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▽レス始

「魔女のパートナー(GS)」

タケ (2006-10-17 08:12)

今、俺は東京タワーの鉄塔の上、ルシオラと別れた場所に降り立ち、夕日を眺めていた。

「昼と夜の一瞬のすきま…短時間しか見れないからよけい美しい………でも寂しいよ。」

だって君は俺の傍に居てくれないのだから………。

この場所に来ると、彼女の面影を一番鮮明に思い出せる。
蛍の様に儚く美しく輝いていた魔族の少女。
あのアシュタロスの事件から、もう半年が経っていた。


ルシオラを犠牲にして世界が救われた後、俺達は元の生活へと戻っていった。
美神さんの下で薄給で扱き使われて、おキヌちゃんに慰めてもらう。そんな生活へと。
俺は無事に3年に進級し、美神さんに年の離れた妹が出来て、シロタマが仲間に加わった。
皆がこの平和な世界を喜んでいた。あの戦いを全て忘れてしまったかのように。

<回想>

「横島君!そっちに行ったわよ!」

「へいへい……。」

美神さんは楽しそうに悪霊に向かって神通鞭を振るっている。
既におキヌちゃんの笛によって、雑霊は昇天している。残っているのは10数体の悪霊。
シロは相変わらず力任せに霊波刀を振り回しているが、このランクの悪霊なら大丈夫。
タマモは後衛のおキヌちゃんに近づく悪霊を狐火で燃やして牽制している。

「成仏しろや。」

俺は栄光の手を剣状態にすると、一太刀で悪霊を消滅させる。
囮と迎撃を同時にこなすのが俺の役目になっていたが、別に恐怖も疲労も感じない。

あれから妙神山へパピリオに会いに行く度に、小竜姫様から訓練を受ける様になった。
そして霊力の練り方や制御の仕方、体術等を1から学んだ。
今までそういう事を学ばないでここまできたと知って、凄く呆れられたけど。
御蔭で栄光の手や文珠を効率的に使えるようになり、回避の無駄な動きも無くなった。
この程度の相手など、束になっても文珠を使う必要は無い。俺一人ならば。

「おーほっほっほ!これで三千万よ!ぼろいもんだわ!」

「良かったですねー。」

「せんせー。散歩!散歩!」

「あー、かったるい。」

今回もぼろ儲けで、女王様の様に高笑いする美神さん。二十歳過ぎた割には成長が無い。
それを見て苦笑しつつも相手をするおキヌちゃん。控えめでいい娘である。
何時もの様に俺に散歩をねだるシロ。散歩に付き合うのは週2回の約束だろ。
疲れてソファーで丸くなっているタマモ。お前は楽しくてやっているんじゃないしな。

「それじゃ、失礼します。」

「あら、もう帰るの。最近、付き合いが悪いわね。」

「夕食、いいんですか?」

「うん。魔鈴さんの所で新作メニューの試食する約束があるから。」

何故か背後で黒い気を感じたが、気にせずに事務所から立ち去った。

<回想 終り>

時給は500円と労働基準法に喧嘩を売っていたが、俺個人で仕事を受ける事は認められた。
数十万〜数百万の簡単な仕事を受けていく。上納金として依頼料の3割は納めされられるが。
御蔭で俺は生活は一気に好転し、人並みの生活が送れる様になった。
前の様に事務所に入り浸る事も無くなり、なるべく学校に行く様にしている。
卒業したいという理由もあるが、前ほど事務所にいる事に魅力を感じなくなったからだ。

美神さんもおキヌちゃんも偶に来る隊長も決してルシオラの話題を口にする事は無かった。
俺への配慮だったのかもしれない。だが、俺はルシオラの存在が消されていく様で悲しかった。
彼女達は俺が既に立ち直ったと思っているのか?実は俺を理解しようとしてないのでは?
そんな筈は無いのに嫌な考えが思い浮かぶ。少しずつ彼女達への想いが冷めていくのを感じる。
だが、偶に飯を集りに来る雪之丞と同級生のピートとタイガー、そして魔鈴さんは違っていた。


何時も閉店間際にやってくる俺にお茶を勧めながら、魔鈴さんは色々と話を聞いてくる。
今までの除霊体験談もそうだが、魔鈴さんは何故かルシオラの事を良く聞いてきた。
魔女としての好奇心なのだろうが、それでも俺は嬉しかった。彼女の話を聞いて欲しかった。

