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▽レス始

「パピリオの夏休み 〜前日〜(GS)」

河豚警部 (2006-08-14 06:49)


 それは、いつもと同じ食後の団欒の時間におきた。
いつものように食後の時間、皆で一服をし、食器を片付け終わった後猿神がゲームを
楽しもうと、ゲーム機を大型ワイドの液晶TV(この方がゲームを大迫力で楽しめると
猿神が買ったもの)に接続しようとし、小竜姫がお茶を飲みながらすぐに猿神が今は
まってているゲームの画面に変わるまでの束の間のTVのCMを見ているときにおきた。
 そのCMは、小さな子供をつれた家族がどこかで見たことのあるような日本最大級の
某テーマパークで遊ぶ、といったありふれたものであった。小竜姫はそのCMを見て、
あぁ、もうその時期なのか、と呟き、何故か妙神山にいるヒャクメが、これまたお茶
を飲みながら、私も休みが欲しいのね〜と返し、お茶請けの煎餅を齧っているワルキ
ューレに、お前はいつも休んでいるようなものだろう、とつっこまれる。ここまでな
ら、いつもと同じ一幕であった。

 だが、ここで今までと違った要因があった。

 その要因は、湯呑を力一杯握り締め、体を震わせて立ち上がった。

「パピリオも夏休みが欲しいでちゅっ!!」

 ダンッ!!っと力強く食卓を踏み、薄い胸を反らしてパピリオは妙神山全体に響く
ほどの大声で叫ぶ。踏まれた食卓はあまりにも強く踏みすぎたために、竜気で補強さ
れているにも関わらず皹が入った程であった。それほどまでに、パピリオの想いは強
かった。

「食卓に足を乗せるんじゃありません!!」

 その後、小竜姫に一時間ほど説教を受けることとなるのだが。


 これが、3週間前のことであった。


 パピリオの夏休み


「えへへへへっ」

 パピリオは妙神山の自室で、笑顔でバックに荷物を詰め込んでいた。
明日は待ちに待った夏休みである。1週間小竜姫に頼み込んで、3日だけとはいえ貰
ったものだ。楽しみにしない、というほうが無理である。しかも、ここ1年も会えて
いなかった最愛の義兄と共に過ごすのだ。

「えへへへへっ。早く明日にならないでちゅかね〜」

 今にも踊りだしそうな雰囲気で荷物の詰め込みを終え、明日着ていく服を枕元に用
意して、布団に潜り込む。今のテンションでは眠れそうにも無いが、明日寝坊するわ
けにもいかないので、目をつむって無理矢理にでも眠りにつくことにする。

「待っていてくだちゃいね。ヨコシマ………」

 明日は楽しい夏休みだ。


「小竜姫、いつまでもむくれておるでない」
「………老師は、パピリオに甘すぎます」

 猿神は、いまだ今回の件について納得のいっていない小竜姫に声をかける。パピリ
オに夏休みを与えることを小竜姫は最後まで反対していたのだが、猿神が己の権限を
使い、無理矢理に与えてしまった。それを小竜姫は許せないのだ。

――まったく、融通のきかん奴じゃ………

 ゲームの画面を映し出すTVに向かいながら、猿神は溜息代わりに煙管の煙を吐き出
す。しかし、何も小竜姫はパピリオに休みを与えることを反対しているわけではない。
その理由を知っているからこそ、猿神も小竜姫に強く言うことが出来ない。

「………………パピリオは、ひどく微妙な立場にいます。何も下界に下ろすこともな
かったのでは?」
「それも、そうじゃがのう………」

 湯呑を食卓に置き、小竜姫は顔を猿神に向ける。それを気配で感じ取りながらも、
それでも猿神はTV画面と向き合ったままでいる。
 あの事件から、1年。アシュタロス陣営にいたものの処置は下り、最早終わったこ
とである。しかし、パピリオに関してはいまだ難しい問題が残っている。魔族であり
ながら、神族に師事する少女。しかもあの魔神がその手で作り出した存在。それは、
今尚反乱を目論む魔族にとって、喉から手が欲しいほどのもの。そして、魔族を嫌悪
する神族にとっては殺すだけでは飽き足らないもの。神族と魔族の両方から狙われる、
それがパピリオの立場だった。それを分かっていながら、何故警備が手薄になる下界
に行くことを猿神が許可するのか、小竜姫には納得がいかなかった。

「神族、魔族両方の最高指導者からの許しは得ておるし、お主が心配しているような
ことは、既に手を打っておる。それに………」

 体はゲームに集中しながらも、猿神は頭だけは真摯に小竜姫と接する。

「あやつにも、そろそろ息抜きが必要じゃろうて」

 己が許可を与えた本音を漏らしつつ、猿神は小さく苦笑した。
 猿神にとって、パピリオは孫のようなものだった。実際、小竜姫の弟子であるパピ
リオは、猿神にとって孫弟子なのだが、猿神はパピリオを本当の孫のように可愛がっ
ている。それこそ、小竜姫が毎日小言を零すくらいに。

―――そろそろ、小僧もパピリオも幸せになってもいい頃じゃろう。

 心の中で呟き、猿神は目を瞑る。
 パピリオだけでなく、この3日間は心に傷を負ったあの少年にも良い影響を与える
ことを願って。


 小竜姫は猿神の背中を眺め、再び湯呑を持ってお茶を飲む。
 今更、自分がどう言ったところで決定されたことが覆されることはない。だから、
願う。たった3日間だが、たった3日間だからこそ、パピリオが楽しく過ごせること
を。

「よろしくお願いしますね、横島さん」

 神族でありながら1人の人間に願う自分が、小竜姫は可笑しくて小さく笑う。それ
でもきっと、彼ならやってくれると小竜姫は信じている。

「あ゛っ………」

 GEAM OVERというロゴが出ているTV画面の前で固まっている猿神と、そ
んな師匠を無視してお茶を飲む小竜姫の2柱を残し、妙神山の夜は更けていく。


 なんにせよ、明日は夏休みだ。


 あとがき

 どうも河豚警部です。世間では夏休みということで、2年前に考えていたネタを掘
り起こしてみました。こことは違うところで最後に投稿してから1年以上たっている
せいか、書き方を忘れてしまっていました。少し凹んでいます。一応、この話を含め
全4話構成でいきます。ちなみに河豚警部の夏休みの9割はバイトでできています。
今日が12日ぶりの休みだorz できれば今日の夜にも続きを投稿します。


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