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「キツネ憑かれ(GS)」

犬雀 (2006-04-24 00:09)

『キツネ憑かれ』


とある日曜日の朝、ていうかまだ新聞配達さんもやってこない早朝。
気の早い雀がねぐらから朝ご飯を探しに行こうという時刻に横島のアパートのドアがドンドコドンと乱暴にノックされた。

「先生! 先生! 一大事でござる! 起きてくだされーー!!」

必死の形相でドアを叩いているのは人狼の少女シロ。
彼女が朝に横島のアパートを訪ねてくること自体は珍しいものではない。
横島との早朝散歩はシロにとってかけがえの無い楽しみであるからだ。
しかし今日の彼女の様子はいつものハツラツとしながらもどこかはにかむようなものではない。
例えるなら急病人が出て医院の玄関を叩く親のような悲壮感が漂っている。
それを察したというわけではないだろうが、寝起きの悪い横島はあっさりと起きてきた。
もっとも顔一面に不機嫌を貼り付けているのは仕方ないだろう。
誰でも早朝に叩き起こされれば不機嫌になると言うものだ。

普段のシロだったらそんな横島を機嫌の良し悪しをいち早く察知するが、今日はそんなことにはかまっていられないのか、横島が口を開くより先に矢継ぎ早に言葉を重ねてくる。

「先生! 拙者と一緒に来てほしいでござる! タマモが! タマモが大変なんでござる!!」

「はあ?」

「早く!」

「あ、ああ、わかった…」

慌てて着替えおっとり刀で出てみれば、一刻も惜しいのかドアの外で足踏みをしていたシロに襟首を掴まれる。

「へ?」と疑問を発する間もなくシロはそのまま横島を柔道で言う肩車に担ぎ上げ、「ごめん!」と一声吠えて走り出した。

「ちょ!まて!逆!担ぎ方、逆だって!これってアルゼンチン・バックブリーカぁぁぁぁ!!」

「喋ると舌を噛むでござるよ!! いざ参る!!」

人狼の身体能力をフルに生かして横島を関節技の形に担ぎながら、シロは階段を使うのも面倒とばかりに一気に飛び降りた。

「ぐえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

そしてシロは着地の衝撃で人間の限界を超えたえびぞりを見せた横島を担いだまま、事務所へと全力で駆け出したのだった。


オリンピックのアスリートぶっち切りの爆走を見せ、あっという間に事務所に着いたシロは担いでいた横島をポテンと落す。
火で炙られたスルメのように丸まったままピクピクと痙攣する横島の姿にシロはキョトンと首を傾げた。

「ついたでござるよ先生! …先生? あきゃん!」

丸まったスルメ状態から一瞬で復活、飛び上がって落下の加速度を乗せた鉄拳を脳天に落とされシロは頭を抱えて蹲った。
たちまちプカーと膨らんでくるタンコブは横島の怒りの大きさに比例しているようでもある。

「アホかお前はぁぁぁ!! あんなロボ超人の師匠みたいな殺人技をかけられたら、いくら俺でも余裕で死ぬるわい!!」

「い、生きているでござるのに…」

「結果だけでものを言うなぁぁぁ!」

もう一発、脳天にかまそうと拳に息を吹きかけた横島を見て、シロはキャインとばかりに尻尾を股に挟んだが、すぐにそれどころではなかったと思い出したのかワタワタと慌てだした。
何しろ事務所の中では今もシロを待っている人がいるのだ。
ここで時間を浪費するわけにはいかない。

「そ、それよりもタマモでござる!!」

踵をかえして事務所に駆け込むシロに横島も「逃げおったか…」と呟くと後を追う。
あのシロがこれだけ慌てるからにはよほどの大事が出来したのだろうとシロが飛び込んだ事務所の応接室へ来てみれば、令子とおキヌが途方にくれた表情でお茶を啜っていた。

