十二月二十四日。
キリストの生誕祭であり世間ではクリスマスと呼ばれる日だ。
美神除霊事務所の皆も、今日のノルマの仕事を終えた後、事務所でパーティーを行った。
・・・名目上はパーティーであるが、あれはもはや世間一般では宴会と呼ぶのではないのだろうかと思われるが。
美神はすでに酒瓶を軽く十本くらい空け、シロとタマモはそれぞれ好物のお肉とお揚げをがつがつ食べ、おキヌは部屋と台所を忙しなく行ったりきたりしている。
横島はというと、美神の勺に付き合い、いつの間にかアルコールを摂取したシロに(据わった眼で)酒を勧められ(断ったら霊波刀を出してきた)、同じくアルコールが入ったタマモに抱きつかれ(離れるように言ったら涙目+上目遣いで見つめられ、撃沈)、それを見た美神もアルコールの勢いを借り、横島の腕に抱きついたりした(それを見たおキヌから黒いオーラが発せられ、美神に飛びつくことが出来なかった)。
その後、事務所の知人(近所の浮幽霊含む)達も集まって、飲めや歌えのドンチャン騒ぎとなった。
全員が酔いつぶれた後、横島は一人、外に出ていた。
特に理由はない。ただなんとなくだ。
イルミネーションが輝く街を、ブラブラと歩く。
周りを見渡せば、腕を組んで歩くカップル、ウインドウショッピングをするカップル、往来で大胆にもキスしてたりするカップル・・・・・・。
(まったく、どこを見てもカップルカップルカップル・・・。
ちくしょーー!!見せつけやがってーー!!彼女が居るからって調子乗ってんじゃねーぞーー!!)
などと、足を止め心の中で叫びまくる。
声に出さなくなっただけでも一応は成長しているようだ。
街中は、いつもと違い、落ち着いた雰囲気がしていた。
だからだろうか、横島の邪なテンションが下がり・・・、
「・・・あいつと一緒に、クリスマスしたかったな・・・・・・」
ふと、横島の脳裏に、一人の女性の姿が浮かび上がったのは。
こんな自分を愛してくれて、命までくれた愛しい女性。
「・・・俺らしくねぇな。」
街の雰囲気にやられたのか、少ししんみりしているようだ。
横島は苦笑すると、再度、歩を進めた。
どれくらい歩いたのだろうか。気がつくと、人の気配がしないひっそりとした所にきていた。
そこに、
「あたたたた・・・・・・」
赤い服と帽子を付け、白い袋を持ったおっさんが、腰を抑えて呻いていた。
隣には、ソリと思われるものを付けたトナカイが居る。
「な、こんな日に泥棒か!?もしや、その袋の中は美女達のパン○ィーなのか!!??
おのれ、うらやま・・・もとい、許せぬ!!
この横島忠夫が、成敗してくれる!!」
そんなことを言いながら、霊波刀を構える。
なぜ霊波刀かと言うと、このおっさんからかなりの霊波を感じたからだ。
「誰が下着ドロじゃ!!・・・あだだだだ・・・・・・」
おっさんは横島に突っ込みを入れると、腰を抑えて蹲る。
「って、どっかで見たことあると思ったら、サンタクロースじゃねーか」
「そう言う坊主は、あん時の」
「ま~たぎっくり腰か?おっさんもそろそろいい年なのに、跡継ぎとかいねぇのかよ」
「そんなの居たら今ここに居らんわ」
このおっさん・・・もとい、サンタクロースは、かつて美神除霊事務所の結界に激突し、腰を痛めて仕事が出来なくなり、横島と美神が代わってやったという過去がある。
とりあえず、事務所まで連れて行くことにした。
基本的には男はどうでもいいと思っている横島だが、本当に困っている人には手を差し伸べることが出来るのは彼の美点であろう。
決して、サンタを心配するトナカイのつぶらな瞳に負けたからではない。
美神たちはぐっすりと寝ており起きる気配がないので(おキヌも幸せそうな顔して寝ているので、起こす気がしなかった)、空き部屋に連れて行き、ベッドにサンタを寝かしつける。
「今年も後百件残っているっちゅーに、くそったれ!」
