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▽レス始

「幸せを降らせる聖なる夜(GS)」

拓坊 (2005-12-25 16:45)


ついにこの日がやってきた。今宵もついに始まる聖なる宴。

クリスマスと言う名の人々が平和を祈り、友と笑いあい、恋人と愛を育む。

そして皆が幸福を願う、『今宵は皆に幸せを…』そんな聖夜が始まった。

さあ、皆は誰と共にこの聖なる夜を過ごすのかな? そして何を祈るのかな?

ちょっとだけ覗いてみようか…


さあ、始まるよ。皆を幸せにするための願いごとが…今、煌く粉雪とともに舞い降りてくる。


〜冥子・鬼道〜


「マーくん〜。早く〜」


「め、冥子はんそんな急がなくてもまだ時間はあるって」


鬼道は冥子にせかされてその両手一杯の荷物をひいひい言いながら運んでいる。


「でも〜、せっかくのパーティー何だから〜、早く皆と会いたいじゃない〜?」


「まぁ、それもそうなんやけど…この荷物もうちょっと減らなかったん?」


「それは〜、皆へのプレゼントなのよ〜」


冥子は鬼道に向かってにっこりと微笑んだ。鬼道はそれを聞いて納得すると、荷物を持ち直して冥子に追いついた。

そして、二人は降り始めた雪に気付いて同時に空を見上げた。


(そういやアイツは…何しとるんやろな……)


(皆も早く会いたがってるわ〜)


二人の思い浮かべる人物は奇しくも同じ人物だった。


「それじゃあ、急がないといけんな!」


「ええ〜、急ぎましょ〜」


二人はちょっと足を速めて目的の場所に向かう。


〜唐巣・ピート・エミ〜


三人の人影が冬の寒空の道を歩いている。


「ピート〜、早く行きましょうよ」


エミはピートの腕に自分の腕を絡ませて体を擦り寄らせる。


「わわっ、エミさん歩きづらいですって」


ピートは苦笑ながらそう言いつつも、嫌がっているそぶりは見せなかった。


「ピートくん、エミくん、転ばないように気をつけたまえ。今日は折角のクリスマスなんですから」


そんな二人を少し後ろから微笑ましく見守っている唐巣。


「あっ、雪が降ってきたわよピート」


「本当だ…綺麗ですねぇ」


「今夜は良い聖夜になりそうだね」


三人は町の明かりに照らされながら舞い落ちてくる雪を見上げている。


(そういや、アイツは何してるのかしらねぇ)


(きっと、パーティーを楽しみにしてるだろうな)


(彼にも…主の恩恵の在らんことを…)


三人は少し微笑んでパーティー会場へと足を運ぶ。


〜雪之丞・タイガー・かおり・魔理〜


「たっく、何で俺がこんなイベントに付き合わないといけないんだ?」


「雪之丞さん、こんな日だからこそ付き合うんジャー」


愚痴を漏らす雪之丞を、その肩をポンポンと叩きながらタイガーが説得する。


「全くこれだから無法者って言われるのよ」


「まあまあ、けど弓だって久しぶりに会えて嬉しいんだろ?」


魔理がかおりの肩に手を回して悪戯な笑いを浮かべながらそう言った。


「ちっ、しかたねぇな…今日は付き合ってやるよ」


「何ですって! 雪之丞アナタとは一度きっちりと話をしないといけないようですね…」


かおりが雪之丞の態度に対して小言を言っているが、その表情は少なからず微笑を携えている。雪之丞も流石にそれに気付いてそっぽを向いたが繋いでくる手を解かないのを見ると少しは成長したようだ。


「全く、二人とも素直じゃないですのー」


「ホント、わ、私らを見習えばいいのにな!」


そう言って魔理もタイガーの腕に自分の腕を絡めた。その顔は強気ながらも真っ赤に染まっていて、それを見たタイガーはちょっと暴走しかけたが、最近養われてきた自制心で何とか野獣になるのを押さえつけた。


「ん? 雪か?」


「ホントだわ。綺麗ね…」


「最高のシュチエーションだね」


「今日は良い夜になりそうですノー」


四人は天から零れ落ちてくる粉雪を見上げてそう言った。


(アイツ…またアホやってるんだろうな)