多分、その頃からだと思う。俺は前の様に女にガツガツする事が無くなった。
美女を見ると目が行くくらいはするが、飛び掛る事もナンパもしなくなった。
ルシオラとの短いが幸せな日々を穢したくなかった。そして前の自分が無性に憎くなった。
ルシオラだけを想って1人で生きる気は無いが、本気で人を愛せるようになりたかったから。

そして最近、俺の心の中に魔鈴さんの姿が焼き付いて離れなくなった。
彼女は俺の事を弟ぐらいにしか見てくれないだろうが、自分の気持ちに嘘をつきたくない。
魔鈴さんの傍にいるとルシオラを失った寂しさが薄れ、彼女を求める想いが強まっていった。
だから久し振りにこの場所に来た。いや、来る事が出来たのだ。

「お前の事は一生忘れたりはしない。でもお前の思い出だけに縋っている俺なんて嫌だろ。」

俺の娘としてルシオラが生まれ変わる可能性があると美神さんから聞かされた。
だが、もし俺に娘が生まれても、それは決して俺の愛したルシオラではない。
生まれてくる新しい命に、俺のエゴを押し付ける気は無い。娘として愛すればいい。
それよりも来世で出会える可能性を考えよう。何せ身近に前例があったのだから。
だから別れを嘆くよりも彼女に貰った命を大切にしようと心に決めたのだ。

”そうね。私の好きなヨコシマは、優しくて前を向いている男だもの。”

”今世はその人に譲ってあげるわ。でも、次に会ったら絶対に離してやらないわ。”

何時の間にか眠りに落ちた俺の耳にルシオラの言葉が聞こえた気がした。


 ◆◇◆◇


――― 魔鈴めぐみ視点

其処に横島さんがいるのを見つけたのは単なる偶然だった。

悪霊の活動の始まる夕暮れ時、近場の除霊のために都内を飛行中だった私の目に、
東京タワーの上、整備士くらいしか登ることの出来ない鉄柱に腰掛けて、
寂しげに夕陽を見つめている横島さんの姿が入ってきた。
声は掛けられなかった。胸に込み上げる想いを押し殺し、依頼人の下へと飛び立った。


私は魔神との戦いに直接関与したわけではない。其処までの力は無かったから。
まさかあの横島さんが戦いの中心人物となり、悲しき選択をするとは思わなかった。

横島さんと最初に出会ったのは私の店で。
私が低料金で除霊をしていた事に美神さんが腹を立て、彼を引き連れてやって来た。
あの頃の私は考えが足りたくて、良かれと思って彼に迷惑をかけてしまった。
それから何度か店に来てくれるようになったが、それほど気にかけてはいなかった。
人並み外れてスケベな為に、何時も損ばかりしている人。その程度の印象だった。
あの奇跡的な霊能力と人外の回復力には強い好奇心を覚えたけれど。

あの戦いで、横島さんは周りの誰もが予想しなかったほどに成長を遂げた。
ルシオラさん。横島さんが愛した魔族の女性。彼女の為に彼は強くなった。
何時の間にか、私は横島さんから目が離せなくなった。
魔神に立ち向かった勇気。世界を護ってくれた強い意志。本質を見抜く鋭い感性。
何よりも愛する人を失った横島さんの慟哭を聞いて。

魔神との戦いからしばらく経って。閉店間際に横島さんが滑り込んできた。
最近は生活が楽になったのか、少しさっぱりした雰囲気で店に入ってきた。
店にはもう横島さんしか居なくなったので、注文の料理を運んで前の席に腰を下ろした。
そして私は持ち前の好奇心を抑えきれず、思い切ってルシオラさんの事を聞いてみた。
横島さんは一瞬驚いていたが、すぐに笑顔になって彼女との思い出を話してくれた。
愛おしそうに話し続ける横島さんの目はとても真剣で、綺麗だった。

