信じられないかも知れないが……横島も一応人間である。
毎度のように致死量超えた血をいろんなところから垂れ流し、コンクリートをも破壊する衝撃を受けまくり、あるときには生身で大気圏突入なんて素敵経験まである男であるが、
……それでも一応人間だ……
いっそどこぞの妖怪人間みたいに『はやく人間になりた~い』などと叫んでもらったほうがすっきりするのだが、困ったことにそうではない。
したがって、たとえそれが認められないような事態であるとしても、彼が今
『風邪をひいて寝込んでいる』
のは……紛れも無い現実なのである。
「…色々いいたいことがあるナレーションじゃねぇか…」
白亜紀からどうやって帰ってきたのか説明してくれたら、ナレーションも変えようと思う。
そんなわけで、数年いや数十年?もしくは一生に一度?なレア状況として、横島は風邪を引いてダウンしていた。
「風邪ってバカでもひけるのね?」
とは、もはや説明は要らないかもしれないが、居候である『未来からきたキツネ型妖怪』の評である。
いつもは、横島が押入れにいる彼女を叩き起こすのであるが、今日に限って何時までたってもそれがない。なので、渋々起きだしたのだが、その際に、この目の前のレアアイテム(風邪横島)を発見したのであった。
「38度6分。どうするの?お医者さんとか行く?」
タマモは受け取った体温計を見ると横島にたずねた。
「…いや…金がもったいないからいい…」
何だかんだで苦しいのであろう、彼の返事も元気がない。
「…一日寝ていれば…」
そういうと、彼は目を閉じて眠りに落ちていったのである。
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………………
…………
……
…はぁはぁはぁ…
別に欲情しているわけではない。
眠りにはいった横島であるが、その息遣いは荒く、表情も苦しげだった。
タマモは、その姿をずっと眺めていたのであるが、生憎と彼女は『病人の世話』なんてしたこともない。
有り体に言うと『どうしていいか分からない』のである。
「…そうだ、たしか」
思いついたことがあったのか、彼女はお腹のポケットをごそごそしだした。
「あったわ!これでバッチリ♪」
手にしたのは小冊子『家庭の医学 by百の器官を持つ女神』という、なんとも既に暗雲がたちこめてきそうな代物である。
だが、こまったことに頼りになるのはこの一冊しかない。
タマモはページをめくった。
○風邪ひきさん看病のためのその壱!
『頭を冷やして、身体を暖めてあげるのね~』
…寒い、いや暑い?なんだ?なにが起きている??
自身をおそう違和感に横島は目を覚ました。
目の前にものすごくデカイ扇風機がある。最強モードでうなりをあげて送風中だ。
そして、下にも違和感を感じてそちらに目をやる。
横島はいつの間にやら『お湯を張ったタライ』に浸けられているようだ。
「あ?気がついた?」
横ではタマモが、ヤカンから新たな湯を注いでいた。
「…なにをしているのか説明してもらおうか」
「なにって…看病に決まってるじゃない?」
「どの世界に『タライに浸けて扇風機あてる』看病があるっつうんじゃ!」
「…頭を冷やして身体を暖めるって書いてあったわ」
「間違っちゃいないが、断じて認められんっっ!!!!」
言いたいことは良くわかる。
…横島の体温 39度2分…
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…………
……
さすがに自身の失敗を認めたのか、タライ扇風機は断念したタマモ。
横島は何故か前より容態が悪くなっているようだ。
「まずいわね、別の手を打たなきゃ」
そう言って、また例の小冊子のページをめくった。
○風邪ひきさん看病のためのその弐!
『とにかく精力のつくものを食べさせて休養することが大事なのね~』
…クンクン、なにか良い匂いがする。
風邪をひいていても腹は減るのか、横島は食欲をそそられる匂いに目を覚ました。
「あ?起きた?ちょっとまってね」
台所のほうからタマモの声がする。なにか作っているようだ。
しばらくすると、土鍋に煮込みうどんを入れてタマモがやってきた。
「食べれる?」
「あぁ、ちょうど腹が減ってきたところだったんだ。サンキューな」
そう言って、土鍋の乗ったお盆を受け取る横島。箸をもち、うどんをすする。
「うまい!生き返るな!」
「どんどん食べてね。お代わりもあるから」
タマモも美味しいと言ってもらえて嬉しそうだ。
しかし、やはりというかやっぱりオチはある。
食している最中、横島は妙に体が『カッカ』と燃えるような、そしてどうしようもなく下半身のアレがいきり立つ『ムラムラ』するような感覚を覚えた。
…熱いうどんを食べているせいかとも思ったが、どうもおかしい。
「…タマモさん?」
「なに?」
「このうどん、とても美味しいんですが、なにか入れたのでしょうか?」
悪い予感がするのであるが、一縷の望みを託して、目の前の着ぐるみ少女に尋ねてみる。
「あ!わかった?精力がつくようにって『超バイアグラだし汁』をそれはもうドッパドッパ入れてみたのよ♪」
※タマモの秘密道具講座
『超バイアグラだし汁』っていうのは、未来の大人のお店で売っている
「EDさんでもお猿さん」という謎キャッチなものよ。
なんでも精力がつくらしいから、とにかく沢山いれてみたわ。
一瞬後、部屋に横島の姿はなかった。そして外から
「ちち!しり!ふとももぉぉ~~!!!」
「「「「イヤぁぁぁぁ変態ぃぃぃぃ~~!!!!」」」」
という声が響き渡っていた。
…横島の体温 40度5分…
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………………
…………
……
「…いいか…もう何もするな……」
あらゆる意味で疲れ果てた感じで帰ってきた横島は、そう言うと布団に倒れこんだ。
もはや死相すら薄っすらと浮かんでいる。
タマモはさすがに反省したのか、布団の横で小さくなっていた。
眠りにつく横島。本当に苦しそうだった。
ふと脇を見ると、濡れたタオルが落ちている。彼女が起きたときに横島が自らの額に当てていたものだ。
横島が自分でしていたものならば、悪いことではないのだろう。タマモはそれを手に取ると、横島の額に当てようとする。
だが、タオルは既に温んでおり、当てようとした額は火を噴くような熱さであった。
タマモは少し考えたが、台所から洗面器を持ち出すと、水を張りタオルをそこで新たに絞ってから横島の額にのせた。
冷たいタオルが当たると横島が少しだけ楽になったような表情をする。
タオルが乾くとまた絞ってのせ、水が温むと汲みなおしてまた絞ってのせた。
それからずっとそうしていた。
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………………
…………
……
…なんか、腕が重い。
日が沈み、あたりに夜の帳が降りる頃、横島はようやく目を覚ました。
時計を見ると既に午後11時をまわっており、丸々10時間は寝ていた計算になる。
その甲斐もあってか、体はかなり楽だった。
視線を重さを感じる方へと移すと、着ぐるみキツネが布団の上にもたれ掛かるようにして眠りこけている。
横島は苦笑を浮かべながら、重いのでタマモを起こそうとしたが、そこで額にあるタオルに気がついた。
触ってみるとまだ冷気を失っていない。
…まったく…
横島はもう一度苦笑した。ほんの少しだけ柔らかく。
彼は、なるべく動かないようにして投げっぱなしになっていたGジャンを手に取り、不器用にそおっと同居人の肩に掛けると、自らもまた眠りについた。
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………………
…………
……
翌日
「うどんいる?昨日の残りだけど?」
「いらんわ!!」
また何時ものようなやり取りが横島邸には響いていた。
おしまい
後書きのようなもの
え~と、キツネそばです。
予定ではあと二話。色々あるけど書ききります;
>シヴァやんさん
宇宙意思は「未来からきた○○」には甘いのです^^
某ネコ型ロボットの方を見ていればよくわかりますw
>meoさん
B以下は全てAなのですよ(なにが?)w
>黒覆面(赤)さん
アシュタロスとの白亜紀サバイバル紀行はそれだけで1本書けそうですね^^
正直このお話「タマえもん」は「アシュえもん」とどっちにするかで
最後まで悩みました。
>秋桜さん
まさに無茶・無理・無謀なのです^^
コンセプトは「連載初期のGSテイストをドラ道具でやってみる」というところなのでw