ある日ある夜ある仕事明け、美神令子がこうのたもうた。
「お寿司でも取ろっか。みんなも好きなの頼んでいいわよ」
事務所の面々の驚くまいことか。
「美神さん、まさか悪霊に!」「世界の終わりや〜!せめて最後にそのチチシリフトモモを(以下略)」「熱でもあるでござるか!気をしっかり持つでござる!」「何か後ろ暗いことでもあるのかしら」
……ちぃっと酷い言い種じゃないか?
とまれかくまれ、出前の寿司はやって来た。
でんでんでんと積まれる寿司桶を尻目に、
「ご苦労様。勘定はこっちに請求してね」
と、昼の仕事の依頼主の名を出す美神。どうやら後ろ暗いことは依頼主にあったらしい。
「ふう、お腹一杯です」「こら美味い!こら美味い!」「……(無言で食い漁る)」「おいなりさん〜(はぁと)」
小一時間後、美神とおキヌは満腹を抱えてリタイア。
横島とシロはここぞとばかりに腹に詰め込む。
タマモは自分の分の桶にぎっちり詰め込まれた稲荷寿司をすでに平らげ、手持ち無沙汰そうに残った肉巻きを箸でつついている。
『もうおいなりさんないのかしら』
心の中で呟きながら、他の連中の桶を見る。
「ミカミ、そのおいなりさんちょうだい」「おキヌちゃん、おいなりさん要らないなら…」「バカ犬、肉巻き食べる?替わりに…」「犬じゃないもん!…まあ、構わんでござるよ」
それぞれの稲荷寿司がタマモの桶に集まってゆく。
「ヨコシ「やらんぞ」何よケチ!」
「ケチで結構。取れる時にカロリーは取っておかなならんのや」
「ふん!わかったわよ」
拗ねたようにそっぽをむくタマモ。どうやら諦めたようだ。
自分の分の桶からもしゃもしゃと稲荷寿司を食べるタマモ。
お茶飲んでビストロスマップなんぞ見てる美神とおキヌ。
一心不乱に食い続けるシロと横島の師弟コンビ。
「ふうっ」
横島がお茶でも飲もうと顔を上げる。
その、
わずかな、
瞬間、
「隙ありいぃっ!」
タマモの腕が横島の寿司桶に走る!
コンマ1秒で横島の稲荷寿司はタマモの手に握られた。
「頂きます!」
大きく開けた口に稲荷寿司が頬張られる!
と、思われた刹那。
横島はタマモの手首を掴んでいた。
そして、
重々しく、
つげる。
「それはわたしのおいなりさんだ」
事務所に静寂が満ちる……
夜は更けてゆく。
おしまい…って正直すまんかった……