インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

!警告!壊れキャラ有り

「開いててよかった厄珍堂〜昨今の流行にのせて〜(GS)」

ペヤングウォーマー (2006-04-16 04:17)


それは、一本の電話から始まった―――。


とある休日。
借りてきたアレなビデオをホクホク気分でデッキに差し込んだところ、まるでタイミングを見計らったかのように電話が鳴り出した。
邪魔すんなよなと青筋を立てながらも、もしこれが美神除霊事務所からのものだとすると、無視したら後で大変な事になる。
脱ぎかけたパンツを渋々穿き直して、横島は受話器を手に取った。

「あい? 横島ですけどー?」

『おお、ボウズアルか! いいモノが手に入ったアル! 今すぐ来るヨロシ!』

電話越しに興奮したオッサンの声。しかもエセ中国訛り。むしろ中国弁。
名前は告げられていないが、いちいち言われずとも判る。オカルトショップ・厄珍堂の限りなく胡散臭い店主、その名も厄珍だ。
横島は心底から脱力した。こんな真ッ昼間から何の用だあのナマズヒゲ。つまらん事だったら地獄見さすぞ。
今日はたまの休日だというのにバイトを休み、友人から借りたアレなビデオ(しかも裏)を心ゆくまで観賞する予定だったのだ。
それを邪魔されただけでも憤慨ものなのに、その相手が厄珍とくればその怒りは倍率ドン、更に倍!だ。はらたいらに3千点。

「んだよ、ッたく、こんな時に……」

『? 何か大事な用でもあったアルか?』

あったアルか、などとトチ狂った日本語にまずつっこむべきかと横島は思ったが、話が進まないのでスルーしておいた。

「いや、知り合いからビデオ借りててさ。今から見ようと思ってたトコなんだよ」

『……それはひょっとして、えっちぃヤツアルか?』

「おうよ。しかも洋モンのアレモンだぜ。うらやましいだろぉ? うはははは!」

『…………』

完全に勝ち誇って高笑いする横島だったが、厄珍の反応は薄い。
いつもの彼なら、血の涙を流しながら悔しがりつつ、10円やるからワタシにも見せるね!とか言ってくるのだが…。
横島が不思議に思っていると、受話器から低い笑い声が聞こえて来た。

『ク、ククククク……。ボウズもまだまだ青いアルね。そんあチンケな代物で満足してるとは……まだまだアル』

「んだとッ!? おいおいコイツをなめてもらっちゃ困るぜ!
 ハリウッド女優ばりのパツキン美人、それも目ン玉飛び出るぐらいの巨乳ちゃんがベッドの上でてんやわんやになってんだぞ!?
 これに先走らずに何にほとばしれってんだよ! 厄珍のオッサンよ、アンタもヤキが回ったなあ!」

自分のキャラも忘れ、何故か雪之丞チックに荒々しく捲し立てる横島だが、それでも厄珍は怯まない。

『確かに、話を聞いただけでもワタシのほとばしる熱いパトスが思い出を裏切りそうになるアルが……それでも所詮は画面の中の話アルよ。
 今、ワタシの手の中にあるのは、まさにそのビデオの内容、男のドリームを現実に変えるもの……すなわち魔法の薬アル!
 ボウズ、悪い事は言わないネ。店に来るヨロシ。後悔したくなければ……ネ』

「ッ!? おい、厄珍のオッサン! 今、なんて…」

ガチャリ。無情にも通話が切れる。
しばらく固まった後、受話器を本体に叩きつけると、横島はチィッと舌打ちした。
そしてデッキに半分刺さったままになっているビデオを一瞥して、男臭い笑みを浮かべる。

「あんな事言われて見過ごすようじゃあ、俺の男が廃るよなぁ……。
 待っててくれよ、ハニー。なぁに、すぐに戻ってくるさ、すぐに……な」

無駄にハードボイルドな空気を醸しつつ、上着を羽織ると横島は部屋を出た。


数十分後、横島は厄珍堂の前に立っていた。
呼ばれてやって来たものの、厄珍堂にはシャッターが閉まっており、そこには『本日休業』と書かれた貼り紙が。
それでも迷う事なく裏口に回り、辺りを探りながら小さくノックする。少しも待たない内に、扉は開かれた。

「…尾行はされてないアルね?」

「ああ、そんなヘマはしないさ」

「なら、早く中に入るヨロシ」

誘われるままに、そそくさと中に入る。
靴を脱ぎ、見慣れた店内スペースではなく、厄珍の生活する住居スペースの中を歩く。
2階へ上がり、書斎のような部屋に入ると、厄珍は懐からリモコンを取り出し、そのスイッチを押した。
すると、ぎしぎしと何かが軋むような音がして、本棚がゆっくりとどんでん返しの要領で裏返っていく。
完全に裏表が反転した時には、2人の前には小ぢんまりとした金庫が鎮座していた。

