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▽レス始

「お星様にお願い☆(GS)」

灯月 (2006-07-08 23:58/2006-12-24 01:04)

それは星の綺麗なある夜のこと。
横島が帰った後の美神除霊事務所。
その応接室でメンバー四人がそろって、思い思いに寛いでいる。

「知ってる、シロちゃん? 流れ星が消える前に願い事を三回唱えられたら、その願い事は叶うのよ」

「ホントでござるか、おキヌ殿!?」

二人。少女が窓から星を眺めながら、そんなロマンチックなことを言っています。
ソファに寝そべってそれを聞いていたタマモは、そんなことで願いが叶うわけ無いと、クールな感想を持ちましたが口には出しません。
シロ一人だけならいくらでもバカにできますが、普段何かとお世話になっているおキヌも一緒でからね。
美神は神通棍の手入れをしながら笑っています。
それはとても穏やかなひと時でした。

「あ、おキヌ殿、今、流れなかったでござるか!?」

「え、本当?」

「ほら、また流れたでござる!」

「わぁ、すごい。お願い事言えた? シロちゃん」

「…言えなかったでござるよ」

「じゃあ、次は言えるようがんばろうね」

「わかったござる!
――うん? おキヌ殿、あれは流れ星ではござらんか?」

「え、どれどれ? どこに?」

「ほら、あの光ってる…あそこでござるよ」

「え~と、…あ、ホントだ。動いてるね!」

「すごいでござるな~。
……なにやらだんだん大きくなってきてはござらんか?」

「え……? って、きゃあ~~~! こっちに向かってきてる!?」

行っている間にも光はどんどん大きくなって。

「危ない!!」

慌てて、窓から飛び退いた直後!

どご~ん!!

大音量とともに、窓とその付近の壁が粉砕されました。
もうもうと立ち上る煙。
かすむその中で何かが動いています。

『オーナー、結界内に何者かが侵入しました!』

「見ればわかるわよ、そんなもの!!
大丈夫!? おキヌちゃん、シロ!!」

人工幽霊一号に怒鳴り返した美神は神通棍を手に、二人に駆け寄り油断なく侵入者を見つめます。
程なくして煙が晴れ、そして――

「呼ばれて飛び出て、即参上!!
願いの夜の流れ星ぃっ!!」

えらくテンション高い声が響きました。
そこにいたのはお星様。
子供なら誰もが想像する、ヒトデのように五つの尖った突起を持ち、クリスマスツリーの飾りのようにピカピカ光るアレ。
もう、疑う余地の無いほどの星!
しかも中心に目と口がついています。

「な、な、な、なんなのよ、あんた!?」

さすがに他三名よりも早く放心状態から回復した美神。
びしり!と指を突きつけての問いかけに、それは突起の一本をちっちっちと器用に振ってシニカルに笑いました。
ちらりとのぞく白い歯が不愉快です。

「見ての通り、流れの星だぜ! ベイビー!!」

(コイツ、殺してもいいわよね?)

心の奥底から沸いてくる何かに従って、きつく神通棍を握り締めて思いました。
すぐに飛び掛らないのは、正体不明の物体――自称流れの星が放つ霊力が洒落にならないほど強いからです。
どうやら目の前の物体は、外見に似合わず高い力を持っているようです。

「で、その流れの星が、一体何しにきたのよ!?」

油断なく構え、じりじりと己に有利な間合いに移動しつつ美神。
星はその言葉にニヤリと笑い――

「理由は簡単! そこな二人の乙女の祈りが届いたからさ!! 呼ばれたからさ!! イェ~イ!!」

突起の一本でそろって固まっていたおキヌとシロを指しました。
思わず残りの視線が二人に集中。

「え、ええ!!? わたしたちですか!!」

「せ、拙者はおぬしなんか呼んでないでござるよ!?」

まったくもって身に覚えの無いことに慌てふためくおキヌとシロ。
けれど星はそんな二人にまったく構わず、テンション高く言葉を続けます。

「ふ。届いたぜ、しっかりと! 夢見る乙女の恋心が! そして、負け犬の遠吠えがぁ!!」

乙女の恋心はともかくとして、負け犬の遠吠え…。
意識せず生暖かい視線が、最近めっきり犬と化している某狼少女に向かう。

「な、なんでござるか!? どうして拙者をそんな目で見るんでござるか!! 負けてない、拙者は負けてないでござるぅっ!!」

何に、とは誰も聞かない。きっとそれが仲間のぬくもり。

「夜空は俺の領域さ! そこに飛び込んできた祈り! ビンビンに感じたぜ、霊気!! そうして俺はやってきた。そう! この声に応えるために!!」

芝居がかった仕草で、ここに突っ込んできたことに関する一応の説明をしてくれるお星様。
どうやら、先ほど窓から星を見上げていたおキヌとシロの二人の霊力にうっかり反応してしまったようです。
迷惑この上ないですね。

