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「舞い花の姫(GS)」

竜の庵 (2006-10-05 23:09)


 踊る踊る

 全てはゆらゆらと

 全てはめらめらと

 笑う笑う

 みんなきゃあきゃあと

 みんなわあわあと


 花は綺麗に咲くのがいい とっても大きいほうがいい

 花畑は広いほうがいい 見渡す限りに広々と


 指を振ればぽつぽつと

 両手を振ればぼうぼうと


 何て楽しい 何て可愛い

 見てほしい この花を

 感じてほしい この温もりを


 だから彼女はめいっぱいの大声で、叫んだ

 大好きな人達に届くよう、めいっぱいの笑顔で


 「…うあー」

 「あらおはよう、ひのめ」


                 ~舞い花の姫~


 美神美智恵の自宅は、職場に程近いマンションの一室である。
 今年2歳になる娘ひのめと共に、彼女は毎日を有意義に、優雅に過ごし…


 「…ええ、では地元警察との折衝は任せるわ。…何言ってるの、男の子でしょう? いざとなったら私の名前を出してもいいから、ね? つまんない意見なんて蹴散らして、偶には我を通してみなさい。いいわね? 報告は私の机に上げておいて。…ええ、じゃあ頑張りなさいよ」


 …てはいなかった。

 コードレスホンの子機をベッド脇の充電器に置いた美智恵は、スケジュールの書き込みで埋まったカレンダーを見て、不満そうに眉をしかめる。
 齢40そこそことはいえ、今でも長女と並ぶと姉妹に間違われることも多々ある彼女。
 不機嫌な様子の表情もまた、魅力的であった。

 「悪い傾向ね…動いてないと不安になるってのは」

 寝室の窓際には、妊娠中によくお世話になっていた籐のロッキングチェアがある。美智恵は大きく伸びをしながらチェアの側まで歩いていくと、桃色に近い淡い紅色のカーテンを開いた。

 「あら、晴れたわねー」

 「…まー?」

 ごそごそ、とベッドの上、こんもりと盛った布団の山が動いている。
 美智恵はチェアから離れ、そっとかけ布団をめくった。

 「ひのめ、また潜ってたのね…ああもう可愛いったらないわね!?」

 「あうー!?」

 むしゃぶりつくという表現が、最もしっくりくるか。怪獣の着ぐるみを模した子供用パジャマに包まれたひのめに、美智恵は目尻をとろとろにしてダイブした。

 「癒されるわー………んん?」

 愛娘を抱きしめ、頬ずりし、ころころ転がして愛でていた美智恵。きゃあきゃあと喜ぶ娘の体温が、寝起きであることを差し引いても少し高めなのに気づいた。

 咄嗟に、美智恵は寝室の四方とベッドの足元に目を走らせる。

 「…散火の護符に異常は無いわね…ひのめ、暑くない?」

 「ふあ?」

 美神ひのめは発火能力者(バイロキネシス)…しかもかなり強力な…である。
 まぁ、父・公彦のテレパス能力に美智恵の持つ時間移動能力…超常能力に目覚める要因なんて、捨てるほどある。姉令子の実例がいい証拠だ。

 生後間もなく、ひのめは令子の事務所で小火騒ぎを起こしている。当時、事務所には令子と横島忠夫しかいなくて…後に聞いた話では、両名とも死ぬ思いで騒ぎの沈静化に奮闘したらしい。
 横島は、死ぬ思いっていうか死にかけたそうだが。それは日常だし。

 そんな事もあって、美智恵はひのめの発火能力を封印するために、オカルトショップ厄珍堂でも最高級の散火の護符で、厳重な対策を行っていた。家中はもちろん、ひのめを連れていく可能性のある場所全てに、火除けの札を貼り付けてある。

