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▽レス始

「パピリオの夏休み 〜1日目〜(GS)」

河豚警部 (2006-08-15 02:26)


 次々に後ろへと流れる景色を眺めながら、パピリオは座席に座って足をパタパタと動
かす。今日のために精一杯におめかししたパピリオは、とても可愛らしく、まるで天使
のようである。

「あはははは〜、人がゴミのようでちゅ〜」

 ………とても、可愛らしい。はず。

―――まったく、どうなることやら………。

 そんなパピリオの様子を横目で眺め、小竜姫は溜息を吐いた。
 小竜姫にとって、パピリオは大事な弟子である。妙神山の管理人である小竜姫は、長
い歴史の中で多くの霊能者を育てた。しかし、それは基本的に霊能力を底上げするだけ
のものであり、彼女が身につけた技術を教えるものではない。つまり、パピリオは小竜
姫にとっての初めての弟子といえる。
 だからこそ、心配で仕方ない。彼女から見て、パピリオはまだまだ子供で、心配の種
はつきない。それは、親が子を思う気持ちに似ていた。

―――何も無ければ良いんですけどね………

 僅かな振動と共に前を向くと、車は赤信号で止まっていた。運転席と助手席に座る鬼
門を見ながら、ストレスで胃に穴が開きそうになりそうなのを、鍛え上げた精神力で無
理矢理押さえ込む。

―――そういえば………、鬼門は免許を持っているのだろうか?

 ふっ、と湧き上がった疑問に小竜姫は首を傾げる。
 その時、信号が変わり車が動き出そうとする。

「右の、それはアクセルではなくブレーキだ」
「おぉ、すまん」
「ギアがバックに入っておるぞ!!」
「なんと!! まったく、運転というものは難しいの」

 とりあえず、何も考えないことにした小竜姫だった。


 パピリオの夏休み 1日目


「急に3日も休みが欲しいだなんて………。横島君、あなた仕事を舐
めてるでしょう?」

 椅子の背もたれにもたれながら、美神は横島を睨む。
 盆を目の前にしてのこの忙しいときに2週間前にいきなり休みが欲しいと言ってきた
ときは、本気で縊り殺そうかとも考えたが、理由が理由だけに強く言えず、今は今後の
ことを考えて釘を刺すように詰める。 

「そ、そんなことないですよ?」
「なんで疑問系なのか、小1時間問い詰めたいところだけど………、まぁ、いいわ。今
度からは、せめて1ヶ月前に言いなさい」
「はい、すいません。それと、ありがとうございます」

 真摯な横島の態度に美神は顔を真っ赤にするが、それに横島は気づかず、おキヌやシ
ロ、タマモといった面々にも声を掛ける。そのことに少々殺意に近いものが沸いたが、
いつか八つ当たりをすることを決意して静める。そして、横島の姿を見て深く溜息を吐
く。

―――まったく、1年ぶりに会うのだから、もう少し着飾ればいいのに………

 横島はいつものGジャンにジーンズといった服装で、これから出かけて行くとは到底
思えない。と、いっても、横島はどこに行くにしてもほんとんどがこの服装であり、服
なんぞに使う金はないんじゃ〜、と横島自身も叫ぶだろう。
 そう考え、美神はまた溜息を吐く。世界でも最高クラスのGSである自分の助手が、
こんな服装では自分が低く見られることに繋がる。もっとも、そんな輩には痛い目にあ
ってもらうことになるのだが。

『所長、小竜姫様達が参られました』
「そう。ほら、あなたたち。そろそろ、横島くんを離してあげなさい。あんたのことよ、
シロ!!」 

 人工幽霊の報告に美神は横島を掴んで離さない事務所のメンバー(といってもシロだけ
だが)に怒鳴る。しかし、シロはいまだに横島に泣いて縋りついているのを見ると、効果
は無かったと思える。しかし、横島とシロは無理矢理に剥がされる。突然の闖入者によっ
て。
 その闖入者は、部屋の扉を止め具から破壊して部屋に入り、その勢いのまま横島へと飛
び掛る。