(あの人は…いつも通りでしょうね)


(きっと料理とか自棄食いするのかノー)


(多分何かやらかすんだろうな)


四人はそれぞれそんなことを思いながら、互いに愛しい人と並んで歩いていた。


〜愛子・小鳩・貧ちゃん〜


「けど、その貧ちゃんって力弱いけど福の神よね? 何で『貧』ちゃんなの?」


「それはな、わいはちょっと前まで貧乏神だったんや」


「それで今まで呼んでいた名前なので定着しちゃってるんです」


偶然道端でばったり会った三人は行き先も同じと言うことで一緒に歩いているところだった。
互いに自分達の自己紹介をして今度は丁度横島の話題が上がった。


「へぇ〜、小鳩ちゃんは横島君の家のお隣さんなんだ」


「愛子さんは横島さんの机なんですねぇ」


((ちょっと羨ましいな…))


「? 何か二人の気持ちが重なってるような…」


貧ちゃんが首を傾げていると、その額にひらりと小さな白い雪が降りてきた。


「おっ、降ってきよったな〜」


「雪の降る聖夜に皆でパーティー…これも青春よね〜」


「そうですね。皆でお祝いできて私も楽しみです」


ひらりひらりと舞い落ちる雪を見上げる三人は、ふと一人の人物の顔が浮かんできた。


(そういやあいつは今貧乏なんかな〜)


(賑やかなの好きだし…待ちわびてるだろうな)


(何だか…早く会いたくなっちゃいました)


三人は顔を見合わせて、少しペースをあげてパーティーの会場へと向かう。


〜西条・魔鈴〜


「西条先輩、お手伝いしていただいてありがとうございます」


魔鈴がぺこりと礼儀正しく頭を下げる。


「いや、当然のことをしただけさ。しかし、今日はクリスマスなのに店を閉めてもいいのかい?」


西条はさも当然だと言いつつも、人気店である魔鈴の店を閉めてしまうのがちょっと心配になった。


「大丈夫ですよ。お客様にもちゃんとご連絡してますし…今日は何て言ったってクリスマスなんですから」


愛用の箒を撫でながらにっこりと笑う魔鈴。
西条はそうかと言って、魔鈴の肩に手を回そうとしたが、その前に魔鈴が一歩前に出てしまって空を切ってしまった。


「西条先輩、どうかしましたか?」


肩を掴み損ねて変なポーズで固まっている西条に、魔鈴が不思議そうに首を傾げて尋ねた。西条は何でもないと乾いた笑いをあげながら、かわされた手を振った。


「おや? どうやら雪が降ってきたみたいだね…」


「あっ、本当ですね…」


西条は空を見上げ、魔鈴は差し出した自分の手に触れては消える雪を見つめる。


(彼とは今日も一悶着ありそうだな…)


(今日は…とっても良い夜になりそうですね)


西条は苦笑い、魔鈴は満面の笑みを浮かべて、二人はパーティーの会場へと足を運ぶ。


〜美智恵・ひのめ〜


「だあ〜、まぁま〜〜〜」


「はいはい、もうちょっと待ってなさいね」


美智恵は何か待ちきれない様子でそわそわしている最近言葉を覚え始めたひのめをあやしながら、出かける支度を整えていた。
ひのめのほうは抱かれながらも美智恵の服をしきりに引っ張って急かしている。


「全く、本当にアナタは令子と違って素直なんだから…」


「あうぅ〜〜、ふぅんっ」


当たり前だと言わんばかりにひのめは大きく腕を振る。
美智恵はそんな娘にくすりと笑い、荷物を纏めた小さなバックを手に取った。

ふと外を見やると、窓の外にはちらほらと白く輝く雪がしんしんと降っていた。


「ほらひのめ、雪が降ってきてるわよ」


「ゆぅ〜ぅ?」


美智恵は窓の傍によって、降ってくる雪をひのめに見せる。


(彼は…この雪を見て何を思うのかしらね〜)


(あうぅ〜〜にぃ〜〜ぃ〜)


