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▽レス始

「〜鈴蘭〜(GS)」

ダヌ (2006-08-31 06:39/2006-08-31 11:05)

ICPO超常犯罪課、通称オカルトGメンには、日々霊障に悩む人々がやってくる。それらの多くは高額な民間GSの報酬を払うことのできない、中流階級以下の人々である。霊能力を持つ人々にとっては些細なことでも、なんの力も持たない人々にとっては脅威となる。いかに霊についての認識が浸透してきたとはいえ、死んだはずの知人が毎日現れたり、ポルターガイストが続くだけでも、人は精神のバランスを崩す。
そんな人々を助けるため、日々その力を注ぐオカルトGメン日本支部、そこで最も有名な人物、それが西条輝彦である。

西条輝彦は高名な美神美智恵の直弟子であり、未だ体制の整わないオカルトGメン日本支部において、現場を離れた美神美智恵を差し置けば、最も優れた現場捜査官であり、霊能力、統率力においても並ぶ者がいない、と評されている。スポークスマンとしての能力にも優れており、メディアでその姿を見かけることも多く、世間ではオカルトGメン=西条輝彦という認識すら広がっている。
それらのことを聞くと、西条は「力を持つ者として当然のことをしているだけですよ」、と言いながら苦笑いを浮かべる。
彼の短所といえば、いささか自信過剰なところと強すぎる正義感、そして女運の悪いところであろう。


〜鈴蘭〜


「こんな所で霊障か…」

西条がつぶやく。西条は今、一人山の中を歩いている。辺りには民家すら見えず、少なくとも半径10キロ以内に住んでいる人は居ないだろう。

「しかし…やっぱりたまには一人もいいな。先生には感謝しないとな。」

そう、西条は今回の除霊において一人で赴いている。オカルトGメンにおいて、除霊作業は基本的にチームで対応することが義務づけられているのだが、オカルトGメンの顔になりつつあり、様々なしがらみの増えてきた西条のことを考え、美智恵が今回の除霊を西条一人で行かせることにしたのだ。除霊対象もそれほど難しいものではなく、西条でなくとも除霊することは可能だったのだが、そこはやはり休暇という面も大きいのだろう。

「さて…と、そろそろ見えてくる頃だな。」

山頂も近くなり、目指すべき建物が見えてくる。目的地にも着き、あらためて手渡されていた情報と、除霊道具の最終チェックを始める西条。

「除霊対象は5年前に亡くなった石田あかり。享年21歳。亡くなった理由は交通事故…か。発見者は彼女の父、石田純平と母親の石田ゆかり。一ヶ月前、生前に家族で行ったこのペンションへ来たおりに石田あかりと遭遇。知性も残っており、極めて理性的ではあるが、成仏を拒否…にも関わらず、霊能力者の派遣を両親に依頼…か。あらためて見ても不思議な案件だな…」

そうつぶやきながら装備を点検する西条。襲撃される可能性は極めて低いが、それでもチェックを怠らないのはプロとして当然の姿勢。聖剣ジャスティスと破魔札が30枚、これが西条の標準的な装備である。これに危機的状況を打開するために現場職員一人につき一個配られている小振りの精霊石が一つ。一分もかからずに点検が終わる。西条は一つ深呼吸をし、しばし精神統一をすると、ペンションへと足を向ける。

「さて、行くか。」


ペンションの内部はいたって普通のつくりであった。ドアを開けるとすぐそこにリビングがあり、入って右に寝室が一つ。これらは洋間で、寝室と対称的な位置に6畳くらいの和室がある。リビングの奥にはキッチンがあり、これといった特徴のないペンションである。リビングの中央に彼女がいなければ…

「石田あかりさんですね?」

西条が声をかける。突然の襲撃に備え、油断することなくペンションへと入った西条だったが、彼女を見て、その緊張を僅かに解く。情報どおりあかりの目には理知的な光が浮かび、その表情からは優しさすら感じられる。長めの黒髪に、目鼻立ちの整った顔、その身は白いワンピースに包まれ、悪霊というよりも聖女という表現が似合う女性であった。

「はい。あなたは?」
「僕の名前は西条輝彦。あなたのご両親から依頼され、オカルトGメンから派遣されてきた者です。」
「そう…お父さんとお母さんは私のお願いを聞いてくれたのね。ところでオカルトGメンとはなんですか?」
「そう言えば、あなたが生きていた頃にはなかったんですね。オカルトGメンとはICPO超常犯罪課、霊的障害の関わる案件に携わる国際組織で、僕はそこの日本支部に所属しています。公的機関の一つだと思ってもらえればいいですよ。」
「ということは、そんなにお金もかからないんですね…よかった…お父さんお母さんに大きな負担にならなくて…」

あかりは安堵したように小さな微笑をつくる。西条は一瞬その表情に目を奪われるが、すぐに意識を仕事へと戻し、あかりに話しかける。

「話を聞いてもいいかな?」
「ええ、どうぞ。」
「今回僕がここに来たのは、いささか不思議だが、あなたからの依頼ということになっている。確かにあなたは理性を保っているし、依頼をすることも可能だと思う。しかし、その目的がわからない…いや、それ以前に、あなたのような理知的で、優しそうな女性が、何故こんな所で霊になっているんだい?成仏することはできないのかい?」

西条が疑問に思っていたことをあかりにぶつける。

「そうですね…西条…さんでしたよね?あなたが困惑するのも仕方ありません。あなたをここに呼んだのも、私が霊になっていて、成仏することを拒むのも…全ては私の我が侭なのですから…」
「我が侭?」

その言葉に頷き、すこし俯きながらあかりは話し出す。

「私には結婚を約束した人がいました。彼は同じ大学の人で、結婚と言ってもほんの口約束なんですけどね…ちょうど5年前、卒業の迫った時期でした。昔から家族で来ていたこのペンションへ彼と二人で行くことになっていたんですけど…その前日でした…私が交通事故に巻き込まれたのは…」

そう言うと、一息ついてまた話し出す。

「気がつくと私はここに居ました。もちろん最初は困惑しました。生きている人たちを恨めしく思ったこともあります。けれど、ここに一人でいるうちにそんなことはどうでもよくなっていきました…私の中に残されたのは、あの人にもう一度会いたい、という気持ちだけでした…」

そう言うと再び一息つく。その瞳はどこか儚げで、失われた過去を懐かしむような色が浮かんでいる。

「それから私は待ちました…彼がここに来ることを…もちろんそんな約束したわけでもないですから、自己満足って言われても仕方ありません…もちろん彼が来るわけもなく…いつの頃かはわかりませんけど…気づいてしまったんですね…私は彼に会って何がしたいのか分からないということに…彼と会って伝えたい言葉はあるんです…けれど、その言葉を伝えるだけで私は満足できるのか…彼と共に歩んでいくことなどできないのは分かっていますけど…それでも望んでしまったら?…私自身変わってしまうかもしれない…それに、こんな姿になった私を見られたくない…私自身が混乱していました…そんな時でした。両親がここを訪ねて来てくれたのは…」

窓に写る景色を眺めながら、さらに言葉を紡ぐ。

「私の中には2つの想いがありました。彼に会いたい、この世に留まりたい、という想い…彼に会わずにこの世を去りたいという想い…どちらが私にとって大きいのか…私はどうすればいいのか…私にもわからなくなって…父と母に頼んだのです。霊能力を持つ方に来て頂くことを…」

そう言うとあかりは視線を西条に向ける。

「私は自分自身で成仏することはできません…あの人に会いたいという気持ちが消えることはないから…けれど、彼に会わない方がいいのかもしれない、という気持ちも…嘘偽りありません…だから…除霊して頂くために…あなたを呼んだんです…」

