くりすますとくべつきかく?
GS美神 ~ 想い ~
クリスマスシーズンである。
12月24日
世間一般でいうクリスマス・イヴ。
特に今回は、ある魔神が起こした大戦が残した傷跡から、本格的に復興してから初めて迎える特別なクリスマスである。
元々クリスマスは英語の「Christmas」であり、これは「キリスト(Christ)のミサ(mass)」という意味で、イブ(Eve)とは「前夜」という意味と言う事。
イエス・キリストの正確な誕生日はハッキリしてはいないが、4世紀に今日のように12月25日を誕生日として祝うようになったらしい。
頭に赤いバンダナを巻いた青年『横島 忠夫』は先程まで仕事の手伝いをしていた、自分の(一応)霊能の師である美神の師匠の唐巣神父が、帰り際にお茶を出してくれた時に教えてくれた事を何となく思い出していた。
「まぁ、最近の人たち、特に若者たちは主の誕生を祝うというより、お祭りの雰囲気を楽しむ事に重点を置いているようだがね…。」
と神父が苦笑いと共に口にした台詞が印象的で、唐巣神父の弟子で高校のクラスメイトでもあるピートと一緒になって力なく笑った。
そんな事を考えている内に、いつの間にか自分のバイト先である建物の前まで来ていた。
「よう、人工幽霊壱号。
…メリー・クリスマス。…ってかぁ♪」
≪横島さん・メリー・クリスマス。皆さん中でお待ちです。≫
「そっかぁ。予定よりかなり早くついたんだけどなぁ…。さっさと入るか。」
≪そうですね。≫
軽くこの建物自身である人口幽霊壱号と会話をした後、横島は事務所の玄関ドアを開け中に入っていった。
「ちわーっす。」
いつもの挨拶をしながら中に入ると
「センセー!!」
という叫び声と共に1人の少女が横島に飛びかかり顔を嘗め回す。横島も何時もの事で慣れたのか適当な所で、その少女を引き剥がし何時もの台詞を口にする。
「…シロ…。いい加減こーゆー事はやめい!まんま犬だぞ?そーゆーとこ!?」
「犬ではござらん!狼でござるっ!!」
横島がヨダレだらけになった顔をハンカチで拭きながらシロと呼ばれた少女に注意すると、その台詞にシロが抗議する。
「そーゆー所が犬だってゆーのよ。馬鹿犬。」
そんな様子を見ながら最近この事務所に居候するようになった妖狐タマモ。その正体は“金毛白面九尾の妖狐”という伝説の大妖である。
「何を言う!女狐!犬ではござらんと言っておろう!」
「まーまー。2人とも…。」
何時ものように喧嘩を始めようとする2人を宥めるのは、この美神除霊事務所の良心である“氷室 キヌ”通称おキヌちゃん。
「横島さん、おつかれさまでした。」
おキヌが横島に労いの言葉を送る。
「あぁ。大したことじゃないよ。殆どが力仕事だったからね。で、美神さんは?」
「美神さんなら今奥ですけど…。」
おキヌがそう答えると奥に通じる扉から、2人の女性が出てきた。
「あ、横島クンおつかれ。」
「あら、横島君。ご苦労様。」
「だ~。に~に~。」
出てきたのは、この事務所の主である“美神 令子”とその妹“美神 ひのめ”を抱いた“美神 美智恵”である。
「あ、どもっす。隊長。もういらしてたんですか。」
「ええ。で、神父とピート君はどうだって?」
「少し遅れるそうですが、出席できるそうです。」
「そう。わかったわ。」
美智恵と会話をしていると、
「じゃあ、横島クンも早く準備してらっしゃい。着替えなんかは客間に用意してあるから、シャワーを浴びて着替えてきなさい。まだ準備が終わっていないのはアンタだけよ?」
令子が横島に言うと、横島はこの場にいる人たちを見回す。
