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「ほんのう。(GS)」

もけ (2006-11-07 04:20)


 この、私の胸中に宿るもの。

 これが一体なんなのか、私自身、未だに量りかねている。


ほんのう。〜狐の悩むこと、油揚げのごとし。(副題に意味なし。)〜


 不意に目が覚める。

 時刻は午前一時を回ったころか。
 機械よりも正確に時を知らせる体内時計に、ほんの一瞬、疑いを持つ。


 まだ眠い。


 何故こんな時間に目が覚めたのか、それこそ時計が狂ったのではないかと思ったのだ。
 テレビの上に鎮座する、安物の目覚まし時計で時刻を確認しよう。


「―――止まってるじゃないの、このお馬鹿」


 闇に目を凝らして睨み付けた文字盤と針は、七時十五分三十秒を指し続け、何の役にも立たないことを知らせている。

 時計ならちゃんと時間を知らせなさい。


「もう……いいわ、どうでも……」


 十二月の冷気に晒された肩が寒い。

 私は布団に身体を巻き込むようにして身をくるみ、ついでに隣でぐーすか寝こけるお馬鹿の胸に、頭を寄せた。
 お馬鹿は、お馬鹿っぽく「むにゃむにゃもう食べられないよ、タマモ……」などと寝言を呟いている。お馬鹿。


 ぬくい。


 暖房を完全に切らした部屋には、この温み以外、身を寄せるものが無い。
 それは嫌ではないけれど、なんとなく癪に障る。

 ぺったりと、素肌の胸に張り付いた私の頬。ぬくい。
 その胸の下に収まっているであろう心臓の音が、どうしようもなく私を和ませる。

 でも、私を和ませるその音が、同時に私の心にちくちくと疑問を突きつけるのだ。


 私の感じているこの感情は―――愛情なのか、それとも本能から生まれるなにかなのか。


「―――ん〜……わかんない」


 考えても考えても、答えは見付からない…………というか、身を寄せた半身から伝わるぬくみと、頬に跳ねる心音とが、一切合財うっちゃりたい気持ちにさせるのだ。

 もう少しくっ付く。そうすればぬくみと心音で、もっと心地よい気持ちになれる。


「う゛〜、う゛〜」


 ぐりぐり。ぐりぐりぐり。


「―――あの、なにしてらっしゃるんスか? タマモさん」


 あら、目が覚めた。


「あのな……そんな思いっきり頭で抉り込まれたら、痛くて起きるに決まってるだろ……」


 声を潜めなさい……何時だと思ってるの、あんた。


「何時って、七時じゅう……ああ、目覚ましの電池切れてたんだった」


 ほう―――あんた、やっぱり電池切れてるの知ってたのね? 知ってて交換しないってなによ? ちなみに今は一時くらいよ、お馬鹿。


「うっさいなぁ……つか、おまえはそんな真夜中に人を抉り起こしておいて、そのでかい態度はどうなんだ? でかいのは他のとこだけで十分だ」


 ほ、ほほう……ヨコシマのくせになかなか巧いこと言うじゃないの。ちょっと感心しちゃったわよ。


「いや、忘れてくれ……我ながら下ネタもいいとこだ。おっさん臭ぇ……」


 むぅ……いえ、ヨコシマ臭いわ。


「なんかイジメみたいだぞ、それ……」


 そう? ―――まぁ、なんだっていいわよ。それにしてもねむいわ、寝るわよ?


「おま、人を無理矢理起こしておいて、なんちゅ〜身勝手な……」


 勝手に起きたのよお馬鹿。大体、狐は身勝手なものと昔から決まってるのよ。


「しらんわ、そんなこと……も、いい。寝る」


 ういうい、ならこっちおいで〜。可愛がってやろう。ほらほら?


「はいはい……おやすみ〜……」


 はい、おやすみ〜……。


 寝る……と言ったものの、実はもうあまりねむくない。
 冷えた空気が頭を活性化させたのか、やれやれ……といったところだ。


「こいつは、まぁ幸せそうな顔しちゃって―――」


 私の胸の谷間に顔をうずめたヨコシマは、ふにゃふにゃに蕩け切った表情で夢の国。くそう、かわいいなコイツ。
 こうしてヨコシマの部屋で、そして同じ布団で眠ることが楽しみになったのは、一体いつからだろう?

 よく憶えていないが、一番最初もやたらと寒い日だった気がする。うん、たぶん。
 手狭な部屋の真ん中に、布団をひとつ、取り合うように眠る。

 そんな、他人から見たらどうでもいい……むしろうざったいことに心浮き立つ。


 や、別にどう思われたって気にならないけど。


 まあ、幸せなんじゃないかな〜? と思ったりする、今日この頃。

 ふとした弾みで、あの疑問が鎌首をもたげてくる。つまり――――――


 恋なのか? 愛か? それともただ、本能が選んだだけの相手なのか?


