上がってしまったんですから…。だから、横島さんが謝ることはないですよ…」
「おキヌちゃん……」
ここで話は丸く収まりそうだ、と俺は思った。
しかし、そんな期待も儚く散ってしまったのである。
そう、彼女の次の発言で。
「私…本当に知らなかったんです……。横島さんが……そんな不能者だったなんて……!!」
「………ハァ?」
な、なんでそんな発想になるんやーっ!!!!
「でも、それでも私の横島さんへの想いは変わる事はありませんから、安心してください!!」
「ちょっと待たんかーいっ!!!!何で俺が不能者なんやーっ!!!!!」
「え?だって…この状況で手を出そうとしないってことは……女性週刊誌でそう書いてましたよ?」
また女性週刊誌で変な知識身に付けたのかい、元禄生まれのおキヌちゃん。
「俺は断じて不能者なんかやなーいっ!!!!俺は健全な思考と肉体を持った、煩悩がアホみたいに多いだけの日本男児やーっ!!!」
「そ、そうなんですか?じゃあ…」
「そうそう、わかってくれた?なら……え、な、なにやってるんですかおキヌさん?」
カチャカチャ…
おキヌちゃん、突然俺のズボンのチャックに手をかけ始めた!!
「何って…不能なら女の方が直接手や口ですると、ちゃんと大きくなるって……わっ、これが横島さんの…」
気付いた頃には、俺のズボンの社会の窓が完全にオープンゲート状態になって、俺の男の象徴が剥き出しになっていたーっ!!!
おキヌちゃん、頬を赤らめてじーっと見つめてるし!!!
「ああああああああっ!!何時の間にそこまで出しちゃってるのーっ!!うわぁぁぁぁぁぁん!!!も、もうお婿にいけなーい!!!!!!!」
俺は泣いた。
マジで泣いた。
俺の貞操がいとも簡単に奪われてしまったんやから…。
「大丈夫です!私がお婿にもらってあげますから!!」
ぐっと拳を握り締める天然少女の笑顔が俺には痛かった…。
「そーゆー問題やなーいっ!!!えーからやめとくれーっ!!!!」
俺はもう業を煮やし、おキヌちゃんを力ずくで引き剥がし、男のシンボルをすかさず仕舞う。
危なかった…。
あと一歩で『超えてはならぬ一線』を超えてしまうところだった…。
「横島さん…やっぱり、私じゃ駄目なんですか…………?」
悲しげな瞳で俺を見つめるおキヌちゃん。
声も急にトーンの下がったものになっていた。
「う゛っ…」
…おキヌちゃん、これまで散々暴走していたくせに、急にしおらしくなって…。
そんな潤んだ上目遣いで俺を見んといてやぁ~っ!
「い…いや、そんなことじゃなくて…その……」
「じゃあ、どういうことなんです…?」
甘えた声を出しながら、なおも潤んだ瞳で俺に迫ってくるおキヌちゃん。
おいおい、そんな声と表情で迫られたら、俺の理性は崩壊してしまうやろ…。
んなこと言っても、煩悩のままに生きる人生を満更でもないと思ってる俺の理性なんざ元々限りなくゼロで均衡してるんだけどな…自慢じゃねーけど。
ここはとりあえず、明鏡止水の如く気持ちを落ち着けて彼女の呼びかけに答えることにした。
「おキヌちゃんが、俺に対してそこまで積極的になってくれるなんて、正直言って嬉しい。もうこれ以上無いっていう位に嬉しい。このまま押し倒して最後まで行きたいってくらい嬉しい。…でも、なんか違うんだよ、なんか」