美智恵はひのめを抱き、ひのめは美智恵に抱きついて、皆の集まる場所へと出かけていった。


〜小竜姫・パピリオ・ヒャクメ〜


「小竜姫ー! 早くしないと置いてくでちゅよー!」


「少し落ち着きなさいパピリオ。パーティーは逃げませんよ?」


「そうなのね〜。もう少しゆっくり行っても大丈夫なのね〜」


パピリオは待ちきれないとばかりにそこら中を飛び回り、小竜姫とヒャクメはそれを諭しながら冬の夜空をゆっくりと飛んでいる。


「それにしても本当によく外出許可が取れましたね」


「これも斉天大聖老師様のおかげなのね〜」


「パピリオが頼み込んだおかげでちゅね!」


外出許可の書簡を眺める小竜姫にヒャクメが答え。パピリオがえっへんと胸を張る。
本当なら老師も来て欲しかったのだが、流石に斉天大聖老師クラスになると許可が下りず、妙神山を完全に留守にする訳にもいかないので老師は留守番することになった。


「あっ、雪が降ってくるのね〜」


「雪ですか、やはり綺麗なものですね」


「わぁ〜、これが雪なんでちゅねーー」


はしゃぐパピリオを小竜姫とヒャクメは微笑ましく見守っていた。


(そういえばあの人と会うのも久しぶりなのね〜)


(元気に…しているでしょうか? 心配ですね)


(はやく会いたいでちゅよ〜〜〜♪)


雪が舞い降りる聖夜の空を飛んでいる三人は、ちょっとスピードを上げて目的地へと向かう。


〜ワルキューレ・ジーク・ベスパ〜


「人間の町も久しぶりだな」


「僕は初めてですよ。いろいろな物があるんですね」


「…何で私まで……」


町の中を歩く人の姿になっているワルキューレは懐かしむような目で周りを見る。ジークはこういった町並みを歩くのは初めてのようで目を輝かせている。そしてベスパの方は無理矢理引っ張ってこられたのかちょっと乗り気じゃないようだ。


「けど、魔族の僕達がこの日を祝って良いでしょうか?」


「いや、魔界の最高指導者様から行ってこいと書簡が来てな…」


「なんだよそれは…本当にデタントの危機ってあったのか疑いたくなるわ」


ワルキューレの広げた書簡を見てベスパがため息を漏らす。流石のジークも苦笑しながら冷や汗を流していた。


「ん? どうやら降ってきたようだね」


「へぇ、これが人の世界に降る雪なんですね」


「ホワイトクリスマスと言う奴か…」


空から零れ落ちてくる、魔界のそれとはまた違った雪に三人は暫し足を止めた。


(そういえば…アイツは少しは成長しているだろうか?)


(そうだな、会うのも久しぶりですししっかり挨拶しなくては)


(アイツはどうせ…ふんっ私の知ったこっちゃ無い…ね…)


また歩き出した三人の顔は何処と無く和らいでいる様に見えた。


〜シロ・タマモ〜


「シロー! もうちょっと右よー!」


「こっちでござるか?」


「そっちは左! これだから馬鹿犬は…」


「何おうっ、女狐ー! 拙者は狼でござる!!」


二人はパーティーの会場となる美神の事務所の前でツリーの飾り付けをしているところだった。


「これで…最後よっ!」


「や、やっと終わったでござる…」


タマモが最後にツリーのてっぺんに大きな星を飾って、計二時間近く掛かったツリーの飾り付けが終わった。
因みにツリーは美神が特注で取り寄せた全長五メートルはあるモミの木である。


地面の上でへたばっている二人の肌に、ひんやりとしたものがゆっくりと降り注いできた。


「あっ、雪…降ってきたわね」


「おおー! これは願ってもないことででござる!」


雪が降ってきてシロは喜び屋敷の周りを駆け回り、タマモはその場で丸くなる。


(アイツは…こんな日に何処で何してるのかしらね)


(わおーーん、早く来て欲しいでござるよ〜)