すると、今迄気付かなかったが、美神親子やおキヌ、シロタマは其々ドレスアップしており準備万端である。
「判りました。…それと皆、似合ってますよ。美人が更に美人になってますね。」
横島はそう言いながらシャワールームへ向かっていった。その台詞を聞いた彼女達の顔はほんのり赤くなっていたようだが。
今日はいつもの親しいメンバー(大戦時のメンバー+小竜姫・ヒャクメ・パピリオ・ワルQ・ジーク・ベスパの神魔の面々)で、忘年会もかねたクリスマスパーティーを“たまには一緒に”一流のホテルでする事になっていたのだ。
(決して蝶の化身が駄々をこねた訳ではない。と思う。)
横島はシャワーで汗を流し、客間へと向かう。客間には今日の為に注文していた黒のスーツが準備されていた。
あの大戦以降、バイトの報酬が他のGS並に改善され(これには、美神親子の間で凄まじい攻防があったと言われている。)生活水準も向上し、このようなスーツを買う余裕も出てきたのである。
美神に仕事を任される事も増え、又、美神と共に客先との交渉の場に同行する機会も増えてきたので、このての正装は必要になるのだ。
髪型を今回初めてオールバックにし、準備されていたスーツに身を包み、皆が待つ応接間へと向かう。
「おまたせっス。準備できましたんで行きましょうか…って、どうしたんっすか??」
横島が応接間へ入っていくと、その姿を見た女性陣は彼を見て固まっている。
「おーい。」
再度呼びかける横島。
「はっ!?よ、横島クンその髪型…。」
美神が最初に復活し何時もと違う雰囲気をしている彼に話しかける。
大戦後頻繁に訪れるようになった妙神山。そこでの修行で鍛え上げられた肉体と精悍さをました顔にオールバックに黒のスーツ姿の横島。
普段確かにスーツを着た姿を見ることもあったが、それはまだ少年の雰囲気をのこしていた。
それが、髪型を変えただけで一気に無くなり、完全に大人のそれになっていた。
「あ、変ですか?一回こーゆー髪型してみたかったんですけど…。似合わないんだったら元に戻してきます。」
そう言いながら横島は“失敗したかなぁ”と思いつつ客間へと戻ろうとするが、
「「「「「そ、そのままでいいわよ!(です!)(でござる!)(だ~~!)」」」」」
と横島をとめる美智恵以外の面々。そんな様子を見て美智恵は『あらあら』と微笑ましく見守っていた。
そして、時間は経過し場所はパーティー会場へと移る。
会場についたとたん、パピリオがお約束で横島に飛びつき、其れをシロタマが引き剥がす。その後、色々あったが精神年齢が近いということもあり、直ぐに仲良く?なり、好きな料理の探求やゲームに熱中していく3人。
(横島から貰ったクリスマスプレゼントが3人とも携帯式のゲーム機だったのだ。)
次に起こったのが…
「や、やぁ!横島君!今日は大分雰囲気が違うじゃないか?馬子にも衣装というが本当だね。」
と言う似非紳士こと西条の横島への挑発。
「うるせー。この似非ロン毛紳士。挑発するならその鬱陶しい長髪をどうにかしてからしやがれ!」
言い返す横島。
「「……。」」
≪ ギンッ!! ≫
一瞬の沈黙の後、鳴り響く金属がぶつかる音。
「「っ殺すっ!!」」
一進一退の鍔迫り合いが続くかと思われたとき…。
≪ チャキッ!! ≫
2人の米神に当てられる銃口。
「そこまでになさい。それ以上するなら…。」
“カチリ”と激鉄を起こす美智恵。
「「はひっ!」」
その美智恵の目を見た横島と西条は『本気(マジ)で打つ気だ!』と感じ、互いの武器をしまい争いをやめる。