 ひのめ自身には、とある伝手で入手した、とある竜神謹製の封火の御守を下げてある。水神の加護は折り紙つき。

 「んー……もしかして、アレかしら。なら…そうね、うんうん。うってつけの場所も相手も…準備出来るわね。うふふふ…」

 きらーん、と母の目が光った。ひのめを抱きしめたまま。

 「まー?」

 ぺちぺち美智恵の頬をはたいて、何事か確かめたいひのめだが、母は彼女を片手で抱え上げると再び電話の子機を相手に話し始めてしまう。

 「うー…」

 ひのめはふっくらした掌を広げると、大きく息を吸い込んだ。

 「…ええ、悪いわね。準備しといてくれるかしら? 午後には行くから…」


 ひのめが思い浮かべるのは、今朝の夢。


 「やぁーーーーーーーー!」


 もっと、この部屋いっぱいが花で溢れるように。

 母の笑顔が、こちらを向くように。


 「え? ふふ、元気でしょう? ひのめったらどんどん私に似てくるわー…」


 でも、花は咲かない。
 ひのめは頬を膨らませると、母の首筋に顔を埋めて甘えた。

 なんとも…不完全燃焼である。

 「むぅー…」


 真赤な花びらが舞う中を、彼女は踊る

 両手を上げれば空に花

 ステップを踏めば足跡に花

 くるくる回れば一面に花

 楽しくて、きれいで、わくわくする

 もっと花を 可愛い花を 綺麗な花を

 もっと!


 「……いやじゃぁーーーーーーーーーーーっ!! 消し炭はいやぁーーーーっ!!」

 「大丈夫よー♪ 消火設備も整ってるし。ほら、吸炎符もこれだけあるし、貴方ならきっと受け止められるわ」

 「そうよ横島君。ひのめのためなんだから、一肌脱いでくれたっていいじゃないの」

 「俺かて力になりたいけど、こんなん協力ちゃうーーっ!! 生贄もしくは人身御供もしくは人体実験・人間って意外と熱いのに強いよね? 的人の限界観測祭りやないかぁーーっ!!」

 「横島君じゃいい披検体とは言えないわねぇ。人外だし」

 「フォローにも慰めにも励ましにもなってねぇーーっ!?」


 ご飯を食べてお昼寝をして。
 ぺか、とひのめが目覚めると、そこは自宅の暖かいベッドの中ではなかった。

 「あ、ひのめちゃん起きた? キヌおねえちゃんですよー?」

 ベッドとはまた違う温もりの中。若干母よりボリューム感に乏しい…氷室キヌの腕の中だ。
 でもひのめにとっては、大好きな人の一人。慈愛に溢れるおキヌの笑顔に、ひのめもまた向日葵のような笑みを返して、名前を呼ぶ。

 「おきぬちゃ! あー!」

 「そうですよー、おキヌちゃですよー」

 おキヌはひのめの背中をぽんぽんと叩きながら、座っていたベンチから腰を上げ、なんだか押し問答真っ最中の3人へ足を向ける。

 「美智恵さん。ひのめちゃん起きましたよ」

 「ん、ありがとねおキヌちゃん。ほらひのめ、こっちおいで」

 おキヌから母の腕に戻ったひのめ。…やっぱりこっちの方がふかふかだ、等と思ったりはしませんでしたよ?