「ヨコシマアァァァァッ!!!!」
「ブゲラハゲブゥ!?」
「セ、センセェェ!?」

―――あ、あれは死んだかも知れないわね………

 下から突き上げるように鳩尾を抉り込む頭部は、もし肋骨が折れていたら肺にささるこ
とは間違いない。摩訶不思議人外魔境な回復力を持つ横島でも、瀕死の重傷かもしれない。
実際、ボキッという嫌に生々しい音が聞こえ、横島の体は部屋の端まで吹き飛ばされてい
る。 

「よぉ、パピリオ。久しぶりだな」
「って、なんで何ともないのよっ!?」

 いきなり復活し、何とも無かったかのように自分の腹部に座っているパピリオに笑顔で
頭を撫でている横島に、今まで今回以上の教育的指導を行ってきた美神も思わず声を荒げ
てツッコミを入れてしまう。

「えっ? でも、これくらいのこと何時ものことじゃないっすか」
「………あ、そう。もう、いいわ」

 パピリオを抱きかかえながら立ち上がる横島に、美神は手を振りながら頭を振る。自分
のことは棚に上げて横島については、常識で考えないほうが正解であることを今の一瞬だ
け忘れていた自分が少し恥ずかしかった。

「お主、一体何者でござるか!! 早く、先生から離れるでござる!! あと先生、大丈
夫でござるか?」
「俺のことはついでかい!!」
「ふん、ヨコシマはパピリオのヨコシマでちゅ。第一、ヨコシマも嫌がってないでちゅよ」
「なっ!? そんなことはないでござる!! むしろ、拙者とのすきんしっぷを邪魔した
お主のことを怒ってるでござる!!」
「ヨコシマもまだまだでちゅね。ペットの躾がちゃんとできてないでちゅ。犬は黙って座
っていればいいんでちゅよ」
「せ、拙者は犬ではござらんっ!?」

 美神除霊事務所の面々、当の本人でもある横島すらも無視して、パピリオとシロはヒー
トアップしていく。

「ほら、パピリオもシロもそろそろ落ち着け。な?」

 このまま放っていれば殴り合いにまでに発展しそうな2人の頭に手を置き、横島は苦笑
しながら、それでも抑えきれない嬉しさを滲ませながら宥める。

「お久しぶりです、美神さん。元気そうで、なによりです。………パピリオ!! おとな
しくしていなさいと言ったでしょう!!」

 壊れた扉から部屋へ入ってきた小竜姫は、まず美神に挨拶をし、次にパピリオの頭に拳
骨を落とした。パピリオは涙目になりながら、小竜姫を睨み、シロは横島の腕に絡みなが
らその様子を笑っている。

「横島さんも、ありがとうございます。パピリオのことをお願いします」
「まかせてください、小竜姫様。だから、お礼はその体でぇ!!」

 横島は小竜姫に飛び掛ろうとするが、あいにくとシロが腕に抱きついているてめ、それ
はかなわなかった。それを見て小竜姫は苦笑し、

「お願いしますね」

 今度は、横島に頭を下げた。 
 小竜姫の予想外の行動に、横島は少しの時間呆然とし、笑顔で頷い
た。

「ヨコシマ、時間が勿体無いでちゅ。早く行くでちゅ!!」
「パ、パピリオ、ちょっと待て。美神さん、おキヌちゃん、シロにタマモ、じゃあ行って
くる。小竜姫様、また今度じっくりと2人っきりで話しましょう」

 パピリオに腕を引っ張られながら、皆に声を掛けつつ横島は部屋から出ていく。まるで
嵐のような騒がしさが去ったあと、美神除霊事務所に静寂が訪れる。

「………そういえば、パピリオは大丈夫なの? 色々と面倒なことがあると思うけど」
「それに関しては、神族と魔族の両方から護衛を出しているので問題は無いと思います」

 思い出したかのように、美神は小竜姫に尋ねる。
 小竜姫はその問いに苦い顔をしつつも、答える。今回のことは、神族・魔族の両方、し
かも上層部が自ら問題が起きないように尽力している。その努力を他のことに使えないも
のか、と頭を痛めつつ、ただの下っ端である小竜姫にはそのことを口にすることも出来ない。

