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▽レス始

「お年玉(GS)」

valy (2006-01-29 21:54)


「お年玉頂戴、横島!!」

「先生、拙者にも!!」

新年初出所の日、横島が事務所に顔を出した瞬間その言葉はかけられた。

「だぁっ、新年の挨拶もせんと、いきなり何だ!?」

「仕方ないじゃない、私達にお年玉くれるのなんて美神さんと横島しか居ないんだから!!」

「そうでござる、拙者は里を出て修行に来ている以上は成人として扱う、だからお年玉はやらんと言われてしまったんでござるよ!?」

「だからって俺んとこ来んなっ、俺がどんな生活送ってるか知っとるだろうが!!」

拒否の言葉を叫んだ瞬間、狐火と霊波刀が横島に迫る。

「のわぁっ、何しやがる!?」

「う〜、お年玉くれないなら横島を殺して私も死ぬっ!!」

「何処のメロドラマかっ!!」

狐火でちょっと焦げながらもサイキックソーサーで必死に回避。

「先生っ、先生は一番弟子の拙者が可愛くないと仰られるでござるか!?」

「誰もんな事は言っとらん!!」

「じゃあ、黙ってサクサクとお年玉を寄越せば良いんでござる!!」

「何でそうなるっ!!」

栄光の手で鍔迫り合いをしながら怒鳴りあう。

新年早々、騒がしい事この上無いのだが、珍しく美神が怒鳴りつける事も無い。

普段通りなら二日酔いの美神の鉄槌か怒号がそろそろ下るはずなのだが。

「……そう言や美神さんからはどうなんだよ、もらえなかったのか?」

「居ないの」

「へ?」

「おキヌ殿は先生もご存知の通り三日前から御実家に、美神殿は一昨日、美智恵殿に連行されて南米のあまぞんとやらに飛び立って行ってしまわれたんでござる」

そこで、横島の顔に冷や汗が浮かぶ。

「……じゃ、お前ら、メシ、どうしてんだ?」

「……昨日から何も食べてないわよ」

二人に目線で確認すると、力強く頷かれた。

「じ、人工幽霊一号、マジか!?」

『ええ、私の自由になるお金はありませんし、おキヌさんが帰省すると言う事で食材も残って居ませんでしたから、どうにか連絡を取りたかったんですが誰も捕まえられなかったもので』

「正月は店屋もんで済ますって言ってたもんなぁ、美神さん」

深々と溜息を吐き、期待に目を輝かせるシロと、某金融会社のCMのチワワの如く見捨てたらどうしようもない罪悪感に襲われそうな瞳でじっと見上げてくるタマモを横目に横島は財布を取り出して中身を確認する。

年末は忘年会やらクリスマスパーティーやらで食い溜めが出来たし、まだ給料を貰ってからそう日が経って居る訳じゃないし、何よりも今回は何故か何時もよりちょっとだけ多めに貰っている。

とりあえず、一度目を瞑り、考える。

(……二人に奢らなければエロ本が買える、買えるが、人としてっ!!!!)

等と間違えた事を考えつつ、横目に二人の目を見、諦めの溜息を吐き、二人の頭をポンと軽く叩くように撫でる。

「しゃあないなぁ、留守番頼むな、人工幽霊一号」

『はい、いってらっしゃい、横島さん、タマモさん、シロさん』

「先生ッ、拙者お肉が食べたいでござる!!」

「私は油揚げっ!!」

「わぁってるよ、肉と油揚げねぇ……和食中心のファミレスだな、こりゃ」

新年早々散財だと嘆きながら、二人を連れて歩き出す。

どちらかと言うと、二人に引き摺られて居るように見えるのだが。


「あ〜、喰ったなぁ」

「拙者、満腹でござるよ」

「私も、お腹一杯」

満足気に寛ぐ三人の前には大量の開き皿が山のように連なって居る。

とは言え、以前フェンリルの事件の時に横島とシロが二人で食べたバーベキューの時と比べれば圧倒的に少ないのだが。

あの時のシロは超回復の直後だったと言うこともあるだろうが、普段と比べるとやはり少ない。

意識しての事なのかどうかはわからないが、シロは何気なくセーブしていたらしい。

タマモは、普段より少し多めにお稲荷さんを食べただけで二人と比べれば圧倒的に小食だから、本当に満腹なのかもしれないが。

「にしても、珍しーよなぁ」

「何がでござるか?」

「ん、いやな、美神さん、アレで結構回りに気ぃ使う人だからさ、お前等の為に唐巣神父なり魔鈴さんなりに連絡入れてメシ関係の事とかどうにかしてくれると思うんだけどな、普通なら」

