初夏。これから段々と暑くなっていくであろう、そんな夜の物語。
横島忠夫は、その日いつもより早めに帰宅して、厳重に窓や扉を封印し、美神のところからパチってきたサブマシンガンを手にしながら、部屋の隅でおびえていた。
「…ついに、今年もこの日が来てしまったか」
窓の隙間から差し込んでいた日の光も絶え始め、辺りは夜の帳が支配する世界となる。
戦いの時間のはじまりだ。
ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!!
…ミシ…ミシ…ミシミシ…
何かが厳重に封印した扉を叩く。この日のために用意した20ミリガンダリウム合金製の特注扉だったが、情けない音を立てて今にも破られそうだ。
ドゴンッ!ドゴンッ!ドカーーーーン!!
ついに封印が解かれてしまった。
そして、破壊された扉の向こうから、恐るべき襲撃者が姿を現す。
「我が名は─────織姫!!」
今日は7月7日。世間一般では七夕と呼ばれる初夏の日であった。
「さぁ。望みどおり、わらわと一夜を……今宵そなたは、わらわのダーリンじゃ」
「帰れ化け物めぇぇぇ!!」
フルオートでマシンガンを発射する横島。だが、織姫の見事な筋肉の前には銀玉鉄砲ほどのダメージも与えられない。
「むぅ、そのように照れずともよいであろうに」
「照れてなんてないわぁぁーー!!!!」
マシンガンが効かないため、破魔札をかまえる横島。
なんというか織姫は神様だから、破"魔"札なんて効かないはずなのだが、なんとなく効きそうな気もするのはなぜだろう?
「来るんじゃねぇ!来るな!来るなぁぁ!大体なんで毎年来るんだお前は!!」
もはや食べられる寸前の小動物のような横島。
「なに……わらわはまだ、そなたとの熱い夜を過ごしておらぬゆえな(ポッ)」
そういって、頬を染める織姫。
「というか、横島。お主はわらわが変身できることを忘れてはおらぬか?」
「はっ!そういえばそうだった!」
そう、織姫は変身できちゃったりする。
だから元が『漢』と書いて織姫と読むような彼女であるが、変身しちゃえばアラ不思議、絶世の美女の御出現なのだ。
「たしか美神といったか?お主の好みの姿は」
「ぐぅぅ。いかん!正気を保て俺ッ!!あぁ、でも変身されたら何が現実で何が虚構なのかもーーーーーー!!!」
織姫は…フフフッ…と微笑すると、遂にその変身能力を使用した。
「横島クン……私とじゃイヤ?」
「…………………………イヤだ」
目の前には、美神の顔と『漢』の肉体を持った織姫がいた。
「むぅ、なんじゃこれは?」
「知るかっ!俺の方がききたいわ!!」
ええい今一度…と再度変身する織姫。
「横島クン……私のこと……好き?」
「…………………………嫌いにきまっとろうが」
今度は、『漢』の顔と美神の肉体を持った織姫がいた。
「ぬぅ、なんということじゃ!」
まったく恐ろしい絵面である。
「…………で、どっちがいいかえ?」
「どっちも御免じゃ!!」
「ぬぅ」
面倒なので、もはや変身を解いて、じりじり迫る織姫。
横島は押されるようにしてじりじりと後ずさりする。
そして、壁際に追い詰められた。
「フフフッ。もはや後ろはないぞ」
勝者の余裕で見下ろす織姫。
どうでもいいが一夜を共にとかいう雰囲気ではまったくない。
「おっと、そういえば。そなたを喜ばせようと、用意してきたものがあったのじゃ」
そういって、なにやら取り出す織姫。出てきたのは洋服のようだ。
「織姫は機を織るのが本職故な、このようなものを作ってみた」
そして、おもむろに着用しはじめる。
……………………
………………
…………
……
目の前には『メイド姿の織姫』が仁王立ちしていた。
破壊力はある意味ハルマゲドン級である。
「どうじゃ?下界ではこれを『萌え』というのであろう?」
そう言って満更でもない織姫様。
もはや横島は魂が抜けかけている。
「んー?反応が悪いの?……そうか!?そういえばあれを忘れておったな」
なにやら一人納得し、ゴホンと咳をする織姫。
そして…
「わらわと一夜をどうじゃ?……御主人様♪」
その初々しい可愛らしい仕草をみて横島は……
殺そうと心に決めた
『神殺し』その罪深い二つ名をこの夜男は背負ったのである。
おしまい
後書きのようなもの
え~と、キツネそばです。
またこんなのです、ごめんなさい<(_ _;)>
9月も終わるというのに、七夕ネタでごめんなさい<(_ _;)>