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▽レス始

「傷と温もり(GS)」

matsu (2007-01-05 15:34)

ずっと暗い所をさ迷っていた。
いや、暗いなんてものではなくて、自分の輪郭すら見えない程の闇の中だ。
ぼんやりと、霞んだ思考であたしは繰り返し考える。
『これで再び輪廻転生の輪の中に放り込まれるのだ。
ああ、次は一体何者として生を受けるのだろう。けれど私はいつだって、私の思う通りに生きてやる・・・』
自由であることのなんと幸福なことなのか。私はそれを知っているのよ。
意識が沈む寸前、ほんの少しだけ寒くて、小さく身震いをした。


目を開けて、最初に飛込んできたのは高い天井。
「・・・・・・・・・・・・う」
そして次に感じたのは軽い吐気とめまい。
やけに空間が清浄で、神聖な気に満ちている。
なんだここは!
魔族の私にとっては最悪の場所ではないか!
しかし・・・この気はどこかで・・・。
と、そこまで考えて、私はハッとした。
生きている。
ただ暗闇の中を浮遊している記憶は未だにはっきりしていて、私はあのまま消え去るばかりだと確信していたのに。
なんだか、ホッとしたような、落胆したような、複雑な気分だった。
まあ、いい。
今は状況を把握するのが先だ。
あたりを見回すと、とても簡素な寝室であることが分かる。
広い間取りの中に、私の横たわるベッドと、小さな机が置いてある以外は目立った調度品はない。
けれど大きな窓から差し込むたっぷりとした日差しがこの部屋に暖かみを与えている。
突然、部屋の入り口のドアのノブが、がちゃりと音を立てた。
慌てて眠った振りをする暇さえなく、入ってきた人物と視線が交錯し・・・・・・お互い同時に息を呑んだ。
「め、目が覚めたようだね・・・」
多少裏返った声で、そのちょっと額がヤバめな男が言う。
・・・マズイ。
髪の毛の後退具合といい、冴えないメガネといい、見覚えはあるのだが名前が思い出せない。
でも、そう。これだけははっきりしている。
こいつはゴーストスイーパーだということ。
今の私は霊力がガタガタに落ちている。
本調子ならば、それこそ赤子の手を捻るようにこいつを瞬殺できるだろうに。
今では反撃の一つもまともにできないだろう。
一難去ってまた一難・・・というか、人生そううまくいかないものね。
私が何も言わずにじっと睨みつけていると、男はそわそわして視線をさ迷わせだした。
どうやら、何か言葉をさがしているらしい。
何度か口を開いてはつぐんでいる。
「あー・・・その・・・。そう、どうだい、調子は?」
・・・何を口走っているのだこの男は。
「はぁ?」
「あ、いや、調子がいいわけはないな!ははは、は、はは・・・」
壁際にベッタリ張り付きながら乾いた笑い声を響かせる。
私は仕方なく溜め息をついて、小さく笑った。
「あんた、覚えてるよ。美神令子の仲間だろ?」
すると、男の表情が僅かに引き締まった。
どうやら、正解、だ。実はそこまでの確証はなかったのだが。
「長い生涯で何度も死にかけたことはあったけど、私もとうとう年貢の納め時ってとこかい」
大人しく諦める振りをして、私はただ慎重に体にできるかぎりの力をみなぎらせていった。
敵わないことは分かっている。
でも、それで何もしないのは私の性格上、無理。
傷などつかなくてもいい。
そんなことは関係無くて。
不意を突ければ、一撃くらい当たるかもしれない、といつも何かに反抗してきた心が叫んでいるのだ。
「私は・・・・・・今の君を傷付けようとは思っていないよ」
しかし、私の思惑とは裏腹に、男は真剣な表情でそう言った。
「こうして、君を助けたことからもそれは分かっていると思ったが?」
たしかに、もし本当に私を滅ぼすつもりならば回復など待たずに殺せばいい。
だがそれでは納得がいかないことがある。
なぜ、助けた?
今まで散々敵対してきて、いくつもの残虐な行為を繰り返してきたこの私を。
その疑問をそのまま奴にぶつけてみた。