「あ、良かった。来てくれたんだ。」

「どうしたんすか美神さん?」

「タマモがちょっとねぇ…」

おキヌと二人で視線を天井に向けたところからすれば、タマモはまだ屋根裏部屋に居るらしい。

「タマモに何かあったんすか?」

「あー、うーん、まあ私の口からは説明しづらいかな?」

珍しく言葉を濁す令子の横ではおキヌもうんうんと頷いていて、何かは知らないがこの美神令子の能力をもってしても解決できない問題が起きたご様子。
微妙な沈黙とともに令子はしばらく視線を天井にさ迷わせていたが、意を決したのか咳払いをして横島に目を戻した。

「ところで横島君、文珠はある?」

「何個かストックはありますが?」

「そう…良かった…」

文珠が必要な事態とは何事か?もしやまた病気にでもなったのだろうか?
だけどここにいるみんなの様子を見る限り、タマモの命が危険と言うことではなさそうだ?
仮に病気なら心優しいおキヌまでが当惑した顔のままお茶を啜っているはずがない。
彼女ならつきっきりて看病しているはずだろう。

「とにかく行って見ませんか?」

「そうね。」

おキヌの提案にしたがって一同は屋根裏部屋へと向かった。
屋根裏にあるシロタマの部屋の前に来たが、横島には特に危険な霊気とか妖気とかは感じられない。
何が?との疑問をこめて令子を見れば彼女は「ふーっ」と溜め息をついてドアのノブに手をかけている。

「いい? 開けるわよ?」

「はい。」

そして令子がゆっくり開けたドアの向こうには・・・・・・・・・・意外にも何の変哲も無いいつもの光景が広がっているだけ。
真ん中に置かれた二つのベッド。
片方はシロのものだろう。几帳面なシロらしく布団がたたまれている。
もう片方はタマモらしく掛け布団がベッドの下に落ちていたりと傍若無人な有様だ。
だが、とりたてて異常とか危険は感じられない。

「え?」

横島の戸惑いを察したのだろう、おキヌが彼の袖を引くとゆっくりと部屋の中央に置かれたベッドを指差す。
つられて見た先、タマモのベッドの上にでっかい海苔巻きが転がっていた。
タマモが海苔巻きに化けたのか?とよくよく目を凝らせば、それは単なる毛布のかたまり。
肝心のタマモはお新香巻きのお新香のように、丸まった毛布の真ん中から顔だけを出している。
まあぶっちゃけ簀巻きである。

「へ?なんで布団蒸しにしてるんすか?」

横島の声が聞こえたのか、タマモの顔がゆっくりと上がる。
その目を見た横島は一斉にザザザと音を立てて壁際まで後退さった。
ふと見れば令子もおキヌも、シロに至っては尻尾の毛を逆立てて、自分と同じように壁にへばりついている。

その原因。
お新香になっているタマモの目はいつもの皮肉めいた鋭さはない。
パッチリと開き、あまつさえ少女漫画よろしくキンキラリンにさり気無く星まで浮かべていた。

「な、な、な…」

タマモはノタノタと海苔巻き状態のまま蠢いていたが、言葉を失ったまま壁に貼り付いていた横島に向けて一声鳴いた。

「もきゅ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・システムはフリーズしました…システムを再起動します…なお保存されていないデーターが失われる可能性があります…


「はぁ?」

やっとの思いで搾り出した声は自分でもはっきりわかるほど間抜けなものだった。
それが気に食わなかったのかタマモはベッドの上でジタバタと暴れると抗議の声(推定)をあげる。

「もきゅっきゅ!」

「た…タマモなのか?」

「もきゅー♪」

今度は嬉しそうにピチピチと跳ねる姿からすれば意志は通じているらしい。
自分のコメカミがズキズキと痛むのがわかる。
思考が纏まらない。こんな現実は認められない。てか、あってはならんと思う宇宙意志的にも。
バラバラになりかけた意識をなんとか繋ぎとめ、横島はギギギと首を軋ませて令子に乾いた笑顔を見せた。