 「子供は成長早いっすよねぇ…もう走り回ったりするんでしょ?」

 ぴくり。

 横島の声に弾かれたように顔を上げたひのめは、こちらを覗き込んでいた彼の顔に思いっきり張り手を叩き込んだ。笑顔で。ものそい笑顔で。

 「よこちま! あそべ!」

 鼻っ面を殴打された横島は、既にひのめの視界からは消えている。うめき声を上げてしゃがみ込んでいましたから。鼻血は出ていないようで、一安心。

 「ひのめ、横島君にだけ乱暴な言葉遣いになるのよねー。…教育上問題あるかしら」

 「美神家の血ですよねー」

 「…誰か俺にフォローか慰めか励ましを…」

 がっくりと項垂れた横島の姿に、またひのめが反応した。

 「おうま! おーーうーーまーーーっ!!」

 ぴょい、と美智恵の腕の中から飛び出すと、そのまま横島の背中に垂直落下。

 「けく!?」

 横島は肺の空気を全て吐き出す結果になったが、それは衝撃の瞬間、ひのめへの衝撃を最低限にしたためのもの。咄嗟に力を抜いて柔らかく受け止めたから。

 「ぱかぱかはーしーーーれーーーーーーっ!!」

 「美神家に隷属する運命か俺!? ど畜生しっかり掴まってれーーーーっ!!」

 馬というよりは爬虫類のような格好で、横島は背に乗せた主が喜ぶよう、しゃかしゃかと広い空間を走り始めた。

 「いつか下克上しちゃるーーーーーーーーーーっ!!」

 時折、そんな事も叫びました。ひのめも横島のバンダナを、手綱よろしく握り締めてはしゃいでいる。


 「しっかし…ママって時々呆れるくらい親バカよね。ここ一応、国の重要施設でしょう?」

 令子は腰に手を当て、周囲を見回すと苦笑した。ひのめに甘いのは自分もだけど、と付け加えて。

 「最近じゃ、オカGの訓練程度にしか使わないからいいのよ。今回だってきちんとデータは取るし」


 令子自身、久々に訪れる東京都庁地下、霊動実験場。あまりいい思い出のある場所ではないが、誰にも迷惑のかからない広い空間を都内で探すなら、確かにうってつけである。

 「まぁ、ストレス発散にはいい場所よね。ひのめも偶には最大火力を出さないと、今みたいに変な負荷がかかっちゃうし」

 「護符で抑えきれてなかった分の余熱が、体内に少し残留してたみたいなのよ。ひのめったら、霊格が上がったのねぇ…ほんと、成長早いわ。…もう可愛いったらないわね!?」

 美智恵がそう叫んで取り出したのは、ごつい望遠のついたデジカメ。最高画質で300枚は撮れるメモリを内臓した、最新機種だ。
 美智恵はマシンガンのようにシャッター音の雨を降らせる。勿論、対象はお馬の背で笑っている我が子のみ。お馬は背中すらフレームに入れません。

 「年取ってからの子供って、どーしてこんなに可愛いのかしら! 令子は普通だったのに!」

 「普通で悪かったわね!? どーせ私は不肖の娘ですよっ!」

 令子はむくれて気づいていなかったが、美智恵カメラは時折令子の姿も写真に収めている。

 (子供達の様子、公彦さんにも送らなきゃね。ま、令子は自然体の方が綺麗に映るし…無駄に意識させないで撮りますよっと。…隠し撮りもいいかもね)

 膨れっ面の令子と、それをなだめているおキヌを瞬間的にカメラに収めながら、シャッターを切り続ける美智恵の灰色の頭脳は、美神除霊事務所の見取り図なんぞを思い描いていて。

 (あそことあそこ、そーね、あそこも死角よねー…意外とガード甘いわ)

 不穏なプランニングが着々と進められていた。盗撮は犯罪ですし、オカG所属…歴とした警察官の彼女が実行するとは思えませんが。

 (……うふ)

