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▽レス始

「消えない傷痕 前奏曲(GS)」

グローリー (2007-01-07 03:36)


「なんですって!? アンタがテレビに出るっ!?」

「ちょ、美神さん。ただの銀ちゃんの幼馴染として出るだけですってば。」

 事務所の一室で美神の声が響き渡る。机をバンッと叩き、その騒動にに気づいたシロとタマモが上から降りてきた。台所で作業していたおキヌもやっていた。

 ことの始まりは銀一からの電話だった。

 何でも番組である企画が持ち上がり、それの手伝いをしてほしいという。深い内容は教えてくれなかったが、ギャラが思ったより高かったので、即決でOKを出したのだ。

「……へ〜、じゃあその間の除霊はどうしろっての? もう予定はあるんだけど?」

 背筋が凍るような笑顔でニッコリと笑う美神。

「だ、大丈夫っすよ! その点はこっちでなんとかしますから。一応、雪ノ丞のやつがその間の手伝いをしてくれるって言うんで問題ないです。」

「雪ノ丞が? 言っとくけど、私は金は出さないわよ。」

「了解をとってます!」

 横島もそうなるだろうと思って、雪ノ丞には話を通している。今回、テレビに出演することで得ることのできるギャラで食事をご馳走すると約束したらOKがでた。

 ちなみに内容は吉野家の牛丼特盛りセットで手を打ったらしい。


「あっそ。じゃあ別にいいわよ。」

「横島さん、テレビに出るんですか? 私、楽しみにして見てますね。」

「おキヌちゃん……、多分期待するほどのことでもないと思うけど。」

 頬に汗を流しつつ答える横島。素人相手にそんなに大層なことはしないだろう。どうせプロの人がいろいろと整えてくれた話で進めていくに違いない。

「拙者、よくわからんでござるが、先生がてれびじょんという奴に出るでござるか?」

「やっぱり、馬鹿犬ね。今の話くらい理解しなさいよ。」

「狼でござる! 拙者だって確認とっただけでござるよ。」

 ほっておいてもシロとタマモのいつものケンカが始まるだけなので、美神が止めに入った。

「その辺にしときなさい。続けるってなら、食事にしばらく、お揚げとお肉が出てこなくなるわよ。」

「きゅーーん、美神殿、それはひどいでござる。」

「ぐっ……。わかったわよ。」


 二人が静まったのを見て、美神が横島に問いかけた。

「横島君、ところでギャラはいくらもらえるの?」

「えーと、これだけ貰えるって銀ちゃんがいってました。」

 横島が指を五本立てた。

「へぇ〜、50万ももらえるの? アンタにしては大金じゃないの?」

「そうらしいんすけど、実は…………」

 横島が恐る恐る話し始めた。あまり話したくなかったが、自分も事務所を無理矢理空けるので、そうもいかないだろう。


「なんですって!! 時と場合によっては1000万のギャラがアンタにでるッ!?」

 ゴーストスイーパーにとっては余り、すごくない額ではあるが、アシュタロスとの戦い以来、雑霊が激減してしまい、今は客が少ない。そのため、ゴーストスイーパーにとって苦しい状態だったのだ。

「それは一体どんな企画なのよ!」

「……み…かみさん。……くるし。」

 横島の胸元を手繰り寄せ、強引に前後に揺する。

「み、美神さん! 横島さんの首絞まってます!」

「───はっ! あまりに法外な額に正気を失ってたわ。だって、素人の出演に1000万はさすがにおかしいでしょ?」

「そうですけど、銀ちゃんも内容は話してくれんかったし……」

「まあ、そうよね。多分そう言って騙すのが、テレビ局の手口に違いないわ。」

 そんな美神の考えを聞いて、横島は溜め息をつくばかりだった。


─── 数日後 ───


 横島は今日、銀一が指示したテレビ局へとやってきていた。

 案内通りの部屋へと行くと銀一が他のスタッフと何やら打ち合わせをしており、険しい表情をしていた。

 数分後、ようやく話が終えたようで、銀一も横島がいることに気づいたようだ。

「横っち! 元気そうやな。よく来てくれたわ。」

「銀ちゃんも元気みたいやな。いきなりやからビックリしたで。」

 久しぶりの再会を分かち合う二人。

 懐かしいのもあるが、自然と関西弁で話している二人だった。

「銀ちゃん、それでなんやけど、そろそろ何するか教えてくれへんか?」

「ん? ああ、せやったな。台本はどこやったかな……お! これやこれ。」

 横島が渡された台本。思ったよりもホッソリとしており、分厚さはない。もちろん、横島もすべて読むつもりはないので、とりあえず何をするかぐらいの内容を押さえるつもりだ。

 パラパラと台本を捲っていけばいくほど、横島の表情が変わっていく。時折り、自分の頭を叩いたり、頬を捻ったりしている。

 台本に書かれている題名はこうだった。


【☆カラオケ大会☆ 君は本物になりきれるか!?】


「銀ちゃん……これはどういうことや?」

「すまんな、横っち。これも俺の顔立てると思って頑張ってくれ。」

 一応、素人による出場となっている。優勝者には1000万と書かれている。本来ならば、各地で行われている予選を勝ち抜いてからでないと出場できないみたいだが、一つだけ別枠があるらしい。

