初日の出
チュンチュンチュン
「ん・・・ん?」
外で鳴くスズメの声に眼が覚める。肌寒い室温が私を布団の中に留ませる。一度目を覚ましてしまうと二度寝する気が起きない。私は頭だけ布団から出すと一番近い窓に眼を向ける。外はまだ薄暗い。もうすぐ日が昇るのだろう。
「ふぁ〜あ、変な夢見ちゃった」
私は布団の中で大きく背伸びをした。少し布団がはだけて冷たい空気が私の体を覆った。実際はどんな夢を見たのか覚えてはいない。でもいい夢でなかったのは確かだ。
背伸びをして体を起こした私に冷たい空気がこれでもかと私の体を襲う。私は少し体を震わせながら時計に眼を向けた。
「6時か・・・・・・・・・もうすぐ日の出ね」
昨日調べたところによると今日の日の出は6時50分位らしい。私はベッドから飛び降りると着替えを始めた。顔を洗って歯を磨き、チャームポイントのヘアスタイルも整えた。外に出ても寒くないように上から厚手のコートを羽織り私は外へと駆け出した。
「はっ、はっ、はっ!」
普段寝起きに走ることがない私が東の海が見える丘に駆け足で登っていく。あの人がいるであろう丘に。朝の寒さに吐いた息が白くなっている。
少しずつ空が明るくなってくる。日の出が近い証拠。
「何で私がこんな坂登ってんのかしら・・・・・・・・・」
そう言いながらも足を止めない私。丘を登りきると大きな公園があった。周りをたくさんの木々で囲まれた公園。少し潮の匂いがする。目の前の木々を通り抜ければあの人が待っているはず。私はあせる気持ちを押さえつけながらゆっくり木々の中に足を踏み入れた。時刻は6時45分。
「よう」
木々を抜けるとその人がいた。振り向いて声をかけてくれるその人の顔は逆光で見えない。海と、空と丘の下に佇む町全体が赤く染まっている。水平線の向こうはまるで燃えているかのように真っ赤になっていた。
私は返事もできずそのすばらしい光景に見入っていた。
「きれい・・・・・・・・・」
真っ赤に燃える水平線から大きく、赤く燃える太陽が昇ってくる。太陽は昇るにつれて円の形へと成して行くのが分かる。
完全に水平線から顔を出した太陽が真っ赤な円となって私の目の前にある。こんなにゆっくり日の出を見たのはいつぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。これほど美しいものを見ることができた。この人と一緒に。私の目に少し涙が浮かんだ。
「ふぅ、明けましておめっとさん」
「え? あ、うん・・・・・・おめでとう」
その人は太陽の色が変わり始めたころ、毎年のように交わす新年の挨拶をした。咄嗟に私も答えたけど頬に涙の後が残ってた。
「ん? どした? 泣いてんのか?」
「な、なんでもないわよ! ちょっと太陽の光に眼がしみたのよ」
「そっか」
その人はそう言うだけでまた水平線に眼を向けてしまった。私は気恥ずかしくなって俯いたまま隣に立っている。
「きれいだったろ?」
「え?」
「初日の出」
「う、うん」
水平線を眺める横顔に私は素直に答えてしまった。
「前にあるやつが言ってたんだ。 夕焼けは昼と夜の一瞬の隙間、短い間しか見れないから美しいんだって」
「ヨ、ヨコシマ?」
「俺も夕焼けは好きだけど、朝焼けも好きなんだ。 同じ短い間しか見えないけど、何かが終わるだけじゃなくて、何かが始まる瞬間もきれいだろ?」
日の当たる横顔が一瞬悲しそうに見えたのにいつの間にか微笑んでる。そんなヨコシマの横顔をいつまでも見ていたい。そんな風に思った。
「ヨ、ヨコシマのくせにカッコ良過ぎるわよ」
「はは、ガラじゃなかったな・・・・・・・・・さてと、タマモ帰るか」
「うん」
初日の出に願い事、今年一年この人と一緒にいられますように・・・・・・・・・
おわり
あとがき
お久しぶりです!鱧天です!最近自分のマシンのHDが壊れるといった被害に合い、復旧作業(マシン入れ替え)でデータ紛失、汲み取り作業に手間取り長くネット界から遠ざかっていました。
年末に復旧し、いざ「書くぞ」と言ったときにインスピレーションが高まらずにいた所、初日の出を見て最高潮になりこの作品を書きました。
ちなみに、シロとおキヌちゃんは年末年始のため帰省中です。美神さんは朝苦手そうなので・・・・・・・・・
では今年一年もよろしくお願いいたします。