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▽レス始

「雪やこんこん シロはわんわん(GS)」

のりまさ (2005-12-25 22:40/2005-12-25 23:06)

 真っ白な雪が世界を染める。

 真っ白に。

 真っ白に。

 しんしんと降る雪を見ながらも、

 シロの鼻はうずうずうずうず。

 犬は喜び庭駆け回るとは言うけれど、

 シロにはやっぱり狼のプライドがあるものだから、

 そんなことはないとつい同僚に意地を張ってしまう。

 本当は自分の師匠と駆け回りたいのだけれども。


「犬じゃないもん!」


 とまあ、ついついこう言ってしまうわけで。

 でもシロが降りしきる雪の中を駆け回りたいと思っているのは、

 皆にはお鼻の動きで一目でばれちゃう。

 シロの鼻はひくひくひくひく。

 昔はこんな雪が降った日は、父と一緒によく遊んでくれたものだと、

 ついついシロは思ってしまうけれど、

 ここは里の中ではなく東京で、

 父はもうこの世にいなくて、

 なんとなく悲しくなってしまう。


          雪やこんこん シロはわんわん


 父は昔よく言ってくれたものだと、

 シロは物思いにふける。


「お前が生まれた時も、こんな風に里中が真っ白に雪で染まる日だった」


 そうなんでござるか?


「うむ、その日は里でも稀に見る大雪の日でな。
 身ごもっていた妻はその寒さにやられてかなり弱っておったし、
 そうでなくとも妻は普段から身体が弱かった。
 そんな時に陣痛が始まったよ。
 なんとも運の悪いことだと思った。
 その寒さではお湯も中々湧かず、母子共に危険だった。
 今だからこそ言うが、拙者はこう言ったのだ」


『堕ろそう、今回はもう子供は諦めよう。
 少子化を危険視する村の者共は反対するかもしれんが、
 拙者はお前の命の方が大事。
 これで終わりなわけではない。
 子供は俺にとっても残念だが、次にまた生めばいい。
 お前が亡くなれば、もう子供を生むことすらなくなるのだぞ』


「そう言ったよ。拙者は妻を愛しておったからな」


 ……それで母はなんと言ったでござるか?


『私たち人狼は人間よりも寿命の長い種族。
 でも私は身体が弱いから、きっと人間と同じ、
 いいえ、それ以下しか生きられないでしょうね』


『ならば!』


『でもね、あなた。確かにこの子を堕ろせばそれで私は助かるかもしれない。
 そうすればいずれまた子供を産む機会があるかもしれない。
 確かにこの子は私たちがいずれ産む可能性のある、
 多く子供の命の一つでしかないのかもしれないわ。
 でもね、この子にとってはこの命が全てなのよ?』


『だが、それでお前が死んだら元も子もないだろう!』


『窓を見て。雪がたくさん降っているわ。
 あの雪は生きてはいないけど、確かにそこ存在してる。
 すぐに地面に落ちて、
 はかなく消えてしまうと運命付けられているけれど、
 どれも必ずその運命を全うする。
 どんな生き物も皆いつか死んでしまう。
 人間だって人狼だって妖怪だって、
 神族や魔族だって例外じゃないわ。
 その命が長かろうと短かろうと関係ない。
 皆自分のいつか死ぬ運命だと分かっていても、
 それでも精一杯生きようとしている。
 雪と同じ。
 雪が必ず日光と共に溶けて天に帰る運命だとしても、
 雪は地面に落ちる前に消えたりなんてしない。
 例え一瞬で消える身とだと分かっていても。
 生きている物は皆その一瞬を一生懸命生きようとしているわ。
 だから私も今を、この一瞬を生き抜くわ。この子と共に。
 ほら見て。この子も……』


「妻の膨らんだ腹に手をやると、お前が暴れておった。
 どんどんどんどんと妻の腹を蹴ってな」


『ほら、この子も言ってるわ。生きたい生きたいって。
 この子はもう、生きてるの。
 生きているのよ、あなた』


 それで、どうなったのでござるか?


「お前がここにいるということは、分かっているだろう?」


『……分かった。だが約束してくれ。
 決して死なないと。
 お前一人生きていても、子供一人生きていても意味がない。
 お前たち二人が生きていないといけないのだ』


『分かってるわ、あなた。
 あの真っ白い雪のように、
 私も最後の最後まで生き抜くから』


「妻はそう言った。
 そして事実その通り、医者の予想をも超えて生き続けた。
 お前が物心つくまでとは叶わなかったが……、
 それでもあの雪のように、
 自分の運命が分かっていても生き続けた」


 ……後悔しているでござるか? 拙者を産ませたことを。


「いいや、後悔などしていない。
 しようはずがない。
 お前が産まれてきてくれたことは幸福だった。
 お前という存在が、妻が死に、生きる希望をなくしかけた私を、
 地面へ落ちる前に消え去ろうしていた雪のような私を救ってくれた」