「やけに凝った造りだな。秘蔵のエロ本でも隠してんのか?」

横島の問いに答える事なく、厄珍は金庫の前にしゃがみ込むと、何か細々とした作業を始める。
5秒と経たない内に、カチリと小気味良い音がしたかと思うと、金庫の扉があっけなく開いた。
そして厄珍がその中から取り出し横島に見せたのは……何も銘打たれていない、何とも怪しげな錠剤。横島は眉をひそめた。

「……これは?」

「我々、夢追い人の理想を実現させるべく、北欧のある組織が魔法科学の粋を集めて開発した魔法薬アル。
 無論、オカルト薬事法に違反した代物ネ。それどころか、人権や人の尊厳を完全に無視した外道の薬…。
 これを開発したがために、組織はオカルトGメンの特殊部隊に……いや、これはボウズに言ても詮無い事アルね。忘れるヨロシ。
 とにかく、何の因果か、この悪魔の薬が回り回てワタシの手の中に落ちて来たというわけアル」

疲れたように溜息をつくと、サングラス越しで横島には分からなかったが、厄珍は遠くを見上げた。
いつになくシリアスな厄珍。いやが上にも緊張が高まる。横島は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「して、その効能は…?」

「この薬を飲んだ人間は、誰しもが持つある感情を刺激され、一時的に精神、あるいは性格を変容される事になるアル……。
 これにより服用者には、度を越えた恥じらい、素直になれないキモチ、気付けばいつもアイツのコト考えちゃうの、などといった症状が現れ…
 常用すれば次第に、意地っ張りの向こうから時々顔を見せる甘えたい心、好意見え見えの遠回りなアプローチ、という風に進行し…
 最終的には、アナタだけに見せちゃう本当のワタシ、今まで素直になれなくてごめんね、と感動のエンディングに辿り着けるのアルよ!」

「な、なんと…! そ、それは、それではまるで……ッ」

「名は体を現す……。この薬、その名も『ツンデリンα』アルッ!!」

「お、おお……おおおぉぉぉ……!!」

横島は、自分でも気付かぬ間に跪いていた。
ツンデレ。それは神が人類に授けた至高の萌え。その威光の前には、横島と言えど、ただ頭を垂れるしかない。
ありがたやツンデレ。素晴らしきツンデレ。偉いぞツンデレ。ゆけゆけツンデレ。
涙さえ流しながら錠剤を拝む横島の肩に、厄珍は優しく手を置いた。

「令子ちゃんも見ようによてはツンデレに分類されるかもしれないネ。
 しかし……私見を言わせてもらえば、あれはツンデレではなくツンツンアルよ! デレ分が圧倒的に足りないアル!
 そこでこのツンデリンαの出番というわけアルね。これを飲ませれば、必ずや令子ちゃんにもデレ分が出て来るはずネ!
 ……いや、あるいはもと別の………そう、ボウズ。ボウズは……ツンデレ1人で、満足アルか?」

「な、なに…? どういう事だ?」

「簡単な事アル。これを飲ませれば誰もが誰もボウズに対してツンデレになるネ。
 という事は、もはやこれは、『ツンデレ』という要素をプラスさせた惚れ薬にも等しいという事アルよ!」

「な、なんてこった……! 俺にベタボレのツンデレっ娘が沢山!? 俺を取りあって修羅場の予感だと!?
 そいつぁまさに、横島忠夫のプリンセスがいっぱいじゃねぇか…! 身がもたないぜ勘弁してくれよチクショー! うわははは!!」

「さあ、征くアルボウズ! 漢たちの夢をその背に乗せて! 遙かなるツンデレの大海へ!
 目指すはエルドラド、ツンデレ娘の桃源郷アル! 迷わず進め! ゆけばわかるさ! 明日はきっとホームラン!!」

「おうよッ!! やぁってやるぜッ!!」

「作戦名は『ツンデリングベイ』! 状況開始アルッ!!」

「よっしゃあああぁぁぁぁぁっっ!!! 俺の時代が来たぜえええぇぇぇぇぇぇっっ!!!」

厄珍の手からツンデリンαの入った箱を奪い取ると、横島の姿はその場から掻き消えた。文珠を使ったらしい。
厄珍は見送るように佇むが、しばらくすると肩から力を抜き、くつくつと笑い出す。

「フヒヒヒヒヒ……うまくいったアル。それにしても単純なヤツアルね、あのボウズは。
 これだからボウズいじりはやめられんアル。フヒヒヒヒヒ………」

横島いじりはもはや厄珍の趣味の一環と言ってもよかったが、実益を兼ねている事は勿論言うまでもない。
実はこのツンデリンα、カオスと厄珍の共同開発で、この実験で副作用などがないようなら量産するつもりなのであった。