 恋は激しい病のよう。罹れば人が変わる。価値観が変わる。時に破滅を呼び込む―――そんな感じらしい。

 罹ったことないから、よくわかんな〜い。


 や、正直な話、ヨコシマに感じているものは、そこまで激しいものではない……と、思う。うん、わかんないや。


 なら愛は? ―――伝え聞くところによると、主成分が「馴れ」に取って代わった、恋の進化……亜種……ん〜、とにかく別物らしい。恋とは。

 これか? 私のはこれに近い気がする――――――けど、やっぱりよくわからない。狐ですから。


 最後に―――本能。
 妖狐としての、私の本能。
 自分を守るために、誰かに取り入る。
 誰かを利用するために、その情を手に入れようとする、私が生まれながらに備え持つ機能。

 ――――――うん、ちがう。と、思う。ヨコシマに感じているものは、たぶん違う。違うはず。


「違うったら違う―――絶対、違う」


 これは、そんな味気ないものじゃない。

 恋も愛もよくわからないけれど、大事な物だってことは知っている。
 本能は言ってみればお腹が減るのと同じようなもの。生きるのに不可欠なもの。
 自然と必要とするものを本能って言うのだ。


 別にヨコシマがいなくなったって、死にゃしないって。


 それに私は本能に従うだけが能じゃない、そんな妖狐を目指したい。てゆーか、目指す。目指しまくる。


「とは言うものの―――具体的には何したらいいのかしら?」


 うーむ、と首を捻るも、さっぱり思いつかない。

 よし、ここは一丁、相方に相談してみよう。


 ちょいとそこのお馬鹿!


「―――んあ? なんだよ……またか?」


 そうよ、またよ。悪い?


「なんでいきなり怒ってるんだよ……勘弁してくれ」


 怒ってないわよ。ちょっと相談があるから起きなさい。


「いやじゃ、ねむい……ぬくいし、ふかふかで気持ちいいから起きたくない」


 むぅ!? ま、まあ気持ちはわからんでもないわ……ふふん! ―――あ、でも駄目よ。起きなさいって!


「あ〜……わかったわかった……そんで? どうしたんすか、タマモさん」


 ちょいと相談事よ。ねぇ、あんたはこいー! とか、あいー! とか聞いたら、どんなこと思いつく?


「寝る」


 それ駄目。下半身以外で。


「じゃ〜…………子供?」


 子供? ふぅ〜ん……盲点だったわ。ありかもね、それ。


「なぁ、もう眠いんだが、ほんとに……」


 ああ! ちょい待ち! まだ寝るなってーの! まだ質問は終わってないわよ!


「頼む……! ねむくてねむくて死にそうなんだ……寝かしてくれ……」


 そう言わずに! ほら、あとでもっとすごいことしたげっから!


「………………で、何さ?」


 あんたも大概、現金な性格してるわね……このすけべ! って、脱線しちゃったわ。何の話だっけ?


「えーと……子供?」


 ああ、それそれ! それよ! ―――子供が恋とか愛な話だったわよね? でもさ、子供作ろうって思うのって本能じゃないの、コレ?


「……? だろう?」


 じゃ、恋でも愛でもないんじゃない? 子供イコール恋愛って、どっからきたのよ、これ?


「あ〜……恋して、一緒にいたいと思う。愛になって、一生過ごしたいと思う。本能は〜……まあ、生き物なら……なあ?」


 ……ねえ? ―――よくわからんわ、恋だの愛だの。とにかく子供?


「じゃねぇの?」


 あ〜……子供か〜……。じゃ、作るか!


「――――――あ?」


 子供。いらん?


「いやいやいや! いらんっ……こともない! がっ! い、今か!?」


 おうよ。


「なんで!? なんでいまっ!?」


 いや、愛の結晶〜! みたいな? あと声が大きいわよ、お馬鹿。


「―――さ、さっぱりわからん……」


 まあ、気にすんな! ほら、おいでおいで。可愛がってやっから!


「さっきも同じようなこと言ったような――――――まあ、いいか」


 ん、いいさ。


「つーわけで、あんたが生まれるから結婚したのよ」


「あんまり詳しく語られても困るんだけど……」


 娘に語る、出会いの話〜。……いつの間にか結婚の切っ掛けまで語ってるけど。

 困ったような、照れたような…………初々しい娘の様子に、顔がにやにやしてくるのがわかる。


「―――なにその顔? 馬鹿にしてる? ていうか、してるよね? 馬鹿に?」


「あらやだ。ママはひとり娘が頬を染める姿が可愛いから嬉しいだけよ? 馬鹿になんてして無いもん」


「もん……って、いくつよ? あんた」


「秘密です」


 少なくとも、見かけより二十歳以上は若いです。妖狐ですから。


「あ〜あ……パパはなにが良くて、こんなのと結婚しちゃったんだろう……」

「身体?」

「下ネタ禁止っ!」


 今日も今日とて、娘をからかう若奥様タマモです。

 娘は既に中学生。いまだに姉妹に間違われるのが悩みの種。

 いつまでも美しいってのも考えものかしらん?

 いまだに恋愛ってよくわかんないけど、子供を作ったら、あいつとの間に一本芯が通った気はする。

 そんだけ。

 今でもたまに悩むことはあるし、不安は尽きないけれど―――

 でも、ま、いいんじゃない?

 旦那はよく稼ぎ、奥様は若々しく、娘は元気。


 あとは別にどうでもいいか? いいな? うん、いいわ。


 タマモは知らない。

 愛だ恋だと悩むことこそ、妖狐に天与の本能そのもの。

 男女の仲はいずれ冷める、枯れる…………。

 しかし妖狐の恋は冷めず、愛はいつまでも湧き続ける。


 いつまでもいつまでも、飽きることなく恋愛に現を抜かす……。

 そんな、甘露のような生活こそ、妖狐が庇護者を得る手段。

 それが、妖狐の本能。

 タマモは知らない。タマモはきっと、気付かない―――…………


 あとがき。


 ねむい……ねむいなら寝ろよ、自分……


 そんな思いから生まれたのが、推敲も微妙な、この話。

 R18か15か。

 悩むところですが、直接表現も無いし、いいやね。うん、いいやね?


 寝ます。


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