インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「月と子猫と夏の夜。(GS)」

雅 水狂 (2006-05-09 23:56)

 月と子猫と夏の夜。


 私がそれを見掛けたのは偶然だった。

 空にぽっかり浮かんだ満月があんまり綺麗だったから、こっそり部屋を抜け出した夜のこと。
 とは言っても、行く当てなんて一箇所ぐらいしか思いつかなくて、そこに行くのは何だか癪だったから、偶然見つけた公園に入ろうとした時だった。


 公園の入り口で、ふといくつもの小さい気配を感じた。
 気になって、そこからじっと目を凝らしてみれば公園の中で猫達が集会してた。
 ただ静かに、猫達が集まって綺麗な月を見上げていた。

 そういえば、季節は初夏に近付いて。
 そろそろここ一帯の猫達にとっての繁殖期がやってくるはずだ。

 だから、今が真夜中なんて関係ないんだろう。
 きっとこいつらは一晩中ずっとここでこうしてる。

 繁殖期真っ只中に来なくて良かった。
 まだ身体が出来上がっていない私には、それはちょっと刺激的すぎるから。

 なんて、そんなことを思いながら私はそこからこっそり離れることにした。
 邪魔する気なんてさらさらないし、猫の集会なんかに興味も無かったから。

 方向転換しようとして、でも、ちょっと珍しいものを見つけて足が止まった。
 私はそれを確かめるように目を細める。

 真っ白い毛皮の子猫。
 まだまだ幼い小さな子猫。
 集会所から少し離れた場所で、ぽつんと一匹座ってた。

 何でその子猫だけが猫達から離れてるか、なんて、すぐ分かった。
 その子だけ、身体が透けてたから。霊力も全然なくて普通なら気付かないような、そんな子。

 別に動物霊なんてそう珍しいものじゃない。
 でも、何故だか私はそれが気になった。そこに理由なんてない。

 動物は全般的に人間なんかより、よっぽど霊感が鋭い。
 それはそこで月を見上げている猫達にしたって同じこと。

 きっと、あの子は自分が近付くとどうなるか分かっているのだろう。
 だから、あんなところで一匹だけ離れて座ってる。

 でも、寂しくて。
 でも、心細くて。
 でも、温もりが欲しくて。

 それは、私だって知ってること。
 昔は仲間なんて、いなかったから。

 ずっと一人ぼっちだった。
 欲しいものは何だって手に入ったけど、私が本当に欲しかったものは――

 ――何考えてるんだろ、私。

 ぷるりぷるりと頭を振った。
 浮かんでしまった余計なことを頭の中から追い出すように。

 よし、決めた。

 私はその子にそっと近付く。
 気配を消すのは狩猟動物にとってお手の物。ましてや、子猫なんかに覚られるほど鈍くは無い。

 そろりそろりと近付いて。
 真っ白なその子を、両手でそっと捕まえた。

 びっくりさせてしまったのか。
 その子は私の手の中で、じたばたじたばた暴れてくれて小さい爪で引っ掛かれた。
 あんまり痛くはなかったけれど、じわりと滲んだ血液が集まって、ぽたりと一滴地面に落ちた。

 ――ああ。
 バカなことやってるな、私。

 そう思ったけれど、そう思ったんだけれど。
 ほんの少し……。

 うん。
 ほんの少しだけ、自分を褒めてやりたくて、何故だかちょっぴり笑みがこぼれた。
 どうやら、私はあのバカ達に毒されすぎちゃったみたいだ。

 そんなことを考えてたら、子猫は私の手の中で何時の間にか大人しくなっていた。

 多分、ずっと暴れていられる力すらないんだろう。
 その子は私を見上げて、「みぃ」と一つ、微かに鳴いた。

 だから、その子を見つめ返して、私も一つ、「みぃ」と鳴いてみた。

 そして、それから、腕の中。
 その子をぎゅっと抱きしめて、私はそこから駆け出した。


 到着したのは、一つのアパート。
 老朽化して、ぼろぼろになったその建物を見上げた。

 別にこの子を連れて部屋に帰っても良かった。
 あそこの人達だって、この子ぐらいなら許してくれると思う。

 でも、ここにいるあのバカが一番いいと思ったから。
 あのバカなら、きっとこの子が欲しいものを、欲しかったものをあげられるから。

 そう。
 あいつが、私にそうしてくれたように――

 カツンカツンと音を立てて、一歩一歩階段を登る。

 あいつはなんて言うだろう。
 予想してたら、何だかくすくす笑いがこぼれて、何だかそれがとっても楽しかった。

 扉の前。
 両手が子猫で塞がってるから、それを脚で何回かコンコンと蹴っ飛ばす。

 行儀なんて知らないもん。
 私みたいな絶世の美女確定の美少女なら、何をしたって許されるに決まってるんだし。

 そんなことをしていれば。
 薄い扉の向こうで、がさごそと何かが動く気配がした。

 そんな気配を感じながら、私は腕の中の子猫をそっと撫でる。

 この子はもう随分と大人しい。
 少しびくびくしてるけど、それは仕方ないことなのかな。

 さあ。
 もうすぐ彼は出てくるだろう。
 私はちょっぴりワクワクしてる。

 何て言おうか。

 ――プレゼント?
 ――貴方の子よ?
 ――責任取って?

 勘違いしてくれたら、とっても魅力的かもしれないけれど。
 でも、ま、ここは、シンプルに――

「ね? この子、しばらくここに置いといてくれない?」

 私は出てきた彼に、そう告げた。


 ■
 後書き
 仕事帰りに猫の集会を見てふと思って作った作品です。
 おれんぢ星人の悪夢か、スランプに陥ってしまったので、今回は少しあっさり軽めなものですが、ご了承下さい。どんなに書いても、シリアスが上手く書けないんだ_no

 尚、誰かは秘密ですよ?


 以下、オレンヂの挽歌のレス返しです。

>シシン様
 有難うございます。爆笑していただけて良かったです。

>サイサリス(乳が好き)様
 ひんぬーこそが世界を救うのです(笑

>偽バルタン様
 その言葉はきっと、将来的にシロタマの耳に届くでしょう。大きくなるとは限りませんが(笑

>米田鷹雄様
 今回はリズム重視でやらせていただきました。もう色々と大変ですが、笑って済ませていただければ幸いです(笑


△記事頭

▲記事頭

yVoC[UNLIMIT1~] ECir|C Yahoo yV LINEf[^[z500~`I


z[y[W NWbgJ[h COiq O~yz COsI COze