「ツンデリンα量産の暁には、この低身長のハンデなどあっと言う間に跳ね返してやるアルわー!」

ちなみにカオスの場合は、大家さんに飲ませて激しすぎる家賃請求の手から逃れたい、というのが動機であった。


―――数分後、美神除霊事務所。

「…にしてもアンタ、いきなりどうしたのよ? 今日は休みじゃなかったの?」

「いやー、なーんかこう、1日に1回は美神さんに会わなきゃしっくりこないんですよねー」

「な、バッ…! そ、そんな事言ったって給料上げてやらないんだからねっ!!」

まさしくツンデレ、という態度を美神が取っているのだが、どうやって薬を盛ろうかと考えをめぐらしている横島は気付かない。
予定外の横島の出勤に、最初の方こそ美神も鬱陶しげにしていたが(仕事がなくとも給料は発生するのだ)、今ではそれとなく歓迎ムードになっている。
おキヌやシロは言うまでもなく大喜びで、タマモも関心がない素振りをしながらも、満更でもなさそうな様子だった。
もうこの時点でこのメンバーに対してツンデリンαを使う必要などないと思うのだが、それでも横島は狙っていく。
さり気なくソファから立ち上がると、あくまで何気ない感じで美神に話しかける。

「流石に、なんもしないってのも申し訳ないッスし、コーヒーでも淹れてきますよ」

「へぇ、アンタが? 珍しいこともあったもんね」

「そ、そッスか? いやまあ、当然の気配りってヤツッスよ、うん」

「………ふうん」

露骨に目を逸らす横島に、美神の双眸がすぅと細まる。あからさまに怪しい。
追及を受ける前に、横島は大急ぎでキッチンへ隠れた。

「あ、あぶねぇー……っ! やっぱ、美神さんの勘働きのよさは半端じゃないな…」

早くも訪れたピンチに戦々恐々としながらも、こんな事で諦める横島ではない。
ポケットからツンデリンαを取り出すと、ニヤリと笑って、その1錠をそっとコーヒーの中に沈ませた。
元より何かに盛るために開発された薬なので、勿論水溶性で味も臭いもなく、それこそ犬か何かでなければ気付かれる事はないはずだ。
その点、シロとタマモがネックになるが、別段彼女らに仕掛けるつもりは毛頭ないのでその辺は大丈夫だ。
スプーンでカチャカチャ混ぜ、完全に薬が溶けたのを確認すると、盆の上に乗せ、横島は戦場へ向かう。

「お待たせしましたー! タダちゃん印の特製ブレンドコーヒーッスよー!」

コーヒーと薬の特製ブレンドである。

「…………」

いそいそと目の前に置かれたコーヒーをしげしげ眺め、美神は無言で腕を組んだ。
怪しい。横島の態度も怪しいが、コーヒーが自分だけしか用意されていないのもおかしい。
普通こういった場合、全員分のコーヒーなり紅茶なり淹れるものだろう。横島はそこまで気の回らない男ではない。
そして美神は見逃さなかった。自分がコーヒーを観察しているその間、横島の頬に一筋の冷や汗が流れた事を。
結論。何か盛りやがったなコイツ。

「……悪いけど私、今、喉渇いてないのよね」

「い、いや、でもホラ、午後のうららかな日差しに当てられ眠くなったりとかしたらマズくないスか?
 それにアレですよ! コーヒーには、確かポリエチレンだかポリエステルだかポリバケツだとかいった体にいい成分が含まれてんスよ?」

正しくはポリフェノールだ。微妙に惜しい。

「へぇ、そうなんだ。確かに体には気を遣った方がいいわよね」

「そうッスよ! やっぱこの仕事、体が資本ッスから!!」

「でも私、日頃からいいもの食べてるしね。それより、貧乏生活でロクなもん食ってない横島クンの事が心配でたまらないわホント。
 …というわけでコレ、アンタに譲ってあげる。遠慮せず飲みなさい? つーか飲め」

「え゛ッ!?」

「…何、その顔? 何か飲めない理由でもあるの?」

「え、あ、いや、そのぉ…………えっと、実は俺、コーヒーアレルギー……じゃないッスよねすんませんマジでごめんなさい許して」

何とか言い逃れしようとするも、美神の眼光の鋭さにビビリ、平謝り。
これで何とかお茶を濁そうと試みた横島だったが、現実…というか美神令子は甘くなかった。

「ま、それはともかく飲みなさい。飲まないと給料50%カットするわよ?」

「………」

これには流石の横島も覚悟を決めざるをえなかった。ただでさえバカ安い給料、これ以上下げられてはリアルに命に関わる。
ここやめてまともなバイトに就けばいいじゃん、などといった考えが浮かんでない横島は、もうすっかり骨の髄まで奴隷根性が染み付いていた。
そんな奴隷丸出しの横島はご主人様の命令に背く事などできない。本能的にできない。主に防衛本能的に。
…ごくりと生唾飲み込み覚悟を決めると、カップを手に取り、横島はその中身を呷った!