「応えるって言っても、具体的に何するつもりなのよ? あんた」

半眼で聞きながらも美神の拳は決して己の武器を放しません。
つまらないこと言ったら半殺し♪と、オーラが語っています。

「そんなもの! 知れたことだぜ、かわい子ちゃん!!」

美神の顔をしっかり捉え、素敵な笑顔を振りまく星に殺意が沸きました。

「なぜなら俺は流れ星! 流れ星を見たら願いが叶うといった類の人間の想いが蓄積され昇華され産まれた、正真正銘本物のお星様!!
言うなれば願いの化身、星の妖精 夜空の使者!!」

全世界のロマンチストに喧嘩売る発言です。
妖精を信じる無垢な子供が見たら、一発でグレることでしょう。
夢を信じることよりも、現実を見ることの大切さを教えてくれます。

(現実って、こんなもんかしらね…)

事務所に住み着いている妖精を思い出し、美神の頭は冷静な感想を吐き出ました。
居候妖精も外見はともかく、中身はかなりアレです。
その妖精は現在、運命の相手を探すためとのたまい夜の街を飛び回っていることでしょう。
いなくてよかったかも知れません。

「えと、と言うことは…お願いを叶えてくれるっていうことですか?」

手を上げて、おずおず発言したおキヌにお星様は大きく体ごと頷きました。

「ィイェ~ス! ザッツ、ライ!!
その通り。そのために俺ははるばる来たんだぜぇ!!」

そのセリフに俄然目を輝かせたのは、美神。
不信な態度もどこへやら、一歩も二歩も進み出ます。

「じゃあじゃあ! この世の富の全てを…!!」

「たっだぁ~し! 叶えるのは一つ! この四人全員で一つだけだぜ、ヴァンビーナ!!」

美神が言い切る前にお星様はすぱっと宣言しました。

「どうしてよ? あんた願いを叶えるために来たんでしょう?」

不満そうな美神に、お星様は答えました。

「そう膨れるなよカワイ子ちゃん。
俺の力は強烈、強力。安心確実丁寧迅速!
まがい物の多いランプの精や年一回しか需要と供給の無い織姫彦星なんかと違って、正真正銘のモノホンだ!
だが、その分規制も多くてね。一つっきりしか叶えられないのさ。
わかってくれたかい、ハニー?」

誰がハニーか、と思いましたがここで下手なことをして機嫌を損ねるのも得策ではありません。
まがい物も織姫も見ている美神は複雑な表情をしながらも、とりあえず頷きました。

「それじゃあ、どんな願いごとをするかみんなで話し合っても良いかしら?
一つだけだからよく考えて、悔いのないようにしたいのよ」

もっともらしい美神の言葉にお星様も快諾です。

「おう、よく考えて決めてくれ!
俺がいられるのは星が消える夜明けまで! それ以上は限界だぜ、ベイビーたち!!」


「で、どうするの? 凄く胡散臭いんだけど」

部屋の隅、すっかり寛いでソファに腰掛けているお星様を見ながらクールビューティータマモが問います。
美神もそれには同意ですが、放出される霊気の強さに本物かもしれないという期待は捨て切れません。

「そうねぇ、あたしたちにメリットはあってもデメリットの無い願い事って、ないかしら?」

頭をひねりつつ巫女少女と狼少女に視線を送れば、

(お願い事。私のお願い…。横島さんと――。きゃ~、私ったら! ヤダ、そんな…。
横島さんたら、もう。でも私、横島さんになら……!!)

(願いが叶うならばぜひとも横島先生と…!
横島先生、拙者の思い受け止めてくだされ!! そして二人で里に帰って祝言を!!)

