インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「懐かしきあの日々(絶対可憐チルドレン)」

佐藤 (2006-04-10 01:29)

叩きつけるような風が吹いた。
爆発音と共に林立する高層ビルから煙が昇っていく。
見ると先程までは無事だった隣りのビルの壁面がごっそりと削りとられていた。
潰すでも、壊すでもなく。
それは何か強大な力でこそぎ落とされたかのように――。
風に流されてか焦げ臭さが鼻についた。

「動くなッ、”破壊の女王”【クィーン・オブ・カタストロフィー】!!」

鼓動が胸を揺らす感覚。
まるで映画の一場面のように振り向く彼女、それに対して熱線銃〈ブラスター〉を向ける。

「いや、……薫ッ!!」

それは全く現実感を伴わない光景。
自分が薫に対して銃を向けているという現実がまるで幻想のようで……。
信じることができない。
いや、ただ現実と認めたくないだけなのかもしれない。
どうして?
手に握っている熱線銃が低い唸りをあげる。

「熱線銃でこの距離なら……確実に殺れるね。撃てよ、皆本!」

そう、この距離ならエスパーだろうが普通人(ノーマル)だろうが関係ない。
僕が数年前に開発したこの熱線銃を無効化する手段はない。

「でも――あたしがいなくなっても何も変わらない。他の大勢のエスパーたちは戦いをやめないよ」

撃てば死ぬ。
ただこの指を引くだけで薫は死んでしまう。
それなのに微笑みさえ浮かべている彼女。

「………!!」

いつからだろう、彼女たちの心がわからなくなったのは――。
昔は純真とまでは言わないが根はわかりやすい子供だったこともあって彼女たちが何を言いたいのかわかっていた。
上司として。保護者として。仲間として。
互いに言葉にせずともわかっていた。
――いや、わかっているつもりだった。
今はただその心に触れたくて叫びをあげる。

「なら……みんなをとめてくれ!!頼む!!「エスパー」だ「普通」だって──こんな戦いが何を生むっていうんだ!?」

彼女たちが自分の前から消えた。
そして、その時から世界は姿をがらりと変えてしまった。
噎せかえるような死の匂い。
視界の隅では衝撃に巻き上がる粉塵と身を焦がすような炎が見える。
冷たいのか熱いのかよくわからない嫌な汗が背中を流れた。

『薫!?どこや!?敵が核兵器を使う気や!!この街はもうあかん!!早く…あッ!!』

「!」

焦ったような葵の声が聞こえた。
それは薫が耳にはめたイヤリングからだった。

「もう……無理だよ」

待ってくれ。
やめろ、やめてくれ。

「知ってる?皆本……あたしさ――――」

目にうっすらと涙を溜めて、
――どうして。
薫が真っすぐにこちらを見つめる。
――薫、なにか言ってくれ。
彼女が持っている力の片鱗が、
――どうして僕と君たちが争わなければいけないんだ。
空間を白く歪ませる。
――どうして。


そして、片手を前に出した。


「やめろ……!!薫――――――!!」


ドン、と
鈍い音がその胸を貫くまで、
その最後の瞬間まで彼女は微笑んでいた。


絶対可憐チルドレン Fanfiction Storys
――懐かしきあの日々――


なにが起きたのかわからなかった。
馬鹿みたいに震えている手にある痺れるような感覚がなにもかもを曖昧にしていた。
それでも心は事実を認識するかのように痛みだけを伝えていた。
カラン、とコンクリートの上に熱線銃が落ちた音でようやく我に返る。

「か、薫っ!!」

駆け寄って抱き起こす。
今までに経験したことのない冷たい震えが指先から身体中を走った。
ぐったりとして、力の入っていない体。
自分の頭はありのままの現実を既に認識していた。
薫の体が急速に熱を失っていく。

「あ……」

その時になってやっと気がついた。

――僕が、薫を撃った?

何故?
本当に自分が撃ったのだろうか?
恐怖心?
条件反射で?

いずれにせよ、熱線銃から放たれた弾は正確に胸を貫いていた。

もう助からない。
それがわかっていても胸の下部を手のひらで打つ。
延命処置をしても無駄だ、熱線銃で胸を打ち抜かれた彼女の鼓動が戻ることはない。
頭でそれをわかっていても震える身体は心臓マッサージと人工呼吸を続ける。
呼吸も脈拍もない。
わかっている、わかっているんだ。
それでもわかりたくなかった。
この行為は無駄だと、そんなことがわかる自分の頭が嫌だった。
目の前で消えていく命がわかる。

「薫!!助けにき――!?」

「……皆本さ、ん?」

背後で葵と紫穂の声が聞こえた。
そうだ、自分には無理でも彼女たちならばなんとかできるかもしれない。
身体を揺らさないように薫を背負う。
昔より随分重くなっていて、その重さが薫と離れていた年月を教えていた。

