横島さんの心には、今も雨が降っています。
愛しい人に自分から止めを刺したのだから。
いつもふざけて皆を笑わせているけど、あの人の心は常に泣いています。
どんなにバカなことをやっていても、あの人の顔には陰りが見えます。
私と横島さんは今山奥での除霊の仕事を終え、ふもとの駐車場まで歩いています。
山奥の深い森を抜けると、目の前に真っ赤な夕日が飛び込んできました。
そして横島さんは、夕日を見ながら
「……ルシオラ」
と聞こえないくらいの声で呟きました。
悲しい顔をしながら、夕日を見ています。
涙を流さず泣いています。
いつものお天道様のような笑顔ではなく、まるで曇り空のような顔をし、涙を流さない代わりに心で土砂降りの雨を降らしています。
横島さん、貴方の心に降り続く雨はいつになったら止みますか?
横島さん、私では貴方の心の雨は止みませんか?
ルシオラさん、私は貴方を許しません!
横島さんの心にずっと雨を降らせ続ける貴方を、私は絶対に許さない!!
……ダメ、そんなことを考えちゃ。
彼女だって、横島さんを泣かせるためにそんなことをしたんじゃないから。
私だって、ルシオラさんと同じ立場だったら、同じことをしたかもしれない。
だから、そんなことを考えちゃダメ。
「……帰ろっか、おキヌちゃん……」
夕日が沈むと、横島さんはそういって私のほうを見ました。
私は短く
「はい」
と答え、車を置いた場所まで歩き出しました。
私たちは、横島さんの運転する車で事務所へと帰路へ着きました。
横島さんがカーラジオのスイッチを入れます。
ラジオから優しい曲が流れてきます。
大好きな貴方の隣で、ずっと傘を差してあげたい。
明るく振舞う、貴方の奥には寂しさが常にいることはわかるから。
貴方の寂しさを取り除くことはできないから、他に私に何ができるか考えてみた。
そして、私は決めた。
私は貴方の隣で微笑むことを。
貴方が本当に笑えるように。
常に土砂降りの雨の中に立ち続ける、貴方の隣で微笑みながら、貴方が心から微笑むのを待ちながら、傘を差してあげたい。
そんな歌詞に、私はくすりと笑いました。
そうだった。
横島さんの心に降る雨を止めさせる事はできなくても、この曲のように傘を差すことはできる。
車が赤信号で止まります。
横島さんが、シフトレバーを一速に戻し、レバーに手をかけたまま青信号を待っています。
私はその手を握り、横島さんを見る。
横島さんは驚いた顔をして、私を見つめます。
ねぇ、横島さん。
私に、貴方の雨を止めさせる事はできませんけど、隣で傘を差して微笑んでいることはできます。
だから、隣に置いて下さい。
雨が自然と止むまで傘を差させてください。
貴方が心からお天道様のような笑顔を見せるまで、私は傘を差しながら微笑んでいます。
あとがき
はじめまして、BINDといいます。
初投稿&初小説(小説というには短いですが)させていただきます。
横島&おキヌちゃんで書かせていただきました。
おキヌちゃんの思いを表現したかったんですが……どうでしょう?
てか、梅雨が明けてだい〜ぶ経つのに雨を題材にした作品って……。(^^;)
これからも暇を見つけては、ちょくちょく書いて精進していたいと思いますのでよろしくお願いします。