「美神さん…」

「なに?」

「これはタマモじゃありません!なんか得体の知れない別の生き物です!!」

「もきゅぅぅぅぅ!!!」

横島は抗議の声を上げる謎の生物にむかってつかつかと歩み寄るとピシッと指を突きつける。
その剣幕にピチピチと跳ねていた生き物はキラキラと輝く目のまま動きをとめた。

「黙れ!妖しい生物!いやさUMA!!本当のタマモは決して「もきゅ♪」などどあざとい鳴き方はせん!・・・・・・・・・・・・うおっ!!」

「もきゅぅぅ…」と哀しげな声を上げるタマモの目には大粒の涙が溜まり出し、さしもの横島も怯んだ。
有史以来、美少女の涙に勝る兵器はないのだから当然である。
片やウルウルのお星様アイで見上げる少女と硬直した少年をオロオロしながら見ていたおキヌが耐え切れずに調停に入った。
さすが事務所の良心、こういう時は一番頼りになる。

「で、でも、やっぱりタマモちゃんって気がするんですけど…」

「まあ見かけはタマモだけど…」

「中身は別人でござるなぁ…」

ボソボソと囁きあう令子たちを、毛布に包まったまま涙目で「もきゅ?」と見上げるタマモ。
令子の心の片隅にある罪悪感がチクチクと刺激されて凄まじく居心地が悪い。
例えるなら「ボクはもう疲れたよ。パト〇ッシュ…」、と永久の眠りにつこうとする少年を迎えに来た天使めがけて対空砲の一斉誤射をかましてしまったぐらいの罪悪感。
自分だから青い顔して脂汗ですんでいるが、並の人間には耐えられるレベルではないだろう。

しかし言われて見れば横島の言い分も一理ある気がする。
どちらか言えばマイペース、人間に媚びるなど絶対にしないはずの金毛九尾が「もきゅ」などと鳴くはずが無いではないか。


横島はと言えば何かを考えているのか無言で腕組みをしたままだった。
それでもヒントの片鱗でも掴んだのか腕組みを解くとすっと肩の力を抜く。

「あ、おキヌちゃん。キツネうどんある?」

「タマモちゃんの朝ご飯に作ったのがありますけど、もう冷めちゃっているかも。」

「持ってきてくれないかな?」

「は、はい。」

横島の意図はわからないけど言われたとおりにすっかり冷め切ったキツネうどんを持ってきて手渡せば、横島は「ありかど」と頷いてそれを床に置く。

「横島君、何するつもり?」

「まあ見ててください。」

横島の目は観察者のそれ。
あるいはアリンコに砂糖をやって、どこに運ぶのかをワクワクと見守る小学生のような目をベッドの上でまだ「もきゅもきゅ」言っているタマモにむけていた。
彼の意図はわからないけど、とりあえずはまかせましょうと皆は口を閉じ、彼に習ってタマモを見つめる。
それが横島の意図に沿ったものかどうかはわからなかったけど、うどんを見つけたタマモが毛布ごとヨジヨジと動き出し、ベッドから床にペタリと落ちながらもうどん目掛けてモキュモキュ這って行く。
ドンブリにたどり着くとクンクンと顔を近づけ臭いを嗅ぎ、うどんに違いないと確信したのかタマモは「もきゅっ♪」と嬉しそうに鳴いてドンブリに顔を突っ込んだ。

よほどお腹が空いていたのかジッタンバッタン暴れながらもドンブリから顔を上げないタマモはやはり何か別の生き物に見える。
ぶっちゃけ言えばモス〇の幼虫。

奇怪なナモマノはしばらくジタバタしていたが、おキヌのうどんに満足し始めたのかその動きは徐々に静かになっていった。

「食べてます…よね?」

「どうかしら?」

箸を使えるはずなのに、犬みたいにドンブリに顔を突っ込み続けるタマモにおキヌと令子は違和感を感じる。
なんていうかヤバイんじゃあ?と感じていた得体の知れない違和感はシロの一言で明確な脅威になった。