 それが近畿剛一(銀一)の推薦枠ということになっている。今回は特別に素人から抜擢することにきまった。その御鉢が横島に回ってきたのだ。

「横っち、小さい頃、『カラオケ忠ちゃん』って呼ばれ取ったやないか。」

「あほかっ! それとこれとは話が別じゃ! テレビの前で歌うなんて恥ずかしいマネできるか! 緊張して歌えるわけないやろ!!」

 さすがの横島でもテレビ前で歌えるほど、肝は座っていない。

「あほやなぁ、横っち。ええか? これはテレビ放送やから、みんな見とるんやで?」

「それがどないしたんや?」

「昔からモテル男の相場っていうのは、かっこいいとか、何かしらの特技を持ってる奴やぞ? ここで横っちが歌の上手さを披露したら……」

「……したら?」


「もしかしたら、全国の女の子が惚れるかもしれんなぁ……」


 ボソッと小さな声で言った。

 もちろん銀一も本当にそうなるとは思っていない。あくまで横島をやる気を出させる一端にすぎないのだ。しかしながら、いくら横島でも信じるはずが……


「──何をしてるんだ、銀ちゃん! さっそく曲を選ばないと!!」


 どこまでいっても横島だった……。

「まさかこんな単純な手にかかるとはなぁ……。一応別の手も考えとったんやけど。」

 親友の単純さに呆れた横島。下手をすると、そこらの女に簡単に騙されるんじゃないだろうか? と、少し心配になった銀一だった。

 しかしながら、銀一の心配は手遅れ。現在、時給300円で働き続けている横島なのだ。すでに女の色香に騙されている。……もっとも、本人も納得しているようなので問題はないのだが…………。


「銀ちゃん、この曲どうや?」

「あほか、それはユニットじゃないとできんやろ。こっちにせえよ。」

 あれやこれや、曲の選抜に時間がかかっている。横島が言うには女の子受けのいい曲で行きたいらしいが、残念ながら一人で歌える曲が少ない。銀一は手ごろなやつでいいんじゃないかと進めるが、横島は納得しない。


「よっしゃ、じゃあこうしよう。俺がある程度曲絞ったるから、そこから横っちが選ぶって事でどうや?」

「このままじゃ決まらなさそうやからな。それで行こか。」

「任せとけ、俺のお気に入りの曲を選抜したるからな。横っちならどれでもいけるやろ。」


 銀一が5曲ほど、選び抜いて横島に題名と歌詞を差し出した。その後、銀一はこれから収録があるらしく、指定した日に来てくれと最後に念を押して横島と別れ、部屋を後にした。

 横島も銀一の選んでくれた曲を聴きながら、歌詞に目を通す。ウォークマンも銀一が貸してくれたので、帰り道に聞けるという寸法だ。

 4曲ほど聴いたが、全部いい曲だ。間違いなく女の子の好きそうな曲ばかり。歌詞もみていると、女の子が好きそうな言葉がずらりと並んでいる。

「さすが銀ちゃんやな〜、こういった事はやっぱりつかんでるよな。」

 そう言いながら、5曲目に入る。すると歩きながら聞いていた横島が足を止めた。


「…………この曲。」


 一つの想いが胸に甦る。悲しく、切ない……。この想いをどこに向ければいいかわからない。行き場のない哀しみが横島の胸を占めていった。

 ポタっと何かが落ちる音が聞こえた。気になって下を見ると、円形状の小さな水滴が落ちた跡がある。

「…………?」

 何だ?と不思議に思っていると、買物帰りの小鳩の姿が見えた。こちらに気づいて小走りに近寄ってくる。だが、その表情が突然、変わりどこか焦ったように走るスピードが上がった。

「横島さん! どうしたんですか!?」

「……え? 小鳩ちゃん、どうしたって何が? それに小鳩ちゃんがどうしてここに?」
 イヤホンを外しながら、話しかける横島。

「何いってるんですか!? ここはアパートの前だから、いるのは当然ですよ。それよりも大丈夫ですか?」

 横島が辺りを見渡してみると、自分の住んでいるアパートがある。音楽を聴きながら、帰ったせいか気づけば、ここまで帰って来ていたのだ。

 それよりも小鳩ちゃんが、何を戸惑っているのかわからない。

 少し困ったように考えていると、ハンカチを差し出してくれた小鳩の姿があった。

「……え?」

「え、じゃありません。これで涙を拭いてください。」

 涙……? 不思議に思って自らの頬を手で拭ってみると、涙が流れていた。自分で泣いていたことに気づかなかった。小鳩に借りたハンカチで目元を拭うが、未だ涙は止まらない。

 心の奥底に押し込めた想いが溢れ出る様に涙が止まらない。

「あ……、ごめん。別に何があったっていうわけでもないんだ。俺、部屋に戻るね。」

「あ……横島さん。」

 小鳩の返事を聞く前に横島は自分の部屋へと入った。


「…………馬鹿だな、俺。」

 呟くような小さな声が横島の部屋に響き渡った。


───続く


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    あとがきという名のお詫び


しばらく投稿できませんでしたが、時間を見つけて書いたりしてます。

 皆さんには非常に申し訳ありませんが、真に勝手ながら『栄光に導く光の剣』を休載させていただきます。理由は最近、仕事の都合上、長編のお話を書くことができないと判断したからです。これからは短編や中編の作品を書いていきたいと思っております。

 仕事に余裕が出来次第、『栄光に導く光の剣』の連載を再会したいと思います。真に申し訳ありません。


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