「本当に愛し合っていたんですね。少し羨ましい位です。」

「………ありがとうございます。」

「御礼を言うのは私の方ですよ。」

「誰かに聞いて欲しかったんですよ、ルシオラの話を。1人で抱えているのは辛いんです。」

「やっぱり、世界を選んだ事を後悔していますか?」

「後悔はずっとしています。あの状況にならない方法があったんじゃないかと。
 もっと愛してやれば良かったと。2度目があれば、ルシオラを選ぶかもしれません。」

「………そうですか。」

「でも、あの時にルシオラを選んでいたら、あいつは俺を絶対に許さなかったでしょう。
 あいつは、この世界が大好きだったのだから。」

「強いんですね、横島さんは。」

「強くなんかありませんよ。」

その時、横島さんの頬を涙が1筋流れた。私に笑顔を向けながら、彼の心は泣いていた。
私は思わず横島さんの傍に駆け寄り、彼の頭を私の胸に掻き抱いた。

「泣いてもいいんです。いえ、泣いた方がいいんです。1人で抱えなくていいんです。」

しばらく抱きしめていると嗚咽が聞こえて来た。私の胸に横島さんの熱い涙が感じられた。
やがて震えが治まり、横島さんはゆっくりと私の胸から顔を離した。

「すみませんでした。つい甘えてしまって。本当にありがとうございます。」

私に向けられた、横島さんの全開の笑顔。あの時の胸の高鳴りは今でも覚えている。

「また、俺の話を聞いてくれませんか?」

「はい!何時でも来て下さい!」

私が横島さんを1人の異性として愛するようになったのは、この時からだった。


仕事が終わっての帰り道。先程と同じ場所で横島さんは眠っていた。
ゆっくりと近づく。先程の寂しげな表情と全く異なる無邪気な寝顔が、私の母性本能を擽る。
そっと横島さんの脇に腕を回す。ずしりと重い、着痩せする筋肉に思わず頬が赤らんだ。

(この腕で抱きしめられたら、私………。)

想像しただけで胸が熱くなる。
ぐずる箒を宥め透かして横島さんを乗せ、自分の家に運ぶ事にした。
風邪を引かせたくないと言う表向きの理由で自分を誤魔化して。

魔法で身体を持ち上げ、ベットの上に寝かせたが、横島さんは目を覚ます様子の無い。
そっと横島さんの髪を撫でてみる。でも気付かない。
次に横島さんの頬を指でなぞってみる。擽ったそうに身をよじるが、まだ気付かない。
ゆっくりと、横島さんの顔に私の顔を近づけていく。もう少しで唇が触れ合おうとした時、

「きゃっ!」

横島さんの腕が私の身体を抱き寄せた。恐る恐る顔を見るが、寝ぼけているようだ。
横にさせる時に上着を脱がせたのでTシャツ1枚だった。細身なのに胸板は厚いんだ。
無意識なのに、抵抗すれば振り解ける位の力で抱きしめている。芯から優しい人なんだ。
その温かさにうっとりと身を委ねていると、唐突に彼が呟いた。

「魔鈴さん………。」

慌てて顔を上げてみるが、彼はまだ眠っている。ホッとすると同時に身体が熱くなってきた。

(い、今の言葉……私の夢を見てるの?……期待していいのよね……?)

もう止まれなかった。彼が欲しかった。既成事実、という言葉が私の頭をよぎる。
精神的に成長した横島さんは、以前の奇行に走らない上に女性には優しく接するから。
自覚がない分、西条先輩よりも危険なのだ。見返りを求めないその優しさは魅力的過ぎて。
前に一緒に仕事した時、依頼人の女性と親密そうに話していた彼の姿が脳裏に浮かび上がる。

一度横島さんの腕から身体を離し、自分の服を脱いで下着姿になると、そのまま抱きついた。
無意識に横島さんも抱き返してくる。それを嬉しく思いながら、彼にキスをする。
最初は只重ねるだけ。でも、2度目から深く口付けていく。

「魔鈴さん………?」

何時の間にか目を覚ました横島さんが驚いた様に私の名前を呼ぶ。私はもう一度口付ける。
唇を離すと、今度は横島さんの腕が私の頭を優しく引き寄せてきた。
彼の吐息が私の耳朶を擽る。

「魔鈴さん。俺、貴方が好きです。」

「私も横島さんが好きです。だから、私を貴方のものにしてください。」

返事は彼からのキス。それは甘い夜の始まりを告げる合図。


 ◆◇◆◇


目が覚めた時、俺の腕の中で全裸の魔鈴さんが幸せそうに眠っていた。

「まだ夢の中にいるのか?」

あまりにも都合が良すぎたので本気で夢かと思った。いや、正直あれは夢だと思っていた。
自分が愛する女性が半裸で求めてくるなんて夢など、前は何度も見ていたから。
逆に前のように飛び掛らなかった自分を褒め称えたくなったくらいだ。