実際、以前横島の給料日を忘れていたからと、精霊石の買い出し先から帰ってきたりもしてくれたのだ。

……その時は、落とした五十円玉を拾おうとした横島が運良くと言うべきか運悪くと言うべきか偶然美神の胸を触ってしまって、前科を一つ得る事になったのだが。

まぁ、結果はともかく、横島に給料を渡し忘れた、と言う理由でどれだけ急いだとしても十数時間はかかる帰路を帰って来てくれるような女性なのだ、その程度の配慮は出来る。

それが、何の連絡が無いと言うのもおかしい話。

「ま、ただ単に隊長に連絡用機材の無い所まで強制連行された可能性もあるんだけどな」

南米アマゾンの奥地で研究に明け暮れて居る父親に会いに行くとなると、そう言う事もあるだろうと横島は納得する。

シロとタマモの二人はアマゾンがどう言う場所かわからないからか不思議そうに首を傾げて居たりするが。

「ま、それはともかく、問題は美神さんが何時帰ってくるかだよなぁ」

「どうしてよ?」

「タマモは豆腐屋とかから買って来るようなたっかい揚げでもなけりゃ問題無いんだよ、お前って小食だし、問題は俺とシロのメシなんだよなぁ」

苦笑交じりに説明すると、タマモはなるほど、と言う顔で頷き、シロは申し訳なさそうにうな垂れる。

「うぅ、申し訳ないでござる、先生」

「んにゃ、別に謝んなって、二〜三日なら食費も続くし、最悪魔鈴さんとこに行きゃ毎食でなきゃツケてくれる、最悪一週間後には美神さんも帰ってくるだろうから、そん時にでも立替お願いすりゃ聞いてくれるだろ……たぶん」

冷や汗混じりのその言葉にシロとタマモは申し訳なさそうな、心配そうな目を横島に向けるが、横島は苦笑で流してしまう。

非常食として数日分の食料は保存してあるし、何よりも二〜三日メシ抜きと言うのも珍しくない生活を送って居るのだから余裕なのだ。

「最悪、山入って山菜でも採ったり、狩りでもしてくりゃ死にゃせんだろ」

「うぅ、せんせー、真に、申し訳ないでござる」

「……その、ゴメン」

「だぁら、俺が謝らんでいーって言ってんだから、気にすんなって、子供が大人に気ぃ使うな」

普段は横島を気遣う人間なんておキヌちゃんぐらいしか居ないからか、それとも周りに気を使うなん事は滅多にしない二人が気を使ってくれているのが嬉しいからか、楽しげに笑ってぽふぽふと二人の頭を撫でている。

実際、横島もまだ大人を名乗れるほど年を経た訳でも経験が豊富な訳でも無いが、それでも二人よりは年上だから大人として振舞う。

普段の行いを考えると情けない所ばかり見せているのだから、今更大人ぶった所で何の意味も無い気もするが、それはそれ、これはこれ、と言う奴だ。

(ひのめちゃんの相手してるとな〜、お兄ちゃん気分ってのも悪くないって思っちまうんだよなぁ)

二人の申し訳なさそうな、それでいて何処と無く嬉しそうな顔に横島は更に笑みを深くしてお茶を啜る。

「でも、まぁ、残念っちゃ残念だよなぁ」

「何がでござるか?」

「ん、いやな、お前等もお年玉っつーか、金に興味持つようになったみたいだし、ちょっとぐらい出してやっても良かったかなぁ、とか思ってたんだよ」

実際、二人は社会勉強の為と言う名目で美神の所で世話になっているのだから、金銭に興味を持つのは悪い事じゃない。

手持ちの金額の中から欲しいモノを選び、時には諦める。

人間なら子供の頃から普通にしている取捨選択。

獣ならば獲物の強さや状況に合わせてそう言う事も出来ない訳では無いが、基準が人と違うのだ。

その基準を学ばせる為にも、自由になるお金を持たせて、そこから考えさせると言うのは良い考えだと、思うから。

……美神を間近で見ていると色々と問題もありそうな気はするし、そんな事を考えて居る横島自身、日々の食事よりもエロ本の類にお金を注ぎ込んで居る辺り色々と問題のある人間が周囲に居ないのだから、二人がまともな選択を出来るようになるかどうかは甚だ疑わしかったりするのだが。