「ん♪よろしい。聞き分けの良いコって好きよ?」
と美智恵が素敵な笑顔で言うと、西条が「命拾いしたね?横島君?」と捨て台詞を残しその場を後にする。
その十数分後、西条がトイレに篭りっぱなしになり、その原因は魔女の格好をし小瓶を手にした女性と、その行為を見ていた女性陣のみが知っていた。
その後は楽しい時間が過ぎていった。
目付きの悪い背の低い男が、自分の彼女であるプチ美神と呼ばれるおキヌの同級生と自分達の世界を作ったり、影の薄い大男が、同じく彼女であるヤケに気合の入った髪形のおキヌの同級生と同じく自分達の世界を作ったり、某ヴァンパイアハーフが世界的な呪術師に拉致されかけたりと、何時もの光景が展開されている。
更に、某神父が魔女の格好をした女性の使い魔である黒猫に愚痴をこぼし、その黒猫に慰められたり、娘にもっと素直になりなさいと説教するオカルトGメンの隊長がいたり、酒の影響で式神が暴走しそうな某旧家の令嬢を300年間幽霊だった巫女さんがその笛の音で宥めようとしたりと、本当に些細な事だ。
神魔は神魔で人間界の酒に舌鼓を打ち、その中に魔王と呼ばれる人物や魔女の格好をした女性が入り、智に関する交流を行っている。この周辺は比較的平和だろう。
横島は、そんな光景を見つめつつワイングラスを手に物思いにふけっていた。
“もし、ここに彼女がいたら…。”
そんなありえない“自分にとっての幸せ”を考えてみる。
無意識の内に、文珠を創る時と同じ要領で彼女の妹が集めた“彼女の欠片”を自分の霊気で覆った物をしまってある、スーツの内ポケットの上に手を当てる。
そのポケットの中にある存在と、自分の中に確かに存在する“彼女の欠片”でしか自分は彼女を感じることが出来ない。
直ぐ側にあるのに届かない存在(ヒト)。
逢いたくてたまらない存在。
抱き締めてその温もりを感じたい存在。
ずっと一緒に歩んで行きたかった存在。
最愛の存在。
― ルシオラ ―
ズキリと心が痛む。
吹っ切ったつもりでいたのに…。
グイっとグラスに残ったワインを一気に空ける。
「(なさけねぇのかな。俺。)」
何となく寂しくて情けなくて俯いてしまう。
そんな事を考えていると目の前に
≪ スッ… ≫
と差し出されるワインの入った新しいグラス。
差し出した人物を確認しようと視線を上げると其処にいたのは…。
「ベスパ…。」
空になったグラスを側のテーブルに置き、ベスパが差し出したグラスを受け取る。
「…姉さんの事を考えていたのかい…?ポ…ヨコシマ。」
「ん…?あぁ。こういう席だと如何しても…な…。」
「そうか…。」
しばし流れる二人だけの沈黙の時間。
「ねぇ。やっぱり、恨んでるよね?私の事…。」
「んぁ?何言ってんだ?前も言っただろう?誰も恨んじゃいないって。あの時は皆必死だったからな。俺達もお前たちも。…そりゃあ自分でそれに気付くまで色んな存在を恨んださ。それこそ、アイツの命と引き換えに選んだこの“世界”でさえな…。でもな…。」
「でも…?」
「あの頃は自暴自棄になって、本当に色んな人に迷惑かけた。美神さんや隊長・おキヌちゃん。小竜姫さまや老師。ワルQやジークにパピにお前。親父にお袋。学校の連中。ほんと大勢だ。」
「…。」
「皆が必死になって俺を…俺なんかを気にかけてくれて…。俺頭悪ぃーからなんて言ったら良いのかわかんネェけど。ある時妙に納得したっつーか、気付いまったんだよな…。『あぁ。こーゆー事か…』って。」
「…。」