顔を赤くしてイヤンイヤンと身をくねらせています。
何を考えているのか、あえて突っ込まないのが大人と言うものです。
タマモはタマモで、一生おあげに困らない生活がいいなぁと思いましたが現在の自分の庇護者の性格を考えて諦めました。
ええ、命はおあげより大切です。
三者三様な願いを直感で悟った美神は呆れて大きく息をつきましたが、自分こそ真っ先に金品を要求しようとした事実は心の中のたくさんの棚にしまいこんで一生取り出すことは無いのでしょう。
しばらくの後ようやくこちら側に戻ってきた二人も加えて、こそこそひそひそ話し合いが続きます。
某散歩大好き少女発案漫画的骨付き肉は、その場で却下。
お星様がぶち壊した壁と窓の修理は、検討五分の後惜しくも没。
居候妖精に「お相手」を!は全員の心が揺らぎましたが、それが同性だった場合色々絶望的なため泣く泣く廃案です。
そして、話し合うこと一時間。
ついに結論が出ました!

「決まった! …って、起きなさいよ!!」

待ちくたびれたお星様。
ソファの上で健やかな寝息を立てていました。
それを美神の神通鞭の一閃で文字通りたたき起こし。
なぜか無傷なお星様に内心むかつきながらも、美神は正面からしっかりと視線を合わせました。

「あ~。あたしの助手に横島って言う男の子が居るんだけど、こいつが凄い煩悩少年で、いつもセクハラするのよ。
だから、それをやめさせたいの! 依頼人にもセクハラするし、このままじゃ事務所の信用にも関わるからね。
できるかしら?」

「ほうほう、そいつはお困りだ。OK、OK。任せな、ベイビー!
ようは、真人間にすりゃあ良いってことだろう!!」

力強く請け負ったお星様に、美神は小さくガッツポーズ!
対象が横島ならば、確かに美神たちにはデメリットはありません。
理由はもう一つありますが。
それは横島の特性。人外にモテる!!
人外ならば性別形状問わずに惹きつける横島。
人外だけならばまだいいのですが、もし万が一、ありえないかもしれませんがセクハラ目的で飛び掛った相手が! 人間の美女が! これ以上ないほど悪趣味で物好きだった場合、横島を受け入れてしまうかもしれません。
世の中は広いのです。
可能性は決してゼロではありません。
そうなったら最悪横島を抹殺しなければなりません。
自分たちの心の平穏のため! この世のために!!
そんな美神たちの心の声など気にもせず、お星様は高らかに言いました。

「よぉっし! それじゃあ、やるぜ!!
パプリカ、パプリカ、ヤンバルクイナー!!」

はい、とっても素敵な呪文ですね。
お星様のてっぺんの突起から、きらきらと七色の粉が噴き出して、ぶち壊れた窓からどこかに飛んでいきました。
それが横島が住んでいるボロアパートの方向なのは、お約束。
お星様はふわりと宙に浮きぐるりと四人を見回して、眩しい笑顔を向けてくれました。

「さぁ、これで願いは叶ったぜ!
それじゃあ、俺は行くぜ。…世界にはまだまだ俺を呼ぶ声が溢れている。
たった一夜といえど、この出会いは忘れないぜフロイライン!!  アディオ~ス!!」

テンション高いお星様は、最後までテンション高く。
美神たちが口を挟めぬほど一方的に去っていきました。
戻った静寂の中、立ち尽くした美神たちはぼんやりと思いました。

――壊れた壁と窓から吹く風が、寒いなぁ……。


「ちわー! 不肖横島、バイトに来ましたー!!」

次の日。いつもと同じ元気な声で事務所の扉を開いた横島。
きゅぴーんと光る皆の目。
おキヌはにこやかな笑顔で、シロタマ獣っ娘コンビは動物モードで出迎えて、作戦開始!
ちなみに昨夜破壊された窓と壁は、その痕跡すら残さず完全復元済み。
さすがです、美神除霊事務所。

「美神さん、横島さんが来ました!」

横島のためにお茶を用意しながら、おキヌが隠し持った無線機で連絡を入れます。

『了解。こっちも準備はOKよ。いつでもいいいわ』

クリアな返答はバスルームから。
横島の覗き防止のため、普段美神は横島が居る時間帯では極力シャワーを浴びないようにしています。
今回バスルームにこもっているのは、横島を試すため。お星様にしたお願いの確認のため。
いつもの横島ならばたとえ何があろうと、そのせいで世界が滅びようと絶対に、確実に覗きにくるはずです。
なぜならそれが横島忠夫という存在なのですから!
けれど、それをしなければ?
まさに奇跡!
お星様が本物だったということです。
だからこそ美神は待ちます。
片手に迎撃用の神通棍を持ち、出しっぱなしにしたシャワーの音で気配を知らせ。