そう言うと、あかりはクスリと笑う。

「ね?我が侭でズルい女でしょ?こんな私のためにこんな所まで来させちゃってごめんなさい。」

心なしか、先ほどまでの重苦しい雰囲気も晴れ、あかりの口調も明るくなる。
そんな彼女に西条が応える。

「いや、そうは思わないな。君が思うような気持ちは誰にでもあるものだ。人が人を愛するということは、綺麗事だけじゃない。生きている人でも暗く、苦しい想いに囚われる人はたくさんいる。君がその想いに囚われることなく、今ここにこうして存在していること…それだけで僕は君を尊敬するよ。」

しばしの沈黙を挟み、あかりは笑顔を浮かべる。

「ありがとうございます…その言葉、とても嬉しいです。それで…私のお願い、叶えてもらえますか?」
「ああ…分かってるよ。」

そう言うと、ジャスティスを抜く西条。

「たくさんの女性と出会ってきたけれど、このセリフは一度も言ってなかったな…5年早く会いたかったよ…」
「光栄なお言葉ですね。けど、残念だけど、私にはあの人しかいませんから。」

おどけたように応えるあかり。

「そうだったな。それじゃ…」
「ええ…さよならですね…」
「さよならだ。」

その言葉と共にジャスティスを一閃する西条。その太刀筋は限りなく優しく…鋭いものだった。彼女が消える瞬間にその表情に浮かんだ感情…それが歓喜だったのか悔恨だったのか、それは西条には分からなかった。


「さて…と、結構時間に余裕があるな。先生もゆっくりしてこいって言ってたし…お言葉に甘えてゆっくりしていこうかな。」

そう言いながらペンションを出て、一度だけ振り向く。自分の気持ちに正直で、自分の知る限り、誰よりも人間らしかった一人の女性。彼女に伝えることのできなかった事実、それを最後まで胸に押し留めながら、少し古ぼけた指輪を入り口に置く。

「今度こそ幸せに…」

その言葉と共に身を翻す西条。優しく辺りを包む風を、心地よさそうに感じながら西条は足を進める。風にのった言葉は彼に届いたのだろうか…

『ありがとう…』

それは西条と…彼女だけが知っている…


あとがき

日ごろ陽の当たらない西条と除霊対象になる人たちについてスポットを当てたいとも思ってたら…気づいたら彼女がメインになってました。題は鈴蘭の『意識しない美しさ、純粋』という花言葉と鈴蘭のもつ毒からとってみました。綺麗な姿と、実は毒を持っているという、その二面性が人の持つ心の動きにかぶるかな、と思ったり…
ちなみに西条の最後のセリフは名画『モロッコ』から拝借したんですが…大丈夫ですかね?
もう一個投稿してる方をほっぽいて、投稿してしまった自分ですが、できれば生暖かい目で見守って頂ければ…それでは失礼致します。

前回のレス返し(一つの可能性8)
○亀豚様
大丈夫ですか?通信つながりますか?
タマモはなかなか懐かなそうですね。頑張ってください!
○Ques様
そうですよね。銀一は実際やってることは横島とかわんないわけですから…
横島君が可哀想ですね☆
○k82様
西条が若干活躍してしまいました!続いてないですけど。
タヌキはいつか出したいんですけど、出せませんね…あの方が持ってる『このウソホント』なんてまんまプロセッサですし…
○vaka様
忘れてました…すんません。
○ローメン様
出番がないのは仕方ないんじゃけー!という訳で、あの方もおっしゃってるんですが、陰念さんにはいつか出て頂きたいっすいね♪
○HEY2様
雪之丞はその結果ボコボコです…GS彼女いるキャラってほんと可哀想ですよね…
○内海一弘様
銀ちゃんを温かく見守ってくれてありがとうございます!
ダブルデートはやれたらやりたいです!かなりてんやわんやになりそうですけど♪


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