「君は・・・昨晩この教会の庭に倒れていたんだ。微弱な霊気を威嚇するように撒き散らしながら。
どうしてそんなところにいたのかは分からないが、そのときの君は、手負いの小動物となんら変わりがなかった」
こ、この私をとっ掴まえて小動物だと!?無礼にも程があるぞ、この男!
「基本的に私はね、そういう弱っているものや、助けを求めているものを放っておけない性格なんだ」
私は思わず怒りも忘れて唖然としてしまった。
たったそれだけの理由で?仇敵を助けるまでに至るわけ?性格だから、ですべてが収まると?
「アホなの・・・?」
しまった、声に出た。
けれどその男はその言葉に憤るわけでもなく、ただ照れたように少ない前髪をいじった。
「はは・・・。よく言われる。まあ、これが私の仕事とも言えるのだから構わない。後悔も、していないしね」
アホな上に間の抜けた男だねえ。
でも、これは私にとってかなり好都合だ。
相手に私を攻撃する意思がないのであれば、うまくすればゆっくりと休養を取れるかもしれない。
それでもって霊力が十分に回復した暁には真っ先に殺してしまえばいいだけの話だ。
ほんのちょっぴり猫撫で声で、私は尋ねた。
「それで?私をここに置いてくれるのかい?」
しばらくその男は黙り込んだ後、ゆっくり頷いた。
「ああ、君がいたいと言うのなら、断りはしない。ただ・・・制約は付けさせてもらったよ」
え?
私がきょとんとしていると、男は自分の手首を示してみせた。釣られて自分の手首にも目をやると、そこには数珠のような珠の連なったブレスレット。こ、この一際大きな珠は・・・。
「文殊!?」
しかも中に浮かび上がる文字は『抑』。
「一定以上の霊力を放出できないようにした。君が倒れているのを保護したあと、急いで横島君から借り受けてきたんだよ」
慌ててそれに手をやり渾身の力を込めるが、びくともしなかった。
「はずれない・・・っ!!」
「周りの小さな文殊がそれを君の手首に『固定』しているからね」
「ふ、ふざけるんじゃないよ、このクズが!それじゃそこいらの三流GSにも狩られちまうじゃないか!」
「あ、だから外へ出るときは私も一緒に付いていこう。・・・それに、今の君の姿を見て問答無用で攻撃できる者は・・・少ないと思うんだ」
「どういう・・・って、あああ!!」
自分の姿を今初めてしっかりと視界にいれて、私は絶叫した。
だぼだぼのTシャツを着せられてはいるが、明らかに短い手足と幼い体のライン。
霊力の低下が激しすぎて、容姿にまで影響が出ているようだ・・・・・・いいとこ5歳児?
アハハハハ・・・確かにこんな幼女をいきなり攻撃できるような極悪な人間はそうそういないかな・・・って。
冗談はよせえええ!
「それで、いつまでもそんな格好でいるわけにもいかないからと思って、今さっき子供服をいくつか買ってきたんだが気に入るのがあるだろうか。ははは、店員さんに『お父様、お子さんの服選びですか?』なんて言われて少し困ってしまったよ。そんな子供がいるように見えるのかな?」
見えるわい。この老け顔が。
目の前に詰まれた蛍光色のダッサい子供服の数々を見せられて、私は身震いした。
怒涛のように襲いくる絶望的な事象の数々にめまいがする。
「い・・・・・・いやだああああぁぁぁああぁ!!!」
・・・悲痛な悲鳴が再び教会の外にまで響き渡ったことは言うまでもなかった。


<あとがき>
初投稿いたします、matsuと申します。
作中では話の流れを損ねそうで明かせなかったんですが、唐巣神父とメド様のお話です。
動きのない話で申し訳ない;なまあったかい目で見てもらえたら嬉しい。(ぁ
あまりにこの二人が(というかメド様が)好き過ぎて投稿するまでに至りました。
まだまだ文章力も拙いので色々とご指導ご指摘頂けたら幸いです。
最後まで完結できるよう努力していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。


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