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「鬼譚(GS)」

熾月 (2006-10-07 19:04)

酷い腐敗臭だ。

程度の差はあるが、霊障が起きる場所は焼いたゴム、腐った肉や卵を混ぜたそん
な独特の臭いがする。その濃さも霊の数や怨恨の強さに比例し、二人が四階に上
がると途端に濃度を増した。

過度の興奮から額に浮かぶ汗を、乱暴にジャンパーの袖で拭う。

ワイシャツの袖元で鼻を押さえ細眉をしかめるタマモが、九つに束ねた長い金髪
を揺らして先を歩む青年の隣に並ぶ。

窓から覗く外は明るく、だがビル内は電灯がことごとく割られ、薄暗い。
散乱する書類や崩れた壁の瓦礫、書棚のなれの果てなどを構うことなく、靴先で
蹴りとばして青年は進む。

「ヨコシマ、この濃さだと依頼よりも数多いし美神たちに増援呼ぼう?」

彼女の人在らざる嗅覚は明確にではないがだいたいの敵の数と居場所を嗅ぎとっ
て、彼の返答をわかってはいたが、それでももしかしたらという期待を込めて提
案する。

「いや…いいよ。俺一人で殺るから、大丈夫だって、な? タマモはケガしない
ように俺の後ろにいろよ」

彼の心配する言葉に無意識に頷いてしまいそうになる。心配されていることが嬉
しく、同時に彼なら何があっても大丈夫なんじゃないかと思いかけたが、言外に
込められている意味にタマモは嘆息しそうになるのを堪え、青年の背へと反論を
漏らす。

「で、でも! ヨコシマが、またあんなっ」
「っ、タマモ!!」

先を歩む青年の怒声が遮る。少女はびくり、と背を震わせると、瞳を揺らしなが
ら青年の顔色をうかがう。

彼を怒らしたくない。彼に見捨てられたら私は…、と不安に怯え、また彼が傷つ
くという確信による、今度は死んでしまうかもしれないと怯えもあった。

少女の様相になど気にもとめず、俯いた唇から、凍てつかせそうな狂気と憎悪を
含んだ言葉が低く続く。

表情は伺えない。

「……俺に殺らせろ。邪魔するな……」

上目遣いに見上げるタマモに横島はさきほどまでの表情を一変させ、振り向くと
視線を合わし、安堵させるように、戦場には似つかわしくない笑みを浮かべ彼女
の髪をなでる。

手のひらの中で触り心地のいい長い髪が滑り、数秒そうすると手を離す。

それが横島とタマモが依頼に行くたびに起きる光景で、そのあとのことも程度の
差はあれ決まっている。だからこそタマモはどうしようもないほどに横島を心配
しているが、押し切られ黙らされる。

どがぁん!! 鉄板を挟んだ扉が床を叩き、塵埃が宙を舞う。

横島がドアを蹴り破り入ったそこは会議室らしく、原形をかろうじて留めた長机
やパイプ椅子が山積みに壁側へと重なっている。

壁や天井は崩れ、窓硝子もことごとく割られ、床に瓦礫と硝子の破片、塵埃が積
もり、横島が歩む度砕ける音が鳴る。

扉から奥、その周囲に集まった浮遊霊や地縛霊らが群がり、ボスであろう人の形
を保った悪霊が数体いる。数だけなら多いが、質がいいものは一体もいない。

雑魚ばかりだ。

霊群は入ってきた敵にまとまり警戒しだす。

横島はニヤリと唇を歪めると、胸の前で両腕を交差し軸の右足へと力を込める。

「栄光の手!」

足先へと収束した力を地を蹴る瞬間に解放し霊群の間を駆ける。構えていた腕は
だらりと下ろされ、その腕には一回りも巨大な異形の篭手で覆われている。その
指先には鋭利な鉤爪が生えている。

一瞬。

横島が駆け抜けたところに浮かんでいた霊の大半がその残滓を残して掻き消える。あたかも強大な力で引き裂かれたように。だが、まだ残っている霊群はボス格の命令で立ち止まった横島へと突撃する。

突然の展開に自失していたタマモが両掌に頭ぐらいの大きさはある火塊を作る。

「ヨコシマっ! …邪魔っ、どきなさい!」

振りかぶり投げた狐火は拡散し手当たり次第に霊群を祓ってゆくが、それでも残る霊の突撃をとめることはできず、立ち尽くす横島にあたり傷を負わしていく。

攻撃されているというのに横島は唇を愉悦に歪ませて目を瞑っている。耐えているというわけでもない。そして、タマモがあと三歩ほどに近づいたとき、目を開いて右腕をゆっくりと薙ぎ払う。

部屋中を走り駆け巡る圧倒的な霊力の塊。タマモを避けるようにして横島の腕から放たれた刃はボス格の霊も残さず、部屋にあるものすべてを壊して巡った。

その残滓すらも塗り消して。

ただ霊障があったという臭いを残して静かになる。

壁に背をよりかけ全身から血と汗を浮かばせ、横島はタマモの背に手を回し後ろ髪を撫でている。

目を和やかに細ませ、タマモは横島の傷口へと下を這わし血を清めると同時に癒していく。上目遣いに見上げ、彼の未だ戦闘の興奮がおさまらない表情を見つめる。

どこか警戒を解いていないような。

「……ヨコシマ痛いでしょ。なんであんな無茶するの? ヨコシマならすぐに倒せるじのに。文珠も使わないし」

美神から預かった文珠で治らなかった傷へとタマモは直接ヒーリングを施している。傍から見たら愛撫しているようにもとれるが。

横島は何も言わず、ごまかすようにタマモの背中を撫で抱きしめている。

傷が癒えても、タマモは離れず、横島も抱きしめるのをやめない。

彼の胸に頭を預け和んでいるが、彼の言葉によってタマモは離れた。

横島の目の前で、赫い光が床に召還陣を刻んでいく。

タマモの背後で、禍々しい光は部屋中を瘴気で満たしていく。

それは起きてしまった――。

あとがき

初書き込みです。GSのSS自体書くのは初めてですので、内容は本編再構成+オリジナルになると思います


△記事頭

▲記事頭

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