二人はまだ現れぬ、自分達の同僚を寒空の中待ち続ける。


〜美神・おキヌ〜


「おキヌちゃん、料理の方はいいかしら?」


「はい、後はお料理を運ぶだけで完了です」


美神はパーティーの飾り付けを終えて台所を覗き込んだ。おキヌは丁度料理を盛り付け終わったところでお鍋とお玉を持って美神に答える。


「ふぅ、急にここでパーティーやりたいって言い出したときは焦っちゃいましたね」


「本当ね。それなのにいいだした張本人はどこかに出かけていないんだから。これは後でお仕置きが必要ね!」


そう言いながらもちょっと微笑んでいる美神の顔を見て、おキヌはくすくすと笑いながら料理を運んでいる。


「あっ、美神さん雪が降ってきましたよ」


「本当? クリスマスの夜には最高の演出ね」


窓の外に降る銀色の雪を二人は暫し眺めている。


(早く帰ってきて欲しいな。お料理が冷めちゃいます)


(全く…何処をほっつき歩いてるのかしらね…)


ちょっと言葉は違えど、二人の思いは一緒だった。


「美神殿ー! 皆様お越しになったでござるよーー!」


窓の外からシロの声が美神の元に届いた。美神が窓を開けて下を見ると、本当に招待した皆が一斉に集まっていた。


「まだ時間はあるんだけど…皆せっかちね」


「ふふっ、皆さんそれだけ楽しみにしてるんですよ」


そう言っておキヌは急いで料理を運び始めて、美神はシロに皆を案内するように言ってからおキヌの手伝いを始めた。


パーティーに招待した殆どが集まって、事務所の中は一気に騒がしくなった。
皆が皆、思い思いの場所に移動してこれから始まるパーティーを心待ちにしている。


「しかし、本当に何処に行ったんでしょうか?」


「さあ…私は聞いてませんし…」


「一言ぐらい言ってから出かければいいのに…」


小竜姫の問いにおキヌが答え、愛子がしょうがないわねとため息をつく。
パーティーの準備が全て終わって、あとは合図を待つばかりとなったのだが、このパーティーを企画した張本人が不在なため始められないでいた。


「こうなったら探しに行くか?」


「それなら空を飛べる僕が…」


「それなら私も行きましょう」


「ワッシは飛べないけど下から探してみるんジャー」


雪之丞の提案にピートがそれに立候補し、続いてジーク、タイガーもそれに参加する。


「むむむむむ〜、は、早く食べたいでちゅ…」


「もうちょっと我慢しなパピリオ」


「パピリオさんとりあえず砂糖水でも貰ってきましょうか?」


豪勢な料理を目の前にして、最近俗界の料理で舌が肥えてきているパリピオはよだれをたら〜っと垂らしそうになっている。それを見たベスパがそれを止めつつ口元を拭いてやり、一緒に見ていた魔鈴が優しく微笑みながらそう問いかけた。