「あれ? おキヌちゃん、美神さんは?」

おいしいお茶でのどを潤し一息ついた横島は、ようやく雇い主の不在に気が付きました。

「ああ、美神さんならシャワーを浴びてくるって。道具の点検でちょっと汚れちゃったらしくて…」

もっともらしいことを言いながらも、おキヌの目は油断なく少年の様子を窺います。
その間も、無線機のスイッチは入ったままで。
皆の視線が集まる中、横島はお茶を飲み干すと――

「ふーん。そっか、それじゃあ仕方ないな。
あ、おキヌちゃん。今日の仕事は何か聞いてる?」

なんと! あっさりスルーしたのです!!
おキヌ、思わず手にしていた盆を落としそうになり。獣っ娘コンビは毛を逆立てて硬直です。

「よ、横島さん! シャワーですよ!? 美神さんがシャワーを浴びてるんですよ!! 覗きに行かないんですかっ!?」

ありえない!と叫ぶおキヌに、横島は苦笑を向けて言いました。

「覗きだなんて、おキヌちゃん。そんな女性に対して失礼なことしないよ」

とっても穏やかな口ぶりです。
その目に宿る光は、まるで春風のような清々しささえ感じます。
奇跡です。
正真正銘奇跡が起こりました。

『っしゃあぁぁぁっ!!』

バスルームで待機していた美神もそれを聞き、吼えました。天に向かって。
神も仏も魔王も恐れていませんが、今このときだけは素直に世界の神秘に畏敬の念を払ってもよいと思いました。
獣っ娘コンビも横島に後光が見えたようで、部屋の隅で丸まったままぶるぶる震えています。
おキヌも神の御業を目の当たりにした聖母のように、むせび泣いておりました。

そうして、美神除霊事務所の新たな一歩が刻まれたのです。


で、一週間経過。

「お疲れ様で~す。
美神さん、おキヌちゃん、シロ、タマモ。また明日!」

疲れを感じさせない足取りで事務所を後にする横島。
残された美神たち――不穏でした。
空気が悪いです。嫌なオーラが満ちています。
自分専用の造りのいい椅子に座ったまま、美神はコンコンと何度も机を爪で叩いています。
ソファに腰掛けているおキヌの眉はよせられ、視線は泳ぎ。
獣っ娘コンビも疲れたように丸まったまま。
誰もが口を利きません。
人工幽霊一号も沈黙を貫いています。怖いから。

