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▽レス始

「Bon Noel!!(GS)」

赤野圭 (2005-12-25 02:13)

♪ Ouverture miniature ♪

 今日はクリスマスの夜。
 24日のイブの夜ではなく、25日の夜です。
 大きな令子お姉ちゃんは、サンタさんから素敵なプレゼントをもらいました。
 サンタさんなんていない、と思っている人はいませんか?
 サンタさんは、本当にいるんですよ。
 ただ、サンタさんは、とっても年をとっています。
 だから大きな令子お姉ちゃんは、サンタさんの代わりに、世界中の子供たちにプレゼントを配ってまわってあげました。
 そのお礼に、サンタさんがプレゼントをくれたのです。
 それは、小さなキツネのぬいぐるみでした。
 でも、ただのぬいぐるみではありません。
 それは、大きな令子お姉ちゃんがまだちっちゃなれーこちゃんだった頃に、サンタさんからもらったキツネのぬいぐるみそのものだったのです。
 ちっちゃなれーこちゃんが大きな令子お姉ちゃんになる途中で、キツネのぬいぐるみはどこかへいってしまいました。
 でも、サンタさんはちっちゃなれーこちゃんのことをちゃあんと覚えていて、プレゼントを配ってくれた大きな令子お姉ちゃんのために、なくしてしまったキツネのぬいぐるみを探し出してきてくれたのです。
 大きな令子お姉ちゃんは、とっても喜びました。
 そのキツネのぬいぐるみは、大きな令子お姉ちゃんがちっちゃなれーこちゃんだった頃、大事にしていたものだったからです。
 大きな令子お姉ちゃんは、サンタさんにお礼を言い、キツネのぬいぐるみを大切に抱いて、おうちに帰りました。


♪ Marche ♪

 寒くて暗いお外から、暖かくて明るいお部屋に入った大きな令子お姉ちゃんは、何よりもまず先に、お裁縫の道具を取り出しました。
 サンタさんがくれた昔のキツネのぬいぐるみは、あちこちほつれ、やぶれ、汚くなっていたからです。
 ちっちゃなれーこちゃんだった頃は、どこへ行くときもそのまま連れていっていました。
 そのころは、針も糸もうまく使えなかったのですから、それも仕方ありません。
 でも、今はちがいます。
 ちっちゃなれーこちゃんではなく、大きな令子お姉ちゃんなのです。
 ほつれたところを縫い、破れたところに布をあてるくらい、簡単にできてしまいます。
 ベッドに腰掛け、キツネのぬいぐるみを膝の上に載せて、お気に入りの金色の針と、とっておきの絹の糸を使えば、あっという間。
 ぼろぼろだったキツネのぬいぐるみはも元通り、傷ひとつない姿に戻りました。

「はい、コン君、あとは綺麗にしましょーね」

 コン君、というのは、ちっちゃなれーこちゃんがつけたキツネのぬいぐるみの名前です。
 大きな令子お姉ちゃんは、まだあちこち汚れているコン君と一緒に、お風呂に入ることにしました。
 ちっちゃなれーこちゃんも、むかしそうしたことがあったものです。
 そのころに戻ったように、一緒に泡立った湯船につかって、シャワーをしました。
 そうしてぴかぴかになったコン君は、サンタさんがちっちゃなれーこちゃんにあげたときの姿そのものです。
 お風呂からあがった大きな令子お姉ちゃんは、コン君と一緒にベッドの中に入り込みました。


♪ Danse de la Fee−Dragee ♪

 その夜、大きな令子お姉ちゃんは、変な物音を聞いて目を覚ましました。

「なんやの?」

 あれ?
 言葉が少し変ですよ?

「どうなってゆの?」

 きょろきょろと辺りを見回して、自分の手を見ます。
 いつも見ているよりも、まあるくて可愛い手に見えます。

「あれえ? あれえ?」

 なんということでしょう!
 大きな令子お姉ちゃんは、ちっちゃなれーこちゃんになってしまっています!
 ネグリジェの似合う美しい令子お姉ちゃんではなく、パジャマ姿の可愛いれーこちゃんになってしまっています!