「あの体勢でどうやって息継ぎをしてるのでござろうか?」

「「え゛?」」

言われて見れば毛布に包まった体が小刻みに痙攣していたりして。
心なしか髪の毛の影から覗く素肌も青白くなってきたような…。

「ちょっとぉ!うどんで窒息なんて洒落にならないわよ!!」
「タマモちゃーん!!」

慌てて引き剥がしてみれば、お揚げを咥えて白目を剥いているタマモの顔。
まだ息はあるようだとホッとした令子に横島が重々しく告げる。

「これでハッキリしました。コイツはタマモであってタマモではない…何かにとり憑かれてます。」

「はあ? …タマモっ! あんたキツネの分際で何に憑かれたって言うのよ! 普通は逆でしょが!! キツネのプライドはどこへ行ったの!!」

揺さぶってもタマモは白目を剥いているだけで返事は無い。
それでも救命技法なぞ知ったことかと激しく揺さぶり続ける令子の視線の片隅をドアからこそっと逃げ出そうとするシロの姿がよぎる。
勿論、彼女はそれを見落とすような甘い人間ではないのである。
抱えていたタマモを放り投げ、まさにドアノブに手をかけていたシロに向かって一喝すればピタリと止まるシロ。
毛が逆立ちまくっている尻尾がとっても挙動不審。

「シロ! あんたなんか心当たりがあるのね!!?」

令子の言葉にビクリと飛び跳ねたシロはウロウロと視線をさ迷わせていたが、ついに観念したのかガックリと肩を落とした。

「ぐっ…せ、拙者は…その…えーと…はいでござる…」

「シロちゃんタマモちゃんになにをしたの?」

やんわりとおキヌにも聞かれ、葛藤の末にシロはしょんぼりと尻尾を垂らしながらも何とか口を開いた。

「実は…タマモがあんまり朝寝坊が過ぎるので注意したら…「私は疲れやすいの!」と言われたんでござる。」

「それで?」

「…それで昨日お使いに行った時に厄珍殿がくれた滋養強壮薬をタマモに渡したんでござるが…まさかそれのせいでござろうか?」

「見せなさい!!」

嫌な予感がしまくりである。
っていうか厄珍の薬絡みでは今までろくな目に会ってない。
ジトっとした空気を察したのかシロはダクダクと汗を流しながら自分の私物入れの中をあさって茶色い薬ビンを取り出した。
手書きのラベルがいかにも怪しい雰囲気を滲ませて、はっかりいってヤバイブツであることは疑いがなさそうだった。

「こ、これでござる!確か厄珍殿は『強力滋養強壮剤 ヘソマデトドーク』といっておったでござるが…」

渡された薬ビンを見た令子のコメカミに井桁が浮かぶ。
ピキピキと引きつった笑いを浮かべつつ令子は震えるシロに薬ビンを突きつけた。

「ねえ、シロ、これってなんて書いてある?」

「えーと…『万能憑依剤 トリツカレール』…?!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・・・・そして再起動

「「「これかぁぁぁ!!!」」」


この瞬間一同の心が「厄珍、しばく」と一致した。
よりによってなんという薬と間違えやがったあの髭は!ってな感じに暗い闘志を燃やす令子たち。
もはや厄珍の生命は風前の灯である。
頷きながらそれぞれの武器を用意しようとする令子たちにビビリながらも声をかけてきたのはこの事務所の管理者でもある人工幽霊だった。
来客チェックは彼の仕事なのだから、「ビビリました」と言ってなかった事に出来ないのが彼の辛いところだ。
この不条理に満ちた世界は真面目な人間が損をするように出来ているらしい。人間じゃ無いけれど。