「何が違うんですか…?」
「俺、バカだから上手く言えねーけどさ、やっぱさ……急ぐんじゃなくて…もうちょっとこう、なんつーか、手順とか何かをちゃんと踏まえてさ…」
俺は足りない頭で必死に台詞回しを考えていた。
ボキャブラリーが足りないってのはこういうところで苦労するんだなあ、ってことを実感させられている俺だった。
「それに…こんなこと言うのは酷かもしんねーけど…、まだ、俺の中で、おキヌちゃん一人に絞るっつーのは、出来そうに無いんだよ…。もちろんおキヌちゃんのことは大好きだけどさ、同じくらい美神さんのことも好きだし、シロだって放っておけないし。何より…」
「何より?」
「何よりも…誰よりも…おキヌちゃんのことが大切だからさ……。ルシオラが転生する子供を生む道具なんかにしたくないんだ…」
とうとう言ってしまった。
すまん、ルシオラ。
あの娘を傷つけないで事を収拾する為には、こうでもしないといけないからな。
「…そんなこと、私が知らないとでも思ってるんですか?十分承知の上ですよ?」
「へ?」
「私が、そのことに悩まなかったと思いますか?私……、横島さんを諦めようと思ったことだってあるんです。男の人なら、他にもいるって…」
「そうだよな。男だったらこんなバカでスケベで煩悩の塊でしかない俺なんかよりももっといい奴がいるはずだし…」
「でも…駄目なんです。私には……横島さんじゃないと……駄目なんです……!」
おキヌちゃんは、照れた様子など微塵も無く、全くの素直な気持ちを打ち明けるように俺に語りかける。
「300年間幽霊としてひたすら寂しい孤独な日々を送ってきた私が生き返って、今こうしてここにいられるのは、全部横島さんあってのことなんです。だから……、私には横島さんのいない生活、横島さんのいない世界なんて考えられません……!!」
そんなおキヌちゃんを見ていると、なんだかその気持ちに答えないでいる俺のほうが悪いような気さえしてくる。
「おキヌちゃん……そんなに…………そんなに俺のことが…………好きなのか……?」
「はい、世界中の誰よりも、何よりも、私の大好きな人は横島忠夫さん、ただ一人です…」
…ここまで一途に俺のことを想ってくれる少女がいる………その事が俺には素直に嬉しく感じられた。
そして、そんな目の前の少女が愛しいとさえ思えてきた…。
「…ありがとう、おキヌちゃん…。こんなどうしようもない俺だけど、これからも、よろしくなっ…」
「…はい!」
そして、俺達は抱きしめあった。
なあ、ルシオラ…。
おキヌちゃんを幸せに出来るのが俺だけなら……。
俺を幸せに出来るのがおキヌちゃんだけなら……。
もう、いいよな……?
俺、お前以外を想ってもいいんだよな……?
お前を忘れるなんてことはない……。
けど、おキヌちゃんと一緒に幸せを夢見てもいいよな……?
「横島さん……。お互いの気持ちも確かめ合ったことですし……そろそろ、子作りを始めましょ♪」
「へ?」
「さあ作りましょう、今すぐ作りましょう、とにかく作りましょう!!」
「なんでやねぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」
ここに来て落とすんかい!!
俺にしては珍しいドシリアスな展開だったっつーのに!!!