がさがさ。
ごそごそ。

「なんやの?」

 そうでした。
 音がしたから、目を覚ましたんです。
 お星様とお月様の光だけが照らす、薄暗い室内で、ちっちゃなれーこちゃんは目を凝らします。
 音がした場所にいたのは……ネズミです。
 灰色で気味の悪いネズミが、たくさん集まって来ているのです。
 そしてその真ん中には、ラッパを手にしたひときわ大きな姿のネズミが見えました。

「ぱ、ぱいぱー!?」

 ちっちゃなれーこちゃんが悲鳴をあげます。
 パイパーというのは、ネズミたちの王様の名前です。
 大人を子供にして、自分の思い通りに操ろうとする怖い悪魔でしたが、大きな令子お姉ちゃんがやっつけました。
 そう、やっつけたはずなのです。
 弱点の金の針を使って、やっつけたはずなのです。
 そのパイパーが、どうして今になって生き返ったのでしょう?

チュララー、チュラチュララー

 パイパーがラッパを鳴らします。

きしゃぁっ

 大変です!
 ラッパの音を聞いた大勢のネズミが、一斉にちっちゃなれーこちゃんに飛び掛かりました!
 あぶないっ!!


♪ Trepak ♪

 ネズミに食べられてしまう。
 そう思ったちっちゃなれーこちゃんは、ベッドの上で体を震わせ、ぎゅっと目をつぶりました。
 が、いつまでたっても、何もおきません。
 ただ、なにかがぶつかり合う音だけがしています。
 おそるおそる目を開けてみると、なんと、一緒にベッドに入っていたコン君が、ネズミたちを投げ飛ばしているではありませんか。
 次々とベッドに押し寄せるおそろしいネズミたちを、ちっちゃなれーこちゃんに寄せ付けないように戦っているのです。
 ちっちゃなれーこちゃんは、あまりのことにびっくりして、身動き一つできませんでした。

「ええい、この忌々しいキツネめ! それっ、ネズミたち、もっと戦えっ!」

 パイパーがラッパを片手に、ネズミたちに命令しています。
 それを聞いて、パイパーの周りにいたネズミたちも一斉にコン君に向かって飛び掛かりました。
 ちっちゃなれーこちゃんの目の前で、コン君がネズミに引き倒されてしまいます。

「コンくん!?」

 自分が叫んだ声で、ちっちゃなれーこちゃんの金縛りはとけました。
 大急ぎでベッドの上に立ちあがると、その上を枕元まで一直線に走ります。
 ベッドの脇のナイトテーブルの上には、大きな令子お姉ちゃんがコン君をつくろってあげた裁縫箱が、そのまま置いてありました。

「え、えっと、えっと」

 蓋をあけ、さっき使っていた金色の針を取り出します。
 そう、パイパーの弱点は、金の針。
 ちっちゃなれーこちゃんは、ちっちゃな手でしっかり針を持つと、

「えいっ!」

パイパーに向かって投げつけました。

「ぎいゃぁぁぁっ!!」

 ちっちゃなれーこちゃんの狙い通り、針はパイパーの額に突き刺さりました。
 叫び声を残して大きなネズミは消え失せ、さらに部下のネズミたちも煙のように消えていきました。


♪ Danse Arabe ♪

「コンくん!! コンくん!!」

 ちっちゃなれーこちゃんは、床に倒れているコン君に駆け寄ります。
 両手を広げて抱きかかえ、顔を覗き込みました。

「ありがとう、れーこちゃん」

 コン君は無事でした。
 怪我をしている様子もありません。

「君が投げた金色の針のおかげで、ネズミの王様は消えてしまったよ」
「ぱいぱー、やっつけやの?」
「ああ、もう大丈夫。君が助けてくれなかったら、僕は壊れてしまっていたよ」

ぎゅうぅっ

「よかった〜、コンくん、よかった〜」
「ちょっと、れーこちゃん、苦しいよぉ」

 ちっちゃなれーこちゃんは、慌てて手を放しました。
 そうして、あらためてコン君の顔を見ると、不思議な気持ちがわいてきます。

「でも、コンくん、どうしてうごけゆの?」
「れーこちゃんがなおしてくれたからに決まってるじゃないか」
「なおしたから?」

 ちっちゃなれーこちゃんは首をひねります。
 ぬいぐるみをなおすと、動けるようになるんでしょうか?