『あの…オーナー』

「なにっ!」

『は、はい! お客様がおみえになってますが!』

「今は取り込み中って断りなさい!」

『いえ、ですが厄珍様の紹介とのことでして、なんでも薬のことで頼まれたとか』

「すぐに通しなさい!」


おキヌの案内で応接室に通されてきたのは眼鏡をかけた老人。
厄珍絡みの人物ということで事務所のメンバーから矢のような視線を浴びているにもかかわらず、鈍いのか、はたまた細かいことにはこだわらないのかニコニコと人好きのする笑顔を向けてくる。
硬い声で「あなたは?」といきなり尋ねる令子の非礼も気にせずに老人は笑顔のまま名刺を差し出して自己紹介を始めた。

「いやーいやーいやー。ここは可愛い動物さんがいっぱいですねー。私は動物除霊師のウツゴロウと言います。よろしくー。」

「動物除霊師?」

「はいはいはい。動物さんは亡くなった後に弔われないことが多いんですよねー。ですから私みたいなのがそんな可哀想な動物さんが悪霊化しないようと専門でやってますー。」

「それでそのウツゴロウさんがどうしてまたここへ来たんすか?」

「あっはっはー。厄珍さんから頼まれましてねー。間違えて動物さんに『トリツカレール』を飲ませたかも知れないって言われましてー。それで来ましたー。」

「そ、それはどうも。」

ペコリと頭を下げる令子に「いえいえー」と気楽に笑いかけ、ウツゴロウ氏はまだ気絶していたタマモに近づくと楽しそうに観察しはじめた。
しばらく脈をとったり、瞳孔を確認したり、あちこち揉んだり、臭いを嗅いだりと診察していたが、やがて結論が出たのかウンウンと頷くと笑顔を向けてくる。

「あーらあら、このキツネちゃんですねー。うーん。確かにとり憑かれてますねー。」

「やっぱり…んで何がとり憑いてるんすか?」

「これはですねー。ゴマフアザラシちゃんの霊ですねー。」

「そんなことまでわかるものですの?」

「そうですねー。ゴマフアザラシはですねー。なんと「もきゅ」って鳴く習性があるんですよー。ですから間違いありませんねー。」

(((嘘臭え…)))とは思っても口には出せない。
なにしろ自分たちは動物に関しては素人同然。
もしかしたらアザラシにはまだ世間一般には知られてない習性があるかも知れないのだ。

「あ、あの、だったらどうすればタマモちゃんを元に戻せるんですか?」

「ゴマフアザラシさんに還ってもらうしかないですねー。」

そしてウツゴロウ氏はつとつとと横島に近づいて手を握る。

「厄珍さんから聞きましたけど、君は文珠を使えるそうですねー。それで一発ですよー。」

「は、はあ…そんなんでいいんすか?」

「そうですねー。とり憑いている動物がわからないと間違ってキツネちゃんまで祓ってしまったかも知れないですけどー。今はわかってますから大丈夫ですねー。」

「横島君やんなさい!」

「はい!」

早速とばかりに発動した文珠の光がタマモに吸い込まれる。
固唾を飲んで見守る事務所のメンバーがいい加減じれた頃、ついにタマモが失神から目覚めて動き出した。

「大丈夫かタマモ!」と横島が抱き起こせばタマモはボンヤリと目を開け、ゆっくりと周囲を見回していたが、その目が横島の顔に戻ったところで焦点を取り戻し、なんとか文珠の発動は成功したと安堵の息を漏らす横島の首に手を回す。

「へ?タマモ?……うほ!」

間抜けな横島の声に対する返事は熱烈なキスによってなされた。
あまりの衝撃展開にあんぐりと口を開けて固まる女性たちなど目に入らないのかタマモは潤んだ瞳を横島に向けたままゆっくりと唇を離して一声鳴く。

「にゃーお♪」

「あーらあら、猫ちゃんも憑いてましたかぁー。」

呑気なウツゴロウ氏の声に固まっていた令子が正気に戻った。
こんな展開になるなんてこのおっさんは言ってなかったじゃない!と怒りの眼光凄まじく睨みつけてもウツゴロウ氏は堪えた素振も無い。