「そんなことよりも、さっきの奴は何者でござるか!? 拙者の先生を無理矢理連れて行っ
たでござる!!」

 パピリオのことを知らないシロは激昂し、タマモは我関せずといった感じでソファーで
団扇を扇いでいる。

「あとで説明してあげるから、ちょっと待ちなさい。それよりも小竜姫………」

 美神はシロを手で押さえながら、小竜姫に電卓を向ける。
 その行動の意味が分からず首を傾げる小竜姫に、

「パピリオが壊した扉の修理費。これぐらいあれば十分だから」

 美神は満面の、本当に満面の笑顔を向けた。
 その桁は本来より1桁多いものだったが、そんなことを知らない小竜姫は己の弟子を呪っ
た。目の幅の涙を流しつつ。


「ヨコシマ! ヨコシマ! マッキーでちゅ。マッキーがいるでちゅ」

 デジャヴーランドに入ってすぐに買った猫耳のカチューシャを頭に乗せながら、横島には
苦い思い出しかないマスコットに向かって走っていくパピリオを微笑みながら眺める。
 今回の休みのために、美神に無理を言って仕事を回して貰い軍資金は得ている。出来れば
生活費に回したかったが、大事な義妹のためである。横島に後悔はなかった。

―――グッバイ、俺の諭吉さん。英世さん。

 だから、この頬に流れるのはきっと汗である。
 空に浮かぶ、数時間前までは自分の財布の中にいた愛しい友人たちに別れを告げる。あの
空に浮かぶのが実際に手に取れたらいいのになと妄想しつつ。

「しっかし、ワシらも夏休みがとれて良かったな〜」
「えぇ、まったくです。部下に仕事を押し付けることが出来て、幸いでした」
「おっと、ここがそうか。いや、ほんまにどっかで見たことあるような場所やな。具体的に
言うと、千葉県浦安市あたりで」
「ハハハハハ、それ以上言うと宇宙意思の修正をくらいますよ」
「ハハハハハ、勿論分かっとるって。あれ? マスコットは鼠やった気が」
「とりあえず、そこに立ってください。宇宙意思の前に私の右手で修正してあげますから」

 なにやら遠くで聞こえる、色々と物騒な会話を横島は意識から外す。いや、むしろ何も聞
こえない。聞こえるはずが無い。きっと疲れているんだ。

「HaHaHaHa。パピリオ、そんなに焦ると転ぶZo」

 横島は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「どうだ、パピリオ。うまいか?」
「もちろんでちゅ!!」

 あの後、ほとんどのアトラクションを制覇した2人は、少し遅めの昼食をとることにした。
 アトラクションを目一杯楽しむパピリオを見れば、わざわざ大金をはたいてVIPパスポー
トを買ったかいがあったというものだ。その中でもパピリオは美神が監修したマジカル・ミス
テリー・ツアーがお気に入りだった。横島をモデルにしたロボットが出てきたときなど、思わ
ず抱きついて壊しそうになったほどだった。
 そんな風に、終始ハイテンションだったパピリオを連れまわされた横島はさすがに疲れてし
まった。

「えへへへっ」
「ん? どした?」
「ありがとう………、お兄ちゃん」

 満面の笑顔を向けるパピリオに、横島もまた笑顔を返す。横島にとって、この笑顔を見れた
だけでも色々と無理をしたが、全て報われた気がした。
 美味いことは美味いが、それでも即席であることを隠せないアイスコーヒーをストローで飲
みながら、横島は考える。あまり良い思い出が無いこのデジャヴーランドだが、それでもいつ
か、もう一度パピリオと来たいと。

「腹ごしらえが終わったら、また回るか」
「うん」

 笑顔で昼食をとりつつ、横島とパピリオは3日間が楽しいものであることを予感していた。


 あとがき

 どうも前話でどうしようもない馬鹿であることを証明した河豚警部です。
 今回の話はちょいとグダグダになったところがあったのでその部分を大幅カット。そうす
るかなり短くなってしまいました。まぁ、グダグダになるよりはマシかなと思っています。


 ローメン様

 お褒めいただき、ありがとうございます。問題が起きるのは横島とパピリオではなく、む
しろその周りの連中の気がプンプンします。


 ソティ=ラス様

 スペル間違いの指摘、ありがとうございます。この年になったGAMEのスペルを間違え
るなんてorz きっと河豚警部の英語力は中1の4月段階で止まっています。勉強しなおさ
ないとな〜。とにかく良作にできるように、尽力をつくします。


 もうしわけありませんが、2日目は少し投稿するまでに時間がかかりそうです。


 

 


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