ぐび、ぐび、ぐび。
コーヒーフューチャリング何かが順調に飲み下され、空になったカップがソーサーの上に落ちる。

「ぐ……あッ……」

そのカップ高かったんだから気をつけてよね、と美神が注意する前に、横島は胸を掻き毟るように苦しみ出すと、やがてばたりとその場に倒れる。
一瞬の静寂の後、事態が爆発する。

「ちょ、横島クン!?」

「よ、横島さんっ!?」

「せんせぇっ!!」

「な、何なの…っ!?」

4人が4人とも大慌てで横島のもとへ駆け寄り、美神がそっとその上半身を抱えるように持ち上げる。
横島は息も荒く、苦しげに表情を歪めていた。珠のような汗が額に浮かび、結ばれるように眉根を寄せている。
美神は後悔に襲われていた。横島が一体何のつもりでこんな薬を自分に盛ろうとしたのか分からないが、それでも。
悪戯心と少しの怒りで横島に飲ませてしまったが、こんな劇薬が入っている飲み物などさっさと捨てさせてしまえばよかったのだ。
自分の判断ミスが横島をこんな目に遭わせてしまっている。自分のせいだ。このまま横島が目覚めなかったらどうしよう。
彼の両親や、おキヌを始めとする仲間たちに何と説明、謝罪すればいい。それに何より、彼自身に対してどう償えば。
そしてふと、彼が自分の隣にいない、それどころかどこにもいない未来を想像し、ぞっとする。横島忠夫が存在しない世界。それは悪夢だ。
美神の混乱は加速する。どうしようどうすれば目覚める治せる病院に連れて行けばいやそれよりヒーリングでしかしそれもいまいちどうもやはり専門家を頼るという意味で魔鈴あたりに協力を求めるべきかカオスもいる事にはいるが全く頼りにならないそれは厄珍も同じいや待てよそもそも横島クンが私に飲ませようとした薬なんだから惚れ薬とか媚薬とかが妥当な線でそれを横島クンに持たせるような人間なんてこの2人のどちからしかありせないわけでもしそうなら絶対に許さないブチ殺してやるその前にこの薬の解毒剤か何かを回収するのが先決ででも今この場を離れるわけには行かないといって代わりに誰かを向かわせてもあの野郎は巧妙に言い逃れるなりなんなりしてごまかすわけでやはり自分が出て行かなければあれなんかおっぱいがキモチイイ?

違和感を感じて視線を胸元に下ろしてみると、自慢のバストが思うさまに揉みしだかれていた。
今度はゆっくり、意識を失っている筈の横島に視線を戻す。彼の目はパッチリと開いていた。
美神と目が合うと、横島は頬を朱に染め、慌てて顔ごと視線を逸らした。

「か、勘違いしないでよね! す、好きで揉んでるわけじゃないんだからっ!」

言うまでもなく、可愛くなければこれっぽっちも萌えやしない。
美神の堪忍袋は、緒が切れるどころか袋そのものが爆発した。

「ごらあぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

べぐしゃ、と人体が発したとは思えない音を立てて美神の拳が横島の顔面にめり込む。
ここから先は、バイオレンス表記というかむしろ年齢制限に関わるぐらいの残虐行為がおよそ6時間ほどぶっ通しで続くので、この際割愛させていただく。


結論から言うと、、オペレーション『ツンデリングベイ』は失敗した。
横島は即日入院、1週間経った今でも意識不明。彼の回復力をもってしても退院の目処はついていない。
厄珍は事件の翌日から行方不明。厄珍堂は経営権が何故か美神に譲渡された。近々、店名を変えてリニューアルオープンするらしい。
カオスはマリアに乗って国外逃亡を図り、オカルトGメンに国際手配された。資金力がゼロのため、捕まるのも時間の問題だろう。

ツンデレ萌え。それは男のサガ。時にこのような悲劇を招きながらも、その情熱の炎が消える事はない。
無数の萌え思想が、萌え派閥が跳梁跋扈するこの時代。彼らにとり、ツンデレこそが全てなのだった。
ツンデレは真理。ツンデレは正義。ツンデレは絶対。ツンデレは永遠。ツンデレは不滅。


世にツンデレある限り――――彼らは、闘い続ける。


        ――何故かドキュメンタリー風におわる――


△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI