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▽レス始

「題名未定につき(GS)」

カトラス (2006-10-09 00:01)

あの日のことをよく覚えてる

夏の日だった

とても暑い日

そう、とても暑い日だった

むかつくほどの熱帯夜に

それが気にならないほどに驚いたあの日を


「ねぇあなた。いつ言おうかしら」

「ん?」

「忠夫に、あなたは私たちの子じゃないって」


 

「どっきりか?」


自分の耳に届く単語を、俺は信じられずにいた

ああ、クソ親父の大ボケか。はたまた夫婦そろって俺をハメようとでもいうのだろうか

ドッキリのプラカードはまだか、どこだ 

そんなことを冷静に考える俺がそこにいた

これは夢か?暑さ故に眠れず、なんとなしに家の中を歩いていたつもりが実はもうすでに寝てたのか?

夢なら親戚の超美人のお姉ぇさまが現れて誘ってくるとか昔結婚の約束した従兄妹とかおにいちゃんのお嫁さんになる!とか行ってくれる親戚の少女とか現れないものか

いやまて俺にロリ属性はないはずだ。俺は美人で巨乳のお姉ぇさまが!!


「ちがう、落ち着け俺」

 
ああ、驚きが過ぎると人は冷静にならずに混乱するんだなと思い知った

今俺は爺ちゃんの葬式で田舎にきてるはずだ

爺ちゃんというからには俺の親父の親父でつまり血縁関係で

でも中から聞こえる声は俺は親父の子じゃないと言って

じゃあ他人の俺がここにいるはずはなくてでも俺はここにいる?

ああ、よくわからん

文法やら文脈がおかしい気がする

そんな俺の混乱をよそに部屋の中から声は響く


「もう、15年ね
 あなたの兄さんがが逝ってから」

「そう、だな
 まさか親父と兄貴の命日が同じになるとは思わなかったが」


酒が入ってるからだろうか

いつものふざけた感じではなく、めったに見せない年相応に落ち着いた親父の声

というか兄貴だと?


 

 

 
親父の兄弟なんて、俺は知らない


 

 


「まだ生まれたばかりの忠夫を残して逝っちまったんだよなぁ
 それを追うようにかみさんも病気で逝っちまった
 一人残された忠夫を引き取って15年、か」

「そうね…いろいろあったわね
 私たちは、いい親だったのかしら」

 
ああ、意味がわからない

今まで親父と思ってた男は本当は親父じゃなく

俺の親父はあの男の兄貴で

…もう、いない?

意味が、わからない


「さぁな、あいつに聞かなきゃわからんよ
 もっとも、答えが聞けるのは当分先だとは思うがな」

カラン、とウイスキーの中の氷が揺れる

俺の心のように


「あと5年
 少なくとも成人するまでは…な
 あいつに真実を伝えるつもりはないし、それまでは俺もあいつの親でいたい」

「そうね…私ももうちょっと親でいたいわ
 …子を産めない私の、たった一人の坊やだものね」 

「いうな
 お前が病気でそうなって、俺は知ってて求婚した
 そしてあいつは血はつながってないが、俺の息子だ
 俺たちの子だ」

「ごめんなさいね。ちょっと、酔ってるみたい」


母さんがなにか言ってるが俺の耳にはもう届かない

俺はふらふらと自分にあてがわれた部屋に戻り布団に潜った

さっきの会話が頭の中をぐるぐると回っていた


『15年』『逝った』『兄貴』『引き取った』『真実』 『真実』『真実』『真実』『しんじつ』『シンジツ』


「ッ!」


その晩は結局、眠れなかった


 

 
次の日から静かになった俺に二人は不思議そうな顔をしたが、葬式の進行に忙しかったらしくとくには追及されなかった

そしてそれから少したった日に親父のナルニア行きが決まり

俺は日本に残った

…二人から離れたかった


△記事頭

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