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▽レス始

「としこしそば(GS)」

Salim (2007-01-01 01:38)

 大晦日。言わずと知れた、一年最後の一日。そして…

「おっそばー、おっそばー、おっそばでござるー♪」

 意外に思われるかもしれないが、犬塚シロは蕎麦好きである。
 本来、狼というのものは肉食動物であるが、人の姿をとることの出来る人狼はヒトと同じく雑食性なのである。
 純度100%の本能で生きるケモノと違い、道具を使う知恵を手にすると同時に生きるために必要な食料の幅が広がったことは、種の生存に大きく関わっていると言えよう。

 余談はさておき。

 シロの生まれた人狼の里は結界で閉ざされた閉鎖空間であるがゆえに、空間内部の土地は完全に有効利用される必要があった。
 そこでは主食である米を作る田んぼは作れても、米の代用食であった麦(大麦)や、米に比べれば同じ面積あたりの収穫量が落ちる小麦を育てる畑を作る余裕は無かったのである。
 しかし蕎麦は痩せた土地でも一年に二度収穫できるという強い生命力を持つ植物であり、田んぼや野菜を作るための畑を作った残りの狭い空き地でも育てることが出来たのである。
 もちろん、余剰の空間である蕎麦畑の面積は非常に狭く、人狼の里の住人全員に行き渡るほど充分な蕎麦粉は取れるはずも無く。
 人狼の里では逆に蕎麦(特に蕎麦粉を練っただけの蕎麦掻ではなく切って麺にした蕎麦切り―――いわゆる、我々の認識でいう『ソバ』)というものは、古来は元服や世継の誕生など、祭り事でも無い限りは食べる事の出来ない贅沢品だったのである。
 実は、彼女が結界の外で生活することになった時に一番驚いたのが『蕎麦がそこらじゅうに溢れている』ことであった。

 もっとも、人狼の里で食されていた蕎麦とは、繋ぎのない『100%蕎麦粉で出来たソバ』であり、我々の世界に溢れている小麦を混ぜたソバとは味も風味もまるで違う。
 野性を残すが故に味にも敏感であった彼女には、人界に溢れているソバはお気に召さなかったようで、ごくたまに美神が連れて行ってくれる超高級蕎麦屋や、おキヌが作る蕎麦粉100%の手打ち蕎麦を除けば、もうひとつの顔であるオオカミの主食の肉のほうに関心を示すのは至極当然のこととも言えなくも無い。


「はーい、お待ちかねの年越し蕎麦ですよー」

「おおー!待っていたでござるー!」

「ちょっと一人で浮かれてないでさっさとこっちにも回しなさいよバカ犬」

「自分で受け取りに行けば良いでござろう?それと拙者は狼でござるこのバカ狐」

 フーッ!

「はいはい二人とも喧嘩しない。シロもさっさとこっちに蕎麦を回す」

「…半纏で着膨れながらコタツに潜り込んでても迫力ゼロっスよ美神さん…」

 除霊のスケジュールのびっしり詰まった年末に、この一週間で突然冷え込んだものだから冬物なんか出してるヒマも無く、おキヌが実家から送ってもらった半纏を半ば私物化しつつある美神に横島が突っ込む。
 ていうか冬でも基本ボディコンな格好は寒い寒くない以前の問題じゃないかと思われる。
 女の子は冷え性が多いので防寒には気をつけましょう。


「…ああ、蕎麦がうまいでござる…一年中こんな蕎麦が食べられたら幸せでござるのに………」

「ほほう、ならばロシアに行くと良いぞ」

「…先生、蕎麦とロシアに何の関係が???」

「うむ、ロシアには実は蕎麦好きの聖地とも言われる島が在ってな。島の全域が蕎麦畑で、そこの住人は年中好きなだけ蕎麦を食べているらしい。信州なんぞ比べ物にならないほど寒暖差が激しいが故に、そこでとれる蕎麦はもう絶品という噂だ。
蕎麦好きのメッカ、その名も蕎麦ヤゼムリャ島

「そんな所、授業で習った記憶まったくないんですけど…」

「そんな細かいことは気にしちゃダメだおキヌちゃん、そんなことでは大きくなれないぞ」

「よ、余計なお世話です!!」

「ぐべらっ!!!!」

 何処が大きくなれないと言われて怒ったのかはおキヌちゃんと貴方だけの秘密。


「先生、先生!連れて行って欲しいでござるよ!!」

「未だバイト代が時給ウン百円の俺がロシアまでの航空チケットなどペアでというか一人分すら買えるはずが無かろう、この馬鹿弟子がー!」

「空がダメなら陸から行けば良いでござるよ、さあ蕎麦の聖地目指してレッツゴー!!」

「ちょ、ちょっと待てシロ、ここからロシアまで何キロ有ると思ってるんだ、それ以前に今の話はじょうだ…ぐえ」

「………」

「……」

「…」

「…自業自得ね」

「…そうね」

「…そうですね」

「…まあ、流石に海まで行けば諦めるでしょ」

「…いくらバカ犬でも、海は越えられないでしょうしね」

「…とりあえず、新年のスケジュールは横島さんとシロちゃんがいないのを前提で組みなおしますね」

「…お願いするわ」


数日後。

蕎麦の聖地など無かったと泣きじゃくるシロを慰めるため、とっておきの蕎麦屋で蕎麦尽くしを堪能する女性陣の姿があったという。

『…次のニュースです。ロシア政府は今日未明、不法入国で拘束した日本のGSをオカルトGメンロシア支部に引き渡すとともに、日本政府に対して遺憾の意を表明しました。不法入国したGSが拘束された位置に近いノヴァヤゼムリャ島は、ソ連時代に大規模核実験場として史上最大の核実験が行われた場所でもあり、今なお放射能が…』


シロが蕎麦好きというのはもちろんこのSSを書くための捏造設定です。
あと、原作と口調が違うとかそもそも蕎麦好き以外も設定が間違ってるとかツッコまないでください。泣きますから。
それと、年越してから年越す前の題材のSS投稿してんじゃねーよとかも言わないで下さい。やっぱり泣きますから。
今年も一年、良い年でありますように。


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