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▽レス始

「君へ贈るもの(GS)」

こーめい (2006-12-25 23:54)

 結局、俺は何もしてやれなかった。

 俺が強くなり、あいつを倒し、君自身を連れ出して、それでなんとかなると考えていた。


 君の気持ちを考えてなかった。
 生みの親や実の妹達と敵対し、命を懸けて戦わせることになるかもなんて、予想もしていなかった。
 君自身は、自ら望んだことだと言ってくれたけど、そうさせてしまう覚悟も何もなかった。

 君の気持ちを考えてなかった。
 例え一時の思い出でも、俺の心に残りたいといってくれた君のことを、都合よく捉えていた。
 君は俺と共有する思い出が欲しかったのであって、ただの肉体的接触を望んでいたわけじゃないのに。


 俺が君の死に涙を流した時、あの人は言った。
 君は、悪いことに使って終わるはずの命を、いいことに使えたのだと。
 君は、俺と出会って、少しでも幸せになれたはずだと。

 君は、君が俺の中に残した思念でも、同じように言っていた。
 満足だったと。後悔はしていないと。何も、失っていないと。

 だけど、俺はそれらを信じ切れなかった。


 いなくなってから初めて、俺は君に何もしてあげられなかったことを気付かされた。
 君と、もっと会話をしておけば、もっと思い出を作っておけば、もっと君と笑顔を見せ合えていれば。
 結末は同じでも、俺はせめて君の人生を色鮮やかに彩ることが出来たと、思うことも出来たのに。

 俺が君にしたことといえば、下心満載で迫ったばかりだ。
 あれでは、君を幸せに出来たなどと、信じられようはずがなかった。


 そうしてその時、気付いた。

 君は、俺の事を好きだと言ってくれた。
 君は、俺の事を好きだからこそ、親や姉妹とも戦えると言った。
 俺の事を好きだからこそ、あんな俺に命を譲ることに、躊躇わなかった。

 俺は、君の事を、本当の意味で好きだったのだろうか?

 君のために、死にそうな目にあいつつも強くなろうとした。
 君のために、到底敵うはずがない魔神に、命も惜しまず喧嘩を売った。

 だけど、君のために、親しい人を殺そうと出来ただろうか?
 例えば君のために、そう仲のよくない両親と言えど、完全に裏切るようなことが出来ただろうか?

 自分の命を懸けることは出来ても、それが出来たとは思えなかった。

 だって俺は、俺自身に、価値を見出していなかったから。
 自分がかわいいくせに、自分が嫌いだったから。
 臆病なくせに、自分の命なんて、安いものだと思っていたから。自分が命を懸けることを、軽く見ていたから。

 あの人に安く雇われていたせいもあるかもしれない。周囲にバカにされて育ってきたせいもあるかもしれない。
 だけど、俺自身が、自分を認めていなかった。そう、この世に自分ほど信じられないものなどなかった。
 十七年生きてきて、これと言って褒められるようなことをした覚えもなく、遊び以外に自慢できる特技もなかった。
 霊能力が目覚めてからも、俺の根幹的なところは変わっていなかった。

 それは俺を認めてくれた君を、相対的に貶めることになっていることにも気付かず。
 だから、君の姉妹喧嘩に割り込んだ時だって、もし自分が死のうとも問題ないと、どこかで考えていた。


 そんな、自分にとっては安い命を懸けたからって、君の事を本当に好きだったことになるのだろうか?
 君が認めてくれた自分の価値を低く見積もっていては、その好きという気持ちの価値を認めてないということに繋がるのに。
 事実、君が俺を好きになってくれたのだって、特殊な事情によるものだとすら考えていた。
 君が普通の寿命を得て世界が広がれば、俺なんか相手にもされなくなるのではないかと怯えて、焦っていた。

 自分に価値を認められないままの俺には、人を好きになる資格なんてなかった。
 そもそも、人を好きになると言うことを、その重みを、分かっていなかったんだ。
 相手を好きになり、その好きになった自分を好きになれなくては、二人でいる意味がないのだ。
 俺の好きな人の横に立つなら、そいつも俺の好きな奴でないといけないに決まっている。

 そのことに、あの時ようやく気付けた。


「お疲れ様、よく頑張ったな」

「もっと辛いかと覚悟してたのよ。拍子抜けしたわ」

「楽だったなら良いことじゃないか。……えーと」

「……そっちのベッドよ。そーっとね」


 今、君にもう一度出会えたら。

 俺は、君に何を置いても言わなきゃいけないことがある。

 謝罪じゃない。俺は確かに君に対して済まなく思っているけれど、君はそんな言葉は望まないだろう。
 言い訳や弁解でもない。聞かれれば口にしてしまうかもしれないが、それを真っ先に伝えるなんて情けない真似もしたくない。
 ましてや愚痴や恨み言など、君が俺に言うならともかく、俺から口に出せる道理はない。

 いまだ自分に十分な自信は持てないけど。
 あれからずっと考えて、少しづつ周りを見る心構えが出来て、余裕が出来て、俺のことを認めてくれる人も沢山いることに気づけた。
 俺が周りに、何より自分に認められるよう行動する意識も持てた。

 力がどうとか、容姿がどうとか、そういう問題ではなしに。
 俺は、あの時と比べてましになったと、思えるようになってきたから。
 人を好きになることに、好かれることに、相応しいだけの自分というものが持てたと思うから。


 だから、君に。

 君が、自分自身をもって俺に価値を見出してくれたことに。

 君が俺に、自分のことを、周りのことを、気づかせてくれたことに。

 君自身はそんなつもりはなかったかもしれないけど、俺の世界を変えてくれたことに。


 誰かに幸せを、与えられる。

 かつての君から受け取ったものを、君自身に贈り返せる。

 周りから渡された大事なものに気付き、それを大きくして、周りに渡し返せる。

 そういう人になれた事を、君自身に伝えたいから。


 今の君は、もうそのことは忘れているだろうけど。


 君であって君でない君へ。


 今の俺が贈れる、あの時贈れなかった、一番の愛の言葉を。


「ありがとう」


 抱えあげた腕の中、俺の娘は、小さく微笑んだ。


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