「ち、ちちち…ちょっとどういうことよ!」

「いえいえ、よくあることですよー。複数の動物さんの霊がとり憑くんですねー。」

「そ、そうじゃなくて!なんでタマモちゃんが横島さんにキスをするんですか!!」

「んー。インプリンティングですねー。」

「それはなんでござるか?!」

「鳥さんはですねー。卵から孵った時に最初に見たものを親と思って懐く習性があるんですよー。」

「猫は鳥じゃないでしょが!!」

「いえいえいえ。世の中にはウミネコって言う鳥さんがいるんですねー!ですから猫さんも鳥さんと同じ習性を持っているですねー♪」

「嘘よっ!絶対に嘘よぉぉぉ!!!」

嵐のような令子の突っ込みが発動する直前、甘ったるい少女の声が部屋の中をふんわりと飛び跳ねて、思わず彼女はたたらを踏んだ。
キッと声の主を睨みつければ横島の胸で甘えながら頬を舐めるタマモの姿があって。

「なーご♪なーご♪」

「にゃほぉぉぉぉ!タマモ!気を確かに持てえぇぇぇ!」

殺意にも似た視線を放つ令子など眼中に無いのか、タマモは嬉しそうに鳴きながら横島の胸に頭をすりつけている。

「うにゃにゃん♪」

「うはあぁぁぁ。舐めるなぁぁぁ!理性が理性がっ!!手を突っ込むなぁぁぁ!!」

「いいなあ…タマモちゃん…」

指を咥えたおキヌの呟きが引き金になったのかついに令子の堪忍袋の尾が切れた。
そりゃあもう見事に切れた。すっぱり切れた。

「いいからさっさと祓わんかぁぁぁ!!」

「いえっさ!!」

令子の剣幕にリアルな死の危険を感じて飛び上がった横島の二個目の文珠が発動し、タマモは再び目を閉じ、彼の危機はいろんな意味で去ったのであった。


すべてが終わり笑顔のまま帰っていくムツゴロウ氏を玄関まで見送った令子と横島。
ゆっくりと横島に振りかえった令子は満面の笑顔である。
怖いくらい笑顔である。
ていうか手にした神通棍がジャキンと伸びるのがやっぱ怖い。
横島の膝が笑い出すのも仕方ないだろう。

「あ、あの、美神さん?」

「んー?なーに、横島君?」

「おしおきですか?けどアレは不可抗力で!!」

決して自分からタマモに猥褻な行為を働いたのではないと必死にアピールする。
異議申し立てが通ればよし、通らなければ待っているのは濃密な死。
たぶん間は無い。
まさにDEAD  OR ALIVE。

「んふふふふふふふ…違うわよ。」

「へ?」

「単なる八つ当たり♪」

「なんでじゃぁぁぁぁ!!」

最初から選択肢はなかったそうな。


階下から漏れ聞こえてくる惨劇の音が次第に湿り気を帯びてきたことに気づいて、シロが飛び出していった応接室でおキヌはすやすやと眠っているタマモの頭を優しく撫でていた。

「タマモちゃん覚えているのかなぁ…今日のこと…」

「横島さんに凄いことしてたよねぇ」と耳に囁けば寝たままのタマモが急に「うーん、うーん」とうなされ始めて、それが面白くておキヌはくすくすと笑う。
なんとなく気持ちが軽くなった気がしてふと見たテーブルの上に、すべての元凶がそのまま置いてあった。

「アレを飲んだら…」

勇気がでるのかな?との言葉を飲み込んで、彼女はタマモを起こさないように気遣いながら茶色い薬ビンに手を伸ばした。
ビンの中で9粒のカプセルがカラカラと音を立てる。
差し込む朝日を受けてその中の一粒がキラリと光ったように見えた。