「へぇ、これが福の神ですか…」


「何だかしょぼそうだな」


「なんやてー! 小槌でしばくぞコラー!」


「び、貧ちゃん落ち着いてね」


かおりが物珍しそうに貧ちゃんを見やり、魔理が率直な感想を言った。流石にその評価には貧ちゃんも怒り小槌を振り上げる。だがそれを小鳩が抑えて何とか圧し留めていた。


「しかし神父。聖職者のアナタがこんなに騒がしいパーティーに出席しても?」


「いや、私は所詮は破門された身だよ。それに皆こんな楽しそうにしているんだ。主もそれをお望みだよ」


「そうですね。皆楽しそうですし」


西条と神父、鬼道は部屋の隅の方で壁にもたれかかり、それぞれ騒いでいる皆を見ながら談笑していた。


「そうだヒャクメ。アンタの千里眼で横島君見つけられないの?」


「ん〜、さっきからやってみてるんだけど、どうにも横島さんはジャミングが強いところにいて見つけられないのね〜」


「ヒャクメさまでも見つけられないなんて…いったい何処にいるのかしら?」


美神の提案はどうやらヒャクメは既に実行していたらしい。だがヒャクメでも見つけられないと聞いて美智恵はどうしたものかしらと考え込む。


「そういえばワルキューレって軍属よね? こんな日に休んでていいワケ?」


「ああ、これも上からの命令でな。まあ軍人にもたまには骨休めも必要なのだ」


ちょっと疑問に思っていたことを質問したエミに、ワルキューレはすぐにそう答えを返した。どうやらちょっとだけ正確の方も丸くなっているようである。


「ひのめちゃ〜ん、ほら羊さんよ〜」


「あ〜、め〜め〜」


「ううっ、尻尾が抜けそうでござる…」


「私も…髪引き抜かれるかと思ったわ…」


ひのめにハイラを見せてご機嫌を取っている冥子の横のソファーで、シロとタマモがへばっていた。
来た瞬間にさっそくひのめに得物にされて、つい先ほどまで遊ばれていたのである。


パーティーの開始時刻も近づき、捜索部隊がそろそろ探しに行こうとしたところで、事務所内の電話が突然鳴り出した。
美神がでて、もし横島だったら問答無用で切ってしまいそうなのでここはおキヌが電話に出ることになった。


「ちょ、こら! 放しなさいよ」


「暫しの辛抱ですから」


「ああ、今お前が動くと面倒なことになりそうだからな」


美神の方は勝手に動かないように両脇から小竜姫とワルキューレに拘束されていた。其処までする必要があるのかと言えば…


「はい、こちら美神除霊事務所…あっ、横島さんですか?」


「コラー横島ぁ! さっさと帰ってきなさい!!」


やはり必要だったらしい。美神の声が聞こえた横島が電話の向こうで小さく謝ってる声が聞こえて、おキヌはちょっと苦笑していた。


「それで…ええ……はい。窓の外をですか?」


おキヌが電話で話しながら窓の方に視線を向ける。


「皆さん、窓の外に注目していて欲しいそうです」


おキヌは通話口を押さえてから皆に向かってそう言った。
それに対して、皆はなんだと思いつつもそれぞれ窓を開けて白銀色が降り続ける聖夜の空を眺めた。


〜横島・カオス・マリア〜


「よっしゃ! 行くぜカオスのおっさん!!」


「ふっふっふ、任せろ小僧。今日のために一ヶ月も費やして作った最高傑作じゃからな、マリア!」


「イエス・ドクター・カオス」


マリアは一度頷くと、手元にあるレバーを下に引いた。
その瞬間、三人のいた薄暗い部屋が急に明るくなり、その部屋の中央にドーンと居座っている球状の魔導機械にも光が灯り、静かに音を立てて動き始めた。


「よし小僧。まずはありったけの文珠をこの中に詰めるんじゃ」


「あいよ! この日のためにストックしてきた文珠を大量放出だ!」


カオスが開けた大きな魔導機械の挿入口のような場所に、横島は手をかざして此処一ヶ月の間ずっと溜め続けてきた文珠を全て放出した。
その数はゆうに数十個。横島はこれを溜めるために仕事場でも一切文珠を使わずに例え多少怪我をしても文珠抜きで戦ってきたのだ。

文珠を大量に投入された魔導機械はさらに輝きを増してウォンウォン起動音を立てている。


「マリア! そっちはどうだ?」


「既定エネルギー充填率・63%・このままでは・足りません」


メーターをチェックしていたマリアがそう告げる。
カオスと横島は予想以上にエネルギーが足りていないことに思わず舌打ちをした。


「おい小僧! こうなれば最終手段じゃ!」


「任せろ! この日のためにこっちの方も溜めに溜め込んでいたのだー!」


そう言って横島は両手を合わせて目を瞑り、精神を集中させた。そして今開かれる封印されていた、彼の根源と言っても過言ではないそれが解き放たれた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!


煩悩全開!!


その叫びと共に横島の脳内で展開される数々の美女、美少女、美幼女達!!
その全てが赤い帽子に赤い服。ところどころに白い綿飾りのついた女性専用サンタ服姿で妄想される!
美女はきわどく半袖、ミニスカ! 美少女は正統派で膝元長袖だが寄り可愛く美しく! そして美幼女たちは心の癒しというか心の清涼剤というか愛らしくて可愛らしく!!