「気に、入らないわね」

重苦しい空気の層を突き破るような、小さな呟き。
美神さんです。
おキヌもシロもタマモも。全員がそちらを見ました。

「…気に入らないわよ!」

視線を跳ね返す強さで、美神はだん!と机を叩きました。
響く音がさらに重苦しさと不穏なオーラに拍車を掛けます。
そしてそんなとてつもなく嫌な空気の中、残された三人も頷きました。
この現状は不本意だ、と。
目論見通り横島が真人間になったのは、それはもうとても喜ばしいことです。
が、忘れていました。
確かに横島は人外にモテますが、ちゃんと人間にもモテるのです。
わかりやすい例を挙げると、某清貧巨乳美少女。
ただ横島の普段の行いがアレ過ぎて、皆その魅力に気付かないだけなのです。
気付けるのは傍にいるか、見る目があるか。
誰もが知っているわけではないが、知ってしまったらはまり込む。
一種の穴場。隠れた名品。お買い得物件。
それが横島忠夫。
今までは横島自身の行動と、美神たちのさりげない牽制があったから手を出してくる人はいませんでした。
今は違います。
真人間になったせいでセクハラがなくなり、暴走も情けない真似もなりを潜め。
常にシリアス五割増。ギャグ三割減
もともと顔の造作も良く、背丈もそれなり。体付きも貧弱に見えて悪くない。
GSとしての能力も便利な上希少価値が高く。
女子供など、弱いものには無条件に優しい。
それらに加えて飾らない性格は親しみやすく。
よく考えなくともモテる要素はテンコ盛り。
忘れていました。心の底から。
真人間な横島忠夫。
最初は戸惑っていた周囲も、今ではすっかり慣れて。
学校ではもともといた隠れファン、さらに急増。
むしろ積極的になり、お昼にはお弁当を持ってくる子もいるようです。
先日など除霊中横島に危ないところを助けられた依頼人の女性が、帰り際に「あの方の連絡先は?」と聞いてきやがりました。
もちろん笑顔で断りましたが。
倍率ドンとアップ。
何のために願いを叶えてもらったのかわかりません。
そしてさらに思わぬ誤算発生。
真人間になったということは? セクハラしないということは? 特別女好きではないということは?
ええ、以前ほど同性に対する嫌悪はなく。ふつーに接するということです。
それだけでしたら特に何の問題もありませんでした。
ありました、問題。
前々からその気があると噂されていた某金髪美形ヴァンパイア・ハーフの、横島を見る目がやばいです。
熱っぽいような、潤んだような。
そう、まるで恋する乙女のような!
一人だけなら、相手が彼なら存在抹消という手も使えるのですが。
先日美神が兄と慕う某ロン毛道楽公務員さんが事務所にやってきた折、彼の手が横島の腰にまわされているのを見てしまいました。
気のせいですよね。間違いですよね。目の錯覚とか若気の至りとか一夜の過ちとかですよね!?
手を打たねばなりません。
早急に迅速に的確に確実に。
「俺の彼氏です…(ぽっ)」などと横島にどこかの誰かを紹介された日には、世界を滅ぼす以外の選択肢がなくなってしまいます。
宇宙意思だってしょうがないなぁ、と微笑んで許してくれるに違いありません。
だから美神は言いました。
これ以上ないほどの力を込めて。

「横島君を、元に戻すわよ…」

「はい」

「承知」

「ええ」

同志たちも、強く強く頷き返してくれました。


現在――月に来ています。
話し合いました。色々と、それはもう本当に色々と。
その結果、『お願い』を取り消すのならば叶えた奴にやらせるのが確実だと判断。
そのためにはお星様を呼び出さなくてはなりませんが、そうそう上手くはいきません。
何度も偶然は続きませんから。
だから彼女たちはここに来ました。
月に。月神族に力を借りるために。
お星様は言っていました。夜は自分の領域と。ならば同じく夜に輝く月に住まう神ならば、どうにか出来るのではないのかと。
え、妙神山の某ペタ胸竜神様ですか? 堅物な彼女はきっと今回みたいな出来事には役に立ってはくれないでしょう。
結論が出てしまえ行動が速い。それが美神除霊事務所。
次の日は臨時休業。
とある宇宙関係の施設に赴きました。
誠心誠意真心込めた話し合いの結果、すぐにシャトルを一台用意してくれました。

「ふははははは、光だ! 光が見えるぞ!! 私は神の領域に達したんだ!!」

「パパは星になってずっとお前を見守っていくよ。だから心配しないで…」

「……美しい。美しい。なんて美しいんだ! 嗚呼、世界とはこんなにも美しかったのか!」

後ろでなにやら叫んでいる方々もいますが、仕事が忙しかったのでしょう。
嫌ですね、ストレス社会って。
月の女神様たちが住むお城、到着。
女王を含めた全員が快く出迎えてくれました。
美神たちを前にした女王の第一声が「なんでもするので、命だけは助けて下さい」だったのは、空耳に違いありません。
だって、ほら。
美神もおキヌもシロタマも、みんな笑っているじゃないですか。
たとえ美神の手にした神通棍が臨界点突破気味にバチバチ弾けていても。
おキヌのまとう黒がうっかりクで始まってルーで終わる海の底の邪神やその関係者を呼び出せそうでも。
シロの背後に某主神を喰らったという伝説の魔狼(オリジナル)が見えても。
タマモの周囲に陽炎が揺らぎ傍に寄ろうものなら骨も残さず蒸発させられるかなーと予測できても。
笑顔は大切です。それだけで気持ちが伝わりますから!
だからきっと平気なんです!!
ええ、別に現実逃避とかではありませんよ?
事情を聞いた月の女王様だって、その信頼に応えるために兵士や側近と一緒に大量の汗をかきつつも頑張っているじゃないですか。
足が震えているのは、今まで運動不足だったからです。
兵士たちが書き上げた特殊な魔法陣の中心に女王様が立って、なにやら一心に祈り始めました。
力が月だけではなく、広大な宇宙に広がってゆきます。
そして、何かが城に急接近していると、切迫した――どこかほっとした――兵士の声。

ばっびゅ~~ん!!