「で、二人はお年玉貰ったら何する予定だったんだ?」

「……横島、お年玉ってお金の事だったの?」

「拙者、里の皆からのお年玉は干し肉だったからこっちでもそうなのかと思っていたんでござるが」

「あ〜、何だ、金が欲しかった訳じゃないんか」

残念そうな、それでも何処と無く嬉しそうな苦笑を浮かべると、シロとタマモは不思議そうに横島を見上げる。

さっきはお金を欲しがると思ったから嬉しそうに笑っていたのに、今はお金を欲しがらないと聞いてまた笑う。

矛盾しているが、何と無くその両方が違和感無く横島の中に収まって居るのを見て、二人は余計に不思議に思う。

「ん、どした、二人して」

「え、いや、どーして横島は私達がお金に興味を持っても持たなくても嬉しそうなのかなぁって」

それが顔に出たのか横島が問いかけるとタマモが正直に答え、横島は考え込み始める。

「あ〜、まぁ、アレだ、俺にとっちゃお前等って妹とか、そんな感じだから、成長してくれるのが嬉しくて、寂しいから、成長したのは純粋に嬉しい、成長して無いって事はもっと一緒に居られるから嬉しいってんで喜んだりしてんだよ」

矛盾はしていない。

矛盾はしていないけど、何か違和感を感じるのかタマモは首を傾げている。

シロは、純粋にそれだけ自分の事を想ってくれているのだと尻尾を千切れんばかりにふりたくっているが。

「ま、アレだ、もうしばらくは俺の妹しててくれよ」

「なら、デジャブーランド、連れてってよ、お兄ちゃん」

「あ、拙者もまた行きたいでござる、兄上!!」

「もうしばらく妹しててくれっつったけどな、いきなりその立場使って攻めてくんなって」

苦笑交じりの言葉を告げながら、財布の中身を考える。

美神がデジャブーランドでの霊障を一手に引き受ける際、報酬として年間パスでもあるVIPカードを事務所の人数分貰っているので乗り物に乗る代金は不要。

必要なのは交通費と食費になるのだが、三人分となるとそれなりにかかる。

それこそ、横島の数日分の食費が綺麗さっぱり消し飛ぶくらい。

だと言うのに、横島は嬉しそうに、楽しそうに笑って受け入れている。

「え、本気で連れてってくれるの?」

「……拒否されるの前提に言いやがったのか、ったく、それくらいの甲斐性ぐらいにーちゃんにだってあるってんだよ」

苦笑混じりの言葉。

でも、嬉しそうな言葉。

戸惑い交じりではあるが、それでも嬉しそうに笑う二人を見ながら、横島の苦笑が純粋な微笑へと変化していく。

嬉しそうな、楽しそうな笑顔へと。

「だけどな、グッズの類買う金は無いからな、言っておくけど」

「なっ、それではどなるど殿の帽子を諦めろと仰られるのでござるか!?」

「……二〜三日水だけで生活する覚悟があるならそれでも良いぞ?」

「それは……うぅ、諦めるでござるよ」

「まったく、そう言うのはもっと上手くやりなさいよね、私みたいに」

「……言われてみりゃ確かにお前の誘導に乗ってるな、俺」

「センセーッ、女狐のお願いは聞けて一番弟子の拙者のお願いは聞けないと仰られるのでござるか!!」

「いや、でもある意味二人の意見だろう、デジャブーランドに行くのって」

「あうぅ、そうでござるが」

楽しげに会話を交わす三人に、周りの人は笑みを漏らす。

仲の良い兄妹達の楽しげな会話に、それぞれの家族を思い浮かべ、小さく笑う。


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あとがき

新年開けましておめでとうございます!!

はい、何とかお正月に年賀のSS、間に合いました!!

……旧正月ですがね

まぁ、とにかく、アレなのです、管理人様も、書き手の方々も、読み手の方々も、またそれぞれ色々と大変な事もあるでしょうが、皆様の今年一年が良い年でありますように、なのですよ


最後に、『ひのめの成長日記』の感想の御礼を

秋斗さん、シヴァやんさん、masaさん、なまけものさん、獣さん、義王さん、白銀さん、孔明さん、狛犬さん、朧霞さん、柳野雫さん、カシス・ユウ・シンクレアさん、

感想、ありがとうございました

続編を、と言うお言葉すら頂けるほどに喜んでいただけて嬉しい限りで、御期待に沿える事が出来たら良いのですが、上手く纏まらないので続きは機会があれば、と言う事で納得いただければ何よりなのです

それと、十二年の間に女性陣が誰も落とせなかった、と思っておられるようですが、私は自称ハーレム書きなので、そこら辺から御想像にお任せするのです

続きを書く事があればそちらでその事についても触れるかもしれませんが、現状書くかどうか未定の状況ですので、言及はいたしません

皆様方が思い描く未来がそこにある、そう思っていただかれば、何時か私が続きを書いた時にその違いをより楽しんでいただけるかと思いますので

今回は、これにて失礼いたします


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