こうして展開された横島の煩悩はすぐさま霊力を増幅させ、これまで禁欲していた所為か、あっという間に横島の霊力はほぼ全快まで回復していた。


「これでどうじゃーーー!!」


横島はさらに数十の文珠を作り出して魔導機械の中に放り込んだ。


「既定エネルギー充填率317%・尚も上昇中…オーケーです・ドクター・カオス」


「よし! 小僧最後の仕上げじゃ!!」


「よっしゃ! 出て来い文珠!!」


横島がそう叫んで作り出したのは、あのルシオラが力を貸していてくれたときに作り出せた、太極図のような二つの文字を入れられる文珠だった。


「おりゃあー! 行って来い!!」


そう言って横島は文珠に文字を込めて魔導機械の中枢に嵌め込んだ。その文字は…


『 蛍 / 雪 』


魔道機械から淡い光の粒があふれ出し、全ての障害物をすり抜けて空へと登っていく。
その光は小さな小さな霊力を持って世界中に広がっていく。それはこの人間のいる世界だけではなく、空間を越えて神界、魔界、霊界、精霊界へと散らばっていく。

そして、全ての世界に光の粒が飛び去った後、それはゆっくりと空から舞い落ちるように降り注いだ。


その小さな小さな蛍の輝きを持つ雪には、小さく小さく文字が刻まれている。その文字は…


『幸』


どんな小さな幸せでもいいから、今宵皆に届けよう。

皆が小さな幸せで、大きな喜びを手にして貰うために…

さあ降らせよう蛍の光。幸せを運ぶ淡雪を世界中のあなたへと…


「わぁ〜、凄いです! まるで宝石が降ってきてるみたい」


「本当だわ〜。とっても綺麗ね〜〜」


おキヌと冥子の言葉に、皆も静かに頷いた。


「パピリオ? あんた泣いてるのかい?」


「う、ん…あれ? どうしたんでちゅかね? けどベスパちゃんも泣いてるでちゅよ?」


ベスパはそう言われて自分の頬にそっと手を当てた。其処には確かに、一筋の涙が零れきていた。


「おかしいわね……何だか…とっても懐かしい気がしてさ」


「私もでちゅ…この雪が何だかルシオラちゃんに見えちゃったんでちゅ」


そう言ってベスパとパピリオは未だ降り続ける光り輝く蛍の幻想を纏う雪をじっと眺めていた。


と、そこで急に部屋の中に霊波が高まる地点ができた。一同がそちらを向かうと、数瞬後に三つの人影が現れた。それは勿論カオスとマリア、そして…


「横島忠夫! ただいま帰ってきましたー!」


横島が両手を広げて高らかに帰還してきたことを告げた。


「遅いわよこのアホ横島ぁーー!!」


「ああー! 美神さん堪忍やーー!」


そして早速美神にしばかれて情けない声を出していた。
みんなの手によって何とか美神の折檻を止めさせて、横島はボロボロになりつつも立ち上がった。


「皆さん! さあ食べて飲んで騒いで! 今日は楽しみましょーー!!」


そう言って横島は近くにあったグラスを思いっきり高く掲げた。
皆も今日と言う日を最高にするために、それぞれグラスを持って高らか口を揃えて宣言する。


『メリークリスマス』


さあ、皆も一緒に祈ろう。今日は聖なる夜だから…

さあ、皆も一緒に願おう。皆が幸せを掴むよう…

今夜だけは幸せに、これからも幸せに…

皆の願いは違えども、その想いは皆同じだから。

友と一緒に肩を組み、恋人と一緒に腕をとり、誰かと一緒に傍にいる。

聖なる夜に降り注ぐ、幸せを込めた蛍の幻想を纏う粉雪…

さあ、あなたも一緒に…誰かに幸せを届けよう…




あとがき


どうも、皆さんメリークリスマスです! 拓坊です。


はい今回はクリスマス専用SSでございます。
読んでくださった方ありがとうございます。

『 蛍 / 雪 』はほぼ造語です。蛍の光窓の雪と言う言葉がありますが、アレの光っている部分だけを取ったので自分勝手な解釈の造語です。

今回は短いですが…皆さんに小さな幸せが訪れることを祈っています。


ではこの辺で失礼致します…


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