 …………実行、されないでしょう多分。


 「じゃーそろそろ本番ね。ひのめ、御守ちょっと借りるわね」

 「う?」

 「結局流されたー…こうなりゃ全力で生き延びるのみ…っ!」


 ひのめは、母の手が自分の首から御守を抜き取った瞬間、えもいわれぬ開放感に襲われた。

 「あー……やっ!」

 「ぅのおうっ!?」

 試しに、やけに遠くでこっちを見ていた横島に向けて、念じてみる。
 …彼が避けたためにちょっと不満が残ったけれど、ぽむっと赤い花が開いた。

 「じゃ、横島君あとよろしく! 外で見守ってるからねーっ!」

 「隊長のバカ親ぁぁぁぁっ!!」

 分厚い扉が、美智恵が駆け込んだ瞬間に閉まる。圧倒的な重みで。

 実験室の床に置かれた、お気に入りのクッションに座ったひのめ。しばらくじーっと自分のちっちゃな手を見つめたあと、ひどく楽しげに笑い出した。

 「おーはーな! よこちまー! おーはーなーーっ!!」

 「全て避けきるしかねぇ…! 都合よく目覚めろ俺の第6感とか色々!」


 お花が咲く。
 ひのめは楽しくて楽しくて…横島にも楽しんでほしくて。
 精一杯に、花を咲かせる。


 「めらー!」

 「甘いっ!」

 「めらみー!」

 「まだまだあっ!」

 「めらぞーまっ!」

 「ど熱ちいっ?! だが最強火力は避けきった!」

 「ぶぅー…」

 真っ赤な花弁が横島を捉えようとしては、人外の動きでかわされる。
 …これはこれで、面白い。ひのめは楽しかった。

 「もう終わりか、ひのめちゃん? 遠慮することないぞー?」

 一生懸命、ひのめは考えた。
 そういえば、以前読んでもらった絵本に、綺麗なお花が載っていたじゃないか。

 ひのめは、ぐーを横島に突き出して。


 「め! ら! ぞ! お! ま!」


 一文字叫ぶ度に、指を立てて小さく凝縮された劫火を点していく。


 「フィンガーフレアボムズは無理ぃぃーーーーーーーーっ!!!」


 「やあー♪」


 「たいちょおおおおおうっ!? 何読ませてるんすかあああっ!?」

 『だってひのめ、ドラ〇エ大好きなんだもの』

 スピーカーから聞こえてきた返答に、全力ダッシュ中の横島は叫ぶ。

 「絵本代わりに読ませるんじゃねぇえええええええ!!!」

 慟哭の直後、横島は真っ赤な炎に包まれてひのめを喜ばせた。


 「アレは対象年齢意外と高いっすよ?」(無傷。)

 『…適任よねぇやっぱり』


 「ばーらっ!」

 「おー」

 「さーくーらっ!」

 「うんうん。綺麗なもんだ」

 「たんぽぽっ!」

 「おーおー…ひのめちゃんよく知ってるのぅ」

 「……めらぞーまっ!」

 「不意打ちっ!?」


 実際、ひのめの発火能力は凄い。火の色まである程度操って、自分の覚えている花のイメージを、炎で再現していく。
 逃げ回る横島に花を咲かせるのもいいが、図鑑で見たいろんな花を自分の周りに再現するのも楽しい。
 制御ルームではひのめが火傷しないよう、常に大人たちが目を光らせている。横島も文珠を数個、握り締めていた。

 「ゆーりっ!」

 赤い花が咲く。
 でも、なにか違う。

 「…ゆーーーーりっ!!」

 鮮やかな真紅の花弁。
 でも、以前見たのは違う花だ。

 「……?」

 花言葉も、教えてもらった。…何だっけ。ひのめには難しい言葉だった。

 「…まー? ゆりー! ゆりぃーー!」

 ひのめは大きな声で母に聞いてみる。さっき声が聞こえたから、こっちのも届くはずだ。

 『百合? ……ああ、この前のアルバムに載ってたやつね』

 美智恵はすぐに思い出して、我が子の記憶力の良さに感心する。とろける。

 「隊長? どしたんすかー?」

 『…!? ふ、ひのめの余りの愛らしさにトリップしてたわ』

 「…………あの頃の威厳とか懐かしいなー」

 しみじみと、横島は思い出す。この人ほんとに戦闘機真っ二つにしたんだっけ。

 『ひのめー? あれは白百合よ。花言葉は純潔…ひのめにお似合いの、真っ白のお花よー』

 以前、唐巣教会で小さな結婚式があった。
 唐巣神父に悪霊を退治してもらい、命を救われたという年若いカップルが是非にと頼んできたので、唐巣も快く承諾して行われたものだ。
 偶々教会に来ていた美智恵は、近所の花屋で花束を購入し、夫婦の前途を祝してプレゼントした。これも縁である。
 数日後、当日の様子を収めた写真を唐巣から手渡された。小さなアルバムの最初の一枚…そこに、幸せそうに微笑む新郎新婦と、美智恵の送った花束が写っていた。
 ひのめはその花束のメインとなっていた白百合が、ことのほかお気に入りで。