すうすうと可愛い寝息を立てている魔鈴さんは、年上と思えないほどに可愛らしい。
そっと愛しい彼女へ口付けようと顔を寄せた時、魔鈴さんが目を開けた。

「あ、おはようございます………んんっ。」

思わず笑いを返す俺の頭は魔鈴さんの腕に絡め取られ、多少ディープに目的は達成された。

シャワーを浴びると、魔鈴さんが朝食を用意して待っていてくれた。
温かい食事を楽しみながら、昨日の話を聞いた。これは結果オーライという所か。

「あの時は夢現だったので、もう一度言います。俺は魔鈴さんを本気で愛しています。」

「はい♪私も横島さんを愛しています♪」

乙女モード全開な魔鈴さんが凄く可愛らしく思えるのは、惚れた弱みか。

「これからは名前で呼ばせてもらってもいいですか?」

「勿論です、忠夫さん♪」

「ありがとうございます、めぐみさん。それと、貴方の仕事を手伝わせてくれませんか?」

これは起きた時からずっと考えていた。俺は今度こそ愛する人の傍を離れたくない。
それに美神さんの所で働く理由も見えなくなってきた。あの人は俺を認めてくれなかった。
あの事務所に思い入れが無いわけでもないが、俺にも進路を考える時が来ているのだから。

「私はGSの仕事は副業ですよ?それでもいいんですか?」

「勿論、レストランの仕事も手伝いますよ。雑用には自信がありますし。」

「………嬉しいです。私、夫婦でレストランを切り盛りするのが夢だったんです。」

めぐみさんは俺の手を両手でやさしく包み込む。少し話が飛んでいるが些細な事だ。
これから色々と問題が起きるかも知れないが、めぐみさんとならきっと大丈夫。

「俺はずっとめぐみさんの傍で生きていきます。」

「約束ですよ。魔女との誓約はエンゲージなんか目じゃないんですからね。」

「大丈夫ですよ。俺が帰る場所は、めぐみさんの所以外に無いんですから。」


 ◆◇◆◇


「美神さん、大事な話があるんですけど。」

「何よ、来る早々。こっちは報告書の作成中なの。後にしなさい。」

あれから3日が経っていた。その間にGS協会に連絡を取り、色々と準備を進めてきた。
そして準備が整ったので、久し振りに事務所に顔を出したのだ。

「いえ、すぐに済む話ですから。お願いしますよ。」

俺の態度から本気だと気付いたのか、美神さんは書類から顔を上げる。

「何よ、給料上げろっての。却下よ、却下。大体、もう生活には困ってないんでしょ。
 あ、それから次の仕事は3日後だからね。遅れんじゃないわよ。」

「給料はもういいんです。横島忠夫は本日を持って、このバイトを辞めさせて頂きます。」

「「ええっーー!!!」」

バタン!

唐突に扉が開け放たれ、おキヌちゃんとシロが転がるように入ってきた。
その後ろにはタマモが少し驚いたようにこちらを見ている。

「ど、どういう事ですか!横島さん!?」

「そうでござる!何で辞めなきゃいけないでござるか!!」

「まあ、この待遇じゃあ無理も無い様な気もするけど・・・突然どうしたの?」

俺が言うのもなんだが、盗み聞きは感心しないぞ。女の子なのに。

「あんた達!ちょっと静かにしなさい!横島君………冗談は止めてくれない!?」

「いや、本気ですよ。この通り辞表も書いてきました。」

美神さんの目の前に辞表をつきつける。

「ふざけんじゃないわよ!あんたは私の丁稚なのよ!」

「元々俺はバイトとして雇ってもらっています。正社員じゃないんですよ。
 バイトは上の判断で切捨てられても文句は言えませんが、辞めるのも自由です。
 まして俺は荷物持ちとして雇われたままですしね。時給500円の。」