なんかもー、俺もどうでも良くなってきたぞここまで来たら…。
「こーなったらもー、いっちまぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
「はいっ!!今回はもうあの時とは違いますから、大歓迎ですっ!!!」
これからの人生、俺は絶対におキヌちゃんから逃げられない運命なのかもな…。
思えば御呂地岳で初めて出逢った時から、ずっととり憑かれてそれが今に至るまで続いてるんだろうな…。
だからこのあふれる涙は、幸せの涙なんだと…そう思うことにしよう。
「横島さん……愛しています………」
俺の隣で微笑むおキヌちゃんを見て、そんな運命も悪くないかも……と思えてきた俺だった。
翌日。
美神令子除霊事務所にて、これ以上に無いほど上機嫌な笑顔を見せて横島忠夫の腕に抱きつく氷室キヌの姿があったそうである。
そして隣の横島は、キヌとは対照的にもう後戻りは出来ないといわんばかりに元気の無い表情であった。
「…横島クン?あんた、昨日なにやってたのよ」
所長・美神令子はそんな横島を見て、何か怪しいと直感した。
「えぅ…?いや……あの……その…………」
横島は恐怖におびえながら、美神の質問に……答えられないでいた。
そして隣のキヌが、彼に代わって堂々と美神の質問に応じたのであった。
「はい!昨日、『忠夫さん』と私は一緒に夜を過ごしていました!!」
「た…た…タダオサン……!!!???イッショニ…ヨルヲ……スゴシタ!!????」
キヌのこの発言に、美神の中で何かが切れた。
亜麻色の長い髪が逆立つほどに、その背後から負のオーラが溢れ出していた。
「…コロス」
美神はそういうと、壁に掛けていた神通棍を手にとり、いきなり霊力をオーバーフローさせて「神通鞭」と化し、横島をこれでもかといわんばかりにシバき倒したのであった。
「横島ァッ!!!!!!!とうとう貴様、おキヌちゃんに手ェ出したかァァァァァッ!!!!!!!!!」
「ごべん゛な゛ざい゛ごべん゛な゛ざい゛ごべん゛な゛ざい゛ィィィィィッ!!!!!」
もはや『必ず殺すと書いて”必殺技”』とでも言うべきレベルの容赦ない攻撃であった。
そんな鬼神と化した美女に向かって、少女が凛とした態度で抗議する。
「美神さん!!私の大事な『旦那様』に何をするんですかーっ!!!」
「「「「だ、旦那様ーっ!!!!????」」」」
キヌのこの発言に、他の女性陣だけでなく、既にボロゾーキンと化していた横島も反応する。
どんなにボロゾーキンになっても死なないどころか、すぐ復活するのは横島といったところか。
「ちょ、ちょっと待てーっ!!!!!旦那様って……まだ結婚した覚えはあらへんでーっ!!!!」
「大丈夫です!!昨日忠夫さんが『やり疲れて』熟睡している間に、こっそり印鑑押してもらって、今朝お役所に提出してきました!!」
「提出って…ま、まさかーっ!!!!!!」
「はい!!婚姻届ですっ!!これで二人は法的に『夫婦』ですっ!!」
「って、まだ双方の両親の同意が無い未成年者同士じゃ受理されんやろーっ!!」
「氷室の両親と、忠夫さんのご両親も了承してくれましたから、問題点は何もありません!!」
ガビーソ!!!!!!!!!!!
そう、キヌは横島の憶測どおり、用意周到に婚姻届も持ち込んでいたのだった!!
勿論、氷室の家族とグレートマザーこと横島百合子にも根を回すという徹底振りで!!(ちなみに大樹は『忠夫のくせに可愛い若奥様など生意気だ』と反対していたが、案の定百合子にボテクりこかされ脅迫の末合意させられた)
「せ…せんせぇが……おキヌ殿と……ふーふ………」
横島を師と慕う人狼の少女・犬塚シロはあまりのショックに『幽体離脱』のスキルを身につけてしまったようだ。
「ふーん、どっちつかずだったのに、とうとうくっついちゃったのね…」
九尾の狐の化身である少女・タマモはこの状況をのほほんと楽しんでいるようだった。
「というわけで、今日から私は『横島キヌ』と名乗らせていただきますので、改めてよろしくお願いいたします!」
その時、美神はショックのあまり真っ白に燃え尽き石化してしまったという……。
終わり。
あとがき。
はじめまして。
平松タクヤと申します。
今回初めて投稿させていただきましたが、これはメッセンジャーでいしゅたるさんとの電波トークによって生まれたバカ話が元になっております(爆死)。
いしゅたるさん、色々とありがとうございました(感謝)。
私はとにかくおキヌちゃんが大好きなので、彼女を思いっきり動かしたかったんですよね。
で、某サイトの某SSを見て突発的に思いついてしまったのが「子作りを強要するおキヌちゃん」なんていうバカなネタ…。
まあ、こんなのもあるんだなあ、ってことで受け流してくだされば幸いです。
あと今回のタイトルですが、東○鉄道関係者の皆様御免なさい、とだけ言っておきます(核爆)。