「そうだよ、壊れたところをなおしてくれたから、動けるようになったんだ……そうだ。そのお礼をしないと」

 しかし、コン君はそんなことは気にせず、話を続けます。

「これからお菓子の国に行こう!!」
「おかしのくに?」
「そうだよ。ぜんぶ、お菓子でできてる国なんだ」
「ぜんぶおかし!?」

 お菓子の国!
 なんて魅力的な国でしょう!
 その言葉のとっても素敵な響きに、ちっちゃなれーこちゃんは、行ってみたくてたまらなくなりました。
 コン君が動けることに対しての疑問など、どこかへいってしまうくらいに。

「さあ、僕の手につかまって!!」

 ちっちゃなれーこちゃんが握ったコン君の手は、とても暖かでした。
 コン君もれーこちゃんの手を握り返し、二人は一緒に部屋の隅に歩いていきます。
 クローゼットの目の前に来た時、その扉がひとりでに開きはじめました。

「ここから出発しよう!!」
「うんっ!!」


♪ Danse Chinoise ♪

「わぁ……」

 開ききったクローゼットの中に見えたのは、お洋服や靴ではありませんでした。
 なんと、そこには、広々とした草原が広がっていたのです。
 穏やかな日差しは冬とは思えず、ふいてくるそよ風は甘い香りがします。

「すごーい!」

 ちっちゃなれーこちゃんは、コン君の手を放すと、草原の中に駆けていきました。
 走ったり、ジャンプしたり、くるくる回ったり。
 コン君も追いかけて来て、二人は一緒に、広い空の下で思い切り遊びました。
 鬼ごっこをしたり、じゃれあったり、やがて二人とも草の上に倒れ込んでみたり。
 そのうち、ちっちゃなれーこちゃんは、白い小さな花がたくさん咲いているのを見つけました。

「これ、しってゆ」

 ちっちゃなれーこちゃんは、起き上がって座り直すと、足下に咲いている白い花、シロツメクサを丁寧に引きぬきました。
 そしてそれを左手に持つと、またもう一本引き抜いて、最初のものにからめます。

「何をしているんだい?」

 コン君が起き上がって、覗き込んできます。
 すると、ちっちゃなれーこちゃんは、突然大きな声をあげました。

「だめぇっ!」
「えっ?」
「あっちむいてて!」
「わかった」

 コン君は言われたとおりに後ろを向きます。
 コン君をじっと待たせて、ちっちゃなれーこちゃんは、いったい何をしているのでしょう?

「もういいよ」

 そう言われて振り向いたコン君の前で、ちっちゃなれーこちゃんがお日さまのような笑顔を浮かべていました。
 両手で、素敵なシロツメクサの冠を持っています。

「はいっ」

 ちっちゃなれーこちゃんは膝をつき、ちょうど目の高さにあるコン君の頭の上に、一生懸命作った冠をのせてあげました。

「わあ、ありがとう。大切にするよ」

 そう言われて、嬉しくないはずがありません。
 ちっちゃなれーこちゃんの笑顔は、ますます輝くのでした。


♪ Danse des Mirlitons ♪

 ちっちゃなれーこちゃんと、冠をかぶったコン君は、それからもいろんなところを通り、遊びました。
 そしてついに、二人は目的の場所、お菓子の国の入り口に到着しました。
 お菓子の国に入るには、レモネードの川を渡らなければなりません。
 二人は川ぞいにすこし歩き、飴細工の橋がかかっているのを見つけました。
 そこを渡り、チョコレートでできた街の門をくぐりぬけると、いよいよお菓子の国です。

「わぁ……」

 ちっちゃなれーこちゃんは、感激で目を大きく見張っています。
 門と同じようにチョコレートでできた家々が並び、道は氷砂糖が敷き詰められ、そしてそこに住む人々はみんなマジパンなのです。
 ほんとうに、ありとあらゆるものがお菓子でできていました。

「さあ、おいで。みんな待ってるよ」
「みんな?」

 今にもあちこちにかぶりつきそうなちっちゃなれーこちゃんの手をひき、コン君はどんどん先に進みます。

「そう、みんないるよ」
「?」

 ちっちゃなれーこちゃんは、コン君が誰のことを言っているのかよくわかりませんでした。
 が、コン君はそれ以上の説明はせず、ただ歩いていきます。
 道を曲がり、オレンジジュースの噴水がある広場に出ると、コン君はちっちゃなれーこちゃんの目を手で覆いました。