そう言って、最近結んだ契約書を差し出す。

「あ、あんたは私の所で研修しているGS見習いなのよ!辞めてどうすんのよ!」

「唐巣神父と冥子ちゃんのお母さんに相談してみたんですが、随分驚かれましたよ。
 未だ俺が見習い扱いなんて知らなかったそうです。結構評価されてたんですね。
 その2人が俺の保証人になってくれまして、BランクのGS免許が発行されたんです。」

唐巣神父は最高位のSランクだし、六道家は名門中の名門だからGS協会も納得してくれた。
唐巣神父は以前から俺の扱いに同情的だったし、六道家当主は計算高い人だからな。
俺は何度か冥子ちゃんの仕事を手伝ったが、その時の依頼完遂率は100%だった。
文珠でプッツンしそうな冥子ちゃんの心を『鎮』めたからだ。
今後も冥子ちゃんの要請には協力する事が条件であるが、どうせ文珠1個で済む話だし。

「でも!別に辞めなくてもいいじゃないですか!今までずっと一緒に仕事をしてきたのに!」

「せんせー!拙者を見捨てないで欲しいでござるー!」

「おキヌちゃんは迷える霊を救いたいという想いがある。シロは立派な侍になるんだろ。
 別に俺には大層な望みも武人の心意気も無い。俺は大切な人の傍に居て、護りたいだけだ。
 少し前までは皆がそうだったけど、もっと大切な人が出来た。俺はあの人の傍に居たい。」

「………誰なの?」

「タマモも何度か会ってるよな?めぐみさん、魔鈴めぐみさんだよ。」

ピシッ

俺が彼女の名前を出した途端、美神さんから凄い殺気が解放される。
悪霊ですら逃げ出しかねないものだ。前の俺なら躊躇わずに全面降伏していただろう。

「ふふふ………要するにあの女の色香に誑かされたのね。」

「まあ、否定はしませんが。実は3日前に恋人同士になったんですよ。」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!!!」

美神さんは神通棍に霊気をこめると、前の様に理不尽にしばこうとした。

ひょい

俺はその一撃を軽々とかわす。小竜姫様の神剣に比べれば、剣豪と素人以下だ。
前は彼女に逆らえない何かがあったが、今の俺はそんな事は無い。
右手から肘にかけて、栄光の手を手甲状態で展開する。無手で相手するほど馬鹿じゃない。

「このっ!このっ!このっ!」

激しい攻撃を最小限の動きで回避する。連携の無い攻撃など、恐るるに足りない。
美神さんはどんどん冷静さを失っていき、何も考えずに神通棍を振り回すだけなのだ。
何合目かの空振りで美神さんが体勢を崩した瞬間、栄光の手を剣状態にして、振り下ろす。

キンッ

からん

綺麗に切り落とされた神通棍が床に転がった。

「正当防衛ですよ。世界最高のGSを名乗るなら、もっと冷静になるべきですね。
 もう、俺が貴方を守る事は無いんですから。シロみたいな真似は止めましょうよ。」

美神さんだけでなく、他の3人も驚いて呆然としている。
普段は殆ど実力を見せていなかったしな。

「そうそう。慰謝料と口止め料代わりに、貴方が掠め取った文珠を返してもらいますね。」

目を閉じて、俺の霊気を探る。………数は20個か。随分溜め込んだものだ。
左手をその方向にかざす。

「空間を飛び越え、俺の元に『来』い!」

ぶぉん

金庫に入っていた文珠が空間転移して、かざした左手の前に浮かんでいる。
文珠は俺が創り出したものだ。今の俺の制御力なら、このくらいは難しくない。
4つを残して潜在意識下に格納する。今は2日で1個の文珠が作れるが多いに越した事はない。

「これは餞別にあげますよ。」

3つをおキヌちゃんとシロタマの目の前に飛ばす。彼女達は無意識に手に取った。
残りの一つには『給』という文字を込め、事務所の床に落とす。人工幽霊壱号の分だ。

『おお、1年分の霊力が補充されました。横島さん、ありがとうございます。』

「なに、お前にも色々世話になったからな。今度は何時逢えるか解らんが、元気でな。」

『新しい生活が、貴方にとってより良いものである事を祈っております。』

「じゃあな。それではお世話になりました。お元気で。」

フリーズしたままの彼女達を横目に、俺はゆっくりと事務所を後にした。


 ◆◇◆◇


その後、俺のアパートにおキヌちゃんとシロが説得?に来たが、
彼女達の望む答えを返す事はできなかった。
世の中には優先順位というものがある。おキヌちゃんもシロも、俺には妹の様な存在だ。
出来る限り守ってやりたかったが、それよりもめぐみさんへの想いの方が深い。
泣いている彼女達を見て胸が痛んだが、中途半端な優しさで誤魔化したくなかった。
それ以来、彼女達とは会っていない。次に会えた時には笑い合えるといいのだが。