例によって例のごとく。
城の壁突き破って期待の星登場!!

「イィィィヤッハァァァァァァァァァ!! 聞こえたぜ、まるで子猫の断末魔のような俺を呼ぶ…ぶはぁっ!!?」

能書きは一切無視して、二人の側近率いる兵士たち。いきなりお星様を取り押さえました。

「捕獲しました!!」

側近、お星様を女王に献上。
つまり、あなたが持っていけということです。
お星様を、美神たちに。
なんとも上司思いな部下ですね。
女王様、無表情に片手でぐわしとお星様を掴んで言いました。

「あの、お願いがあります……」

「おう、なんだい? 何でも言いな! そのために来たんだからな!!」

「あの方たちのお願いをかなえてくれますか?」

指した先に居たのは美神たち。
兵士の視線が一点集中。
悲痛なほどの切実さに満ちております。
――願いを叶えやがれこの野郎! 私たちの安全のために!!
オーラって正直ですね。
お星様を見る女王様の目は潤み、ですがその手は今にも握りつぶさんばかりに力が込められています。
うっかりお星様のファンシーでファンキーな中身が出てしまいそうなほど。
某年増蛇女さんが攻めて来たときにこの力を出していれば、きっと美神たちに頼らずとも勝利していたでしょう。
そんな、月神様たちの必死な思いが届いたか。
お星様は頷きました。

「おうおう、OKだぜ!! ホントは一度願いを叶えたら二度目はないが、こんな美人にお願いされて断ったら男が廃る!!
今回限りの特別出血大サービスだ!!」

ひょこんと、女王様の手から逃れて。
お星様は美神たちの前に浮かんで、爽やかに笑いました。

「久しぶりだぜ、ベイビーたち! そんなに俺に会いたかったかい!!
さあさあ願いを言いな! 叶えてやるぜ、この俺が!!」

相変わらずのテンションの高さに軽く眩暈を覚えながらも、美神は一歩前に進み出ました。
後ろではおキヌたちが心配そうに見守っています。
それぞれその手が武器を構えていたり、微妙に臨戦態勢なのは気のせいです。

「この前叶えてもらった願い、憶えてる? 実はアレを取り消してもらいたいのよ」

「ほう? そいつは一体どうしてだい。俺はしっかりきっちり叶えたが。
気に入らなかったかい、ヴァンビーナ」

「……気付いたのよ。人の人格を無理やり変えるのは良くないって、不自然だって。やっぱり、個性だし。他人がどうこうしていいものじゃないわ」

しおらしく。そりゃもう反省してます的な態度でお星様に訴えかける美神。
後ろの三人もうんうんと頷いて。

「そうかいそうかい。アイヤ、わかった! 承知した!!
そーいうことなら願いを取り消すさ!!」

お星様の言葉に、美神たち笑顔で手を叩きあいました。
これで横島は元の、スケベでバカで情けない横島に戻るでしょう。

「じゃあ、やるぜ!
テクニカルポイント、テクニカルポイント! 願いよ、解けろ~!!」

シャリラリラ~ン♪

無駄に涼やかな音が響き渡り、お星様の体が淡く発光。
見つめる美神たちは少々緊張しております。
遠巻きにしている女王様たちも固唾を呑んで。
光が収まった後、お星様は言いました。

「これで願いは解けたぜ。ただぁっし、前にも言ったが俺の力は強力だ!
 名残だか残りカスだか余韻だか。あるかもしれないがそこまで責任はもてないぜ!!」

「いいわよ。とりあえず取り消されたんでしょ? だったら問題ないわ」

お願いがなくなったのなら、たとえ少々真人間モードが残っていてもたいした問題ではないと考えました。

「ありがとう、お星様」

「わがままを言って、すまないでござるな」

「悪かったわね」

おキヌたちもかわるがわるに言いました。
城中に充満していた闇的なオーラは消え失せ、これぞ神の住まう場所と言わんばかりな清々しい空気に満ち溢れています。
女王様たちは思わず涙しました。
美神の人間的成長が嬉しかったのです。決してこれで帰ってくれる!と思ったからではありません。