「コンくん?」
「ちょっと我慢しててくれるかな? すぐだから」
「う、うん……」

 そう言ったものの、ちっちゃなれーこちゃんはちょっと不安になりました。
 真っ暗な世界は怖いものです。
 でも、それも少しの間でした。

「「「「「「れーこちゃん、メリークリスマス!!」」」」」」

 大声が耳にひびき、目には光が戻ってきます。

「……!!」

 ちっちゃなれーこちゃんは、本当に驚きました。
 すぐ目の前で、大勢のぬいぐるみ達が、ちっちゃなれーこちゃんに笑いかけていたのです。

「ひさしぶりだね、れーこちゃん」

 そう言って、羊のメーくんが、ふわふわの毛でちっちゃなれーこちゃんの鼻をくすぐります。

「元気みたいだね、よかった」

 そう言って、牛のモーモーが、柔らかい舌でちっちゃなれーこちゃんのほっぺたを舐めます。

「れーこちゃん、だっこ〜」

 そう言って、パンダのパンちゃんが、持っている笹の枝でちっちゃなれーこちゃんの腕をつっつきます。

「いい子にしていたかい?」

 そう言って、熊のクマクマが、大きな手でちっちゃなれーこちゃんの頭をなでます。

「幸せにしている?」

 そう言って、象のハナちゃんが、ながい鼻でちっちゃなれーこちゃんの肩を抱きます。

「みんなとも会いたかったよね。だから呼んできたんだ」

 みんなの挨拶が終わったところで、コン君がそう言いました。
 そうです。
 みんな、ちっちゃなれーこちゃんの、大切なお友達でした。
 コン君と同じように、ずっと一緒だったのです。
 みんなと会えて、ちっちゃなれーこちゃんはとっても嬉しくなりました。
 でも、どうしてでしょう?
 ちっちゃなれーこちゃんには、みんなの顔がぼやけて見えます。

「みんな……あいがと……みんな……」

 声もかすれ、震えています。

「「「「「「れーこちゃん」」」」」」

 みんなの声を聞きながら、ちっちゃなれーこちゃんは意識が遠のいていきました。


♪ Valse des Fleurs ♪

チュン、チュチュン、チュン

 鳥の鳴き声がします。

「みんな……」

 大きな令子お姉ちゃんは、そう呟いて目を覚ましました。
 一しずくの涙が頬を伝い落ちます。
 その跡を触る手は、まぎれもなく大きな令子お姉ちゃんの手です。

「……夢?」

 もう一度、そう呟きます。
 夢、だったのでしょうか?
 パイパーの復活も、お菓子の国も、コン君やみんなとの再会も。
 みんな幻だったのでしょうか?

つーっ

「あ、あれ?」

 また涙が頬を伝いました。
 大きな令子お姉ちゃんは、慌てて体を起こして目を拭います。
 そのはずみで布団がめくれて、昨日サンタさんに貰ったキツネのぬいぐるみが、大きな令子お姉ちゃんの前に現れました。
 大きな令子お姉ちゃんは、驚いて目を大きく見開き、それからとっても優しい笑顔になりました。
 なぜか、って?

「コン君」

 だって、大きな令子お姉ちゃんがそう言って抱きしめたキツネのぬいぐるみには、シロツメクサの素敵な冠がのっていたのですから。
 サンタさんのおかげで、今年のクリスマスは大きな令子お姉ちゃんにとって、忘れられないものになりました。


Fin.


あとがき
 赤野圭と申します。
 初めましての方も、お久しぶりの方も、どうぞよろしくお願いします。
 個人的な事情によりしばらく執筆ができませんでしたが、最近ようやく環境が整いつつあり、1年以上ぶりに投稿させて頂きました。
 投稿すると言いながら、この間、まったく連絡をとらなかったことなど、管理人様並びに拙作を読んでいただいた方には、臥してお詫び申しあげます。
 この作品は、以前別サイトに投稿していたものに修正を加えたものです。
 そのサイトは消滅してしまっていますので、こちらにあらためて投稿させていただきました。
 御意見、御感想などがありましたら、お気軽にどうぞ。
 辛口のお言葉も大歓迎。
 お待ちしております。


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