GS協会に所属事務所の変更を連絡し、俺はめぐみさんの除霊パートナーとなった。
彼女は美神さんと違って金と命を天秤に掛けたりしないが、除霊は危険な作業だ。
俺は今まで学んだ能力をフルに活用し、彼女を危険に曝す事無く仕事をこなしていった。
除霊報酬の2割を貰う契約にしている。それでも生活には充分すぎる金額が手に入った。
夕食は一緒に食べるし、アパートに帰る時に明日の朝食も貰えるから、言う事無しだ。

通学の問題も在るので、卒業まではアパートで暮らしている。
普段は閉店間際に行くが、土日は朝から店に行って雑用を手伝う事にしている。
暇を見て、個人で軽い仕事も受けるし、冥子ちゃんの助っ人依頼もそこそこ来る。
俺は道具を使わないので、何時の間にか通帳には8桁の数が並んでいた。


数ヵ月後、俺は無事に高校を卒業した。進路は勿論GS兼レストランの店員だ。
社会人になったお祝いに、めぐみさんの家で心尽くしの料理を堪能して、
シャワーを浴びるとベットに移動して、デザートも美味しく頂いた。
満足した俺達はダブルベットで抱き合って眠りについた。

めぐみさんの家は異界にあるので昼夜の区別がつかないが、もう朝のようだ。
枕元の時計を見ると、6時である。

「……忠夫さん、起きました?」

「寝てます。」

「もう。」

耳元で囁かれる声。背中全体に彼女の素肌の温もりを感じる。

「もう少し、こうしていたいんですけど。」

「……ふふ、私もです。」

クスッと笑う声。寝返りを打って、その顔を見る。

「まだ眠そうですね。」

「忠夫さんが何度もお代わりするからです。」

「でも、めぐみさんも凄く喜んでいたようだったけどなー。」

「う……そんな事ありません。」

拗ねた様に上目遣いに見上げてくる。あまりにも可愛い。
もっと彼女のいろんな顔が見たい。だから、抱き合っていられるベットから出たくない。

でも………今日は我慢しよう。大事な用があるのだから。

「よっこいしょ。」

「もう起きるんですか?普段は7時までベットに潜っているのに。」

「今日は早く太陽光を浴びたいんで。先にシャワー使います。」

シャワーを浴びて着替えた俺達は、異界から店の中に移動する。よし、いい天気だ。
めぐみさんの手を引いて窓際に移動すると、上着のポケットから、小さな箱を取り出す。

「めぐみさん、これを受け取ってください。」

めぐみさんはきょとんとしている。俺は手に乗せた箱をパコッと開ける。

「指輪………。」

「給料3か月分です。プラチナの表面に守護のルーンが刻んであるんですよ。」

ついている宝石は必死に調べた彼女の誕生石。それが朝焼けの光でキラキラ光る。
おずおずと差し出された彼女の左手の薬指に、指輪をはめる。
朝日に輝く指輪も、その指輪を潤んだ瞳で見つめるめぐみさんも、とても綺麗だった。

「凄く、嬉しいです。貴方を好きになって、本当に良かった………。」

抱き寄せて、キスをする。朝日が差し込む店の中で、2つの影が1つに重なる。
新しい1日と共に、俺達の幸せな日々がこれから始まろうとしていた。


終わり


この掲示板では、初めまして。タケという者です。
隣のよろず小ネタ掲示板で、まぶらほもどきの小説を書いています。
今回、初めてGS美神の2次小説に手を出しました。横島×魔鈴です。
横島君のキャラが違いすぎますが、彼も悲恋を経験して変わったんです、きっと。
単にギャグを交えた話が書けない言い訳ですが、見逃して下さい。

面白いと思う方がいると嬉しいです。
運が良ければ、今度はもう少し長い話でお目にかかれるかもしれません。

それでは、次の話で会えます様に。


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