 ……なんかくすぐったいでござる。


「お前が産まれた時、私も勿論喜んだが妻の喜びようは凄かったな。
 狂喜しながら妻は言ったよ。この子の名前はもう決めてあると」


『この子の名前はあの雪のように、
 例え一瞬で消えてしまう運命だとしても、
 それでも生き抜くあの雪を一言で表す言葉――』


 父はそう語ってくれた次の年に、犬飼に殺された。


 父は溶けるまでのその一瞬を生き抜いたのだろうかと、

 シロは思ってしまう。

 思いながらも鼻はひくひく。

 でも今度は別のひくひく。

 シロは考えることがとっても苦手だから、

 違うことが頭の中に入ってしまうと、

 ついついそちらを優先してしまう。


「先生が帰ったでござる!」


 突然のその言葉にびっくりして、皆がドアの方を振り向くと、

 タイミングを計ったようにノブががちゃり。

「ちわっす。う〜、さびぃ! 
 ったく昨日から雪が降りまくりやがって……。
 ここは雪国じゃなくて東京やぞ! 
 大体なんでこんな日まで仕事せにゃならのやー!」


「うっさいわね。仕方ないでしょ高額の仕事が今日までなんだから」


 美神もやっぱり外には出たくないようで、

 ぶつくさ言いながらさも名案のように手をぽんと。


「そうだ、あんたが一人で除霊してきなさい。
 高額のくせに相手は力任せで終わるタイプだから、
 あんたにはぴったりでしょう」


「なんでですか! 
 たった今大雪の中をひいこらひいこら帰ってきたばっかりなのに!
 これであの時給じゃ割りに合いませんよ!」


「ちゃんと特別手当は出すわよ。そうね、報酬の二割はあげるわ。
 それでどう?」


 横島の頭の中では天秤が一つ浮かび、

 片方にはこの寒さを耐えて外出する自分の姿。

 もう片方にはその報酬で買えるはずの、

 最近買ってない18歳未満はいやんな本とビデオが盛り沢山。


 ちっちっち、ぴーん!

 天秤はがたりと片方にすごい勢いで傾いた。


「行きます! 今すぐにでも! そりゃもう!」


「そう、じゃお願いね」


 おキヌが入れてくれた熱いお茶を一口飲むと、

 早速横島はジャンバーを着て出かける準備。


「拙者も行くでござる!」


 それを見て、シロは大声で叫んださ。

 敬愛する師匠に叫んださ。


「いやー楽だった楽だった。文珠一発で片がつくなんてな!
 これで報酬の二割なんてなんて美味しい話なんだか!」


 今回の報酬は一千万。

 その内二百万は自分のものになると思うと、

 自然と顔がにやけてしまう。

 シロも師匠の喜ぶ顔を見れて嬉しいけれど、

 そのうち九割以上が本屋とビデオ屋に還元されると思うと、

 ついつい苦笑いになってしまう。


「雪も止んでるし……、今日は上手いもんでも食いに行くか!」


「本当でござるか!? 拙者は肉がいいでござる!」


 目を輝かせて、よだれを垂らして期待の眼差しを向けるシロに、

 横島はちょっと早まったかなと思う。

 なにせ普段のシロの食事の量を思えば、

 今回の報酬が一体いくら飛ぶか分かりはしないのだから。

 だから少し話を逸らす意味を込めて、


「シ、シロ! そうだ、雪合戦でもしないか!?
 雪があんなに積もってるぞ!」


 その先には真っ白に染まった公園が。

 シロはそれを見て思い出す。

 雪の日に父と遊んだかつての日々を。

 父が話してくれた、母が自分を産んだという日を。

 誘ってくれている相手は自分の大好きな師匠で、

 元々自分も遊びたかったとくれば、


「はいでござる!」


 こういうのは当然で。


「ぶっ! シ、シロ、ちょったんま! あぶっ!」


「ふっふっふ、先生、人狼の肩を舐めてはいけないでござる!」


 大リーガーも真っ青なスピードで繰り出されるその雪玉は、

 いくら雪でも当たれば痛いわけで、

 その上とんでもなく早いので避けることもできないとくれば、

 一時間もすればあっという間に等身大の雪だるまが一丁。

 ぴょこんと手が出ているのはご愛嬌。


「シ、シロ〜。俺はもう駄目だ。美神さんに言っておいてくれ。
 横島忠夫は精一杯生きたと……」


「先生ぇぇぇぇ! 今掘り出すでござる!」


 遊ぶことに白熱しすぎてしまい、

 いつの間にやら師匠が雪だるまになっているのだから、

 シロもさすがにびっくり。

 慌ててここ掘れワンワン。

 ここ掘れワンワン。

「犬じゃないもん!」

 せっせせっせと掘ってると、またもや雪がちらほらと。

 それを見るとシロは手を休め、少し考えてしまう。


 母は一瞬を精一杯生きたのだろうかと。

 父は犬飼に殺されて、それでも満足して生き抜いたのだろうかと。


 それは誰にも分からない。

 シロは彼等ではないのだから。


 だから自分は今生きている、この一瞬を精一杯生き抜こう。

 この父のように暖かい少年と共に、

 シロという名の雪が地面に溶ける、その日まで。


「ごめんよシロ、なんだか僕眠くなってきたよ……
 でも僕はとっても幸せなんだよ。あっ天使様が……」


「先生ぇぇぇぇぇ! ここは教会じゃないでござるぅぅぅぅ!
 あと拙者は犬じゃないでござるぅぅぅぅ!」


 その日が来る前に、

 その暖かい少年は、すっかり冷たくなろうとしていたけれど。


 お、終わるでござるよ!


あとがき
 ちょっと真面目にほのぼのと。落ち無し山無し意味無しとか言わないでくださいねOTZ。
 ちなみにシロの母親については作中で触れられた覚えがないので、結構捏造です。父のほうも。


 さて、そろそろ実家に帰るので年内の投稿はこれが最後になりそうです。
 少々早いですが、良いお年を……。


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