「葵!すぐ薫を病院に!!」

葵が呆然と立ち尽くしているのが見えた。
紫穂が慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
久しぶりに見た彼女たちは随分と成長していて、歪んでいた。
何故か自分の目から流れ落ちる涙のせいで前がよく見えていない。
早く、早く薫を渡さなければいけないなのに――。

「まだ病院に運べば「皆本さん」

紫穂が言葉を遮る、その手は僅かに光っていた。
そして、そのまま首を横に振った。

「皆本さん……薫ちゃんはもう……」

「そんな……」

嘘だ、と呟いた。
超度7の接触感応能力者(サイコメトラー)である紫穂の言葉が重かった。
――なにか読み取れなかったことが。
――僅かでも可能性があるのなら。
いくつもの言葉が頭を過ぎる。
でも、それは全く現実味をおびていない。

「認めへん!!」

「葵ちゃん……」

「認めへん!!ウチはこんな結末を絶対に認めへんッ!!」

同じだった。葵は僕と同じ気持ちだった。
そして紫穂もそうだ。
二人が何を言いたいのかがわかる。
あんなに離れていたのに、今更になって僕たちの気持ちは1つになっていた。
それなのに薫の命は――。

「でも葵ちゃん!!薫ちゃんの心臓はもう……!!」

「わかっとるっ」

「……それなら……!」

「薫の命が消える?ウチは、ウチはそんなことを認めへん!!そんなら、そんなら――!!その”過去”を捻じ曲げたるわああっ!!」

葵が足を踏み込む。
ゴオオオ、と音をたてて大気が揺れた。
突然、ビルの上であることを差し引いてもおかしいほどの強風が吹き荒れだす。
”空間が歪む”
僕たちが立っている空間が歪んでいく。
足元にあった砂埃や小さなゴミが虚空に舞い上がってはその空間に囚われる。

「空間を歪ませてる?いったいなにを?!」

超度7である葵が全力で空間を歪ませる。
その結果はすぐに出た。
強大な力によって強制的に歪まされたその空間に”穴”が開こうとしていた。

「これ、光が歪んでる……」

「光が歪んで?……光を!?」

紫穂の言葉に気がつく。
瞬間移動能力者(テレポーター)は物体を離れた空間に転送する能力。
そして、物体を転送するには空間を歪ませられることが条件だ。
空間を歪ませる――まさか……!!

「時間移動する気か!?葵、いくらなんでも無茶だ!!」

空間を歪ませる。
もし、それが光をも歪めるレベルに達したら――。
理論上はある種の時間移動能力さえ得ることができるはず。
飽く迄、理論上は。
信じられないが葵は今”それ”をやろうとしている。

「大丈夫や……!!ウチはな、”光速の女神”【ライトスピード・ゴッデス】と呼ばれた女やでっ!!」

暴れ狂う空間。
無理矢理に歪まされた空間は必死にもとに戻ろうとしていた。
葵が額に汗を浮かばせ、決死の形相でそれのたずなを握ろうとしている。
もともと無茶な理論なのだ。
時間を意のままに移動する?そんなことが簡単にできるわけがない。
そして、葵もそれをわかっている。
わかっているからこそ身に余る強大な力を必死に制御している。

「待ってくれ!!それなら一旦落ち着いてからでも遅くはない!!もし、君たちに何かあったら僕はっ!!」

「皆本さん、もうこれしかないわ。どっちみち後数分でこの街全てが核兵器に呑まれてしまうもの」

「核兵器だって!?」

「葵ちゃんといえど、3人の大人を運びつつ敵からも同時に逃げ切れるかどうかは怪しいわ」

「そうだが!時間移動が成功する確率なんて……」

「大丈夫、きっと葵ちゃんは成功させるわ」

「そうやで皆本はん、見てみい」

振り向くと空間にうっすらと”穴”が現れていた。
それは言うなれば空間の割れ目――。
今という時空と過去という時空とが無理矢理に繋げられたワームホール。
もう何が起きるのかわからない。
手を握りしめる。
震えはいつの間にか消えていた。


「皆本さん」「皆本はん」


二人は昔と変わらず僕の前に立っている。
まるで、上司の決断を待つかのように。


目の前で葵が笑っている。

――皆本はんはいつになっても心配性やわ。

隣りで紫穂が腕を引っ張ってくれている。

――大丈夫、例えどんな困難でも4人一緒なら心配ないわ。

背中にいる薫が教えてくれている。

――皆本、行こうぜ。

僕たちの間にどんなに時が過ぎようとも1つのチームであるということを。


「……わかった、行こう」


葵の手を取る。
そこから力が体全体に伝わっていく。


「一番楽しかったあの頃に――」


「ウチらはもう一度やり直すんや――あの時を――」


「――あの日々を、もう一度――」


消えゆく意識の中で、
背負った薫が微笑むのを見た気がした。


つづく?


△記事頭

▲記事頭

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze