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▽レス始

「〜少年時代〜(GS)」

ダヌ (2006-09-05 13:37/2006-09-05 15:19)

彼女と出会ったのは、デジャヴーランドだった。
日本で最も有名なデートスポットであり、家族連れで訪れる人も多い。
けれど、あの時の僕には、デジャヴーランドを楽しむ気なんてさらさらなかった。
なぜなら、一人デジャヴーランドに僕がいた頃、父さんと母さんは近くの弁護士事務所で離婚調停の交渉をしていたんだ。
そんな状況で楽しめる人なんてそうそういないだろ?
そんなやりきれない想いを抱いて、悩んでいた時だった。
彼女と出会ったのは…


〜少年時代〜


彼女との出会いは本当に偶然だった。
突然茂みから飛び出してきた彼女が豪快に転んで…
たまたま目があっちゃったんだ。
動転して、慌てて謝ろうとした僕に、彼女は凄い勢いで迫ってきた。
てっきりパンツを見ちゃったことに怒ってるんだろうと思ったんだけど、
僕が捨てようとしたVIPチケットを自分のものだと勘違いしたんだそうだ。
父さんと母さんが僕にくれた、父さんと母さんにとっての免罪符。
僕にとってそのチケットは何の役にも立たないものだったから…
僕はそのチケットをあげようとしたんだ。
けれど彼女は納得してくれなくて…
結局2人で遊ぶことになったんだ。

彼女の勢いに押されて、しょうがなく付き合ってるつもりだったんだけど…
気づいたら父さんや母さんのことなんか忘れて遊んでたな。
それまで灰色に見えていた世界が、急に鮮やかな色をつけて、目の前に現れたような感覚。
初めて女の子と腕を組んでみたり…
初めて女の子と二人きりでごはんを食べたり…

透きとおるように青かった空も、気づいた時には綺麗な橙色になっていた。

全部のアトラクションに乗って、二人でジュースを飲んでいた時だった。
彼女に僕のウソを見抜かれたのは。
彼女に「楽しかった?」と聞かれて、僕は「もちろん」と答えたんだ。
けれど、彼女は言ったんだ。
ここにいるのは本当の僕じゃない、と。

あの時の気持ちは今でも覚えている。
そうじゃない、違うんだ、と思いながらもうまく言葉がでてこなかった。
彼女が一緒に居てくれて、どんなに僕が助けられたか、どんなに感謝してるか、分かっていたのにうまく言葉がでてこなかったんだ。
自分の心を表現するのがあんなに難しいなんて思わなかった。
帰ろうとする彼女に声をかけた僕に、彼女はこう言ったんだ。
私の正体を知ったら…もうこんなふうに遊べない。だから…これっきり、と。
あの時の僕は別れが怖くて…その言葉が悲しくて…僕は誘ったんだ。
最後の思い出に、オープン前のアトラクションに忍び込もうって。

僕らはオープン前のお化け屋敷に忍び込んだ。
警備の人も居なくて、簡単に忍び込むことはできたんだけど…
部屋に入ると、突然彼女が苦しみだして…
合わせたように電気も落ちて…
少し怖かったけど、僕は思ったんだ。
彼女を守らないと、と。

なんとか外に出る道を見つけて、二人で歩いた。
僕は彼女に伝えた。
父さんと母さんが離婚調停の交渉をしていることを。
だから、心から楽しめなかった、って。
父さんと母さんのことを思うと強張る顔に、なんとか笑顔を浮かべる僕に…
彼女が何か言いかけた時だった。
突然霊に襲われたのは…
僕は話に夢中で全く気づくことができなくて…彼女が僕を助けてくれたんだ。
僕は何もできず…彼女と霊は水の中へ落ちていった。

守りたいと思った女の子に助けられるなんてほんと情けないよね。
だから…僕も飛び込んだんだ。彼女を助けるために。

必死に飛び込んだ僕だったけど、結局また彼女に助けられることになった。
驚いたことに彼女は妖怪だったんだ。
なんとか二人で陸に戻り、まだ現実についていけない僕に彼女はこう言った。
お互いに本当の姿見せてなかったから、これでおあいこだね、と。
結局彼女は見抜いていたんだ。驚く僕に彼女はこう言ったんだ。

悲しいんだったらさ、泣いたっていいのに…!男の子でもさ…!

僕のつけていた仮面はあっけなく壊れた。
泣いている僕を彼女は優しく抱きしめてくれた。

それがあの夏の思い出。
大切な…大切な思い出。


結局僕は母さんに引き取られることになった。
夏休みが終わり、二学期が始まるころには、僕は東京にはいなかった。
友達と別れるのはもちろん辛かった。
けど、何よりも辛かったのは、彼女ともう会えなくなるんじゃないか、という不安。
その不安がどんな感情から生まれていたのか…
あの頃の僕には分からなかったんだろうな。

結果としては、その不安も杞憂に終わった。
もちろんそう何度も会えたわけじゃないけど。
年に数回だったけど、彼女に会えることは僕にとって一番大切なことだった。

純粋に会うだけで嬉しかったあの頃。
その気持ちも、時の流れと共に少しずつ変わっていった。
初めは友達として。
その気持ちは少しずつ成長して…
高校生になった頃には、僕自身もはっきり自覚していた。

彼女のことが好きだ、と。

どれほど離れていても色あせない想い。
今考えると、少し恥ずかしいけど…
あの頃の僕にとって、彼女への想いが全てだった。
なけなしのバイト代を集めて、東京に遊びに行ったり…
彼女が僕の所に遊びに来てくれたこともあった。

いつも彼女の姿を追い求めて。
こんな所にいるはずがない、と分かっていたけど。
いつも探していた、彼女の笑顔を。

彼女の笑顔を見ることが何よりも嬉しくて…
彼女の笑顔を独り占めにしたい、なんて考えてたんだ。

けれど、そんな想いも終わりを迎える時がくる。
彼女が結婚することになったんだ。

僕は後悔した。
なぜ彼女に想いを告げなかったのか、と。
その気持ちは今も僕の心の奥底に残っている。
今なら分かる。
きっとあの関係を崩したくなかったんだ。

なんでも話せて。
たわいのないことで笑いあえる。
二人でふざけあった大切な時間。
僕にとって大切な人。


明日は久しぶりに彼女と会う。
彼女に聞こう。幸せ?って。
きっと彼女はこう答えるだろう。
幸せよ、と。
すると、僕はウソをつく。
幸せでよかったね、と。

今度のウソは見抜かれない自信がある。
だって、僕は今でも君のことが好きだから…
今も君の幸せを願っているから。
その想いはどれほど時が流れても、色あせることはないだろう。

願わくば、君のことを想うように、いつか僕も愛されたい。

さよなら…僕の少年時代…


あとがき
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
あんまり真友君の話って読んだことがなかったので、挑戦してみました。題名は井上陽水さんの『少年時代』からつけました。かなり甘酸っぱい話になってしまって恥ずかしいですけど。タマモとくっつけるというのもアリかとは思ったんですが、やはり初恋は実らないというやつで。この後、少し大人になった真友君がいい恋ができるといいな、と思って書いてみました。
不自然な所があったり、誤字脱字があったらご指摘して頂けたら嬉しいです。
それでは、失礼いたします。


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