「それじゃあ、今度こそ本当にさよならだ! 元気でな、かわいいかわいいヒロインたち!! 俺は夜空の輝ける一筋の光となるぜっ!
ヨーロレリ・フォォォォォォォォォッ!!」

シャウトして。
お星様は来たときと同じように、壁を突き破り去ってゆきました。
美神たちも女王様に騒がせたことを詫び、そして協力に礼を言って帰っていきました。
見送る女王様たちの目に浮かぶ輝く雫は、きっと友情の証。
この出来事は、月での伝説になることでしょう。


帰ってきて、翌日。
美神は最近あまり着なくなったボディコン風の、露出度の高い服を着て横島を待ち構えています。
横島が見たら「誘ってるんですね~!!」と、飛びつくとこと請け合い。
片手に神通棍を隠し、片手に霊力を込めて不吉なほどの笑顔でさりげなく迎撃体制準備完了!
他のメンバーもいつでも横島を追い詰められる位置に居たりします。
獲物が罠にかかるのを待つ魔女のような空気に満ち溢れる部屋の中、人工幽霊一号が恐る恐る告げました。

『オ、オーナー…横島さんが、到着しました』

にやり。
浮かぶ笑顔が恐ろしい。
そして――かちゃり、と小さな音とともに扉が開かれました。
平静を装いながらも美神は思わず腰が浮き、おキヌたちも身構えました。
浮かぶ笑みが深くなり。手は、早く殴りたいとばかりに閉じたり開いたり。
部屋に溢れるやばげな空気にも気付かずに、横島は一歩踏み出して止まりました。
いつものように飛び掛ってくることも、明るい声を上げることもありません。
それどころか、何か思いつめたような表情で。
横島から漂う雰囲気はいつもとまったく違いました。
なぜか、誰も何も言えず。
沈黙が支配する室内。
破ったのは、それを生み出した横島。

「美神さん。俺、色々と考えたんです。自分のこととか、これからのこと、皆のこと……」

およそ彼には似つかわしくない、固い口調。
周囲の視線も気まずい静寂もかまわず、続けます。

「俺のセクハラって、あれは誰かに、誰でもいいから甘えたいとか構って欲しいとか――愛して欲しいとか。そんな自分勝手な欲の表れなんですよね。
自分が寂しいから、自信が無いから。ただ誰かに認めて欲しい傍にいて欲しいって。誰でもいいって、ホントにバカで最低なガキですよね、俺」

自嘲気味に笑い、まっすぐに美神を見ました。

「だから、俺はココを辞めます! 強く、強くなりたいんです。こんな、自分勝手な俺を愛してくれたあいつのためにも! いつまでもここにいたら俺はすぐに甘えるから…。きっとそれじゃあ、ダメなんです。
だから――今までお世話になりました!!」

言い切った横島の顔は、それはもう凛々しさに満ちていて。
まるで秋風の如く毅然とした光を宿した瞳は、決して折れない強さを秘めていました。
なんと横島君。お星様の願いは確かになくなったものの。どうやらその余韻やら何やらで残っていた真人間モードが発動したようです。
それも、美神たちの全く望まない形で。

「美神さん、ありがとうございました。おキヌちゃんもシロもタマモも、皆元気で…。さよなら!!」

言うだけ言って、勢いよくお辞儀をして。
置いてきぼりのメンバーは本当に置いてきぼりで。
振り返りもせずに出て行く横島の背中を見送ることしか出来ず。
呆然と。ただ呆然とその場に立ち尽くして。

「あ、あ、あ……」

己のプライドやら何ら、総動員して状況を飲み込み何とか正気に返った美神。
のどの奥から、怒りに満ちた声を絞り出し――

「あんの! バカ星ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

叫んだ。


ほんじつのきょーくん。
人も世界も変わるもの。一度変わりきってしまったものは、戻そうと思っても二度と元には戻りません。
ご利用は計画的に、です。

おしまい


後書きと言う名の言い訳

七月目指してちまちま書いてようやく完成。目指したものは多分ギャグ。
あのお星様は妖精?です。本人がそういってます。
皆様、ここまで読んで下さってありがとうございました! 


△記事頭

▲記事頭

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