 「しらゆりー!」

 だから、ひのめはその花を再現したい。
 でも炎は赤い。ひのめはそれが気に入らない。

 なら、白い炎を。想いの全てを注ぎ込んで、白百合の花を…咲かせよう。


 「……!?」


 突如吹き上がった熱波と霊圧に、横島は目を見開いた。

 「ひのめちゃん!?」

 ひのめは目を閉じて、両手を前に出して立っていた。ただ、その掌に集まる熱量が、今までの比ではない。
 何より、2歳の子供が制御出来るクラスの霊圧とは考えられない。

 「隊長! これ、止めますよ!? 暴走してんじゃないんすか!!」

 『待って。霊波は安定してるわ。上昇の仕方が尋常じゃないだけ…』

 「でも!」

 『多分、これが最後の炎。最上限値をデータ取りしないと、新しい護符が作れないわ』

 「危なくないんすかひのめちゃん!?」

 『…どっちかっていうと、危ないのは…』

 沈黙は僅かに。

 「…あああああああ!? 俺最大のピンチ!?」

 『頑張って生き残ってねー♪』

 「鬼―! あんたやっぱり美神さんの親やーーっ!!」


 ひのめが想えば想うほど、花は育つ。
 最初真っ赤だった花の色も、徐々に色味を青くしていき、ひのめのイメージに近づいてきた。

 「…う、あーう」

 流石にちょっと熱い。
 でも、あの白百合は本当に綺麗だった。花嫁の胸元で可憐に咲いていた。

 横島にも見て欲しい。
 おキヌちゃにも、姉にも。

 「しらゆりー…きれー…」

 全力で遊んでいるときのような、高揚感と疲労感がひのめを包む。

 「ひのめちゃん、ほんとに花好きなんだな…おし」

 高熱に押されていた横島は文珠を二つ取り出すと、イメージを練り込んでいく。

 (ま、これなら美神さんも怒らんだろ…どこまで再現出来るか分からんが)