悪態をつくサンタ。純粋な子供(シロとか冥子とか、あと、子供ではないが唐巣神父とか)に見せたら、トラウマになるであろうガラの悪さである。
「っちゅーわけで、今年もわしの代わりをやってもらえんか、坊主?」
「はぁ?何で俺が手伝わなきゃいけねえんだよ」
ぎっくり腰のせいで仕事を続けることが出来なくなったサンタは、横島に仕事を手伝うように頼んだが、横島は速攻で断った。
以前、同じように仕事を代わったとき、上空は凍死するんじゃないかと思われるほど寒く、世界中を周るため重度の時差ボケを起こしたりし、たった一晩しか経っていないのに洒落にならないほど衰弱した経験がある。
さすがの横島も、あれはもうこりごりのようだ。
「仕事を代わってくれたら、特別にプレゼントをやろうと思うが・・・」
「いらねー、どうせおもちゃとかやろ?」
横島は、そのまま部屋から出ようと、きびすを返した。
「お前が以前欲しがっていたものでも?」
横島の足が止まる。
「確か、美人のねーちゃんとか言っておったな」
「ま・・・マジか!?」
横島は向きを変え、血走った眼でサンタに詰め寄った。
「嘘じゃねーだろな?○ッチワ○フとか言うんじゃねーぞ!!」
「モノホンのねーちゃんじゃ」
サンタはちょっと引きつつもそう言った。
「よっしゃー!!任せろ!!」
そう言った横島は、一瞬のうちにサンタ服を着、袋を担ぐ。
「言わんでも分かるだろーが、袋に手ぇ突っ込んだら自動的にプレゼントが出てきよるからの」
「おう!!待ってろよ、まだ見ぬねーちゃん!!」
ソリに飛び乗り、トナカイに高速で引かれ空へと駆け上がっていく。
「・・・まったく、扱いやすいの」
サンタはあきれた顔でそう言った。
以前と違い、文珠で『防』『寒』し、鍵は栄光の手でガラスをすり抜けて開けたり出来たので(注:犯罪です。良い子は真似しないように)、スムーズにプレゼントを配ることが出来た。
そんなこんなで一晩経ち、無事にプレゼントを配り終えた横島は事務所に戻ってきた。
まだ夜が明けて間もないので、事務所の中で美神たちは爆睡している。
「おお、お疲れさん」
「全部配り終えたぜ。
と言うわけで、約束の美女をくれ!!」
開口一番、横島は鼻息荒くサンタに催促する。
「そうあせるなって」
そういいながら、サンタは袋の中に腕を突っ込む。
横島は、それをわくわくしながら見ていた。
そして、サンタの腕が引き抜かれた。
「ほれ、これじゃ」
サンタの手には、なにやら光る玉のようなものが乗っていた。
「・・・・・・は?」
横島は、あっけに取られた顔をした。
まあ、美女をプレゼントすると言って光る玉を出してきたのだから、分かると言えば分かるが。
サンタはその光る玉を横島に渡す。
「おい、おっさん!これのどこが美人のねーちゃんなんだよ!!」
キレる横島。
だが、サンタは動じない。
「気付かんのか?それをよく見てみい」
横島は言われるままに、その玉を見る。
「ただの光の・・・・・・・・・・・・・・・おい、ちょっと待て」
横島は、その光の玉が何であるか気付いた。
驚愕した顔で、サンタを見る。
「何であんたが・・・・・・」
「腰も大分マシになったから、わしはそろそろ行くわい」
横島の問いに答えず、サンタはよっこらしょと立ち上がり、ソリに乗り込む。
「おい、ちょっと!」
「言ったろう、仕事の報酬でプレゼントをやると。
まあ、今日は助かった。礼を言うぞ」
サンタはそう言って豪快に笑いながら、空に飛んでいった。
それを見届け、我に返った横島は、急いで文珠を取り出し、アパートまで『転』『移』した。
アパートに着いた横島は、あせる気持ちを必死で抑えながら、部屋にあったあるものを取り出す。
ソレとサンタから貰った光の玉を近づけると、光の玉はソレに吸い込まれていった。
光の玉をすべて吸収したソレは、柔らかく儚い光を放ち、輝きだす。
横島の心臓の鼓動が高まっていく。眼から涙が溢れだした。
光が収まると、そこには一人の女性が立っていた。