「まぁ、気付くのが遅くて純粋な“人間”ではいられなくなったけど…。それでも周りの連中は俺を“横島 忠夫”として接して扱ってくれる。…だから恨んでるとしたら、俺自身を恨んでるん…だろうな。なんでもっと早く気付けなかったんだって。」
「…でも…。」
「あぁ~。もぅ。この話は終わりっ!これで納得できないなら…ほれっ…。」
そう言いながら横島は【伝】と文字の浮かんだ文珠を創りベスパに手渡す。
「これは…?」
戸惑うベスパ
「これは、今の俺の心境を“伝”えるように調整した文珠だ。如何しても納得したいなら其れを使えばいいさ。」
ベスパにニコリと微笑みながら答える横島。
ベスパは手渡された文珠を両手で包み込み胸の前で握り締めた。何となく頬も赤くなっているが…。
≪ ポウッ… ≫
淡い光を放ちながらその想いをベスパに伝える文珠。
数分後…。
ベスパは自分の心が満たされていくのを感じていた。
横島の自分の姉や妹に対する想い。
横島の身の回りの者達に対する想い。
そして自分の創造主に対する想い。
何より横島が目の前の男が自分に抱いている想い。
それらを理解した途端、自分の目から止め処なく涙が溢れてくる。
横島に恨まれているのではないかという恐怖という名の氷塊が溶け出したかのように…。
「(ああ…そうか…。だから姉さんはヨコシマに…。)」
そう気付いた、気付いてしまった彼女…ベスパは思わず横島の胸に顔を埋めて静かに泣き出した。
ヤレヤレという感じで優しくベスパの背を撫でる横島。
ふと視線を周りに移すと其処には……………
神通鞭を構えた美神が、ネクロマンサーの笛で12匹の式神のコントロールを奪った黒い霧を纏ったおキヌが、霊波刀をだしたシロが、狐火を幾つも出したタマモが、今にも泣き出しそうなひのめが、神剣を構えた小竜姫が、トランクを振りかぶったヒャクメが、精霊石銃を構えたワルキューレが、箒に霊気を充填している魔鈴が、ロケットアームを構えたマリアがいた…。
「(ルシオラ…もう直ぐ逢えるよ…。)」
そんな事を考えていても横島はベスパが泣き止むまでずっとそうしていたそうな…。
その後、シッカリと女性陣にシバかれた横島は、綺麗な花の咲く川岸でマッチョな魔神とティータイムを楽しんだそうな…。
おまけ
パーティーの終盤、ホテルの窓を突き破り、トナカイの着グルミを着た蝙蝠のような羽を沢山生やした“関西弁を駆使する悪魔”に引かれる“幸せ宅配便”と書かれたソリに乗った“頭にトゲトゲのいっぱいついた冠”の上に真っ赤な帽子を被り、同じく真っ赤な服を着たヤケに神々しい雰囲気をもった男性が乱入し、『某魔神の城』に残されていた霊気構造を培養して創ったリボンでむすばれた“蛍の化身”の体を横島にプレゼントし、彼の所有していた“彼女の欠片”をその場で合体させ、彼女が復活。
再会の喜びに耽っている2人に(特に女性に向かって)宣戦布告や参戦を表明する女性陣とその挑戦を受ける“蛍の化身”の姿があった。
参戦者の中に彼女の妹達もいたということだが…。
おまけ2
その光景をみた某神父は『私は何も見ていない!!』と頭を抱えて叫んでいたそうな。
その際ハラリ、ハラリと落ちる髪の毛を、その弟子が集めていたのは言うまでもない。
今後、どのような修羅場が形成されたかは、誰も知らない。
あとがき?
ども。零式です。お約束のもの出来ましたんで投稿します。
本来はルシオラ復活がメインだったんですけどね。
ベスパが動き出してしまいこんな事に。
初の一話完結ものなので、文面が変なところがあると思いますがご容赦を。
尚、この作品についての苦情お問い合わせはレスでお願いします。
でわw長編の方でおあいしましょー^^。