俺は花屋の店先に並んだ花に目をとめた。
紫色の五つに分かれた花びらを持つ花。
西条とは違い、女の子に花なんて贈るような気遣いが無い俺には、それがなんていう花なのかなんてわからない。
値札に書かれた名前をみて、その花がキキョウという花だと始めて知った。
そして、その花を見るたびに、俺は彼女の言葉を思い出す。
彼女が花を見ながらいったあの言葉を。
アシュタロスの元にスパイとして入り込み、山奥で潜んでいたときだった。
「花って綺麗よね」
俺はその言葉に、そうですねと短く答えた。
「ねぇ、何で花って綺麗なのか答えられる?」
彼女―ルシオラ―が俺を見ながら問いかける。
「えーっと、それは確か自分たちの子孫を残すために、虫たちの興味をひきつけるため綺麗になってるんだっけかな?
と気の利いたことをいえない俺は、図鑑から引っ張ってきた言葉をない知識から引っ張り出した。
彼女は、くすっと笑うと花に視線を戻す。
「一応、私も女の子なんだから気の利いた言葉が欲しかったんだけど。まぁ、いいわ」
彼女はそういって、彼女は花を手に取る。
「生物学的にはヨコシマのいうことは正しいわね。でもね、私は自分たちの存在を示すためじゃないかって」
「存在を示すため?」
俺は鸚鵡返しのように聞いた。
「そう。短い命を必死で生きた証、それを誰かに覚えていて欲しくて、誰かの記憶の片隅にでも覚えていて欲しいから、こんなに綺麗に咲いているんじゃないかって私は思うの」
彼女はそういって、摘み取った花を見つめる。
「私の命も、一年くらいしか持たないの。この花と同じ短い命。……だから私は必死で生きたいの。私も誰かの記憶に残りたい。それが良いにしろ悪いにしろ、誰かの記憶の片隅でずっといたい。できれば、好きな人の記憶にずっといたい……」
彼女が俺の前に立つ。
「ねぇ、ヨコシマ。私が消えても、私のこと覚えていてね……」
彼女のその表情がとても綺麗だったから……。
その後に、一緒に夕日を見たときの彼女の表情がとても綺麗だったから……。
だから、俺は決意したんだ。
アシュタロスを倒すって。
彼女の笑顔を、彼女のことを記憶だけじゃなく、俺の目の前に留めて置きたかったから。
一時的に、アシュタロスは倒したけど、結局は彼女を救えなくて、彼女の言ったとおり、記憶の中だけに存在するようになっちまった……。
結局、あのときの俺はガキだったんだ。
誰かの歌や言葉じゃないけど、愛してるとか好きな人のためとか、守りたいものがあるとかで強くなれると思っていたんだ。
でもそんなのは幻想で、本当は自分の弱さを実感するだけだったんだ。
俺は自虐的な笑みを浮かべると、花屋に入った。
「すみません、このキキョウください」
俺はキキョウを受け取ると、夕焼けに浮かび上がる東京タワーを目指した。
―キキョウの花言葉は変わらぬ愛―
あとがき
二作目の投稿となります。
今回は横島とルシオラです。
花言葉を探すのに色々苦労しました。花に非常に疎いもので。^^;
では、今回はこの辺で。
レス返しを
ダヌさん
感想ありがとうございます。
これからもがんばりますので、よろしくお願いします。