優しいがゆえに、悪で居ることに耐えられなかった悲しき魔神が作り出した、一匹の蛍。
かつて自分と心を通わせ、愛し合い、自分を助け、消えていった儚き蛍。
もう一度会いたくて、でも、もう二度と会うことが出来ないと思っていた愛しい人。
「ルシ・・・オラ・・・・・・?」
声がかすれる。夢なんじゃないかと頭のどこかが訴える。
それでも・・・例え夢でも、こいつとまた会えた。
「ヨコシマ・・・・・・」
その女性が、横島に呼びかける。
「あ・・・あ・・・あああ・・・・・・」
頭の中が真っ白になる。言葉も出てこない。涙が止まらない。
女性が近づいてくる。
その女性の目からも、涙が溢れていた。
「ヨコシマ・・・・・・」
女性が手を伸ばす。
その手が横島の頬に触れた。
少し冷たく、でも、しっかりとした感触。
横島も手を伸ばし、女性の頬に触れる。
幻覚ではない、しっかりと触れているという感触が、手のひらから伝わってきた。
「ルシオラ・・・・・・」
「ヨコシマ・・・・・・」
二人は、同時に抱き合った。
夢でないことを確かめ合うように。
もう二度と、離さぬように・・・・・・・・・。
「どうやら、うまくいったみたいじゃのう」
ヨコシマのアパートの上で、トナカイに引かれたソリに乗った赤い服と帽子を着たおっさんが、酒をちびちびとやりながらそう言った。
さっきまでぎっくり腰を起こしていたとは思えない。
「しかし、神魔の指導者達から、こんな依頼が来て驚いたわい。
まあ、あの大戦での恩返しと言ったところだろうがの」
神魔の指導者達なら、下級の魔族を復活させるくらい、どうと言うことではない。
ルシオラの妹であるベスパから構成霊体を分けてもらい、それをルシオラの霊気構造に変えたのだ。もちろん、ベスパは喜んで協力した。
それを、プレゼントと言う形でサンタが横島に渡すように言われたのである。
わざわざそうしたのは、ただ単にあの二柱のノリと言うかイタズラ心であろうが・・・。
しかし、プレゼントは一人につき一つと掟で決まっている。
そこで、腰を痛めた振りして横島に仕事を押し付け、その報酬に渡そうと考えたのだ。決して、自分が楽したかったからではない。
「なぜ神魔の指導者ともあろう方達が、あの坊主にそこまでするか気にはなるが、
まあ、わしみたいな下っ端にはどうでもいいことだ」
最後の一滴を飲み干すと、サンタはトナカイの紐を引き、空を駆け出す。
「神様からのプレゼントじゃ。大事にしろよ、坊主」
お互い向き合った横島とルシオラは、そろって固まっていた。
「あはは・・・な、なんかいろいろ言いたいことあったけど、全部すっ飛んじまった」
横島が恥ずかしげにそう言って笑った。顔は真っ赤である。
「ふふ、私もよ」
ルシオラも笑顔になる。
「でも、なんであれを手に入れることが出来たんだ?」
横島がもっともな疑問を聞く。
「神魔の指導者達が、ベスパから霊体を分けて貰って私の霊気構造に作り変えたの」
「そうなんか。でも、神魔の指導者って一番偉いんだろ?
こういっちゃ何だが、たかが人間の俺のためになんでわざわざこんなことをしたんだろう」
「さあ、それは分からないわ。
でも、こうやってまたお前と会うことが出来たんだもの」
ルシオラは、再度横島に抱きつく。
「そっか、それじゃあ感謝しないとな」
横島も、ルシオラの背中に腕を回す。
「それに、今日はクリスマスだし、サンタクロースから貰ったクリスマスプレゼントだからね。大事にしてよ」
「あはは、そうだな、最高のプレゼントだ」
二人は笑いながらも、離れようとしない。
「それじゃあ、まずは今日この日に相応しい挨拶から行こうか。知ってるか?」
横島は、笑いながらそう言った。
「馬鹿にしないで。それくらい知っているわよ」
ルシオラも、笑顔で答えた。
二人の目線が絡み合う。
「「メリークリスマス」」
同時にそう言うと、二人は唇を重ね合った。
空からは、二人を祝福するかのように、真っ白い雪がゆっくりと静かに舞い降りた。
おわり