 仕事に関係無いことで文珠を使うと、あの女傑は大層激怒するのだが…ひのめ相手なら、しかも美智恵も側にいる状況で自分を折檻したりは…しないだろう。

 「…こんなもんか。ひのめちゃん! よっく見とけよー!」

 うだるような熱さが全身を苛む中、横島は両掌に載せた文珠二つを、自分の足元に零した。


 横島の声に、目を開いてみると。

 ひのめは、自分を囲む景色が変化していることに気づいた。

 抜けるような青空に、燦々と陽気を降り注ぐ太陽。

 鼻腔をくすぐる、甘い香り。

 吹き抜ける風の音色。


 そして、色とりどりの『花』。


 一面に広がるのは、暖色系の彩りも鮮やかなバラ。アクセントのように可憐に綻ぶチューリップ。バラ畑の周囲には、黄色いタンポポが。


 ひのめはぽかんと口を開けて…きょろきょろと周りを見回す。

 文珠効果がきちんと現れて、安堵のため息をついている横島は、ひのめに向かって言う。

 「ほら、この【花】【園】はひのめちゃんのものだよ。俺も花の種類なんて全然知らんから、有名なのしかないけど」

 自分の気恥ずかしい行為に照れつつも、ひのめに笑いかけてくる横島を見て…


 「おはなばたけーーっ!!」


 ひのめは、花満開の最高のスマイルを、浮かべてみせた。


 「でもなー、まだ足りないんだよなー! どーしても白い花が思いつかなくてなー! ひのめちゃん、ぱあっと咲かせてくれない?」

 その笑顔を見て、吹っ切れたようにわざとらしい演技で、横島は花園の最後の仕上げをひのめに頼む。

 「!! しらゆりーーっ!!」

 自分の腰まで花に埋もれたひのめは、満面の笑みのまま、両手を空へ、太陽へ掲げる。

 眩しい光球は、まるで太陽を掌に包んだかのようで。

 白色の光は、確かに炎だ。けれど、それは超高熱の塊なだけではない。

 ゆらゆらと。

 めらめらと。

 青空に舞った純白の花びらは、バラとチューリップの植わった花畑の至るところに落ちて咲き綻び、ひのめの花園を完成させた。


 胸はどきどき。

 でも走らずにはいられない。

 取りあえずは、大好きな大好きな…目の前の青年の下へ。


 「よこちまー! だっこー!」

 「はいよ、お姫さま」


 軽々と持ち上げられ、ひのめの視界が更に開ける。見渡す限りの花園に、ひのめの生んだ白百合がきらきらと輝いている。

 「あー…!」

 この光景はまさしく、今朝の夢そのもの。

 「きれーなもんだなぁ…俺の想像力も捨てたもんじゃねーな! うはは!」

 「もんじゃー!」

 文珠の見せる、これもまた夢。横島のイメージを投影しただけの、幻像。

 そんなことを語るのは、野暮というものだろう。

 「きれー…よこちま…うー…」

 急激な睡魔に襲われ、ひのめは横島の腕の中でうとうとし始めた。ずっと溜め込んでいた霊力の全てを発散したのだから当然だ。

 ひのめは、自分の背中に置かれた大きな手の温かさを感じながら、ゆっくりと眠りについていった。

 「……うはは。俺も限界…もう汗も出ねぇ…」

 文珠の効果が切れ、幻像から無機質な実験室の様子へ夢が覚めた途端、横島もふらふらと足取りが危うくなった。

 『お疲れ様、横島君。今開けるから』

 実験室の床には、まだひのめの白百合が咲いていた。花からは、鋼鉄の床を溶かすほどの熱量が放たれている。換気機能がフル回転を始め、白百合はそよそよと風に花弁を靡かせていた。

 「なーんでお姫さまは平気なんやろなぁ……あ、ダメだ…頭クラクラしてきたー…」

 外への扉が開放され、熱気が逃げ出していく。横島は空気の流れに押されるように、ひのめをしっかりと抱いたまま廊下へと脱出した。

 「横島さん! うわなんか唇かさかさにっ!?」

 「あー…おキヌちゃん、ひのめちゃん頼む…」

 最後の力を振り絞って、部屋の外で待っていたおキヌにひのめを手渡す。

 「真っ白だ…燃え尽きちまったよ……おやっさん…」

 かさり、と横島は枯れ木のようにその場に倒れた。

 「おやっさんて誰ですかー!? 横島さん、横島さぁーーーーん!?」


 夢の中

 色とりどりの花が舞う

 姫は一人、駆け回り

 飛び跳ね、転がり

 花びらと戯れる

 遠くに鳴るは、鐘の音

 姫を迎える、鐘の音

 姫は急いで起き上がる

 遠くに見えるは、白い人影

 姫も纏いし、純白の衣装

 花の祝福受けながら、姫は人影、新郎の下へ

 逞しい腕が姫を抱き上げ

 暖かな手が姫の背に添う

 教会の鐘は鳴り響く

 大好きなみんなが、大好きな人との式を祝福する

 それは小さな姫の夢


                花舞う姫の、新しい夢


 終わり


 後書き

 竜の庵です。
 せいせいしました。ほのぼの分補給完了。
 ちっちゃい子供は可愛いよね、というお話でした。
 皆様もほんわかしてもらえたらば、と思います。

 ではこの辺で。最後までお読み頂き、有難うございました!


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