「ふ~、いいお湯でござった」
夕方、風呂上りにシロはキッチンまで来ていた。そこではおキヌが、トントンとリズミカルに包丁を使っていた。
使い慣れ、実に見事に振るわれる。シロはそれを見て、憧れさえも感じる程だ。
シロは大型の冷蔵庫から、1リットルパックの牛乳を取り出し、がぶ飲みをする。一息で全部飲み干した。
「ぷは~、お風呂の後の一杯は格別でござるな」
「バカ犬。そんな姿でうろつかないの。みっともないわよ」
ちょうどその場に居たタマモが言い放った。エプロンを着用しているので、おキヌの手伝いをしていた様だ。
最近ではシロとタマモが交互で手伝っている。今日はタマモの番だ。
「犬ではござらん。それに、ここには女性しか居らぬでござる。すぐに隠す必要もないでござろう」
胸を張って、シロが言う。
彼女の姿は何とショーツ一枚であった。胸の2つの頂は見えない。首に掛けられているタオルで、影になっている為だ。
「それはそうだけど。いきなり横島が来たらどうすんのよ?」
呆れた様子でタマモが言う。
「先生になら見せてもいいでござるよ」
湯上りで上気し、赤みが差している頬が更に赤くなりながらも、彼女は断言した。
「でもね。女性には恥じらいが必要と思うの」
おキヌは包丁を置いて、シロの方を見る。
「恥じらいでござるか……」
シロは無意識にタオルを首から外し、頭に乗っける。まだ誰にも触れられていない桜色の突起が露になった。
途端、タマモとおキヌの顔色が変わるが、シロは気付いてない。彼女らはお互い顔を見合わせ、シロにひっそりと近付いていった。
「ひゃん!? な、何をするでござるか!?」
シロが悲鳴を上げる。
おキヌがいきなり、シロの胸を鷲掴みにしたのだ。モミモミと何度も揉む始末である。
「な、タマモも!?」
おキヌが離れた次の瞬間には、すかさずタマモも胸を掴んだ。あまりの事に頭が真っ白となり、シロは逃れるのを忘れて呆然となる。
「う、嘘……!?」
おキヌは顔色を青ざめて、よよよと崩れ落ちる。
「おキヌちゃん、しっかりして! まだ、私達は負けた訳じゃないのよ」
悲嘆に暮れる彼女に、タマモは肩に手を置き慰めた。
「でも、私はタマモちゃんと違って、もう高校生なんですよ!」
「おキヌちゃんのバカ!!」
タマモはおキヌの頬をはたく。突然のドラマチックな展開に、シロは付いていけなかった。
「諦めたらそこで終わりなのよ! それにそんなのおキヌちゃんらしくないわ!!」
「た、タマモちゃん。……ごめんね。私が悪かったわ。希望を捨てないで、生きていくわ」
2人はハラハラと涙を流し、抱き締め合う。熱い熱い、抱擁であり、新たに友情が強固になった瞬間であった。
「な、何なんでござるか?」
シロの疑問には虚空に消えていった。
そして夕食の時間。
テーブルには横島を除く、美神除霊事務所のメンバーが揃っていた。
今日は和食がメインであり、牛の肉じゃがに、お揚げ入りの味噌汁。それにきのこたっぷりの混ぜご飯。
お箸休みにきゅうり、にんじんといったサラダスティック。
「う~ん、おキヌちゃんの料理はいつも美味しいわね」
肉じゃがを頬張った美神は、これ以上ないぐらいの笑顔だ。
「そうでござるな。この混ぜご飯は格別でござる」
シロはどんぶりに大盛りで、付けられたいるそれをバグバグと噛み砕き、胃に収めていく。先程の事は、考えても分からなかったので、放棄したみたいだ。
「それってホットミルクでしょ。私にも貰えるかしら?」
美神は何気なく言った。おキヌとタマモのところにあったカップが目に入ったので、取り合えず述べたのだ。
「美神さん、これ以上大きくなる気ですか!?」
しかし、帰って来たのは、おキヌの思ってもみない大声だった。
「そうよ! 充分にあるじゃない!」
続いてタマモも言い放つ。尋常でない迫力があった。
「え、え!? あ、あの、ごめんなさい……」
その勢いに気圧され、美神は謝ってしまった。
「頑張りましょう。タマモちゃん」
「ええ。絶対、シロをギャフンと言わせてやるわ!」
瞳に炎を燃やし、おキヌとタマモは握手を交わす。
「ねえ、あれはどうなっちゃったの?」
「拙者も何が何やら、分からぬでござる」
美神はシロに耳打ちをするが、原因はさっぱりだった。
勝ち組と負け組み。どっちに属するのが幸せなのかは分からない。
勝っていても負けている場合があるし、負けていても勝っている場合があるのだ。
いや、こういった事を勝ち負けで判断するのは愚かな事だろう。
勝敗は決して付かぬものなのだから。
あとがき
ここではかなりお久し振りのろろたです。
かなり短めな話ですが、一発ネタという事で。
ではまた。