次の日の朝…


「先生! 大変でござる! すぐ来てほしいでござる!! おキヌ殿が! おキヌ殿がっ!!」

「またかぁぁぁぁ!!」

再びシロと一緒に事務所に駆けつけた横島が応接室のドアを開けると、そこには昨日よりも異様な光景が広がっていた。
立ち木のように棒立ちになっているタマモにすがり付いているのはパジャマを着たおキヌの姿。
口に咥えているのはほうれん草だろうか?
葉っぱ咥えて抱きつく姿がなんだかとってもコアラちっく。
とにかく涙目のタマモに抱きついていたおキヌは横島の姿を見つけると瞳に星を浮かべてゆっくりと這い寄ってくる。

「横島!どうにかしなさい!」

「どうにかって…そういや美神さんは?」

「まだ寝ているでござる!」

そんなやり取りをしているうちにもおキヌは嬉しそうにドンドン近づいてきた。
恐らくは昨日のタマモと同じ症状だろうが確信はない。
なにかが心に引っかかる。

「シロ! 俺は美神さんを呼んでくるからちょっとの間だけもたせろ!」

「わかったでござる!」

駆け出した背中からおキヌの悲しそうな鳴き声が聞こえた気もするが、横島は一目散に令子の部屋へ向かうとノックももどかしいとばかりにドアを開けた。

「美神さん、いつまで寝てるですか?!!」

「もきゅ?」

ガクリと膝をついた横島の足元にはあの茶色い薬ビンが8粒ほど中身を残して転がっていたそうな。


おしまい


後書き

ども。犬雀です。
えーと…某所で貰ったネタでまた書いてみました。
気がつけばまたタマモイジメネタであります。

次は誰をイジメようかなー(笑)

ではでは…


1>k82様
やはりGSツンデレの元祖は令子さんですよねえ(笑)


1>ヒロヒロ様
確かにGハンドかも(笑)

2>十六夜様
お楽しみいただけたようでホッとしてますです(笑)

3>純米酒様
ですな。煩悩の塊みたいな高校生だと思います。(笑)

4>黒覆面(赤)様
あー。それはそうですねー(笑)
確かに横島が美人を見逃すのは考えにくいです(笑)

5>ジェミナス様
ゴールインですか?むう…そこにいたる過程でまた書けそうな気もしますな(笑)

6>トラスト様
ステルスに特化したタイプかも(笑)

7>米田鷹雄様
ありがとうございます。やはり横島は存在感が大きいキャラです(笑)

8>kamui08様
フェロモン…うーん。それもいいですね。そんな話ってのも書けば楽しいかも(笑)

9>aki様
美神を絡めていても面白かったかもですね(笑)

10>鳳凰様
甘い話は苦手なんですけど、そういっていただけて嬉しいです(笑)

11>柳野雫様
この後ですねえ…うん…犬も想像すると楽しいですね(笑)
デートとかあるのかなぁ?

12>ヴァイゼ様
魔鈴さんならいい勝負になるかもです(笑)

13>美尾様
可愛いですか?でもあげませんよ(笑)

14>たかちゃん様
犬はそれ見てないんですよねー。
あ、でも町内会のイベントで一話だけ見ました(笑)

15>ナガツキリ様
あー。それもいいなぁ。<タマモや愛子との会話
うん。メモメモです(笑)

16>Yu-san様
令子さんのツンデレですねー。なにげに難しいですよね(笑)


17>偽バルタン様
人外キラーですよねえ。羨ましい限りです(笑)

18>夜様
ありがとうございます。といいつつ次の作品がこれだったりして(笑)

19>ハングドまん様
そうですねー。今までの犬のオリキャラたちと絡めるのもいいかもです(笑)
あ…なんか情景が…w

20>参番手様
過分なお褒めの言葉感謝であります。
色々と実験したいことはまだありますので、よろしければまたお付き合い下さいませ(笑)


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